飾らない「本音」の対話が入社後のミスマッチを防ぐ

松原史郎 社長
- 主な事業内容:
- 超音波ワイヤボンダ、超音波洗浄装置などの製造・販売
- 本社所在地:
- 東京都立川市
- 創業:
- 1954年
- 従業員数:
- 188名
風力・太陽光発電や、家電製品、電車のモーター制御など、幅広い分野の電力制御機器に使用される、パワー半導体のチップとターミナル端子を接続する超音波ワイヤボンダ。アルミや銅などの金属を、超音波振動によって熱を使わず短時間で接合する超音波金属接合機。そして、電機・機械加工部品や造幣局での貨幣の洗浄にも使われる超音波洗浄装置といった超音波技術を応用した工業用製品の製造・販売を行っているのが、東京都立川市に拠点を置く超音波工業株式会社だ。
同社の主力商品である超音波ワイヤボンダは、世界シェア8%を誇り、海外の競合メーカーと技術競争でしのぎを削っている。
「私自身も学生時代に卒業研究の担当教授に紹介されるまで、超音波の専門的な知識はありませんでしたし、この会社のことも、まったく知りませんでした」
そう語る代表取締役社長・松原史郎氏もエンジニア出身。入社して専門的な知識を学んでいくうちに、こんなにやりがいのある仕事はないと思うようになったという。そして、世界を相手にする企業としてのスケールを維持し、さらなる繁栄を目指すうえで重要となる人材採用は、次のような指針のもと行っていると松原氏は語る。
「当社が求めているのは、本人のやる気。エンジニアとして、非常に面白い職場だと感じてくれる人材にこそ来てほしい」
しかし、わずか15分程度の短い入社面接のみで、志望者が自社にマッチした人材かどうかを見極めるのは合理的ではない。そこで超音波工業が注力したのが、インターンシップなのだ。

(上段・左下)同社の主力製品である「超音波ワイヤボンダ」。
超音波によって、常温でアルミ線を瞬時に接合する。
現在、あらゆる分野で注目を集めるパワー半導体の製造において、
非常に重要な役割を果たしている
(右下)脱脂・切り粉・研磨粉の除去などに適した超音波洗浄機。
貨幣を始め、電気・機械加工部品など、幅広い部品の洗浄に対応可能だ
実体験を交えた対話が学生の心をつかむ鍵に
超音波工業がインターンシップを始めたのは、大手就職活動サイトなどが中堅・中小企業にもインターンシップの開催を強く呼びかけるようになったころ。当初は、ごく一般的な会社説明会だった。
BtoBビジネスを主とする中堅・中小企業にとって、学生の知名度不足は採用活動の大きな足枷になりやすい。学生を集める手段は必然的に口コミ、もしくはキャリアセンターなどからの紹介がメインとなる。
当初は合同説明会にも出展していたが、その成果は芳しくなかった。ブースに立ち寄る学生の数は限られ、そこからインターンシップの参加につなげることも難しい状況だったという。それでも、数少ない学生一人ひとりに担当者が親身に向き合い、直接対話を重ねていった。すると、徐々に流れが変わり始めたのだ。
「自分の実体験を話すと、学生の反応がいいことに気がついたのです」
そう語ってくれたのは、自身も転職経験をもつ総務部総務課課長の高野博行氏だ。

採用を担当する
総務部総務課課長の高野博行氏
どうしてもいいところばかりを伝えがちになるのが、会社説明会だろう。しかし、それだけでは参加した学生の心にはなかなか響かない。そこで、高野氏自身の失敗談などを交えた就職活動のノウハウ、裏話などを積極的に取り入れるようにした。すると、参加者は徐々に増えていった。「本音ベースの対話が響く」と口コミが広がったのだ。
次第に説明会では、会社紹介よりも就職活動に関する話の比重が大きくなっていった。全体の3分の1、時には3分の2くらいの時間を使い、会社の選び方やエントリーシートの書き方、面接の受け方などといった就活の話をする。学生を自社に誘導するのではなく、参加者一人ひとりの就職活動に役立つノウハウを教えるようになったのだ。
こうした取り組みは「就活に役立つ会社説明会」として反響が広がり、大学のキャリアセンターなどから直接「合同説明会に来てほしい」と依頼されるケースも増えた。
その結果、インターンシップにも参加者が集まるようになった。
「我々が本気で学生たちと向き合っていると感じて、来てくれているのだと思います」
「メーカーで働くこと」をイメージできるように
超音波工業が展開するインターンシップ『メーカーで働くことを考えるセミナー』は、ほとんどが1日完結型のセミナー形式。最大でも5名以内の少人数で実施し、学生一人ひとりと対話することを重視したプログラムだ。製品や技術を紹介することはもちろん、“メーカーで働く”とはどういうことか、その勤務形態や仕事のリアルな中身を伝えることに主眼を置いている。

主力製品である「超音波ワイヤボンダ」の機構部分
を組み立てている様子
もし超音波工業で働くことになったら、自分はどの部署に所属し、どのような仕事をするのか。1日の中で具体的にどんな作業をするのか、残業はどれくらいあるのかなどをシミュレーションし、どのようなライフスタイルになるのかまで示す。リアルに“メーカーで働く”ことをイメージさせるのだ。
また、インターンの実施時期にも工夫がある。主に秋から冬にかけて開催しており、多くの企業がインターンシップを開催する夏休みの期間はあえて避けているのだ。早い時期に大手企業などのインターンシップに参加し、そこで仕事に対する違和感を抱いた学生を数多く受け入れたいという狙いもあると高野氏は言う。
「実際に多くの学生に会って直接話をしてみると、就職活動に熱心な学生であっても、思ったより『働く』ということを十分に理解できていないと感じます」
履歴書の書き方や面接指導自己分析のサポートまで
さらに、インターン終了後には、本選考に向けて希望者に対し、履歴書の書き方や面接指導、ヒアリングを通じた自己分析のサポートなどを個別に行う。こうして学生に仕事や会社について知ってもらい、志望へとつなげていくのだと高野氏は話す。
「一見難しそうに見える学生であっても、性格がよくてやる気がある場合もあり、インターンシップで適切な教育をしてあげるとぐっとレベルが上がることも多いのです」
学生に企業を選定するものさしを教え、仕事のリアルを包み隠さず伝える。そのうえで同社を「自分に合う会社」だと納得して選んでもらうのだ。この真っ向勝負のスタンスこそが、入社後のミスマッチを防ぐのだと高野氏は続ける。
「入社した後の姿をイメージして、納得して志望してもらったほうが、その後、採用のマッチング精度も上がると思っています」

充実した勤務条件が整っているため、
定着率も非常に高い水準を維持しているという
学生に「ここで40年間働く自分を想像して納得できるか」を問いかけること。それが、このプログラムの目的だという。もちろん、ここまで丁寧に向き合っても、他社へ入社する学生もいる。
「たとえ入社しなかったとしても、出会いですから。どこかでまた巡り合って、またウチとご縁ができればありがたいと思っているのです」
実際に、超音波工業の内定を辞退して他社に入社したが、中途採用で同社に戻り、現在では役員となっているという事例もあるのだそうだ。
現在このインターンシップを経て入社してきた若手社員と一緒にプロジェクトを進めているという松原氏。
「とても一生懸命仕事をしてくれています。彼等もエンジニアとして、とても面白い職場であるということを実感してくれていると思います」
このインターンシップで採用した社員が主軸で活躍するようになるまであと数年。その頃どのような会社になっているのか、松原氏自身が一番楽しみにしているようだ。

機関誌そだとう226号記事から転載










