社長が魅せる“週末の顔”~株式会社鈴木商館 代表取締役社長 鈴木慶彦さん

趣味だからこそ本気で取り組む意義。
声楽は、自分が謙虚になれる機会!

株式会社鈴木商館

 

「大学では慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団に入部し、そこで教えていただいたのが日本のオペラ界を代表する声楽家・畑中良輔先生です。先生は、『卒業後、君たちはさまざまな職に就くだろう。ときには忙しくて音楽から離れることもあるかもしれない。だけど、音楽を忘れてはいけないよ。一生大事にしなさいね』と話し、私たちに“音楽する心”を教えてくださいました。素直な私はその言葉を真に受けて、ずっと歌ったり、ピアノを弾いたりしているわけです」

そう言って、朗らかに笑うのは、鈴木商館の社長であり、自らを「パートタイムシンガー」と称するバリトン歌手でもある鈴木慶彦さんだ。声楽が趣味の両親のもとで育った鈴木さんは、いつも身近に音楽があった。幼稚園生から習い始めたピアノは練習嫌いで頓挫するが、中高生のころから再び鍵盤を触るようになり、高校では合唱団に入り声楽にのめり込む。
「当時はドイツのバリトン歌手ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウの全盛期です。彼の真似をして、暗くて地味なドイツリート(歌曲)ばかり歌っていました(笑)」

“音楽する心”を伝えるために歌う鈴木社長。

そんな鈴木さんには3つの夢があった。1つ目は、シューベルト「冬の旅」全24曲・演奏時間約70分を歌い切ること、2つ目は、ヴェルディのオペラ「仮面舞踏会」のレナート役を演じること、3つ目は、バッハ「マタイ受難曲」のソロを歌うこと。いずれも難易度が高い。「死ぬまでにやりたいけれど、無理だろうと思っていた」と言う鈴木さんだが、1つ目の夢は1999年、2つ目の夢は2001年に叶え、残るはバッハ「マタイ受難曲」のソロのみだ。

1999年に初めて「冬の旅」全曲リサイタルをやるときは、大学時代の恩師・畑中先生に言えなかったという。「無謀だって怒られると思ったから、黙ってリサイタルをやって、その録音をCDに焼いて後日畑中先生に届けました。そうしたら、先生から手紙をいただいたんです。そこには、『“音楽する心”をみんなに伝えようと思って努力してきたが、君がこのような形で返してくれる日が来るとは思わなかった』と書かれていて、ああ、少しは恩返しができたのかなと思いました。その後に、1曲ずつ、細かいダメ出しが書いてありましたけどね(笑)」

鈴木さんは、これまでに「冬の旅」全曲リサイタルを3回やり遂げた。さらに、2007年からはピアニスト・鈴木架哉子さんとともにマニアックな歌曲に光を当てる「裏街道シリーズ」というコンサートを開催するなど精力的に活動している。そんな鈴木さんに一番印象に残っている公演を聞いた。「どの公演ももっとこうすればという悔いが残り、次こそはと思う。チャップリンの言葉を借りれば、『私の最高傑作は次回作だ』でしょうか(笑)」

 

鈴木社長が練習の成果を披露する舞台風景。
「アマチュアはプロの
真似をしてはダメ。精一杯努力することが大切」を信条とする
鈴木
社長にとって、勝負であり、苦労が報われるときなのかもしれない。

社員には、仕事も趣味も全力で“遊んで”ほしい

(左)1980年前後は、前職でアメリカ合衆国に赴任していた鈴木社長。
このときもアマチュアの合唱団に入り、歌うことを続けていたという。
(右)鈴木社長は2013年以降、ドイツ・オーストリアに出向く。
写真は、2017年、フロイデンタール城で行われたレッスン開始前に撮影したもの。

 

現在は、ほぼ毎晩、自宅で歌の練習をし、月に一度は声楽家の先生のもとでレッスンを受けるという鈴木さん。「社長になると周りから怒られる経験が少なくなりますが、レッスンやリハーサルでは先生や指揮者にコテンパンに怒られるんです。声楽は自分自身が謙虚になれる、貴重な機会です」

また、声楽を続けることで仕事では得られない人間関係が広がり、未知の世界を知るという喜びもあるという。そうした自身の経験からも、社員には、専門外の好きなことに本腰を入れて取り組んでほしいと考えている。「航空工学の糸川英夫先生も専門外でチェロとバレエをやっていて、それが、専門分野の視野を広げてくれたと言っています」と鈴木さん。

そして、社員に伝えるのは、「仕事は“遊び半分”でやっていけない。“遊び全部”でやりなさい」ということだ。「人間が最も一生懸命になれるのは“遊び”です。誰かから強制されているわけでもなく、自分で目標を決めて一生懸命やる。そして、目標を達成することで大きな喜びを感じる。それが“遊び”です。仕事もそんなふうにできたのなら、本当にいいですよね。社員のみなさんには、仕事も趣味も全力で“遊んで”ほしいと願っています」

1905年に創業した鈴木商館。仕事も趣味も全力で遊べ──。開拓者精神を自らの言葉で次世代に伝える鈴木社長のもと、200年企業を目指して着実に歩んでいく。

 

鈴木慶彦代表取締役社長

株式会社鈴木商館
主な事業内容:
産業用・医療用高圧ガス、液化石油ガスの製造・販売、高圧ガス供給システムの設計・施工ほか
本社所在地:
東京都板橋区
創業:
1905年
従業員数:
447名(2021年3月末現在)

機関誌そだとう209号記事から転載

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