投資先受賞企業レポート

消費者と真摯に向き合い、業界を牽引する

現場のプロから揺るぎない支持を得る製品とサービス

三笠産業株式会社

京谷弘也 代表取締役社長
1958年生まれ。1980年4月住商機電貿易株式会社
(現:住友商事パワー&モビリティ株式会社)入社。
1983年4月三笠産業株式会社入社。1998年7月
同社代表取締役社長に就任。1998年9月より
一般社団法人日本建設機械工業会の理事を務める。

三笠産業株式会社
主な事業内容:
小型建設機械の製造・販売・サービス
本社所在地:
東京都千代田区
創業:
1937年
従業員数:
167名(グループ全体約300名)

 

「大企業が手を伸ばすほどの市場規模ではないし、かといって新たな中小企業が技術開発を進めてまで挑戦してくる分野ではなかった。それが、わが社がここまで国内外のシェアを獲得できた理由の1つです」
そう語るのは、三笠産業株式会社の京谷弘也社長だ。道路工事などの現場では、地盤の「締固め」が欠かせないが、同社は人が搭乗しない小型の締固め機械製造に特化した、ニッチトップメーカーである。代表製品の「タンピングランマー」は9割弱、「プレートコンパクター」は7割強の国内シェアを誇り、日本に敵なしの地位を確立。また、海外展開も進めており、世界80カ国へ輸出し、総売上に占める海外売上はおよそ5割だ。高い技術力とアフターサービスが世界でも評価され、MIKASAブランドは広く認知されている。

プロのお眼鏡にかなう高品質・高性能を追求

京谷社長は、あくまでニッチな分野を歩んできたから、現在の三笠産業の飛躍があるのだと謙遜の言葉を述べる。しかし、バブル時をピークに5万台以上の市場規模があった国内の小型締固め機械のマーケットは次第にシュリンクし、現在は4割減の約3万台へと落ち込んでしまっている。そんな中、同社は販売台数を大きく落とすことなくシェアを広げ、さらには海外へと事業を展開して売上を伸ばしてきた。ここには「ニッチな分野だから」だけではない、支持され続ける理由があるはずだ。

その1つが、プロが要求する高い品質と性能を磨き続けていること。
「我々の製品は、安ければ市場が拡大するかと言ったらそんなことはありません。ちょっとした電動工具であれば、DIYのために一般の消費者が購入するケースもありますが、締固め機械は完全にプロしか使わないものです。ですから、プロに満足してもらえる製品をつくらなければなりません。工事現場は過酷な作業が要求されるため、高い耐久性や操作性が求められる。そこを意識して、製品づくりを続けています」

三笠産業には、1968年から設計や開発に特化した人材を揃えた「技術研究所」が存在し、日々技術力の向上に励んでいる。研磨し続けた技術で性能を高めて、建設業界全体の生産性向上に寄与。それだけでなく、手腕振動を従来製品の4割削減することで、機械稼働時の振動によって引き起こされる白蝋病などの健康被害の防止を図るなど、労働環境の向上にも貢献している。

その他にも、近年問題になっている建設現場の人手不足に対応すべく、熟練度の低い作業員でもベテランと同等程度の生産性を確保できるように、締固め具合を数値で確認可能な「転圧センサー」を国内で初めて商品化し、「バイブロコンパクター」へ搭載した。このように、建設業界の未来につながる技術開発に力を注ぐ企業努力こそ、グッドカンパニー大賞のグランプリという栄えある受賞の背景にある。また、こうして培われた高い技術は、同社が海外へ進出する際の大きな後ろ盾となっているのだ。

 

即日対応の高い利便性、心をつかむサービスを

プロがこぞって三笠産業の製品を使用するのには、もう1つ大きな理由がある。それは、アフターサービスが手厚いことだ。建設機械の業界は、現場が過酷なだけに品質の高い製品とはいえども、不具合が起きたり、消耗部品の交換が必要になったりする。作業現場を止めないことが付加価値であると考えた同社は、1987年に部品サービスセンターを開設した。注文すると部品が即日発送されると同時に、運送会社の送り状伝票が通知される体制で、京谷社長いわく「常にAmazonを見習って、システムづくりをしています」と胸を張る。

(左上、右上)国内でシェア9割弱を誇る「タンピング
ランマー」。左がバッテリー搭載、右がエンジン搭載。
(左下、右下)こちらも主力製品の「プレートコンパク
ター」。左がバッテリー搭載、右がエンジン搭載。

しかし、その道のりは決して平坦ではなかった。同氏が就任当初に驚いたのは、部品一つひとつに番号がついていないことだったという。「管理しづらく、スムーズな部品交換への対応ができない」と、就任後まず取り組んだのが、部品に番号を振り、コンピューターで管理するシステムをつくること。その後3年間、自ら部品サービスセンターの所長を務め、便利なアフターサービスを追求した。

「一度うちの製品を使って、システムに慣れたら、他のメーカーからは買えなくなってしまいますよ。安いからと他社に浮気しても、不便だといってまた戻ってくるんです」
同社の製品は業界内で比較すると1割ほど高い価格設定だが、プロは間違いなく価格より質を優先するため、三笠産業の製品を選ぶのだ。

建設業界では1980年代頃から、機械を個人や会社が直接購入するスタイルから、レンタル会社が機械を保有し、ユーザーがそこから借りる構造へと転換した。三笠産業はそこにいち早く目を付け、大手レンタル会社との連携を推進。顧客が変わっても、同社製品の高い品質と、便利なアフターサービスは重宝された。なぜなら、ユーザーは現場で何か不具合が起きたとき、それが三笠産業の製品であれば、「機械ではなく自分の使い方が悪いのでは」と考え、レンタル会社にクレームを入れることが少ないからだ。レンタル会社が現場に赴いて修理や部品交換を行う場合、そのコストもばかにならない。だからこそ、「ユーザーからの圧倒的な信頼を誇る三笠産業の製品を入れておけば安心」と、レンタル会社はこぞって同社の製品を取り扱うのだという。

「シェアを取ることは、レンタル業界を攻めるにあたっても重要なことだと理解しています。他のメーカーがどんなに頑張っても、この状況をひっくり返すことはなかなか難しいでしょう」と京谷社長は語る。
市場が変わってもそれまでの実績はゼロにならない。積み重ねてきた信頼をどう活かすかに経営者の手腕が試されている。

電動化時代への転換期。新プロジェクトを発足

小型締固め機械は、50~60年前から構造自体はそれほど変化していない。軽量化や小型化、消音化、回転数がわかるメーターが付くなど、細かなアップデートによってモデルチェンジをしているが、「結局、ベストセラーになったモデルが圧倒的に売れるんです。使い慣れたものを使い続けたいというニーズが大きい。国内で9割弱のシェアを誇る『タンピングランマー』も、カタログに十数種類の機種が載っているのに、ある1機種だけで8割の売上を占めているんです」と、京谷社長は建設業界独特の売れ筋の傾向を話す。

海外での展示会の様子。京谷社長も
かつて、搬入から撤収まで自ら行っ
て展示会を飛び回っていた。

そんな小さな変化を繰り返してきた小型締固め機械の市場を、まさに今大きく揺るがそうとしているのが、電動化だ。エンジンを使っていた製品が、バッテリーを利用した製品に置き換わることは必至だという。特にヨーロッパでは環境保護の観点からその動きが顕著だ。あらゆる建設現場でカーボンフリーが求められるため、エンジンを搭載した機械は現場に持ち込めないのだ。この動きは、今後日本でも加速していくことが予想されている。

建設機械の電動化によって危惧されるのは、電動工具メーカーなどによる業界への参入だ。バッテリーはお手のものである電動工具メーカーがライバルになることが予想され、特に電動化の動きが大きく進む中国のメーカーが競合になってくる可能性が高い。そんな中でも、シェアを確保し続けるために取り組むことを決めたのが、同業大手とバッテリーを共有するプロジェクトだ。

昨年より、長く業界を牽引してきた三笠産業と、肩を並べるドイツのワッカー・ノイソン社、同じくドイツのボーマク社と3社合同で、「Battery One(バッテリーワン)」というブランドのバッテリーを搭載する製品の開発・普及を進めている。この世界トップシェアの競合同士による協同プロジェクトに、当初、業界からは驚きの声が挙がった。

「なぜ最大のライバル企業同士がくっつくのと言われましたが、これから我々のライバルになっていくのは、中国をはじめとする電機メーカーです。今後も我々がシェアを維持するためには、今、手を組んで取り組む必要があると考えました」

このプロジェクトを進めることで、どの製品にも仕様が同じバッテリーが搭載されれば、充電器も共通のものを使え、ユーザーにとってもレンタル会社にとってもメリットが大きい。さらには、カーボンニュートラルやSDGsの側面での貢献も期待できる。

「メリットがあれば、ユーザーはこのバッテリーを搭載した製品を手に取るでしょう。三笠かワッカー・ノイソンか、ボーマクかはユーザーが選べばいい。少なくとも今押さえている先進国のマーケットは、3社が力を合わせて守っていく。それがプロジェクトの主旨です」

現在、相互の技術者が綿密に打ち合わせを重ね、このバッテリーを搭載する製品開発を進めているところだ。これが形になれば、業界の電動化は一気に加速する。京谷社長いわく、「ヨーロッパは5年ほどでほとんどが電動機械に代わるでしょう」とのこと。いずれ日本の現場でも、3社共通バッテリーが搭載された機械がスタンダードになるはずだ。

 

2010年に設立したベトナム工場の従業員たちと。

長く愛される会社をつくる。相手本意のフェア精神

三笠産業が今後見据えているのは、バッテリーを搭載した商品群を充実させること。バッテリーを搭載する製品カテゴリーの拡大にも意欲的だ。こうした製品が完成すれば、新たなマーケットへの進出が可能となる。
もう1つ模索しているのが、まったく新しいジャンルの商品へのチャレンジだ。

「タンピングランマーが、国内ですでに9割のシェアを占めていることを考えると、これ以上の企業成長はないでしょう。ですから、別の分野に目を向ける必要があります。海外でも、先進国で最も大きなマーケットであるアメリカでトップクラスのシェアを取れている。一方で新興国は中国メーカーの勢いが強い。そうなると、やはり新しいジャンルの商品をつくらない限り、売上をここからさらに伸ばすのは、難しいのです。例えば、既存分野にとらわれないユニークな製品の開発もありでしょう。そのようなメーカーとの協業やM&Aなど、いいご縁を得られたらうれしいですね」

 

(写真左)生産過程で三次元測定を取り入れて高精度な部品検査を実施。
(写真右)完成した製品は社内で徹底した検査を行う。いずれも高い性能と
耐久性を維持するうえで欠かせない工程。

 

京谷社長がこれまで折に触れて社員に伝えてきたのは、「三笠ファンを増やそう」というメッセージ。何をするにも「それが三笠ファンを増やすことにつながるか?」を考えて行動することを社員に徹底してきた。
「例えば、買って間もない商品の不具合でクレームが入ったとします。もちろん部品を交換して修理すればいいのですが、損得を考えず製品自体を新品に交換してあげる。そうすると、そこまでしてくれてありがとうと、ユーザーは根強いファンになってくれるのです」

こうした、ピンチをチャンスに変える行動指針が、長きにわたって愛される企業の根底にあるのだ。
そして、京谷社長は「フェア」という言葉も大切にしている。
「海外の代理店との取引において、決して当社だけが儲かるようにとは考えません。為替が変動したり、原材料のコストが上がったりしているときでも、一方的に値上げをせず、交渉して妥協点を探します。代理店から長期在庫を買い取るといった対応も。当社の代理店が三笠産業に対するロイヤリティが高いのは、このようなことの積み重ねです」

ユーザーである現場のプロ、レンタル会社、代理店……と、事業を通じて関わる相手に対して、もれなくメリットをもたらすスタンスでいるからこそ、確固たる信頼が生まれる。一朝一夕では手にできないその大きな信頼は、同社の未来につながる大切な宝物だろう。

 

東京中小企業投資育成へのメッセージ

グッドカンパニー大賞のグランプリをいただけたのも、推薦してくださった投資育成さんのおかげ。このような名誉は我々のような中小企業にとって採用面などでのアピールになりますから、大変ありがたいです。普段から異業種交流会などの機会も提供いただいて、とても刺激になっています。今後もよろしくお願いいたします。

 

投資育成担当者が紹介! この会社の魅力

業務第一部
渡邊 剛

投資時から関わらせていただき、従業員持株会設立のお手伝いなどに携わってきました。実は、投資育成制度ご利用の際の審査段階から、グッドカンパニー大賞へ推薦したいと考えていまして、今回それが叶い、見事にグランプリを受賞されて大変うれしく思います。電動化対応など世界の小型建機開発を牽引される三笠産業さんを、引き続きご支援させていただきます。

機関誌そだとう214号記事から転載

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