ゼロから始めるSNS戦略

自社と顧客をつなぐ「信頼のインフラ」に

CASE②株式会社テクノソリューションズ

 

大眉 博 社長

株式会社テクノソリューションズ
主な事業内容 CAD/CAMD/CAED/PDMシステムの開発・販売、3Dプリンターの販売など
本社所在地 東京都新宿区
創業 2005年
従業員数 60名

 

中堅・中小企業にとって、自社の強みをいかに伝えるかは永遠の課題である。優れた技術がある。顧客に真摯に向き合っている。現場で培ったノウハウもある。しかし、それが外部に十分伝わっているとは限らない。特にBtoBの専門領域では、事業内容そのものが難しく、一般の人はもちろん、見込み客にすら会社の価値が届きにくいことがある。

製造業向けに設計・製造ソリューションを提供する株式会社テクノソリューションズも、まさにそうした課題を抱えていた企業の1つだ。CAD/CAMなどの販売・サポートや3Dプリンターの提供を通じて、設計から製造までのものづくりを包括的に支援している。

「当社のお客さまには、航空宇宙分野に携わる方々もいらっしゃいますが、この分野では軽量化と高強度という相反する要求を両立させる必要があります。ロケットのエンジンノズルのような部品では、複雑な形状の設計や高度な解析が欠かせません。3次元CADを軸に、用途に応じた専用ソフトも組み合わせながら、設計・解析・製造の各工程におけるデータ連携をシームレスにつなぎ、開発効率と製品品質の向上をサポートする。それが当社の取り組みです」と代表取締役の大眉博氏は語る。

CADソフトにはさまざまな種類があるが、同社は自動車や産業機械などの設計現場で使われる3D CAD「SOLIDWORKS」に特化し、技術力を高めることで独自の強みを築いてきた。

専門性が高い事業を行う同社だが、近年、情報発信の取り組みが実を結び始めている。公式YouTubeチャンネルは業界内で認知を拡大。セミナーや体験会でも想定以上の参加希望者が集まるなど、オンラインとオフラインの双方で支持を広げている。
「以前は顧客との接点は展示会が中心でした。しかし、コロナ禍を経て、顧客の情報収集の場はオンラインへと大きく広がり、製造業の顧客も、導入前にWebサイトや動画、SNSを見て比較検討するようになってきており、私たちもオンラインでの接点を増やす必要がありました」

そう話すのは広報・マーケティングチームのリーダー・高橋まりえ氏だ。もっとも、同社がSNSに全く取り組んでいなかったわけではない。FacebookやXのアカウント、YouTubeチャンネルはすでに存在していた。しかし、コンテンツ制作の負荷や社内チェックの手間もあり、SNSを十分に活用しきれていない状況が続いていたという。

同社の広報活動が大きく動き出したのは2024年。広報・マーケティングチームに、現役の声優としても活動する杉本奈緒子氏が加わったことを転機にSNS運用が本格的に始まった。数あるプラットフォームの中で同社が注力したのは、YouTubeとXだ。製造業の中心層である30~40代男性との接点を増やしたいという狙いに加え、担当者に馴染みがあるということも大きかった。SNSは始めることよりも続けることが難しい。だからこそ、ターゲットとの相性と運用のしやすさを両立できるプラットフォームを選んだのだ。

 

(写真左)同社が販売する3Dプリンター「G-ZERO」
(中央)自動車、ドローン、宇宙・航空など、幅広い領域で活用される産業用光造形3Dプリンター「CARIMA DM4K」
(右)2026年5月に移転したばかりの同社の新オフィス

売り込みではなく「役立つ情報」を届ける

広報・マーケティングチーム
杉本奈緒子氏

「私たちがSNSで目指したのは、『顧客が何かに困ったとき、真っ先に思い出してもらえる存在』になることでした。そこで、会社をアピールすることよりも、まずは役立つ情報を届けることに重点を置きました」と杉本氏。こうした方針のもと、YouTubeは毎月コンスタントに投稿、Xは毎日更新をルーティン化するなど、発信頻度を高めていった。特に重視したのがYouTubeの活用だ。
「CADや3Dプリンターの動きや魅力は実際の操作画面や造形の様子を動画で見せることで、よりわかりやすく届けられると考えたのです」

声優業を活かした杉本氏のナレーションも大きな武器となっている。

同社の動画コンテンツは、広報・マーケティングチームとエンジニアの協働によって生み出されている。会社紹介などは広報が中心となって制作し、技術解説などはエンジニアが主体となって制作を行う。こうした動画制作は外注されることも多いが、同社ではすべて内製している。それぞれが業務の合間を縫って制作を進めているため、信頼関係の構築が欠かせないという。
「制作にかかわってくれた社員には、視聴者の声などを積極的に共有しています。そうしたやり取りを重ねるうちに、今では『こんな動画はどうですか』とエンジニアの方から声をかけてくれるようになりました」

発信を続ける中で、顧客からの反応にも変化が表れ始めた。
「最近は『YouTubeを見ました』『動画を参考にしています』と言っていただくことが増えました」と大眉氏。

中には、他社代理店を利用していた顧客が同社の発信をきっかけに興味を持ち、相談や取引につながったケースもあるという。SOLIDWORKSに特化した専門性やサポート力が、動画を通じて伝わり始めているのだ。

また、動画は営業活動の現場でも役立っている。3Dプリンターなどを紹介する際、まず動画を視聴してもらうことで製品への理解が深まり、その後の説明がスムーズになる。SNSのためにつくったコンテンツが、営業ツールにもなっているのだ。

さらに、SNSの取り組みは思わぬ効果を生み出している。以前は対外イベントへの参加に不安や緊張を感じていた社員が、SNSへの出演を機に自信をつけ、今では取材企画を提案する側に回っているという。

加えて、主体的な挑戦を促す環境の裏には、経営層の深い理解がある。テクノソリューションズの広報活動を支えているのは、大眉社長の懐の深さだ。広報・マーケティングチームが2人体制となった際、大眉氏は細かな指示を出すのではなく、「まず自分たちのやりたいことをやってみてほしい」と背中を押したという。

高橋氏は、「自由にアイデアを出せるようになったのは、その言葉があったからです」と振り返る。経営者が現場を信頼し、裁量を与える。その環境があったからこそ、同社ならではの発信が生まれているのだろう。

 

(写真左)同社が自社で制作・運用しているYouTubeのサムネイル
(右)同社では「SOLIDWORKS」のQAサービスも展開

中堅・中小企業にとって大きなチャンス

今、同社が目指しているのは、SNSを単なる情報発信の場から、コミュニティ形成の場へと発展させることだ。「SNSを入り口として、当社主催のウェビナーへの参加者も増えてきました。今後はそこからリアルな体験会へとつなげていきたいと考えています」と杉本氏は話す。

最後に、大眉氏に中堅・中小企業にとってのSNSの可能性を伺った。
「今は会社規模よりも発信の質が問われる時代です。大企業でなくても、自分たちの技術や考え方を直接届けられる。そういう意味でSNSは、中堅・中小企業にとって大きなチャンスだと思っています」

一方で、発信を続けるには根気も必要だ。思うような反応が得られない時期もある。それでも「まずやってみること」に価値があるという。「全部をやろうとしなくていいのです。まずはできることから始める。続けていれば、どこかで変化のきっかけに出会えますから」

テクノソリューションズのSNS活用は、派手な広告戦略による成功事例ではない。自社の専門性を見つめ直し、それをわかりやすく伝える工夫を積み重ねてきた結果である。その取り組みは、SNSが企業と顧客をつなぐ“信頼のインフラ”になり得ることを示している。

 

 

機関誌そだとう227号記事から転載

経営に関するお役立ち資料を
お届けいたします

© Tokyo Small and Medium Business Investment & Consultation Co.,Ltd. All Rights Reserved.