投資先受賞企業レポート
第43回 優秀経営者顕彰 優秀経営者賞
処理・加工現場の負担を解決する機械を"発明"

食肉の安心・安全と働く人を技術で守る

花木工業株式会社

花木工業株式会社
海内栄一 会長

花木工業株式会社
主な事業内容:
食肉加工機械設備、食肉機械設備の企画・設計、製作、施工、保守管理
本社所在地:
東京都台東区
創業:
1963年
従業員数:
95名(グループ全体)

 

普段、当たり前のように口にしている豚や牛などの食肉、ハムやソーセージなどの食肉加工品。製品として店頭に並ぶ前には、と畜場や加工センターなどで家畜を解体する「と畜」と呼ばれる工程を経ているが、どういった施設でどういった工程を経て食卓に届いているのかを、詳しく知っている人は少ないだろう。

東京都台東区に本社を構える花木工業株式会社は、食肉の処理機械や食肉加工品の機械を含む「食肉プラント」の総合エンジニアリング企業である。食肉処理を行うプラントには、放血処理や剥皮処理、脊髄吸引や内臓摘出・検査、枝肉処理など、十数種類もの複雑な工程が存在する。加えて、食肉を扱っている性格上、高い衛生環境と安全性が求められる。安定した生産性を保つことも欠かせない。こうした高い専門性が求められるプラントの企画・設計、製作、施工、保守管理までをトータルで担っているのが同社なのである。

牛、豚の食肉処理機械の分野では国内シェア約7割を占めるトップメーカー。食肉加工機械の技術にも長け、日本ハムや伊藤ハムなど大手食品加工メーカーが販売している高価格帯のウインナーは、ほとんどが同社製の機械で生産されている。同社の技術は、私たちの豊かな食卓になくてはならないものだ。

この度、同社は第43回優秀経営者顕彰において優秀経営者賞を受賞。その背景には、と畜に携わる人のさまざまな負担を軽減する“発明”とも呼べる新技術の開発と、技術開発のためのたゆまぬ企業努力がある。

刃物店から機械メーカーへ。日本初の製品で脚光を浴びる

「当社の歴史は、私の祖父が独立して刃物店を開いたことに始まります。刀より家庭用包丁が売れるようになってきた頃です。当時、日本人は少しずつ肉を食べるようになってきましたが、魚をさばくのに特化した出刃包丁では肉が切りにくかった。それで、祖父は肉も魚も野菜も切れる三徳包丁を作って売り出しました」

取締役会長の海内栄一氏は、事業の発端をこう説明する。現在、どの家庭にもある三徳包丁(当時の名称は文化包丁)を最初に作ったのは、栄一氏の祖父である寅吉氏なのだ。同社の“発明”の歴史はここからスタートした。三徳包丁が飛ぶように売れ、足立区に工場を建設。機械工学を学んだ栄一氏の父・良吉氏は、包丁の卸先である大手ハムメーカーからの依頼で、戦争の爆撃を逃れたその工場で食肉を練ったり、細かく刻んだりする加工機械を作り始めた。そのうち、と畜場や食肉処理工場との付き合いも深くなり、食肉処理用の機械も手掛けるように。

「祖父は刃物職人でしたから、息子に“機械がやりたいなら、独立したら”と提案したそうです。そうして創業したのが花木工業です」

良吉氏が設計をしていた食肉加工機械や食肉処理機械は日本にはなく、海外から輸入するしかなかった。そのため、同社はすぐ軌道に乗り、3年目には自社ビルを構えるほど急成長。製造を複数の下請け企業に委託し、数多くの機械を手掛けていった。

その頃、国内における食肉処理は衛生・安全面で未熟な点が多かったため、良吉氏は視察で渡った欧米で現地の設備環境や処理方法を目の当たりにし、感銘を受ける。そして、そこで学んだことを基に、独自に開発技術を高めていった。

現在、食肉処理機械は機械単独ではなく、食肉処理システムとして販売している。と畜場や加工センターは、基本的に県営や都営といった公の施設である。自治体は、100億円、200億円といった予算を機械1台ずつには投じないため、大手ゼネコンが舵を取るジョイントベンチャーに参画して食肉処理システム全般を請け負うことがほとんどだ。

「自治体は食肉処理の専門家ではありませんから、想定する建設プランが適切でないことが多い。換気や排水について考えられていないケースが少なくありません。現地へ足を運び、専門家の視点で建設場所を見て、設計する必要があるのです」

また、豚熱やO157の感染拡大、BSE(牛海綿状脳症)問題など食肉の安全を脅かす問題が発生する度に法律が改正され、設備に求められる条件が厳しくなる。それに速やかにしっかりと対応するには、深い知識と優れた提案力、高い技術力が欠かせない。
「BSEが問題になった後からは、牛の脊髄を吸引器で切り落とす工程が必要になりました。しかし、その作業をするための機械を途中に入れ込むだけではダメ。システム全体を見直さないといけないのです」

機械を納めるだけではなく、食肉プラントをトータルでプロデュースできるのが同社の強み。この強みを買われて、多くの依頼が舞い込んでくるのだ。

 

と畜場や加工センターなどの現場へ出向き、生体のストレステストなどを繰り返す(写真左)。
一度に大量のソーセージを加工できる大型機械(写真右)。

画期的なアイデアと技術で自動化と省人化を後押し

食肉処理の工程は、かつては多くが手作業で行われていた。生き物を相手にすることはもちろん、刃物を使う危険な作業であり、なおかつ力やスピードが求められる重労働。作業者の負担は大きなものだった。さらにそこへ人手不足も加わって、自動化、省人化の必要性が高まっていった。そこへ寄与したのが、同社の技術である。

良吉氏が社長を務めていた時代に大ヒットした“発明”は、「ホッグスタンナー接額器」と呼ばれる電撃装置。それまで、処理前の豚はハンマーで殴って失神させていた。それを電気の力で行う装置である。人間と動物の皮膚の電気抵抗の強さの違いを利用し、人間には安全だが豚にはよく効く。これは海外にもなかった画期的な機械で、非常に喜ばれ、多くのと畜場や加工センターで導入された。

「いろいろな機械を開発し、他にはない技術をもっているのが当社の優位性です。“こういうものがほしい”というお客様の要望を形にしようと、常に新しい技術を試しています。だから、開発費がかかるんです。父が社長をしていたとき、経理を父の弟が担当していたのですが、“開発にお金をかけ過ぎる”と、いつも兄弟ケンカをしていたそうですよ」

先代から“発明”の能力と心意気を引き継いだ栄一氏は、電撃装置を改良したコンベアシステムを開発した。豚は前足が短く、ゆるい坂を上るのが得意。その特性を利用して、自動的に豚をコンベアに乗せ、電気ショックを与える仕組みである。コンベアに乗った先を明るくしたのは、明るいほうへ自然と向かっていく習性を利用するため。これによって、人間がほとんど豚に触ることなく最初の処理を施せるようになった。

牛の骨は非常に硬く、処理が難しい。
肋骨を一括で抜く装置の実験の様子。

与える電気の加減も重要だ。体内に血液が残ると肉が腐りやすいため、早く血を抜かなければいけない。それには、ポンプの役割を果たす心臓が動いている必要がある。失神はするが、心臓は止まらない。その周波数を探るのに苦労したという。
「動物の習性を知らないと、現場で役立つものは開発できません。あちこちの現場へ行って習性を調べ、コンベアシステムは2年近くをかけて開発しました。一般的な習性は本に書いてありますが、それを鵜呑みにするだけではダメ。実際に見ると、本の内容とは違う点もあるのです」

同社では、技術者を集めて年に2回講習会を実施しているが、基礎知識として生き物の習性についても教えるのだとか。現場で生きる技術を開発するためには欠かせない学びだ。
テクノロジーの進化に合わせ、機械も進化している。豚や牛は個体ごとに大きさや形状が異なり、同一のやり方では肉の仕上がりに差が出てしまう。それを解消するため、3D計測技術を用いて、個体の大きさと形状を測定しそれに応じて肉を切断する自動切断機の開発に成功した。

「当社の開発力を支えているのは、1つの案件に対して各技術者が知恵と経験を持ち寄って話し合い、新しい工夫を加える習慣でしょう。農家によって、個体の大きさや餌の種類などが違うので、と畜場ごとに処理の仕方が少しずつ変わります。だから、同じ名称の機械であってもそれに合わせて作り分ける必要がある。他のメーカーに依頼してできなかった機械を、あらためて当社に依頼してくるお客様が少なくないのは、丁寧に作り分けに応じてきたからでしょう」

同社が業界で引っ張りだこであるもう1つの理由は、機械のメンテナンスまで手がけていることだ。先代の頃から、「機械が売れれば売れるほど、求められるようになったのがメンテナンス」と栄一氏。現在、大阪と熊本、宮城、香川に拠点を構え、全国各地のメンテナンスに対応しているが、それでもまだ足りない状態だという。栄一氏は、「特に困っているのは北海道。行く度に出張費がかかってね」と苦笑いする。

売って終わりではない同社の姿勢があらためて高く評価されたのは、コロナ禍だった。海外の機械を使っていたと畜場、食肉センターは定期的なメンテナンスを受けられなくなり、途方に暮れていた。国内でしっかりメンテナンスまでしてくれる企業と付き合う必要性を痛感し、海外製から花木工業製の機械に乗り換えた顧客も多かったという。

海外に学び、人材を大切に。社員と共に成長し続ける

食肉プラントの分野では、ヨーロッパが技術の面で先駆けている。常にアンテナを張り、先進国に学んで技術に活かしている点も、同社が成長し続けている理由だ。部門の1つである海外情報専門セクションでは、最新技術を収集し、分析している。

「3年に1度、ドイツで開催されるIFFAという国際見本市には必ず、社員を連れて足を運びます。ヨーロッパは人手不足で自動化の必要性が高く、日々機械が進歩しているので、時々のトレンドがわかります。たいてい少し遅れて日本にも同じような流れが来ますから、日本でつくるならどこに気を付ければいいのだろうという視点で見ていますね。ヨーロッパはソーセージのバリエーションが多く、機械の種類も多いので、その点も参考になります」
1992年、茨城県常総市に子会社として設立した「花木工業つくば技術センター」も、量産体制の構築と共に新技術の開発拠点として機能している。

非常に専門性の高い仕事であるため、人材獲得や育成面での苦労も多いはず。工夫している点があるか尋ねると、「毎年、社員旅行に連れていくことかな」と意外な返答が。「今いる社員を大切にすること」を何より優先し、屋形船で楽しむ花見、浅草のホテルから見る隅田川花火大会など、社員を労う機会をたくさん設けているという。ハワイや石垣島などへ出かける研修旅行は、家族同伴OK。「世間が休みの期間に働くこともあるから、家族サービスをさせたい」との配慮からだ。
勉強会や資格取得の支援、会社への要望を自由に意見できる機会など、社員の成長や働きやすさを重視した制度が充実している。離職率は低く、着実に人材が育っている。

 

2023年、ハワイへ足を運んだ研修旅行での集合写真。社員が家族連れで参加するのがお決まりだ。

 

今後、業界で求められるのは最新技術を用いたロボット化だ。5Gが普及し、高速通信が可能になっている中、人間からの指示をタイムラグなく行うロボットの開発に着手する予定だという。「日々AIの技術も高まっているし、休む暇がないよね」と栄一氏。
歩みを止めない企業には、常に新しきを知り、試行錯誤を続ける柔軟な姿勢がある。

 

投資育成へのメッセージ

取締役会長
海内栄一

投資育成さんとは長い付き合いです。投資育成さんから投資いただいているという事実だけで、外部から見た当社の信頼度が上がっていると感じています。公共事業へ単独で参画するに当たり、投資育成さんのおかげで自己資金額を1億円まで伸ばすことができたことに感謝しています。これからも末永くよろしくお願いします。

 

投資育成担当者からのメッセージ

業務第一部 主任
法野聡美

この度はご受賞、誠におめでとうございます! 花木工業様は食肉文化を発展させた立役者であり、多くの方に功績を知ってもらいたいと考えておりました。これまで決して平坦な道のりではなかったと思いますが、顧客からの要望に実直に向き合う海内会長の姿勢や社員の皆様のたゆまぬ技術開発あっての今回のご受賞と思います。省人化・自動化を通じたさらなるご発展を楽しみにしておりますし、弊社もお役に立てるよう努めてまいります。

 

機関誌そだとう226号記事から転載

経営に関するお役立ち資料を
お届けいたします

© Tokyo Small and Medium Business Investment & Consultation Co.,Ltd. All Rights Reserved.