2025年度 海外視察会レポート
ベトナム視察会

激変するベトナム市場で問われる、「人材定着」の最適解

2026年3月2日~6日

 

毎年恒例となっている当社海外視察会(団長 社長 安藤久佳)。今回は2025年に実質GDP成長率8%を超え、目覚ましい経済成長を遂げているベトナムを訪問。
現地の経済動向や進出企業が直面する課題などを事務局として参加した安齋がレポートする。

 

業務第一部 部長代理
安齋 将成

 

1975年のベトナム戦争終結後、ベトナムは社会主義国家として再統一され、現在も共産党による一党体制が続いている。一方、経済面では1986年に開始された「ドイモイ(刷新)政策」を契機に市場経済化へと大きく舵を切った。外国直接投資の受け入れを本格化させ、輸出主導型経済へ転換したことで、2025年の実質GDP成長率は8%超。人口1億人を突破する中、一人当たりのGDPは5,000ドルに達し、ベトナムはASEAN有数の成長国家へと変貌を遂げている。

さらに2024年の夏以降は、トー・ラム書記長のもと政府は中央省庁や地方省の再編による行政スリム化を進め、民間企業数を現在の約100万社から200万社へ倍増させる方針を打ち出した。インフラ・エネルギー産業への投資も加速する見込みであり、海外資本を呼び込む姿勢は一層鮮明となっている。

1990年代以降、ベトナムの市場経済導入と人口増加等を背景に、日本企業の同国進出は本格化した。外務省の「海外進出日系企業拠点数調査」によると、2024年時点でベトナムにおける日系企業の拠点数は2,500拠点に達しており、現在も増加傾向が続いている。

なぜ、これほどまでに多くの日系企業がベトナムを目指すのだろうか。ジェトロの「2025年度海外進出日系企業実態調査」によれば、高い経済成長性に加え、人件費の安さや社会情勢の安定性などが主な理由として挙げられている。また、国民の平均年齢が30代前半と若いことも大きな魅力だ。さらに、手先が器用で細かい作業に向いている点や、勤勉で家族を大切にするその国民性は、日本の企業文化やモノづくりの精神とも極めて親和性が高く、これらの要素が複合的な魅力となって海外進出先として選ばれ続けている。

一方、ASEAN諸国の中でも「行政手続きの煩雑さ」や「法制度の未整備」が指摘されるケースも多く、進出の懸念点であるとされている。

条件面の改善だけでなく、「人間関係」を重視した運営を

今回の視察会では多くの日系企業が集積するハノイを訪問。大手・中小企業の複数工場を視察する中で、現地拠点の生産状況や直面している課題などが見えてきた。

最初に訪問したのは静岡県の投資先である日本プラストのベトナム現地法人だ。同社はヴィンフック省の工業団地にて自動車用ステアリングホイールなどの内装部品を製造。2021年より工場を本格稼働させ、芯材成形、皮革縫製、塗装、検査までの一貫生産体制を構築している。約400名の現地従業員を少数の日本人駐在員が統括し、一つひとつの工程において徹底した品質管理が行われ、日本クオリティーへの熱量が感じられた。

現地責任者の説明で印象的だったのは離職率の低さだ。周辺は韓国系・台湾系企業も多く、近年は特に人材獲得競争が激化しているが、同社では比較的安定した雇用を実現しているという。現地責任者にその秘訣を聞くと、こう話してくれた。
「社員旅行などの全社イベントを積極的に実施し、従業員同士のコミュニケーションを重視しています。業務後、自主的に集まりイベントに向けて皆楽しそうに準備していますね」

単なる給与条件見直しだけではなく、人間関係を重視した現場運営を行うことで、従業員の定着を図っているようだ。

 

Nihon Plast Vietnamの社屋前にて。
ベトナム人は手先が器用といわれており、
手作業が多い同社の皮革縫製工程で、その特性を発揮している

現場は現地スタッフが主導。新人教育も担当

他方、ベトナムの自動車市場は近年、大きく変化している。ベトナム統計局の「ベトナム家計生活水準調査」によると、100世帯あたりのバイクの所有台数は、2024年で169台(1世帯あたり1.69台所有)であり、依然として二輪車中心市場であるが、所得水準向上に伴い四輪車の保有が進んでいる。その象徴が、ベトナム最大財閥VINグループ傘下のEVメーカー「VINFAST」である。同社は2017年設立という新興メーカーでありながら、ピニンファリーナのデザインやBMWの技術を取り入れ、「ベトナム初の国産自動車メーカー」として、政府支援も受けながら急成長している。2025年の新車販売台数60万台のうち、17.5万台を販売し、ベトナム国内ではトップシェアを誇るまでになった。

こうした目まぐるしい変化を続ける自動車市場の中で、高いブランド力を維持しているのがToyota Motor Vietnamである。1995年の進出以降、販売台数は増加傾向にあり、2025年には7.4万台に達した。現在では日系完成車メーカーの代表格となっている。

現場ではベトナム人スタッフ主体の運営が進み、新人教育も現地リーダーが担当。特に塗装工程では、数カ月かけてベトナム人スタッフの技術精度を高めるなど、人材育成へ多くの時間を投下していた。

 

(写真左)画像の水色の車両はタクシー業者が利用するVINFAST車。市内では頻繁に走行する姿が見られた
(右)Toyota Motor Vietnamでは30年以上前からベトナム進出を果たし、現地で安定生産を
続けて来た

現場主導の生産改善で、極めて高い品質水準を実現

家具・インテリア大手のニトリは、2007年に台湾に進出して以降、成長著しいアジア圏を中心に事業を拡大させており、ベトナムはその重要な製造拠点となっている。

視察会3日目に視察したNITORIFURNITURE VIETNAMはハノイ第一工場、ハノイ第二工場、ホーチミンの3拠点を有し、合計敷地面積は東京ドーム約20個分に達する。広大な工場では従業員数5,000人弱が勤務し、箱物家具、ベッドフレーム、マットレス、カーペットなどを製造している。

工場視察で印象的だったのは、現場作業員自らが簡易治具等を作成し、生産性改善を進めていた点だ。現地人材の改善意識の高さとアイデアを実現する技術力を感じさせる現場であり、極めて高い品質水準を維持する背景になっているものであろう。

 

NITORI FURNITURE VIETNAMの製造現場では
帽子や腕章によって職位や役割が一目で分かるように工夫されている

福利厚生への積極投資で、人材採用・育成に注力

「独自の技術を持った中小企業が海外に生産拠点を構え、世界に向けて製品を販売する」

そうしたお手本のような海外展開を実現している事例として、今回訪問したのが三笠ベトナムである。工場内では加工、溶接、塗装、エンジン組付、最終検査まで一貫生産を実施。特に塗装工程では、プライマー処理(下塗り材の塗布)後にペーパーで研磨し、細かな凹凸を除去するなど丁寧な作業工程が見られた。工場内では整理整頓や挨拶も徹底されており、日本的な企業文化が根付いていたように感じる。

当社においても人材確保は大きな課題となっており、昼食補助や社員旅行の企画、日本語教室開催など福利厚生へ積極投資を行うことで人材採用と従業員定着を図っていた。

 

三笠ベトナムの製品を実際に体験している様子。
女性の力でも安定してコントロールが可能

従業員を巻き込んだ「会社コミュニティ」形成を

今回訪問した企業はいずれも現地運営に成功している企業であったが、共通課題として挙げられたのが「人材確保」である。かつてベトナム進出最大の魅力は「安価な労働力」であった。ジェトロ等の各種調査によると、10~15年前は製造業ワーカーの月額給与は1~2万円程度であり、中国より低コストの生産拠点として多くの日系企業が進出した。しかし、現在のワーカー層給与は4~8万円程度、管理職層では15~20万円程度まで上昇しており、その前提は大きく変化している。

賃金の上昇は経済成長を背景としたインフレに加え、韓国および台湾系企業の存在も大きい。サムスンはベトナム北部で巨大工場を展開し数万人規模を雇用、鴻海精密工業を中核会社とするフォックスコンも生産拠点拡大に伴い採用活動を強化。これら企業ではワーカー層に月額給与6~10万円程度を提示するケースも多く、日系企業との人材獲得競争が激化する要因となっている。

さらに、こうした人材確保の課題を考えるうえで、今後無視できないのがベトナムの人口構造変化である。現在のベトナムは平均年齢が30代前半と若く、豊富な労働力を背景に経済成長を進めてきた。しかし直近の出生率は1.93まで低下しており、人口ボーナス期は残り10~15年程度ともいわれる。2030年代後半には高齢社会入りし、2050年頃には人口ピークを迎える見通しだ。

今後は親世代の介護負担が徐々に増加していくことも予想される。ベトナムでは家族内介護が一般的であり、将来的には介護や家庭事情を理由として労働市場から離れる人材が増加する可能性もある。現在でも、現場では、出産・子育て、地元への帰省など家庭事情により30代で転職・離職するケースが発生している。こうした傾向は、今後強まることが予想されるだろう。

このように、人材獲得競争が激化するなか、単純な賃上げのみでは競争優位を維持しにくい構造となっている。実際、今回訪問した企業でも「給与だけでは人は定着しない」という声が共通して聞かれた。

送迎バス、社員食堂、住宅補助など福利厚生を充実させることはもちろん、社員旅行やイベントなどを積極的に開催し、従業員同士の一体感を醸成することが人材定着には不可欠となっている。例えば、視察した三笠ベトナムでは、地域のお祭りなどに積極的に参加し、従業員とその家族を巻き込みながら地域とコミュニケーションを取っているようだ。単なる雇用契約ではなく、「会社コミュニティ」を形成することが定着率向上につながっているが、この点は「社内交流の希薄化」が進む現在の日本企業と相違がある部分かもしれない。視察先企業は単独で進出を果たしているが、ベトナム文化を理解する地元パートナーとの提携なども視野に入れておきたい。

現在のベトナムは、「若く豊富な労働力」と「内需拡大」が同時に存在する極めて貴重な局面にあり、在ベトナム日系企業の過半数が今後1~2年で事業拡大の意向を示していることからもアジア圏でもっとも注目すべき市場であることは間違いない。しかし物価上昇や他国企業の進出により、人件費高騰や人材獲得競争が激化する状況は当面続く見込みであり、「ベトナム進出メリットを最大化できる最後のタイミング」が近づいているともいえるだろう。

ベトナムへの進出で安価な労働力を求めるだけの時代は終わりつつあるが、それでも高い経済成長を継続する、人口1億人のマーケットは魅力的である。一方で、近い未来に高齢社会入りが予想されるベトナムにおいては現地社会や国民性を深く理解し、進出企業は現地従業員と双方向のコミュニケーションが取れる場を提供することが重要である。

このような状況下においても、現地に深く根差した経営を実践し、長期的な視点で人材育成や現地化を進める日本の中小・中堅企業が、さらに活躍していくことを期待したい。

 

(写真左)ハノイ市内から工業団地に向かう間は依然として開発途上の道が多い
(右)世界遺産「タンロン遺跡」。市内の喧騒から離れ、厳かな雰囲気に包まれていた

 

機関誌そだとう227号記事から転載

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