経営者自らの言葉が、“人”を惹きつける

佐藤文泰 社長
| 主な事業内容 | 住宅・建築部品、自動車・その他部品の金属加工 |
|---|---|
| 本社所在地 | 東京都江戸川区 |
| 創業 | 1956年 |
| 従業員数 | 50名 |
「2022年以降に採用した従業員は十数人で、みな当社のSNSや社長ブログを読んで応募してきました。入社後に待遇面などのギャップが少ないため、離職者もほとんどいません。SNSを活用した情報発信は、特に人材採用において大きな成果を上げていると実感しています」
株式会社橋本製作所の代表取締役社長である佐藤文泰氏は、SNS活用の効果にこう自信を示す。
同社は、金属(材)のプレス加工や板金加工で建築用部材、住宅関連の内・外装部材、自動車部品などを製造する金属総合加工メーカー。特に金型まで自社生産できる体制を整え、企画・提案、設計から量産化まで一気通貫で行うことに強みを持つ。大手総合住宅メーカーなどの顧客から信頼を得て、業績を伸ばしている。
同社は、今年創立70年を迎えた。創業者は佐藤氏の母方の祖父。佐藤氏は3代目となる。
創業時は鉄スクラップ(廃金属)を安く仕入れ、プレス機でワッシャー(座金)を製造、問屋に卸していた。ただ、それでは事業拡大が望めないことから、2代目社長は鉄鋼材料から住宅部材などを製造、直接ユーザーと取引する現在のビジネスモデルの基盤をつくった。先代社長は「常に革新の道を選ぶ」と「人材の確保と育成」という2つの経営方針を掲げ、会社を大きく成長させた。2013年に3代目に就任した佐藤氏もそれを踏襲している。
「当社はモノづくりの会社ですが、お客さまの要望に対して当社が提案し、試作品をつくって、ゼロから話し合いをしながら最終的に量産化につなげるようにしています」
この提案力の要となるのが、同社の技術開発部隊だ。現在、従業員数50人のうち、設計担当が5人いる。
「当社のような中小企業が設計の人材を確保するのは非常に難しいのですが、採用活動に注力しながら少しずつ増やしてきました」
先代が大事にした「人材の確保と育成」の実践にほかならないだろう。この取り組みで大きな力を発揮しているのがSNSだ。

(写真左上)さまざまな形状の加工、モジュールの対応が可能。
設計だけではなく、顧客の製品企画・設計構想から携わるのが同社の特徴だ
(右上)あらゆる製品の金属加工を一手に担う、同社の製造拠点「北関東工場」
(左下)北関東工場の内部。5Sが徹底されており、安全でクリーンな空間
(右下)北関東工場は、シートシャッターを導入。冷暖房の流出を最小限に抑えている
伝えるだけではない、“面白い”コンテンツを
橋本製作所がSNS活用をスタートしたのは、2021年。当時、コロナ禍でビジネスのスタイルが大きく変化する中、佐藤氏は危機感を募らせていたという。
「それまでは営業担当者が足を使って新規顧客開拓をしていましたが、それができなくなりました。すべてのやり取りがオンラインになる中で、BtoBの製造業として自社のブランド力や信頼性を高めていくにはどうしたらいいのか。そう考えたときに、当社の技術力や提案力をネット上で情報発信していく必要があると判断したのです。SNSは無料で使えるし、1つの突破口になるかもしれないと考えチャレンジしました」
これもまた「革新の道を選ぶ」取り組みといえるだろう。最初に公式アカウントを開設したのはInstagramだった。
「Instagramは共感型SNSなので、会社のことを知ってもらいやすく、自社のブランディング強化にも有効だと思ったのが理由です」
心がけたのは、フォロワー数を伸ばすことに重きを置かないことだという。
「広範囲な人に向けて情報発信しようとすると内容が薄まります。あくまでもビジネスとしてのSNS活用であるべきだと考え、業務の内容、会社の取り組みなどを中心に発信し、当社に対する信頼感を高めてもらえるように努めました」
Instagramとほぼ同時期にスタートしたのが、大手転職サイトでの会社ブログだ。橋本製作所を継ぐ前、佐藤氏は大手専門誌の編集などに携わっていたという。
そのキャリアを活かした、ユニークなブログはすぐに注目を集めた。基本的には社内イベントや会社の取り組みについて佐藤氏自らが執筆しているが、特筆すべきは、佐藤氏が社員に直接取材を行う「社員インタビュー」の企画だ。社長自らが取材まで手がける画期的な企画で、ブログ内での評価も高い。
社内の取り組みや社員の本音を知ることで、自社で働く価値を再認識し、転職を考え直すきっかけにもなっているという。
「若い従業員は特に、より待遇のいい会社に転職したいと思います。それは当然のことですが、転職サイトなどに載っている求人内容と実状が違うことは珍しくありません。転職して失敗したというような後悔をしてほしくないので、現実を知ってもらう機会になればと思っています」
ブログは社長や従業員同士のコミュニケーションの円滑化にも寄与している。こうした同社のユニークなブログは高く評価され、同転職サイトの年間ベストセレクションなどに選出されている。

社長ブログのトップ写真。
佐藤氏自ら、社員にインタビューする企画は斬新で、注目度も高い
大切なのは、社長自ら一歩を踏み出すこと
Instagramからスタートした同社のSNS活用は、現在、大きな飛躍を遂げている。YouTubeチャンネル、LINEなどの公式アカウント開設のほか、それらのSNSや社長ブログ、広告などを連動させるメディアミックスに力を入れている。その活動を主導するのが、2024年に新設した「広報戦略室」だ。広報業務に携わってきた経験者を、同室長に招聘した。
「プラットフォームによって発信する内容を変えています。例えば、YouTubeでは深掘りしたコンテンツを、Instagramでは手軽に読める内容を投稿するといった具合です。また、広告を出した際には、各SNSで発信し、そこに誘導する仕掛けもつくっています」
そのほか、SNSの有料広告にも費用を投じていると佐藤氏は語る。
「自社のSNSだけでは、どうしても発信力に限界があります。そのため、ある程度の広告費は必要です。SNS広告には安価で始められるものもありますが、PV数やインプレッション数は驚くほど伸びるため、取り組んで損はありません」
橋本製作所のSNS活用は、広報戦略室を設け専任者を1人置くなど、中堅・中小企業において非常に先進的な取り組みだ。多くの企業にとってマネするのは容易ではないだろう。しかし、同社も最初はInstagramからのスタートだった。大事なのは、経営者自らがまず一歩を踏み出すことだと佐藤氏はアドバイスする。
「BtoBの製造業でモノづくりの中堅・中小企業は全国に多数あります。高度な技術力を持っている会社も多いです。しかし、会社の存在が知られなければ、新規の顧客開拓や人材採用は難しい。それはあまりにももったいない話です。知名度やブランド力がないからこそ積極的に情報発信すべきでしょう。社長が音頭を取り、まずは1つのSNSから始めてみることをおすすめします」

(写真左)栃木県鹿沼市の魅力を発信するプロジェクト「いちご市 KANUMAサポーターズ」に参画。
鹿沼市役所にて、同市の松井正一市長(写真右側)よりサポーター認定証が授与された
(右)若手も臆せず意見を言える風通しの良さが、同社の高いチームワークを支えている
ここまで見てきたように、橋本製作所はSNSをビジネスに有効活用し、人材採用や離職者の低減などで大きな成果を上げている。ただ、収益面では、直接的な効果はさほど表れていないという。
「SNSを通じて問い合わせをいただいたり、打ち合わせなどで話題になったりすることはありますが、収益拡大に大きく寄与するまでには至っていません。SNSは短期的に効果が表れるものではありませんから、お客さまとの信頼関係を長期的に構築しながら、少しずつ新規受注に結びつけていきたいと考えています」

機関誌そだとう227号記事から転載










