SBIC東京中小企業投資育成株式会社

特区・深圳の成長に学ぶ

中国経済の新たな潮流と日本企業の未来

太田泰彦氏(日本経済新聞社 編集委員 兼 論説委員)×望月晴文(東京中小企業投資育成株式会社 代表取締役社長)

中国経済の新たな潮流と日本企業の未来

特区・深圳の成長に学ぶ

先日、日本のピュリツァー賞といわれる「ボーン・上田記念国際記者賞」*を受賞し、 BSジャパン「日経プラス10」でコメンテーターを務める太田泰彦記者をお招きし、 専門分野である中国・アジア情勢から、とくに経済成長著しい中国・広東省「深圳」の最前線についてうかがった。

社会主義国に現れた自由な市場─深圳

望月晴文(以下、望月)
このたびは、ボーン・上田記念国際記者賞のご受賞おめでとうございます。

太田泰彦(以下、太田)
ありがとうございます。

望月
シンガポールに拠点を置いて近年のアジアの大変化を取材、報道してこられた太田さんに、中国経済の新潮流と日本企業が進むべき方向性などについておうかがいしたいと思い、このような場を設けさせていただきました。太田さんによる昨年4月放映のBSジャパン「日経プラス10」深圳取材は興味深い内容でした。まずは、深圳の発展や現状について教えてください。

太田
深圳は、鄧小平さんが開放政策に舵を切って発展する前は小さな村だったようです。それが今では、人口1300万を超える大都市となり、半年も行かなければ景色が変わってしまいます。道路はできるし、地下鉄はできるし、超高層ビルはできるし、すさまじい成長ぶりです。

望月
一時は日本の製造業が、安価な労働力を求めて工場をつくりましたよね。

太田
大企業が中心でした。しかし、徐々に労賃が上がり、撤退。その代わりに出てきたのが中国国内、あるいはアメリカ、ヨーロッパの中小企業、ベンチャー企業です。深圳は「ハードウエアのシリコンバレー」といわれています。アメリカのシリコンバレーはハイテクを中心としたベンチャーのコミュニティーができていますが、深圳の場合はモノづくりに関係するベンチャー、中小企業のコミュニティーがあって巨大なエコシステムを形成しています。秋葉原の電気街には1畳間くらいの小さな店がずらっと並んでいて、ものづくりが好きな人はそこへ行っていました。かつてアメリカに留学していた頃、中国人の留学生たちも、ものをつくるとき東京にいる友達に頼んで秋葉原で調達していたものです。それほど秋葉原はものづくり、ハードウエアのインベンター(発明家)にとって大切な拠り所でした。これが、もう深圳に移っています。

望月
移っている?

太田
はい。深圳の華強北(ファーチャンペイ)という場所が電気街になっていて、秋葉原の100倍、部品の手に入りやすさで言えば1000倍くらいの規模があり、大変にぎわっています。ここには中国のベンチャー企業だけでなく、ベンチャーキャピタリストもいるし、欧米の中小企業人もいるし、もちろん大企業も参入しています。その中で創意工夫が繰り返され、イノベーションが起きているのです。

望月
そこへ来ているアントレプレナーの卵のような若者たちは、中国人だけでなく欧米人もいるわけですか。

太田
そこが驚きなのです。中国は社会主義国で共産党の力が非常に強い。何かあればストップをかけるし、取り上げたりもします。その政治的なリスクや政策変更のリスクがあるため、「自由ではない」というイメージがある。私も、そう思っていました。ところが、日本のイノベーターやクリエーターなどと深圳へ行ったとき、彼らは喜々としているわけです。「自由を感じる」と言う。彼らにとって、共産党一党独裁だとか、民主主義ではないとかいうのは二の次、三の次で、自分がつくりたいから、つくれる場所に行こうとする。それが深圳だ、というのです。中国はネット環境が大きく規制されていますが、それをVPN(VirtualPrivateNetwork)でブリッジして、日本のアクセスポイントを経由してネットにつながるとか、ありとあらゆる手法を考えます。そこまでして、壁の中に行きたいと言うのです。

望月
中国に対する「自由ではない」という考えは、単なるイメージではなく、現実に規制の安定性は低く、ものすごく閉鎖的な一面があります。それなのに、なぜ深圳では自由を感じられるのでしょうか。

太田
経済特区として保護しているからだと思います。国営企業や政府はあまり口を出さずに「実験」しているわけです。何が起きるかを見ている。失敗しても、もともと小さな村ですからいいわけですよ。深圳で起こっていることが中国全土に広がっていくのか、失敗して支配、管理の世界に戻るのかわかりませんが、少なくとも、習近平政権は深圳で何か面白いことが起きているみたいだから、やらせておけという感じなのではないでしょうか。

望月
日本も特区制度を採用していますが、それは非常に限定的なものになりがちです。ある規制については自由度が高いが、その周りには別の規制があって、すべてが自由になるわけではない。そのため、本当の意味での自由な特区にはできていません。だから政府が、口を出すのはほぼやめておこうとか、国営企業を入れないといったことで本当に機能しているとしたら、深さにおいて、日本とは比べ物にならない特別区ですね。

太田
かもしれません。ある意味、野放図ですよ。何でもやっていいのですから。例えば、機械メーカーだけど、ITへ参入してIoTに行くことでイノベーションが起こり大化けするかもしれない。その場合、隣の分野に規制があっては特区が機能しませんから。深圳では、「半導体部品メーカーだ」と言っている人が明日からおもちゃ屋さんになるかもしれない。その身の軽さというか、変身できる場所というのを「演出」しているのも一つの特徴だと思いました。

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