投資先受賞企業レポート
「第39回 優秀経営者顕彰」産学官イノベーション創出賞

探究心で技術を磨く、求道者たれ!

“Creative failure” 挑戦的失敗は実績である……

テクノ・モリオカ株式会社

 

不純物の極めて少ない水──純水よりも、さらに精度の高い「超純水」で業界を牽引する企業がある。宮城県仙台市に本社、山形県長井市に本社工場を置くテクノ・モリオカだ。同社が開発した水質計測機器は、水中にどれだけの不純物が溶け込んでいるかを瞬時に判別する能力を持つ。その精密さは、25mプールに混ざった耳かき1杯の有機物をリアルタイムに検出するほどである。

「主力製品である水質計測機器は、ppb(1/10億)単位で『超純水』の水質を計測できるのが最大の強みです。『Sensing eye』というオリジナルブランドは、主に医療用水や半導体の製造現場で利用され、売上の60%を占めています」と自信を見せるのは、テクノ・モリオカの創業者であり、長年にわたり第一線で、技術開発に携わってきた森岡雄一会長だ。

 

森岡雄一会長
1954年生まれ。山形大学工業短期大学部機械工学科卒業。
1984年にテクノ電子として、電子機器組立製造事業を開
始する。2015年に文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞し、
2017年には黄綬褒章を受章。

テクノ・モリオカ株式会社
主な事業内容:
水質機器の研究開発・製造・販売・保守、医療用高度精製水製造装置の設計・製造・保守
本社所在地:
宮城県仙台市
創業:
1984年
従業員数:
68人

 

超純水は、安全が要求される医薬品産業の医療用水をはじめ、微小な不純物も許されない半導体ウエハーや液晶の洗浄用水として非常に利用価値が高い。同社はこの水質計測の技術を磨き上げ、その後、人工透析用の高度精製水製造装置に進出した。現在は、水を見守る「水質機器」、水を創る「水処理機器」、それらを支える基本技術である「制御機器」という3つの柱を軸としたテクノロジーで、医療界・産業界にとって必要不可欠な存在となっている。

水質計測機器のユーザーは国内製薬メーカーが7割程度で、今や日本における製薬拠点の約8割で採用されるほどだ。また、水のセンシング技術を利用した人工透析用の高度精製水製造装置は、大手医療機器メーカーを通して全国多数の透析病院に納入しているという。

今回、優秀経営者顕彰「産学官イノベーション創出賞」を受賞したのは、開発した製品の性能評価・検証について、山形大学との共同研究を長期にわたり継続して、大きな成果を出したことが主な理由だ。その背景には、全社一丸となって“水”と真摯に向き合ってきた歴史と、森岡会長の想いがある。
「水を扱うことは、人の命に関わることでもあります。私たちのテクノロジーや製品は、サステナブルな社会の流れにおいて、未来や環境を考えることにも大きくつながっていくのは間違いありません。『水を創り、水を守る技術の追求』を通じて、持続可能な社会に貢献する企業であり続けたいです」

水の伝導率や抵抗率において、さまざまなレベルを計れるよう、
テクノ・モリオカでは水質管理機器を豊富にラインアップしている。

試行錯誤で突き進み、東北から発信する

新製品の電気抵抗率計「Sensing eye 731」
は、48mm × 96mmという業界最小クラスの
コンパクトサイズを実現しながら、高精度
測定が可能だ。

テクノ・モリオカが創業したのは1984年。電子部品メーカーで実績を積んできた森岡会長が独立し、電子機器の組み立て製造を手掛けたのが出発点だ。
「私自身が技術屋ということもあり、やはり自分たちの知恵と力で、東北から製品技術を発信したいという思いは強かったですね。とはいっても、大学発ベンチャーみたいな格好良い感じではありません。当初は身過ぎ世過ぎをするがごとく地道な作業を積み重ね、社員の皆さんに給料を払えるよう、無我夢中の日々でした」

そんな中、ターニングポイントとなったのは創業から3年目のこと。「水質変化をリアルタイムでモニタリングできないだろうか」という相談が舞い込んできたという。
「非常に小さいセンサーをつくる必要がありました。水に関しては素人だったので、今思うと無謀だったかもしれませんが、好奇心と本能に突き動かされたのでしょう。通常業務の合間に自分で図面を引き、工作機械を借りて、何度もトライ&エラーを繰り返しました」

そうして試行錯誤の末に、森岡会長1人で、独自に新たなセンサー構造を考案するところまで漕ぎ着けたのである。
「粘り強いとか、そんな立派なものじゃないです。頑固というか意地っ張りというか、途中で放り出すことができない性分なんですね」
専門分野ではないオーダーに対してこれほどまで実直に取り組む姿勢からは、同氏が持つ技術屋としての魂が伺えるだろう。

化学産業を中心とした総合展示会
「INCHEM TOKYO 2021」でのひとこま。

森岡会長が考え出した微少な水質変化を計測する新しい測定方法に対して、そのデータの信頼性を得るためには、ユーザーを納得させる製品評価を実施することが必要だった。そこで同氏はこの課題を解決するために、山形大学の分析化学を専門分野とする教授に協力を仰いだのだ。これこそが、産学官イノベーション創出賞の受賞につながるきっかけとなった。共同研究は2年に及んだが、開発した機器が「極低濃度の有機物を正確に計測可能である」という評価を受け、やっと製品化への道が開けたのである。

常に向上心を持って新しいことにチャレンジし、問題を解決しながら、確実に技術を研鑽する。この精神こそ、テクノ・モリオカが成長し続ける原動力となっているのだろう。それは創業から38年経った今でも、「挑戦的失敗は実績である」という森岡会長の言葉とともに、会社全体の風土として社員たちに受け継がれ、根付いている。

水中に沈めた裸電球で、新たな柱を手に入れる

テクノ・モリオカが取り組んだ水質計測機器は「組込型で小型」という点で非常にニッチな市場であり、他社が手を出していない領域だった。後発組ながら上手く参入することができたのは、前例のないことに飛び込んでいくマインドによるものだったといえる。そしてこの成功が、新たな技術開発の呼び水となっていくのだ。「医療用水製造装置」を手掛けることになるのも、必然だったのかもしれない。

アンプ一体型電気抵抗率センサーは、
半導体製造現場などでは「Sensing
eye 785」(右)、医療現場などでは
「Sensing eye 786」(左)を使用する。

「自治体の誘いで、東京の晴海で行われる展示会に出展することになりました。何か人目を惹くものをと思い、デモンストレーションで水槽に裸電球を入れて点灯させることにしたんです。超純水は絶縁体に近いものなので、中で100V電源をONにしてもショートしません。お金をかけず、単純だけど技術力がわかりやすいアイデアでした」

この工夫で来場者の注目を集めることに成功し、その中の一社から「精緻な水質測定と制御を実現する技術を活かして、医療用水製造装置の高度化を図ることができないか」と相談を受ける。
早速、森岡会長はこれまで蓄積した水質計測とそのモニタリング技術を活かし、人工透析向けの医療用純水製造装置へと幅を広げた。
「なかでも、当社が開発した個人透析用の高度精製水製造装置は、コンパクトな設計なのでベッドサイドに置くことができます。緊急時、大規模な設備が整っていない環境下で透析が必要な際にも、使用することができる製品となりました」

テクノ・モリオカの新開発プログラミング
方法「ブロック遷移制御方式」を採用し、
現場でも短時間で簡単に設定・アップデー
トが可能となった。

この装置は、今では大手医療機器メーカーでも当たり前にラインアップされているという。
もちろん、すべてが順調なわけではなかった。2008年のリーマンショックは同社に暗い影を落とし、売上は40%ダウン。前年比95%減の月もあり、受注製品は大打撃を受けた。何とかして巻き返しを図るため、森岡会長は大幅な構造転換を行う。

「自社ブランド『Sensing eye』をはじめとした新製品の開発戦略とあわせて、ブランディング戦略を徹底しました。この十数年、基本となる事業構造の変革を積極的に推し進めることで、自社製品の売上が全体の6割を超えるほどに成長することができたのです。あのとき構造転換していなければ、経済環境の変化、不況の荒波に飲み込まれていたでしょう」

3年後の東日本大震災では、仙台の研究施設が被害を受けたが、復興を陰ながら支えたという。会社をあげて透析病院の復旧を支援したり、海水を真水に変える淡水化装置で被災地の水不足解消に動いたり、全力を尽くした。コロナ禍でも、製造ラインの稼働、顧客への納入を最優先に考え、社員に対しても、ともに乗り越えていこうと危機感を共有し、ものづくりを通して社会に貢献する、という気概を持って仕事に取り組み続けてきたのである。

さらなる飛躍を目指して。領域を超える展開が鍵

今回の受賞で社員からも、「世の中のためになるものをつくっている実感が湧いて、モチベーションにもつながった」との声があがっているという。このように、自分たちの仕事にどんな価値があるのかを感じることができれば、それがやりがいにつながるのは間違いない。さらにテクノ・モリオカは、のびのびと働ける社内環境も特長だ。たとえば、同社の育休取得率は100%。結婚しても出産しても、安心して働き続けられる理想的な職場である。

「当然、周りで支える皆さんの頑張りと助けがあるからです。子どもを産み育てることで人間的に強くなり、帰ってきてくれる。それは、会社にとっても大きな戦力になるのです」
そう穏やかに語る森岡会長は、人材育成にも余念がない。テクノ・モリオカの吉田社長は、同社がブレイクスルーするための新しい人材として、25年前、東京で行われた就職展示会に、当時社長だった森岡会長自ら足を運び、採用を決めたという。テクノ・モリオカの次なる成長発展に向けて、森岡会長はともに歩んできた次の世代へと、会社を託していく考えだ。

「経営から離れて巣ごもりしながら、研究開発に没頭したいんです(笑)」と微笑みながら語る同氏。会社が成長し、トップとして長く実績を残してきた今でも、技術屋としての熱意と好奇心を持ち続けているのだ。そして、その情熱は、テクノ・モリオカのこれからを担っていく社員たちにも向けられている。

毎月、全社で集まる研修会・勉強会を開き、森岡会長自身がメッセージを伝えるようにしているという。また、技術者としての心構えや開発に取り組んできた自らの想いを、毎月、今月の言葉として発行し、社員手帳にはさめる形で社内全員に配るなど、後進の育成にも励んでいる。
「会社は社員のものですから、そのフィールドを活かして、自分の可能性や才能を光らせてもらえれば、この上ない幸せです。そのためにも、私が培ってきたことは、すべて伝えていきたいと思っています」
こうして密に想いを伝え、自ら育成に注力してきたからこそ、社員の中から後継者を選んだのだろう。

森岡会長は今後、培ってきた技術を医療・産業以外の分野へと展開させ、さらなる成長を描いている。
「東北のストロングポイントは、恵まれた自然環境で育まれる農作物や海産物でしょう。それらを加工するための水や、野菜工場での液体肥料コントロールなどでは、すでに当社の技術が使われています。水質計測機器や高度精製水製造装置を応用しながら、食分野においても裾野を広げていきたい。また、病院の手術室で使う壁掛け用の無菌水提供製造装置という医療機器も、食品製造工場で展開できると考えています」

ほかにも超純水は、レストランのワイングラスやお皿の洗浄、ガソリンスタンドでの洗車に使用すれば、拭き上げの工程を省くことが可能になるなど、新しい分野での活用が広がっているという。そして森岡会長には、それらを「東北から発信したい」という強い思いが、今でも燃え続けている。
「高度成長時代も含めて、これまで東北は工場拠点となることが多い地域でした。それは東北の労働力や地価が安いなど、経済的な優劣の観点があったからでしょう。東北人というのは控え目な気質だとよくいわれますが、粘り強く気概が豊かな人々であるともいわれています。私はこれからの時代、東北人が東北人の力で東北から発信しようとするアイデンティティが必要なんじゃないかと思うときがあるんです」

自社の強みである技術力を磨き続けるテクノ・モリオカは、今期から新たな中長期経営計画をスタートさせた。「BtoB・C 」の新事業戦略を打ち出し、水をベースとしたニッチトップとしての地位確立を目指し、さらに飛躍していく考えだ。

 

1996年に、新築移転した山形県の本社工場。創業30周年を
迎えた2014年には、製品倉庫と技術研究棟を新設し、
「水を創る、水を見守る」製品と技術を探究し続けている。

 

東京中小企業投資育成へのメッセージ

これまで投資育成さんには、私どもの技術力、製品分野、資金面などさまざまな観点から、その強み弱みを理解した上でご支援いただいています。特に幹部教育のセミナーに招かれる講師のレベルが高く、いつも感服しているんです。そこで得た学びをベースにした人材育成の効果は絶大で、非常に助かっています。今後も継続して、お付き合いをお願いしたいです。

投資育成担当者が紹介! この会社の魅力

業務第三部
宮林竜也

森岡会長は、創業者としての情熱と、技術者としての探究心を持っていらっしゃる方です。現在の成功にいたった背景には、研究開発や設備投資など、森岡会長が取り組まれてきた、さまざまな秘訣があるかと思います。なかでも、もっとも大きな要因は、森岡会長が「人を惹きつける人間的な魅力に溢れていること」でしょう。今後もテクノ・モリオカの成長発展に向け、心を込めた創意工夫ある支援に努めてまいります。

機関誌そだとう211号記事から転載

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