わが社の承継
山三電機株式会社

祖父から孫へ託す100年後も廃れない「経営理念」のバトン

 

 

山三電機株式会社
主な事業内容 大型車関連電装品事業(電装品・冷凍車・バス・架装品)、移動体通信事業、テナント事業
本社所在地 東京都立川市
創業 1966年
従業員数 63名

 

創業60周年を目前に、祖父から孫へ社長職をバトンタッチ。100年企業を目指して新たなスタートを切ったのは、1966年創業の山三電機株式会社だ。創業者である祖父・山下安雄氏からバトンを引き継いだのは、山下氏の長女の息子である20代の孫・野中智貴氏。野中氏は、会長の山下氏から経営の教えを乞いながら、新社長として修行の日々を送っている。

同社はトラック、バス、建設機械など大型車両の電装品の取り付けや整備を担う「大型車関連電装品事業」を祖業とし、携帯電話の販売・サービスを展開する「移動体通信事業」、本社ビルをはじめとしたビルの賃貸を行う「テナント事業」と事業を拡げ、実直に歩みを進めてきた。創業時、大型車両に特化して事業をスタートしたのは、共に会社を始めた山下氏の弟が大型建設機械の整備を専門にしていたから。競合が少なく、付加価値が高い点も魅力だった。

山三バッテリー株式会社として創業した当時の写真。
右から2番目白いジャケットが山下安雄会長

ただ、普通自動車と違い、建設機械は山奥の工事現場など僻地で稼働していることが多く、不具合や故障が発生すると、過酷な場所へ出張して修理や整備に対応しなくてはならない。ゆえに非常に手間がかかる仕事なのである。だからこそ他社はなかなか手を出さない。どこであろうと対応する機動力を重視した迅速なサービスと年中無休体制が評判となり、少しずつ顧客は増えていった。

「他社が真似できないサービスを展開しているのが当社の強みであり、付加価値」と、山下氏は胸を張る。こうして差別化、独自性にこだわり続けたことが山三電機の成長の原動力となった。

山下氏と弟、そして父親の3人で始めた会社は次第に大きくなった。創業10年ほど経過した頃、社内の意識統一を図るために明文化したのが、「創業の精神」と「社訓 三つの常」、そして「経営方針」の3つだ。

〈創業の精神〉

一、お客様第一
相手の立場に立って考える・丁寧な仕事をする

一、社員の生活を守る
社員が安心して働ける環境を創出する・雇用を維持する

一、健全性を重視した経営をしていく
企業の最大の使命は倒産しないこと

〈社訓 三つの常〉
常に努力 常に前進 常に反省

〈経営方針〉
地域に密着したきめ細かなサービス
常にお客様に喜ばれるサービスを

経営理念の体現として社員が安心して働ける環境を創出する中、同社は日本健康会議が特に優良な健康経営を実践している法人を認定する「健康経営優良法人ブライト500」に3年連続で認定されている。健全性を重視した経営については、創業当初からの月次決算や公私混同しないガラス張り経営の徹底、適正な納税を通した社会貢献を通じて、平成3年に「優良申告法人」に選ばれ、以来継続して8度、立川税務署長の表敬訪問を受けている。

「経営理念の実践が、社員をはじめとしたステークホルダーの幸せにつながる」と山下氏。この想いを託されたのが、野中氏だ。

 

(写真左)2005年に竣工した本社ビルの他、都内数カ所に自社ビルを所有。
飲食店やコンビニエンスストアなどへテナント貸しをしている
(右上下)整備士による大型車両の修理、メンテナンスの様子。
今後は出張サービスに加えて、車両持ち込みへの対応を強化すべく、
西東京事業所の拡大を予定している

大学生活と出社を両立会社を知るための4年間

会長
山下 安雄 氏

なぜ、野中氏に事業承継をしようと考えたのか。山下氏に尋ねると、野中氏が中学生時代に学年代表として書いたいくつかの文章を見せてくれた。クラスで一致団結することの大切さを知ったこと、先輩に学び後輩に一生懸命な姿を見せようという呼びかけ、学年代表として奮闘する自身を助けてくれた仲間への感謝などが綴られているものだ。こうした姿勢に、謙虚な気持ちをもちながら中心となって組織をまとめていく経営者の資質を感じたのかもしれない。

野中氏は、「面と向かって会社を継ぎなさいと言われたわけではありません。でも、祖父から仕事の話を聞くにつれ、少しずつ自分も山三電機の役に立てたらいいなという思いが強くなっていきました」と語る。山下氏の期待と野中氏の思いが重なったのは、野中氏が大学へ進学する前のタイミング。そうして、野中氏は次期社長への就任へ向け、徐々に準備を始めていくこととなった。

奇しくも、ちょうど世の中がコロナ禍に突入した時期。大学の授業がすべてオンライン実施となり、リアルタイムで聴講せずともよい状況だったこともあって、平日に時間が捻出できた。「なるべく早く会社のことを知ろう」と、平日に出社し、週末に大学の課題をこなす生活を4年間、続けたという。

社内の各部署・事業所へ足を運びながら会社全体の動きを知り、山下氏にも帯同して、経営者としての仕事がどんなものなのかをその目で見る機会を得た。「社会人経験もありませんから、会社とはどういう場所なのかを知ること、そして山三電機ならではの特徴を知ること。まずはそこから始めました」と野中氏。

山下氏は、「会社や事業について知るのは、第一段階。それだけではダメなのです」と、心構えや決断タイミングの見極め方、判断のスピード感など、経営者に必要な能力を身に付けるよう、指導を続けている。

例えば、「先を見据えること」と「現在の課題を乗り越えること」を両軸で考える力。「100年企業を目指すのはいいけれど、そのために今、足元にはどんな課題があって、それをどう乗り越えるかを考えなくては、目指すゴールにはたどり着けません」と山下氏。また、「世の中が変化するスピードはとても速い。考えている間に状況が変わることもある。だから、決断のスピードとタイミングも重要なのです」と助言する。

すべて、経験を積まなければ身に付かない経営者の能力だ。

一丸となって歩む組織へ一体感の醸成に力を注ぐ

社長
野中 智貴 氏

若く経験の浅い経営者だからこそ、重要となるのはそれを支える社員の存在だ。「会長からは、周囲が“助けてあげたい”、“一緒に頑張りたい”と思われるような謙虚な人でありなさいとの言葉をいただきました。その通り、技術や経験のない私には社員の皆さんを引っ張っていくことはできません。だから、山三電機らしさを共有して、みんなで歩んでいく会社にしたい」と野中氏。

そのために、やはり拠りどころとなるのは経営理念だ。会社としてあるべき姿を全員が理解し、同じ方向を見て仕事に励む。その中で会社も経営者も豊かに育っていくのが理想だ。野中氏は今後を見据え、ベテランと若手が混在する組織において、改めて経営理念を共有する場を設けるべきだと考えた。そうして始めたのが、会長と社員1人ひとりが対話する時間を増やすこと。野中氏もそこへ加わり3人で面談して会社のこれまでとこれからを話すのである。

特に若手社員にとって、会長は遠い存在と捉えられがちだが、コミュニケーションの場を設けることで距離が縮まった。山下氏は、「社員全員が経営者のような意識で仕事に臨むのが理想的な姿。そのためには意識を揃え、なおかつそれぞれが担う役割をしっかり認識することが大切」と話す。そうした意味でも、この面談は良い効果を発揮している。

また、組織としての一体感を高めようと野中氏が始めたのは、事業部や視点の垣根を越えたイベントの開催だ。本社の近くにある昭和記念公園でウォークラリーを実施したり、高尾山で登山をしたり。これまで事業所が違う社員同士はあまり顔を合わせることがなかったが、互いを知る良い機会になっている。

加えて、山下氏が続けてきた「健康経営」の方針に磨きをかけるべく、各部署から1名ずつを選出し、健康経営委員会を組織した。各イベントの企画や各部署への声がけを担い、組織として一層、社員の健康向上に励んでいくつもりだ。

「健康経営という言葉が聞かれるずっと前から、社員の健康を第一に考えてきました。昭和57年から社員とその家族の人間ドック費用を全額負担してきたのは、その一例です。社員は財産ですから」と山下氏。社訓にも、「社員の生活を守る(社員が安心して働ける環境を創出する・雇用を維持する)」とあるが、これをしっかりと受け継いでいく。

 

野中社長の発案で初めて開催した社員参加型イベント。
共に高尾山へ登り、親睦を深めた

大切なものは守りつつ挑戦する姿勢も忘れない

同社の整備士が着用している作業着の胸元には、「Challenging Company」の文字が刺繍してある。言葉通り、「挑戦する会社」であることを大切にする意志が込められている。他社ができないことに取り組んで差別化を図り続けてきた、同社らしいフレーズである。

「私は会長が大切にしてきた経営理念を踏襲することから始めなければいけません。新しいことに着手するのは、それからです」と野中氏。山下氏も「“あれもやってみたい、これもやってみたい”と、別のことを始めるのは、しっかりと経営者としての基盤を築いてからでないと」と話すが、「Challenging Company」を掲げているからこそ、現状維持ではいけないこともまた、両者はよくわかっている。

変えてはいけないものと、変えるべきもの。それを間違えずに全社一丸となって歩むことが、新社長に課せられた大きな使命だ。
「会長に、そして私を温かく迎えてくださった社員の皆さんに恩返しをしたい。恩返しとは、これからも安心して働ける会社として存続していくことだと思います」

40年後に100周年を迎えたとき、野中氏は60代。どんな経営者となり、会社をどのように発展させているのだろう。変化の激しい時代の荒波の中でも、「経営理念」という羅針盤さえ失わなければ、きっと行く先を迷わない。

 

機関誌そだとう227号記事から転載

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