投資先受賞企業レポート
第43回優秀経営者顕彰 次世代イノベーション経営者賞
「破壊からリサイクルへ」の転換で業界を切り拓く

再生冷媒で、“資源循環経済型企業”へ

阿部化学株式会社

 

 

阿部化学株式会社
阿部裕之 会長

阿部化学株式会社
主な事業内容 フロン類の再生処理、フロン類の破壊処理取り次ぎ、フロン類の充填・回収、フロン分析
本社所在地 静岡県焼津市
創業 1947年
従業員数 40名

 

環境規制の強化は、企業にとって制約であると同時に、新たな成長の契機にもなり得る。とりわけ中小企業に求められるのは、時代の変化をいち早く読み取り、自社の技術や経験を次の事業へと結びつける力だ。静岡県焼津市に本社を構える阿部化学株式会社は、まさにその力を体現してきた企業である。

同社が手がけるのは、冷凍機や空調機に使われる冷媒「フロン」の回収・再生事業だ。フロンは冷凍機や空調機の内部で熱を移動させる役割を担っている。そのフロンを使用済み製品の中から回収し、混入した不純物などを取り除いて、高品質によみがえらせている。

「フロンは不純物が混ざることはあっても、それ自体が劣化するわけではありません。きれいにして繰り返し使うことができれば、新品をつくらなくても済むようになります」
そう語るのは、阿部化学の代表取締役会長である阿部裕之氏。フロンは生活の中で目に見えることは少ないが、食品の保存、物流、製造現場など、現代の暮らしと産業を支える社会インフラに重要な存在だ。

フロンには、オゾン層の破壊や温室効果への懸念から、国際社会では回収と破壊(無害化)に取り組まれてきた歴史がある。同社は破壊が原則とされていた1980年代からフロンを再利用可能な資源として見つめ直し、再生への新しい流れを切り拓いてきた。現在は40を超えるフロン再生事業者がひしめく中、市場で約2割のシェアを持ち、国内トップクラスの存在感を示している。

そんな同社の阿部会長はこの度、第43回優秀経営者顕彰において次世代イノベーション経営者賞を受賞した。10年間で売上高を3.5倍、経常利益を6.7倍へと伸ばした実績が、受賞の大きな理由となった。阿部氏は「取引先を含め、業界の皆さんと社員さんのおかげで戴いた賞です」と語るが、その背景には利益からは見えてこない、同社ならではの経営姿勢がある。

環境問題への先見性、徹底した品質の追求、顧客の厳しい要望に応え続ける現場力。そして、事業の根底にある「リサイクルを通じて社会に貢献する」という一貫した思想だ。

規制を先読みし、いち早くフロン再生事業へ

阿部化学は1947年に工業用洗剤メーカーとして創業した。その後、人工醤油や洗濯石鹸の製造、溶剤リサイクルと、時代の変化に応じて事業転換を重ねてきた。フロン再生事業への参入は1984年。当時は環境問題への関心が現在ほど高くなかったが、阿部氏は米国で始まったフロン製造規制とそれに追随する欧州の動きを見て、日本でも同様の流れが訪れると予見。いち早くフロン再生事業を立ち上げた。難易度が高いとされるフロン再生に挑戦できた背景には、長年培ってきた蒸留技術があったという。

「一般的にフロンは気体のイメージがありますが、液体の状態で扱える種類もあります。私たちは溶剤リサイクル事業を通じて液体フロンの特性を熟知していたため、高気圧で気体を液化させたフロンを蒸留すれば再利用できると考えたのです」

阿部氏の予想通り、2001年には、日本でも「フロン回収・破壊法(現・フロン排出抑制法)」が施行され、フロン類の製造から廃棄に至るまでの管理や、漏えい防止、回収・再生・破壊の取り組みが制度として整備された。同社にとっては追い風となる法改正だったが、再生フロンがすぐに受け入れられたわけではない。というのも、当時は依然として回収フロンの破壊処理が主流で、新品も潤沢に流通していたうえ、参入事業者の増加に伴い品質にばらつきのある再生フロンが出回っていた。その結果、再生品そのものへの不信感が市場に広がっていたのである。

そのような環境でも、阿部氏は価格競争に走ることなく、品質向上で顧客の信頼を勝ち取る道を選んだ。
「『再生品は質が落ちる』というイメージを払拭したかったのです。そこで、フロンメーカーと同じ分析装置を導入し、分析専任のスタッフを配置。品質チェックの体制を整えました。高品質な再生品を提供し続ければ、お客さまから必ず繰り返し選んでもらえると考えたのです」

同社がフロンの再生に採用したのは、「還流式蒸留精製方式」だ。これは蒸留塔内で気化と液化を何度も繰り返し、不純物を取り除いていく方式である。液体のままフィルターでろ過する「簡易再生」や、一度だけ気化させて不純物を取り除く「簡易蒸留」と比べて、純度を高めやすいうえ、品質をコントロールしやすいのが大きな特徴だ。この方式の導入により、新規製造されたフロンと同等水準の品質を実現している。

 

運び込まれた原料フロンの純度を分析。その後、銘柄別に専用の大型容器へ移充填する。

 

「還流式蒸留精製は時間をかけることで純度を高められる反面、処理コストも比例して上昇します。そのため、品質と収益性を両立するためには、原料の受け入れ時に適切な選別を行うことはもちろん、必要な品質基準に達した段階で蒸留を調整する見極めも重要でした」

地道な品質改善を積み重ねることで、同社は地域での信頼を着実に獲得していく。さらに、信頼性の高い事業者の証しである冷媒回収推進・技術センター(RRC)からの「冷媒回収事業所」の認定やISO9001、ISO14001の認証取得も進め、品質と環境への取り組みを対外的にも示していった。

成長を加速させた、業界最高水準への挑戦

転機となったのは、2021年に混合フロンの品質基準を定めるJIS規格が整備されたことだった。基準を満たした再生フロンは、新品と同等の製品として流通できるようになったのだ。
同社が再生フロンの販売先として目を向けたのは、「生みの親」であるフロンメーカーだった。安定した原料の確保と販路の開拓を同時に実現することが狙いだったという。しかし、メーカーが求めた品質基準はJISをはるかに上回るものだった。
「不可能にも思える要求でしたが、求められた業界最高水準の品質を実現できれば、どこにでも自信を持って提供できるはず。そう考えて再生の質を高めていく決断をしました」

 

同社の「還流式蒸留精製」プラント。不純物を徹底的に除去し、新品と同等水準の品質を実現する(写真左)。
国内トップクラスのシェアを支える、静岡県焼津市にある阿部化学の本社(写真右)。

 

売り先を選ばなければ、一定品質の再生フロンでも事業は成立しただろう。それでも阿部化学は、より高い基準への挑戦を選んだ。フロン再生事業というと高度な蒸留技術に注目が集まりがちだが、実際には、原料の調達から再生、保管、販売、容器回収に至るまでの一連の仕組みを構築していることが競争力の源泉となる。フロンの回収量は季節や景気動向により大きく変動し、再生後も販売まで一定期間保管しなければならない場合もある。そのため、大量の容器や在庫を管理できる設備が欠かせない。同社は本社工場を中心に3基のプラントと広大なストックヤードを整備。回収用ボンベや原料保管用タンク、精製後のフロンを保管する大型容器、出荷用容器などを適切に管理できる体制を構築している。
「原料の受け入れから蒸留、保管、販売、容器回収まで、すべてが連携して初めて価値を生み出します。全体のバランスを整えられていることが、当社の競争優位を支えています」

2024年9月、北海道石狩市に道内で初めて
となるフロン再生プラントを開設。

また、再生フロンの管理には「誰が、いつ、どこで、どの設備から、どれだけ回収したのか」まで追跡可能な独自のシステムを開発。目に見えないガスだからこそ、品質管理と安全管理を徹底しているのだ。
同社は現在も、ボンベの温度管理、重量管理、労働環境の改善など、監査人からの細かな要望に対応し続けている。これは簡単なことではない。業界から確固たる信頼を寄せられているのは、こうした厳しい水準に応え続けてきたからだろう。

需要家やメーカーの厳しい監査をクリアした同社は、大きな信頼を獲得し、飛躍を遂げる。法改正や国際的な環境規制の強化も重なり、業績は着実に拡大していった。
そして現在、再生フロン市場は成長局面を迎えている。かつては限定的だった再生フロンの利用も、徐々に社会に浸透し始めた。そうした変化を見据え、同社は2024年9月、北海道石狩市に道内初となるフロン再生プラントを開設した。

「近年は、フロンを破壊するのではなく再生して活用する方向へと需要家の方針も変わってきました。その中で、回収拠点の近くで再生処理ができる体制が求められるようになっています。地域内で循環できれば、輸送コストや再生までの時間も削減できますから」
いくつかある候補地から北海道を選んだのは、大規模な冷凍倉庫群を抱え、国内有数の冷媒需要を持つ地域だったからだ。初の北海道進出には想定外の課題もあったが、この試みは、今後の地域循環型モデルの先駆けとして期待されている。

創業80年――その先の未来を見据えて

急成長を遂げた阿部化学。現在の課題は、人材育成と組織づくりだ。
「フロンの再生には化学、安全管理、設備運転、品質管理など幅広い知識が求められます。年齢層に偏りがある中で、社員さんが育つ環境をいかに提供できるかが、さらなる発展には欠かせないでしょう。その中で、これまでのフラットな組織運営も役割や責任を明確にする方向へ見直していく必要があるかもしれません。
社長業はすでに後進へ引き継いでいますので、私はこれから会長として、法改正に関する提言や業界全体の取りまとめに力を注いでいくつもりです。現経営陣には、この賞を励みに社員さんと共に、さらに高い目標に向かって挑戦を続けていい会社をつくってほしいですね」

今後数年間は、法改正や環境意識の高まりを追い風に、年率5~10%程度の成長が続くと阿部氏は見ている。まずは国内シェア25%を目標に、将来的には30%を超え、業界のオピニオンリーダーとして市場を牽引していきたいと語る。

まもなく創業80周年を迎える阿部化学。その歩みを振り返ると、その強さは単なる技術力や設備力だけではないことが見えてくる。再生フロンへの不信感が根強かった時代に品質を追求し続けたこと。顧客からの厳しい要求を成長の機会としたこと。そして、回収から再生、保管、販売、容器回収までを1つの仕組みとして築き上げてきたこと。その根底には、環境負荷の低減という社会課題に真摯に向き合う姿勢がある。「面倒なことだから相談に乗る会社でありたい」と語る言葉には、同社の経営哲学が凝縮されている。

国内のフロン回収率は40%と依然として十分とはいえず、冷媒の再生技術もまだ発展途上だ。業界には解決すべき課題も数多く残されている。阿部氏は、業界全体でフロンの流れを把握することの重要性も強調する。
「どれだけのフロンが市場にあり、どこで使われ、どこで漏れ、回収されているのか。そのマスフローがさらに明確になれば、重点的に取り組むべきポイントが見えてきます。

フロンをはじめとする冷媒は、今後も効率性の向上と環境負荷の低減を求めて進化していくでしょう。理想は、使用中は高い安定性を持ちながら、役目を終えた後には負荷なく自然へ還るような冷媒です。そうした可能性も見据えながら、まだ誰も再生に取り組んでいない冷媒の再生にも挑戦し、資源循環経済型企業としてさらに飛躍していきたいです」

社員と共に変化を読み、品質を磨き、顧客の信頼を積み重ねる――。阿部化学の挑戦は、循環型社会の未来を切り拓くと同時に、中小企業が持つ可能性の大きさを示している。

 

投資育成へのメッセージ

代表取締役会長
阿部裕之

経営者には、地域の専門家から得られる情報と、全国的な視野に立った知見の両方が必要だと考えています。投資育成さんはまさに後者を与えてくれる心強いパートナー。中期経営計画を策定する際には、最初から最後まで伴走していただきました。投資育成さんに投資していただくようになってから、会社の信用やブランド力の高まりも実感しています。

 

投資育成担当者からのメッセージ

業務第四部 主任
友 咲乃

この度はご受賞誠におめでとうございます。顧客からの要望に応える姿勢や、高い先見力で業界の拡大を見越し、他社に先駆けて積極的な先行投資を行われてきた結果が今の事業基盤に繋がっていると感じます。
法律改正に伴う再生フロンの需要拡大を追い風に、引き続きパイオニアとして業界を牽引していっていただきたいと期待します。投資育成も、微力ながらお支えできるよう、引き続き伴走させていただきます。

 

機関誌そだとう227号記事から転載

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