投資先受賞企業レポート
第43回優秀経営者顕彰 地域社会貢献者賞
思いやニーズをアイデアに変え、価値を創造

資源再生を介し、地域の豊かさを育む

松岡紙業株式会社

 

 

松岡紙業株式会社
佐藤元彦 社長

松岡紙業株式会社
主な事業内容 製紙原料用古紙の回収・選別・加工、機密書類の処分・紙製品の荷役・保管、油吸着材の開発・製造・販売
本社所在地 静岡県富士市
創業 1943年
従業員数 約120名

古紙やアルミ缶など、リサイクル可能な資源物は回収日が少なく、つい溜め込んでしまいがちだ。しかし、静岡県内の多くの家庭はその不便がない。なぜなら、24時間365日いつでも持ち込み可能なリサイクルステーションが県内に380カ所以上存在するからだ。このリサイクルステーションを設置・運営しているのは、富士市に本社を構える松岡紙業株式会社。「こしのえき(古紙の駅)」と名付け、約20年前から資源のリサイクルと街のエコロジーに貢献している。

富士山由来の豊かな水資源があることから、富士市は古くから製紙業が発展してきた。そうした背景から古紙の利活用も推進されており、同社は1943年の創業以来、古紙の資源再生事業を展開。浜松市や磐田市、静岡市などへ営業所を設けて事業を拡大し、年間約8万5000トンもの古紙を取り扱う企業へと成長を遂げた。回収した古紙はプレス加工して市内の大手製紙企業へ納品。リサイクルされて新たな紙製品となり、流通している。

約8万5000トンのうち、およそ半量を印刷会社や小売店などから回収し、残りの半量を「こしのえき」から回収。「こしのえき」は、同社にとって欠かせない古紙回収の拠点となっている。多くが通りに面した場所やスーパーなど小売店の駐車場に設置されており、外出や買い物ついでに地元住民が資源物を出す姿は日常の光景だ。当初は古紙のみを回収していたが、住民の要望を受け、アルミ缶や古着といった他の資源物も回収するようになった。

同社代表取締役社長の佐藤元彦氏は、「こしのえきは、地元の皆さんにとって、あって当たり前のインフラのような存在になってほしい」と話す。設置当初は「便利で助かる」「こういう場所ができてうれしい」といった声が届いていたが、近年はほとんど聞かれなくなったのだとか。水道や電気が家庭で難なく使えることに対して感謝を述べる機会がないように、真に地域に溶け込んだ場所になっているのかもしれない。

あるサービスがインフラとして存在する条件の1つに、安心・安全が挙げられるだろう。24時間365日、無人で運営されている場所であるからこそ、同社は安心・安全を担保するための努力を欠かさない。監視カメラを設置して不法投棄や古紙の盗難、不審者の出現といった防犯対策を講じるのはもちろん、炎センサーやスプリンクラー、炎を感知すると自動で放出される消火剤の設置といった防火対策も万全だ。

「コストがかかりますが、安心・安全には代えられません。日々メンテナンスを欠かさず清潔感の維持にも気を配っています。資源物を扱う場所のイメージを変えたい」と佐藤氏。365日、必ず誰かが各ステーションを見回り、インフラとしての機能を損なわないよう対応している。

静岡県の医師不足解消に寄与できる仕組みづくり

同社が構えるリサイクルステーションの一部は、「エコカラドクター」と呼ばれる別称が付いている。これは、同社とファミリーマート、静岡県が一体となり取り組んでいる、ある事業に寄与する役割を果たす拠点だ。ファミリーマートの駐車場に資源回収ボックスを設置し、そこから回収された資源によって生まれた利益の一部を、地域医療を担う医師の育成に充てる事業である。

2019年に取り組みを始めてから、6年で1400万円以上を「静岡県医学修学研修資金貸与事業」へ寄付した。医大へ進学する学生は、県内の公的医療機関へ一定期間勤務することを条件として、返還免除の奨学金を受け取ることができる。これによって、県内の医師不足緩和につなげているのだ。

発端は、佐藤氏自身が家族の救急搬送時に受け入れ先病院がなかなか決まらない経験をしたこと。
「医師が不足していることが、こんなにも怖いものなのだと痛感しました。調べてみると、静岡県は全国でも医師不足が深刻であることがわかりました。この課題を何とかできないかと考えたとき、古紙回収で改善に役立つことができれば、県民参加運動のような取り組みになるのでないかと思ったのです。そのアイデアをファミリーマートさんとブラッシュアップしてスタートしたのが、エコカラドクターです」

 

大型駐車場や小売店などに設置された「こしのえき」(写真左)。ファミリー
マートの駐車場に設置された「エコカラドクター」の回収ボックス(写真右)。

 

古紙を捨てに来るという消費者の来店動機が促されるため、ファミリーマート側にもメリットは大きい。松岡紙業、ファミリーマート、静岡県それぞれがメリットを享受できるこの体制は、持続可能性が非常に高いといえる。県民にとっても、資源回収の拠点が増えるのはうれしいこと。同事業で回収された古紙は県内の製紙会社でトイレットペーパーにリサイクルされ、ファミリーマートで販売されている。循環型社会の実現にも貢献する事業なのだ。「エコカラドクター」の拠点はすでに115店舗を超え、神奈川県のファミリーマートにも別企画にて古紙回収ボックスの設置が始まっている。

同じ業界内でも変化は可能、追い込まれてこそ力を発揮

古紙の資源再生から派生した2つの事業も、同社の発展を支えている。1つが、古紙を原料とした油吸着材の製造・販売だ。この油吸着材は、佐藤氏の父である先代の常明氏が、4年の年月をかけて静岡大学農学部と共同研究で開発したものである。
「紙の需要が落ちる時期でも、古紙は発生し続けます。すると回収した古紙で倉庫が溢れてしまう。資源再生の難しさはそこにあります。それで、古紙の新しい用途を検討しようと共同研究を始めたのです」

当初は、紙から多糖類の一種であるセルロースを取り出して食品添加物として活用してはどうかと考えた。製造には成功したものの、コストが合わずに断念。次に検討したのは、当時流行し始めていた屋上や壁面の緑化に活用する触媒の開発だった。けれど、その分野はすでに大手が参入し、市場が見込めない。そうしてさまざまに検討を重ね、たどり着いたのが油吸着材だったという。

飲食店やスーパーマーケットなどには、厨房や調理場からの排水に含まれる油脂分を分離・回収するための「グリストラップ」という槽が設置されている。同社が開発した油吸着材「エコツー」は、水に浮いた油を瞬時に吸着できるため、槽の中に設置しておくだけでグリストラップ清掃が非常に楽になる。

グリストラップの汚れが環境に与える影響は小さくないが、「清掃の仕方や意義を知らず、意外と手付かずになっている店も多い」と佐藤氏。同社では清掃指導に出向くなどして普及を進めており、急激に導入数が増えているという。また、同じく同社が開発した「イーマット」は、自動車工場など油の使用が多い現場で活用されている。

もう1つの派生事業は、2001年から始めた機密文書の保管・リサイクルである。個人情報保護法の施行や法人への書類の保管義務が厳格化される中で、「書類を安全に保管しておく場所がない。どうにかできないか」と、問い合わせが入ったことが事業開始のきっかけだ。複数の倉庫をもっている同社にとっては、うってつけのチャンス。保管期限が過ぎた書類は溶解してリサイクルされ、社会に循環させている。

JR新富士駅にほど近い本社。敷地内の小さな
畑で有機農法にて複数の野菜を育てている。

このように、次々とアイデアを生み出しては形にしてきた同社。その背景を尋ねると、「創業者の祖父も父も、私も企画することが好きなようです」との返答が。
「私自身、同じ業界で仕事をし続けているからといって、ずっと同じことは続かないと思うタイプなんです。常に何か新しく挑戦するネタを探している。アイデアを口にすると社員がドン引きすることもありますが、どんな突飛なアイデアでも、初めから“できない”と言ってしまったら、何も実現しないでしょう」
そう言って佐藤氏は笑う。取材中には何度も、「これはまだオフレコで」と念押ししながら、さまざまなアイデアを披露してくれた。そして「アイデアを形にして社員や人が喜ぶ姿を楽しんでみたい」と、ワクワクを隠し切れない表情を見せる。

「こういうものがあったらいいなという未来像を描き、そこからバックキャスティングして考えていく。それがすごく楽しいんです。社長就任後すぐにコロナ禍に突入し、海外では戦争も始まってしまった。“どうして私の代でこんなことが起こるのだろう?”と、悲観したこともありましたが、追い込まれると新しいことを考えざるを得なくなる。それを楽しめるかどうかが分かれ目なのではないでしょうか。窮地に追い込まれるのは、“変化しろ”というサインだと思うんです」

社員の成長を後押しし、共に明るい未来を歩む

そんなアグレッシブな経営者が求めているのは、意欲的で前向きな社員だ。「達成の充実感を味わって仕事の楽しさを感じてほしい。そして、生活のために時間を切り売りする“ライスワーク”ではない、ポジティブな仕事との向き合い方を知ってほしい」との思いから、社員がなるべく成功体験を積める機会をつくるように意識しているという。
「自分で企画書をつくって商談して決断したほうが早いし、結果への納得感もある。私はせっかちな人間だから、そうしたい気持ちはものすごくあるけれど、それをグッとこらえて社員に任せることにしています」

また、成長の機会を与えるべく、勉強会や研修を実施。月に一度、営業所長クラスが参加する「木鶏会」では、「今求められるリーダー像とは」「目標達成を阻む障壁とは」といった多様なテーマで学んでいる。年に数回、トヨタ自動車や大手製紙会社へ出向く研修も実施している。

 

木鶏会の様子。勉強会や研修会など、ベテランから若手まで定期的に社員の学びの機会を設けている。

 

加えて、古紙回収を担うドライバーの意識向上のために導入したのが、偏差値制に基づく評価制度だ。運転の安全性や操作の丁寧さを数値化できるドライブレコーダーを全車両に取り付け、その結果を月に1回集計し、全社員に公表するというもの。ちょうど、いわゆる「あおり運転」が話題になってきた頃で、自らの身を守る意味でもドライブレコーダーの存在は重要だ。それゆえ、ドライバーからの反発はなかったという。

個人で点数を競うほか、営業所別のチーム戦も実施しており、成果は抜群。85点が合格点のところ、90~95点が当たり前になり、全体で運転技術が向上しているのだとか。
「他者から見られている意識と点数の可視化が運転技術にここまで影響を及ぼすとは驚きです。これ以外にも、挨拶をするとか使ったものは元に戻すとか、人として当たり前のマナーやモラルを守る評価制度も導入しています。それが、自身の成長や会社の信頼につながりますから」

今後、エコ意識の高まりの中でペーパーレス化が加速することは否めない。しかし、佐藤氏は「形は変われど、資源再生の仕事はなくならないでしょう」と見通しを語る。ある調査によると、家庭から出るごみの36%ほどが「専ら再生物」と呼ばれる再生利用を目的とする資源物だという。この先、この割合はおそらく増えていくだろう。古紙だけでなく「専ら再生物」も含めた事業展開を続けていけば、業界の未来は明るい。新しいアイデアを次々と生み出すことを厭わない同社であれば、なおさらだ。

「まだオフレコ」のアイデアが形になったとき、どんな価値が生まれるのか。同社の動向から目が離せない。

 

投資育成へのメッセージ

代表取締役社長
佐藤元彦

多様なネットワークと情報を持っている投資育成さんには、いつも助けられています。当社が上向けば、投資育成さんも株主として上向いていく。この整合性の取れた関係性がとても良いと感じています。今後もさまざまなアイデアを形にしていきたいと思っていますので、引き続きお力添えのほど、よろしくお願いします。

 

投資育成担当者からのメッセージ

業務第四部
上席部長代理
矢尾遼司

このたびはご受賞、誠におめでとうございます! この賞は、松岡紙業様が総合再生資源化企業として環境保護に貢献され、継続して地域に貢献されてきた結果かと存じます。佐藤社長とお会いするたびに、地域への思いや新しいアイデアなどをお聞かせいただき、いつも刺激を受けております。今後も貴社のお役に立てるよう精進してまいりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

 

機関誌そだとう227号記事から転載

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