投資先受賞企業レポート

発想をカタチにする、“共創”の強さ

地元・山形への思いが、飽くなき探求心の源泉となる

三和油脂株式会社

山口 與左衛門社長
1953年、山形県天童市生まれ。1978年に三和
油脂株式会社へ入社、2015年より代表取締役
社長に就任。與左衛門は襲名した名で、社長
就任に合わせて改名した。

三和油脂株式会社
主な事業内容:
こめ油の製造、販売
本社所在地:
山形県天童市
設立:
1949年
従業員数:
133名

 

山形県は、米の一大産地である庄内平野を有する有名な米どころ。天童市にある三和油脂は、そうした地の利を活かし、75年にわたってこめ油をつくり続けている。食用こめ油を製造できるメーカーは、東北では同社のみ。なかでも独自に研究開発した圧搾技術と、飽くなき探求心から生み出されるさまざまな付加価値商品が強みである。

三和油脂の創業は1949年。戦後間もない当時は食料油が不足していたため、原料となる米が豊富であり、国産食料油の安定供給を実現できると見越して、こめ油の生産を始めたという。同社の山口與左衛門社長が入社した頃は、ポテトチップスや揚げ菓子に多く使われる業務用のこめ油をメインに製造していた。こめ油は酸化しにくく、揚げ物に使うと、軽くさらりとした味わいに仕上がるという優れた特徴があるにもかかわらず、家庭用での需要はほとんどなかった。

「業務用は夏場に入ると、ほぼ休業状態。こめ油はこんなにおいしいのに、なぜ家庭用のニーズがないのか、と疑問に感じていました」と山口社長は振り返る。

1960年以降、シルクロードを経て日本に伝来した紅花油や、バブル期の“イタメシ”ブームで日本に広まったオリーブオイルが注目されるようになった。紅花油はリノール酸を、オリーブオイルはオレイン酸を多く含むことが、人々の健康志向にマッチしたからだった。

「こめ油は動脈硬化や心筋梗塞などの予防効果があるといわれるγ-オリザノール、ビタミンEの50倍の抗酸化力を持つトコトリエノールなどを多く含んでいるのに、日本人にあまり馴染みのなかった紅花油やオリーブオイルのほうが注目されているのは不思議でならなかった。より良質なこめ油をつくって、みんなにこめ油のことをもっと知ってもらう必要があると痛感しました」

当時、オリーブオイルは有機溶剤を使わない自然系の油として人気を博していたが、こめ油は有機溶剤を用いて抽出するのが一般的だった。そこで、有機溶剤を用いない圧搾技術を研究開発することを決める。
「オリーブオイルとこめ油の脂肪酸組成は似ていて、栄養素も遜色ない。だからこそ溶剤を使わない圧搾を成功させて、こめ油を“東洋のオリーブオイル”にしたいと考えたのです」

 

同社の主力製品である「まいにちのこめ油」はハクリボトルと
紙パックの2タイプがあり、用途に合わせて使い分け可能だ。

残渣まで活用したい。その願いが新たな商品に

同社は2000年から、圧搾技術の研究に着手。ドイツ製の機械をスイスに持ち込んでテストを繰り返し、独自の圧搾技術を確立。有機溶剤を使わないため、搾油後の米ぬかを食品として活用できるのがポイントだ。

「ハイブレフ」や「たべられる米ぬか」の原料である、
米ぬかをつくりだす圧搾機。

「当社では、こめ油の原料として多くの米ぬかを使っています。しかし、そのうちこめ油として搾油できるのはたった1~2割。残った残渣は、飼料や肥料として使っていました。ただ、これらの残渣も多くの栄養素を含んでおり、何とか食品として活用できないかと思ったのです」

こうした思いが、玄米の栄養素を多く含む米ぬかパウダー「ハイブレフ」や、米ぬかサプリメント「たべられる米ぬか」を生み出した。
「米ぬかパウダーのハイブレフは小麦粉の代用品にもなり得るもの。いずれは、日本の食料自給率向上にもつながると考えています」

ハイブレフはその後、2014年に大手CSの低糖質パン「ブランパン」の原材料に採用された。現在も、栄養素を多く含み、パウダー状で手軽に食べられる健康食品として多くの支持を得ている。

他方、搾油された高品質のこめ油は「COME-YU(コメーユ)」という高付加価値商品として発売。有機溶剤による抽出と比較して、くせのない風味はそのままに、より濃厚な味わいを実現した。また、有効成分が段違いに多いのも特徴だ。「COME-YU」は従来品と比べて、γ-オリザノールは約7倍、コレステロールの消化吸収を抑えるといわれる植物ステロールは約1・3倍の数値を誇る。

また、原料を山形名産のブランド米“つや姫”に限って搾油した「つや姫こめ油」は、山形土産やギフトとしても好評を博しているという。

 

山形県天童市にある本社事務所は、敷地内で場所を変え今年新設された。

大学や地元農家と連携、さらなる挑戦を続ける

こうした数々の新製品開発は、大学機関との連携による成果が大きいと山口社長は話す。
「大学との連携で多様な研究開発が可能となり、さまざまな特許を取得できるようになったのは、当社にとって大きなプラスになりました」

東北大学工学部とは、圧搾機械での搾油率を高める技術を共同開発して特許を取得。さらには、今まで海外製品に頼っていた搾油機械も設計し、国内のメーカーに製造を依頼した。こうして完成した搾油機械は、三和油脂ではもちろんのこと、他社への販売も行っている。

そして、2019年には「米及び油糧米が創る新産業に係る研究開発プラットフォーム」を設立。「水田を油田に」をスローガンに掲げた産学官連携プロジェクトで、油糧米や米の有効活用について、全国の企業や大学と共同研究を行っている。油糧米とは、通常よりも油分を多く含む米のこと。山口社長は地元農家と連携、休耕田を利用した油糧米「金のいぶき」の栽培を推奨し、地域農業の活性化にも力を入れている。

「米を栽培していない休耕田で、油糧米をつくり、こめ油の増産や残った胚乳まで活用していこうと思っています。日本の食料自給率をいかに向上できるかが私たちに課せられた大きな使命。そのためにも、産学官連携で新しい生産方式を考えていくことが大切なのです」

そして2020年には会社の敷地内に、研究開発拠点として「R&Dセンター」を新設した。これは、消費者のニーズに応える新技術の研究開発やより優れた商品開発を目的としたもので、未来を見据えたイノベーションに挑戦し続けている。

「R&Dセンターでは米ぬかに含まれるたんぱく質やライスミルクの試作など、さまざまな研究開発を行っています。その成果は、2023年に本社の向かいにオープンしたファクトリーショップ『こめ油工房 さんまる』で手に取っていただけますよ。米ぬかスープや米ぬか石鹸、こめ油を精製する過程で出てくるワックス(米蝋)を使ったクレヨンなどを販売しています」

多くの研究開発に成功してきた同社の産学官連携だが、その原点は1995年に行った山形大学工学部との共同研究にさかのぼる。当時、米ぬかを肥料や飼料以外に活用できないかと考え、山形大学工学部に相談を持ちかけたことがきっかけとなり、新素材「RBセラミックス」の開発を実現した。RBセラミックスは食物繊維が豊富な米ぬかを原材料にしており、軽量で高硬度、低摩耗などの特性を持つ。この素材は自動車部品などに活用され、ハワイにある「すばる望遠鏡」の可動部分にも採用されているそうだ。米ぬかが原材料なので、安定供給できるのも大きなメリットだと山口社長は語る。三和油脂がこうした産学官連携に本格的に取り組む契機となったのが、2015年の鈴木康夫先生との出会いだ。

「鈴木先生は当時在籍していた宮城大学で魚油の圧搾や商品開発に携わっていて、共通点も多く、意気投合。2017年には、『食・農・エネルギー』をキーワードに食料や農林漁業分野にイノベーションを起こすことを目的としたアグロエンジニアリング協議会を立ち上げました。今では月1回大学教授や有識者を招いて、勉強会を行っています。勉強会での情報交換から、連携のお話につながることも多いです」

 

左/2020年9月に開設した「R&Dセンター」では、米ぬかを使用したサプリメントの開発や
こめ油成分の美容系製品への活用などさまざまな研究開発が行われている。
右/2023年4月にオープンした「こめ油工房 さんまる」。定番商品のほかに、R&Dセンター
で開発した米ぬか石鹸、ハイブレフが入ったソフトクリームやクッキーなどの販売も行っている。

 

そして現在、同社が特に注力しているのは、「超臨界処理によるこめ油の抽出」と「米ぬかを使った有機肥料の開発」。三和油脂では独自の圧搾技術によって搾油率を高めてきたものの、それでも有機溶剤による抽出と比べると、搾油量は少ない。しかし、超臨界二酸化炭素を用いて抽出を行えば、より安心して使用できるこめ油の精製ができる。そのため、副産物の米ぬかなども安心して、そのまま食用として使えることになるわけだ。
「これは東北大学工学部の技術をベースにしており、今も一緒に研究開発を続けています」

もう一方の有機肥料開発については、循環型農業の確立に欠かせないものとして、山口社長は重要視している。
「山形は庄内平野がある米どころで、良質な米がたくさん収穫できるからこそ、この会社も成り立っています。いい米をつくるのに欠かせないのは、良質な土壌です。米ぬかを抽出した際に生産される脱脂糖を有機肥料にして土に戻し、その土がまた良い米をつくる。農林水産省が推進する『みどりの食料システム戦略』の認定を受け、現在は肥料工場の建設を進めています」

東日本大震災を乗り越え、東北全体の活性化へ!

2011年3月に東日本大震災が発生したとき、三和油脂は甚大な被害こそ受けなかったものの、山口社長は東北全体の農業や産業を盛り上げていく必要があると痛感した。2012年から、まずは地元の方たちにこめ油を知ってもらうために「こめ油フォーラム」を開催。新型コロナウイルスの影響で一時期中断したものの、現在まで回を重ね、今年の6月には天童市内で第7回が開催された。
「東北全体を盛りあげたいという思いが、新しいモノづくりへの原動力になっているのは間違いありません」

2024年6月に開催された「こめ油フォーラム」の様子。今年は
4名もの有識者を招き、こめ油の機能性や活用法、油糧米につ
いて勉強会を行った。

2020年からは新型コロナウイルスが世界中で猛威をふるったが、同社にとっては逆に追い風となった。
「コロナ禍の約3年間は、巣ごもり需要に加え、健康志向が非常に高まりました。自宅での料理に、よりいいものを使いたいという消費者が増え、こめ油の家庭での利用が増えたのです。加熱に強くて劣化しにくい。生でも加熱でも使用でき、軽い味わいでクセがない。何より多くの栄養成分を含んでいます。テレビでもさまざまな研究データを持つ大学教授が、こめ油は動脈硬化や心筋梗塞の予防、コレステロールの低下に効果的だと発言してくださったおかげで、こめ油を使い始める人が一気に増えました」

1年間で年商が5億円以上も増え、コロナ禍での健康志向の高まりが、三和油脂の躍進につながった。
「私が入社したときの年商は約20億円で、現在が約65億円。中小企業庁より『はばたく中小企業・小規模事業者300社』の受賞を受けたことにより、さらなるイノベーションを推進させなくてはと考えているところです」

今回、「第41回優秀経営者顕彰」で産学官イノベーション創出賞を受賞した山口社長。積み重ねてきた産学官連携の実績と、飽くなき挑戦への探求心が高く評価された結果だといえる。
「私はイノベーションをもっとも大切にしてきました。東北や日本から世界に発信できるようなモノづくりの実現は、中堅・中小企業が起こすイノベーションにかかっていると思うからです」

同氏は、中堅・中小企業の規模感だからこその強みがあるとも言う。
「大企業は、どうしても利益追求型になりがちです。安価な汎用品より、少量でも良いものをつくりたい。本当に健康のことを考え、おいしくて良いものをつくれるのは、この規模感である当社の強み。まずは地元の人に使ってもらい、大切にしてもらう。地域に還元し、循環できるようにする。こめ油はもちろん、米ぬかや胚乳など米そのものをもっと活用したモノづくりも大事。こういったことにチャレンジし続けるためにも、産学官連携によるイノベーションは欠かせないと考えています」

 

東京中小企業投資育成へのメッセージ

「第41回優秀経営者顕彰」の「産学官イノベーション創出賞」受賞は当社だけ。イノベーションを第一に考えてきただけに、とてもうれしく思っております。2017年から投資育成さんとのお付き合いが続いていますが、社員研修などでお力添えをいただいたり、異なる業種の経営者とのコミュニケーションの場をつくってくださったりしていることもあり、非常に感謝しています。

 

投資育成担当者が紹介! この会社の魅力

業務第三部 主任
谷口 直哉

この度はご受賞、誠におめでとうございます。三和油脂様は東北・北海道で唯一、こめ油の抽出から精製まで一貫して手がけられる会社です。近年は山口社長のリーダーシップのもと、大学や研究機関との連携を通じて、搾油率向上の技術の特許取得や、残渣である脱脂糠の再利用など、新たな取り組みを数多く実施されております。三和油脂様の地域社会への貢献度は大きく、弊社も微力ながら三和油脂様のご発展にお役立ちできるよう、努めてまいります。

 

 

機関誌そだとう220号記事から転載

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