投資先受賞企業レポート

社員が輝き、顧客を照らす……
“5ゲン主義”で、自ら考える組織になる

ワッティー株式会社

 

「私たちの商品・サービスを通して、お客様に輝いてほしい! 当社は、そんな顧客を照らす“デライト・プロパイダ”を目指しているんです」
そう語るのは、東京都品川区に本社を置くワッティーの菅波希衣子社長。同社は半導体製造装置に不可欠なヒータで高い技術力を持ち、シリコンゴム製ヒータ「プロキュア」シリーズは、ICチップの材料を暖める面状ヒータとして半導体製造装置メーカーに納入されている。

 

菅波希衣子社長
90年に京浜測器(現ワッティ-)の社外
取締役に就任。2001年常勤取締役、15年
専務取締役、16年取締役社長就任。

ワッティー株式会社
主な事業内容:
半導体製造装置用ヒータ、センサの開発・製造・販売など
本社所在地:
東京都品川区
設立:
1968年
従業員数:
162名

今を超え続ける技術力で、イノベーションを起こす

「ヒータの品質においては、表面上で温度差がない、つまり均一であることが重要なのです。また、部品を交換したときに短時間で元の温度に戻すリカバリー能力が必要となり、その制御技術とお客様の要望に合わせるカスタマイズ力が当社の強みとなっています」
また、センサも主力製品の1つで、液面レベルを検知するセンサは、輸出自動車に搭載されている。海外では日本のように車検制度がないので、一定量までオイルが減ると検知して、アラートを掲示する必要があるのだ。

このように、ワッティーは顧客ニーズに応じた製品開発を行う技術提案型メーカーだが、前身は商社であり、今もその機能を持っている。今回、「グッドカンパニー大賞」グランプリを受賞したのも「卸・製造2つの事業分野で、さまざまな業界のイノベーションに寄与する技術力に優れる会社として今後のさらなる発展が期待できる」と評されたためだ。

菅波氏は受賞に際して、「創業者から始まり、歴代社長と社員が積み上げてきた成果によるもの。その努力と方向性が間違いなかったという証しであり、大変うれしく思います。今がピークといわれないように、慢心せず、絶えず現状を超えていかなければなりません」

“今がピーク”どころか、同社の技術力は伸び続けている。2012年には技術研究所を神奈川県相模原市に開設し、次世代技術の研究と新製品開発に注力する。菅波社長は「売上が100億円ちょっとの企業規模で研究開発部門を独自に持つケースは珍しいと思います」と語る。

その成果として、同年には、超高速で昇温できる高性能ヒータ「Hi-Watty」を開発。約5秒で600~800度に達するため、待機時間の減少や歩留まり向上につながり、化学合成分野への応用など、新たな展開も見込まれている。

センサ事業でも新製品開発を進めており、アルコール消毒によって誤作動をしない換気(二酸化炭素)センサなども発売。
さらに近年では、原子レベルの極薄膜を生成できる小型ALD(原子層堆積)装置も開発し、大学・研究機関・企業研究センターに販売するだけでなく、成膜(半導体などの基板上にある、絶縁膜や金属膜など極小の膜)の受託事業も好調だ。

 

(左)窒化アルミヒータ「Hi-Watty」、高い熱伝導性と電気絶縁性を兼ね備え、
   表面をムラなく暖めることができる。
(右)受託成膜サービスに用いる、ALD装置。有機金属原料と酸化剤を交互に
   供給することで、表面反応のみを利用して成膜する。

勇気ある決断が、新たな成功を生み出す

同社は、菅波氏の父である清水美知雄氏が1968年に京浜測器として設立、防災機器の卸業務から始めた。その後、メーカーへと事業領域を広げるに至った経緯について、菅波氏は、こう振り返る。
「中間業者不要論などが叫ばれるようになり、商社だけでは成長が見込めなくなりました。父は、もともとエンジニアでもあったので、ものづくりに携わりたいという、強い思いも持っていたんです」
そして、97年にワッティーという子会社を設立、翌年に冒頭で紹介した「プロキュア」シリーズの製造販売を開始する。

同社がヒータの製作を始めたのは、「現場に合った製品がない」と、取引先から要望を受けたことがきっかけだ。顧客にマッチするものをつくるため、カスタマイズを続けるうちに、技術力に磨きがかかっていった。
「お客様の役に立ちたい」という想いが原動力となり、同社の競争力をよりいっそう伸ばしたのである。

同時期に、センサを製造していた仕入先の企業が経営不振に陥ってしまう。そこで、京浜測器は事業と人材を引き継ぎ、99年に浜松事業所を開設。液面レベルセンサなどを製造することになった。これはエアコン、ファンヒータなどの家電製品に採用され、さらに前述のエンジンオイル検知用としてのニーズが高まり、今も主力は自動車業界だ。

このときの経営判断によって、顧客への供給責任を果たすとともに、取引先の危機を救うことになった。ワッティーにとってもピンチであるはずの状況を、事業拡大につなげたこの決断が、各方面で高い評価を得る今日の姿を形づくったといえる。
その後、07年に京浜測器がワッティーを吸収し、名称変更、現在のワッティーが生まれた。

社長方針は毎年更新! ボトムアップで支え合う

そんな先代社長が育ててきた同社を、さらに躍進させるべく、改革に取り組んでいるのが菅波氏だ。
「小さい頃から“会社とはどういうものか”を聞かされていた私にとって、社長という仕事は重くて自分にはムリだと思っていましたし、継ぐ気もありませんでした」

しかし16年、同氏は社長に就任する。いったい、どのような心境の変化があったのだろうか。
「社会で活躍する女性が増え、女性社長も受け入れられる環境が整ってきたことが大きかったですね。こうした状況なら、これまでと違った視点から、社員が働きやすい環境をつくれると考えたんです」

神奈川県相模原市にある、同社の技術研究所。
日夜、次世代・新製品の開発が行われている。

菅波氏は就任後、社員の意識や制度改革に注力してきた。まず手をつけたのは、男性目線でつくられていた就業規則や制度類から、性別による差をなくすことだ。

これまでの規定は、法改正のたびに必要となる箇所を変更し続ける、いわば“増築”を繰り返したもの。そこで、就業規則をゼロベースで再構築し、育児・介護休暇などを取得しやすいよう見直し始めた。

さらに、17年に社長方針として「5ゲン主義」を打ち出す。5ゲンとは、「現場」に赴き、「現物」を見て、「現実」を知り、「原理」に則って、「原則」をつくること。
「当社は商社からスタートしただけに、営業目線の社長方針がこれまで多かったのですが、メーカーとしてさまざまな部門や仕事があります。誰にとっても働く場所が現場ですから、まず原点に返ろうと考えたんです。私自身も経理部門の仕事が長かったため、その知見も役立ちました」

この社長方針は毎年更新しており、5ゲン主義をベースとして、全部門の社員が、自ら考える組織になることを目指す内容を定めている。22年の社長方針は「製品の差、売り文句の差、仕組みの差」だ。
「コロナ禍という先の見えない中で、社員は自ら考え、行動してくれました。今年は自己研鑽の成果をもっとアピールしてほしいという想いで、差別化できる製品と売り文句、それを裏で支える仕組みをもっと世の中に発信してくれればと考えています」

菅波氏は、自らのリーダーシップについて、トップダウンのカリスマ型ではなく、ボトムアップの意見を大切にしていると語る。
「社員から話を聞き、決断する。互いに支え合う経営を心がけています。今回の受賞が社員にとって誇るべき指標となり、彼らがやりたいことをできる会社にしたいんです」

ワッティーは、顧客を照らす「デライト・プロバイダ」を標榜する。そのためには自分たちが輝いていなければならない。菅波氏は、社員を明るく光らせるために、制度を見直し、社員の意識を高めていくことが使命であると考えている。

創業50年を迎えた18年、同氏は「社員の子どもに入社してもらえるような会社にしたい」と表明。その翌年、実際にパート社員の子どもが入社を決めた。
「働く人、取引先、どちらからも『ワッティーなら大丈夫だ』と、思ってもらえるようになりたい」

自社に関わるすべてのステークホルダーがwin – winとなる関係を構築し、その持続性を高めるために関係を強化し続ける……。
「デライト・プロパイダ」であるための秘訣は、技術力に裏打ちされた絶大な信頼と、社員の声にしっかりと耳を傾ける体制づくりにある。

 

東京中小企業投資育成へのメッセージ

ここまでやってくることができたのは、投資育成さんのおかげです。今回の賞の応募にあたっても、資料の作成など、多くのサポートをいただいています。投資育成さんに株主になってもらって、お客様からも仕入先からも信頼感が高まりました。株主でいてくださることで気が引き締まるし、投資育成さんの名に恥じないような会社にしたいと思っています。

投資育成担当者が紹介! この会社の魅力

業務第二部
吉村優斗

菅波社長は、“デライト・プロバイダ”を掲げ、真っ直ぐお客様と向き合うだけでなく、社員第一の組織づくりに注力しながら、事業を発展させてきました。担当者としても、社員の皆様の意思や挑戦を大事にされる菅波社長の姿勢が社内へと伝わり、意欲的な社風を形成していると感じております。微力ながら、私にもそんな魅力ある貴社を応援させてください。改めて、この度のご受賞、誠におめでとうございます!

機関誌そだとう210号記事から転載

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