投資先受賞企業レポート

広がり過ぎた業容を集中、高めた技術で世界進出……
強みと信頼。両輪で進む“一流街道”

日本工作油株式会社

 

金属加工において、その方法に合致した潤滑剤や工作油は不可欠だ。加工時に油膜を塗布することで、工具や金型などの摩擦、焼き付きを軽減するほか、高い精度やさび付き防止効果をもたらす。

 

小堀 茂社長
1954年生まれ。78年早稲田大学社会科学部卒
業後、丸善石油(現・コスモ石油)勤務など
を経て、86年に日本工作油に入社。95年代
表取締役社長に就任。21年、日刊工業新聞社
「優秀経営者顕彰」優秀経営者賞を受賞。

日本工作油株式会社
主な事業内容:
金属用潤滑油材の開発・製造・販売
本社所在地:
東京都港区
創業:
1927年
従業員数:
95名

カスタム力×環境配慮で、“洗わない油”をつくる!

日本工作油は、金属加工油剤分野における老舗メーカーで、株式会社に改組した1953年以来、ユーザー企業のニーズに合った潤滑剤を開発し続けてきた。特にプレスに使われる工作油では、国内シェア5割を誇るトップメーカーだ。同社の小堀茂社長(67歳)はこう語る。
「お客様の要望はもちろんのこと、材料、加工機械、前後工程まで、すべてわかっていないと、適切な潤滑剤を処方(調合)できません。標準品もありますが、多くが顧客に合わせたカスタマイズ製品であり、それを積み上げてきた結果、月産品種が2000種以上になりました」

取引先は、自動車部品と電機部品メーカーを中心に多くの業界で、大手企業を含めて5000社を超える。多様な業種の顧客を持っていることがリスクヘッジとなり、創業以来、リーマンショック時の1期を除いて、黒字を達成してきた。
同社の製品は、使って終わりではない。加工後の、洗浄工程までを見越した製品開発が求められるのだ。

近年、環境問題への意識の高まりから、使用後の潤滑剤や洗浄剤の廃棄が規制され、安全性の考慮も必要となっている。従来、電子部品などの洗浄では、フロンや塩素を使った溶剤が使われていたが、オゾン層破壊や環境汚染防止のために使用が規制されるようになった。
業界では、フロンの代替溶剤探しが始まったが、日本工作油は発想を転換、「洗浄そのものをなくせばいい」と考えた。そこから生まれたのが、「無洗浄油」だ。塗布後、数時間放置するだけで、油分が揮発し消えるため、溶剤を使う必要がなくなる。試作を繰り返し、96年からシリーズ化した。今までの常識を打破するこのアイデアが、同社をより成長させ、今回の受賞につながったのだ。

「無洗浄油」は爆発的なヒット商品となり、インクジェットプリンターやコピー機、ハードディスクなど、精密電子機器の部品加工においては、欠かせない存在となっている。
第39回優秀経営者顕彰で、小堀氏が優秀経営者賞を受賞したのは、「無洗浄油」の開発をはじめとする環境対策への注力、さらに、積極的な海外展開を行った実績など、同氏の手腕が評価された結果だ。しかし、本人は「光栄なことだが、当然のことをしてきただけ」と謙虚に語る。

小堀氏は、経営の舵を握るようになってから、やるべきことはなんでもやってきたという。
日本工作油の前身は、同氏の祖父である小堀茂平氏が27年に創業した小堀商会である。戦後、53年に現在の体制へと改組し、メーカーに転じて潤滑剤の製造販売を開始した。
その後、高度経済成長期を迎え、自動車産業が勃興する。同社の加工油は、自動車メーカーから高く評価され、各社と取引を開始。さらに、電機部品関連企業も加わり、成長する土台となった。81年に父の小堀猛氏が社長に就任、名古屋、大阪営業所の開設、九州工場の新設と、業務内容を拡大した。

現社長である小堀茂氏は、石油元売会社勤務などを経て、86年に日本工作油に入社した。その直後に先代社長の体調が悪化し、88年に逝去。前年から実質的に経営を担うようになっていた小堀氏は、30代前半という若さで、正式に代表としての重責を負うことになった。

開発能力の向上と、海外展開に注力!

社長就任後、同氏は広がりすぎた業容に危機感を覚え、これをいったん縮小し、開発能力の向上を目指す。当時は技術開発メンバーが4人程度しかおらず、新製品開発もままならなかったからだ。そこで、プレス工作油に経営資源を集中し、技術力を徹底的に高めた。
「当時は、祖父の時代からの古参社員も多く、昔ながらの社風で、私の方針に反発して何人かは辞めていきました。けれども、この判断が会社を救うと信じて、強い意志で進めていったのです」
これにより、顧客の細かな要望に合わせたカスタマイズができるようになった。

現在では埼玉工場にある技術センターに、18名ほどの開発スタッフが在籍し、日々、研究に邁進している。しかし、小堀氏の改革は、これだけに留まらない。
「80年代以降、円高などの影響で、主力の自動車や電機メーカーの海外進出の激化に伴い、部品メーカーも一緒に海外に出ていくようになり、我が社も海外に目を向けていく必要性を強く感じました」

危険物である日本工作油の製品は単価当たりの重量も大きく、物流コストの点から輸出に向いていない。他方で、海外進出が初めてとなる小堀氏は、アメリカ企業に委託してOEM生産を始めることにしたのだ。社内からは「技術流出につながるのでは」と反対もあったが、同氏に不安はなかったという。
「製品をつくるためのノウハウだけでなく、脈々と培ってきた顧客との信頼が重要なのです」

 

(写真左)技術開発センターでは、新製品の開発に向けて、日夜開発を続けている。
(写真右-左)ロングセラー商品「タッピングペースト」、常温でペースト状のため、
取り扱いが容易で使用量も少なくて済む。(写真右-右)今回の受賞理由の1つと
なった「無洗浄油」、作業現場を油汚れから解放した。

90年には、シンガポールでも現地企業への委託生産を開始。その後も市場の拡大に合わせてOEM生産国を増やしていき、現在、アメリカ、メキシコ、上海、韓国、そして22年内にはインドでも始まる。
00年にはタイに工場を建設。日系の自動車・電機部品メーカーとの取引が順調に拡大し、08年には新工場を建設した。また、販売網も整備し、現在、11カ国に代理店を置いている。海外工場の立ち上げ時や、代理店との交渉を行う際は、小堀氏自身が必ず現地を訪れ、取引先の選定などをしているという。これは、現地の雰囲気や状況を自ら感じとって、最終的な判断を下すためだ。

「信頼できるパートナー探しは大変で、過去には、代理店を変えざるを得ない事態になったこともありました。最近は長い付き合いになり、以前より安心していますが、現地スタッフの教育は必須で、本社の営業担当が年3、4回は現地を回って指導したり、タイ工場に代理店を集めて合同教育を行ったりしています」
OEMだからといって任せっきりにせず、密に監督し、連携していく体制づくりこそ、自社ブランドを守り、海外で成功する礎となるのだ。

売上急減にも動じない、築いてきた実績が自信に

08年にはリーマンショックが発生し、売上が激減する危機に見舞われたが、厳しい状況に耐え、雇用の維持に全力を尽くした。
20年から始まったコロナ禍では、同年5~7月期の売上が、前年と比べて40%減少したが、それでも小堀氏は冷静だった。

現地で製造・販売を行っている、タイ工場。
広大で近代的なつくりとなっており、従業
員の働きやすさに配慮している。

「全世界の経済活動が一斉にストップしたリーマンショックに比べ、コロナ禍では製品の引き合いがあったので、焦りはなかったですね。実際、その年の9月には、売上がもとに戻りました。過去の経験から、なすべきことを、ぶれずに行っていれば、問題ないと直感していたんです」

小堀氏は受賞に際して、“一流の企業であり続けたい”と語った。
「一流とは、顧客から見て信頼できる存在であること。今回の受賞は社員のモチベーションアップにもつながりました。今後もお客様のために、同じ価値観を持って進んでいきます」

ただ業容を広げていくだけでは、中身が伴わず、ハリボテの経営になってしまう。同社は、ビジネス強度を高めるため、経営資源を集中投下した分野で、絶対的な信用を築いた。そして、その実績を背景に、市場を世界中に広げることに成功している。また、近年は、社内改革に着手しているという。21年には長年の課題だった基幹システムを刷新し、生産状況や収益の見える化を進めた。22年からは人事制度も改革し、社員がより向上心を持って働ける評価・報酬制度に変え、さらに意識を高めていくそうだ。

現状に甘んじることなく、強みを磨き続け、堅固なビジネスと信用の両輪を回し続けることで、“一流の道”を邁進していく……。同社の進む先に、これからも目が離せない。

 

東京中小企業投資育成へのメッセージ

長年お付き合いいただいて感謝しております。今回の基幹システム刷新でも、2020年秋頃から検討を開始し、投資育成さんにも相談に乗ってもらいました。おかげで今年1月から無事稼働し、今後、生産性の向上につなげていきます。投資育成さんには、今後も、さらなる支援をいただければと思っています。

投資育成担当者が紹介! この会社の魅力

業務第一部 部長代理
渡邊 剛

小堀社長が取り組まれた、選択と集中、海外展開、研究開発の打ち手はどれも素晴らしく、今回推薦させていただきました。1973年から約半世紀にわたる長いお付き合いですが、プレス油で世界中の製造現場を支える、重要な役目をもつ日本工作油さまのさらなるご発展の一助となるよう、引き続きバックアップしてまいります。この度のご受賞、誠におめでとうございます!

機関誌そだとう210号記事から転載

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