2023年度海外視察会レポート

今、注目を集めるテキサス。進出企業に見えた成功のカギ

米国・テキサス州視察会 2023年10月2日~5日

 

例年ご好評いただいている当社主催の海外視察会を、4年ぶりに開催いたしました。
2023年度は米国・テキサス州を投資先企業の皆様とともに訪問しました。

東京中小企業投資育成株式会社
特別顧問 望月晴文

 

当社主催の海外視察会は歴史のあるイベントですが、私が社長就任後、早々に企画し、毎年投資先の皆様とご一緒に世界各地を訪問してまいりました。コロナ禍で3年間中断せざるを得なかったことは、本当に残念でした。今般無事に再開し、米国テキサス州を約1週間、じっくりと調査をすることができ、その意義を再確認することができました。
個人的には社長交代直後になってしまいましたが、最後を締めくくることができ、ご参加していただいた皆様には本当に感謝いたします。以下、今回の担当した東よりレポートいたします。

 

ヒスパニック系人材と築くテキサス流トヨタウェイ

コロナ禍で世界経済が打撃を受ける中、いち早く回復した米国。4年ぶりとなる海外視察会の開催地に選択したのは、その米国内で東西経済圏に次ぐ「第三の経済圏」として注目を集めるテキサス州です。同州の経済規模は全米第2位、国と捉えても世界第9位に相当し、著しい経済成長を遂げています。

同州が発展した要因には、豊富な労働力の供給があります。20代~30代が大幅に増えている米国において、特に人口増加率や企業集積を背景とした雇用創出数でリードしているのがテキサス州です。ヒスパニック系人口が約4割と白人の数を超えており、中南米系移民の第2世代がその牽引役となっています。

そうした外部環境の特性を活かし、自社の競争力に磨きをかける日系企業の姿から、テキサス州の魅力が見えてきました。2006年の進出以降、現地の人材を生産現場の監督者やリーダーに育て、現地化を進めてきたのがトヨタ自動車サンアントニオ工場(以下、TMMTX社)です。ピックアップトラックの主要生産拠点である同社では、約3800名の現地スタッフが勤務。その中心であるヒスパニック系の人々について、「仲間意識が強く、明るく前向きに楽しく仕事に取り組む人が多い。何事にも挑戦する気質がある」と、TMMTX社の附柴副社長は語ります。

米国というとドライで個人主義的、高い離職率、トップダウン型組織などを思い浮かべるかもしれません。しかし同社では、階層を超えて率直に話し合えるボトムアップ型組織の構築や、難局をチームで乗り越える社風の醸成に注力してきました。ヒスパニック系人材が持つ他者を尊重する気質と相まって、現地スタッフは2交代制導入にも協力的であるなど、家族的な組織文化を大切にする日本型経営が成功しているようです。

1分間に約1台の生産効率を実現するTMMTX社は、運搬などの単純作業を自動化する一方、「肝になる部分は人が大事」というサン工業・榎堀取締役のコメント通り、車体の品質に関わる組み立て部分は人による作業が重要だと考えられています。なかでも印象的だったのは、工場内で駐在員と現地スタッフが互いに改善策を出している姿です。入社間もなくから小さな品質改善に取り組む意義を粘り強く教え、積極的に自分の意見を発言する文化が浸透しているため、現地スタッフの提案で始まった改善活動も少なくないそうです。

 

TMMTX社にて、米国で人気の高いピックアップトラックの組立現場を見学。

 

テスラがテキサス州に進出した際、TMMTX社の約2倍という給与水準を提示して、人材の引き抜きを図ったというエピソードがあります。その影響でTMMTX社を離れる人もいたものの、戻ってきた社員も少なくありませんでした。単に給与面だけでなく、エンゲージメントを重視する同社の取り組みが奏功している証左といえます。

またTMMTX社では、工場内の求人公募制度を導入。これは、例えば品質管理部のスタッフでも、希望すれば溶接・塗装部門への配置転換を認めるなど、部門をまたぐ工場内異動の仕組みです。ジョブローテーション制度があまり一般的ではない一方、キャリアアップ志向の強い米国のニーズに合わせて、職域拡大を図る機会を提供する。これによりモチベーションを維持しつつ、トヨタウェイの文化を知る社員の定着化を実現しているのです。その他にも社員の家族が受診できる医療施設を設けるなど、給与面だけでなく現地事情に即した福利厚生制度の充実が重視されていることを実感しました。

テキサス流トヨタウェイには、全社員が互いの考えを尊重し、小さな改善の積み重ねを自分ごとと捉える一体感があります。トヨタ式のマネジメント手法を導入しながらも、積極的に現地の考え方や価値観を取り入れてきたこと、そして家族的な働き方を受け入れるヒスパニック系人材の特性が、大きな相乗効果を生み出しているといえるでしょう。

地理的優位性を活かし、北中南米を市場の拠点に

同和ラインの小田切取締役から、海外進出の
カギを教えていただく様子。

テキサス州に進出した企業が口を揃えて語る魅力に、地理的優位性があります。北アメリカ大陸の中央に位置し、メキシコ湾に面する591キロメートルの長い海岸線や、11の巨大貨物船が入れる港が存在。なかでもヒューストン港は、外国貨物量トップを誇る米国の玄関口です。空運にも優れ、世界最大級のハブ空港であるダラス・フォートワース国際空港を筆頭に、米国最多の空港数があります。
「陸・海・空の利便性を兼ね備えたテキサスは、まさに北中南米でのビジネスに最適な立地環境」と語るのは同和ライン・小田切取締役。また、生活費の安さや税制面の優遇措置も挙げられます。

近年では大企業に限らず、日系中堅・中小企業の参入も相次いでいます。今回訪れた自動車向けのゴム製品などを製造する岡安ゴムは、2020年にテキサス州へ進出。投資先企業では、北中南米を中心に穀物などの貨物輸送を行う同和ラインが、2021年に同州で新事務所を開設しました。中小企業ならではの利点は、「テキサス周辺には自動車産業の大きな生産拠点と世界最大規模の市場がありながら、いまだ中小サプライヤーは少なく、サプライチェーンの中に入り込むチャンスがある」(岡安ゴムアメリカ・岡社長)といいます。商習慣として現地担当者の権限が強く意思決定も早いため、拠点を設けた各社は、たしかな手応えを感じているようです。

現在はテキサス日本事務所やJETRO、各市の支援機関がサポートにあたる一方、士業やコンサルタントは手薄な側面もあります。今後、進出企業が増えていくことで、徐々に整備が進むのではないでしょうか。

米国で独自の進化を遂げ、他社との差別化を図る

NECの顔認証システムを、実際に体験
している様子。

北中南米への展開を見据え、テキサス州にいち早く進出した企業は他にもあります。生体認証事業のパイオニアであるNECは近年、出入国管理などの国家インフラで導入されていたシステムを、民間の生活分野にも展開。今回の視察では、同社の顔認証システムが導入されている米国サッカー殿堂博物館を訪れました。

博物館では、来場者が自身の顔と好きなチームなどの情報を登録することで、各人の好みに合わせた体験型の展示が可能となっており、従来のセキュリティ目的のみならず、カスタマーエクスペリエンスの向上につなげているのが印象的でした。

省エネに寄与するインバーターなどの環境技術力に強みを持つ、空調最大手のダイキン工業は2012年に米・グッドマン社を買収。それにより同社の巨大な販売網を手に入れ、北米市場ではマイナーだった日本式空調の価値を顧客に訴求することに成功しました。米国でのシェアを大幅に拡大し、今後は中南米への展開を視野に動き出しています。

日本で精米機のトップメーカーとして知られるサタケは、1993年に米国のESM社を買収。サタケの精米技術と米国の需要を知るESM社の経験知を融合させ、ナッツ類などに混ざった異物や不良品を取り除く光選別機の製品化に至りました。その結果、サタケUSAにおいて光選別機は、売上の8割を占める一大事業に成長しています。中国や欧州の競合メーカーが存在するものの、同社は高価格帯分野で圧倒的な事業基盤を構築しているのです。その背景には、顧客が持つ要望に応え続ける開発力があると考えられます。

サタケUSAにて、森山社長より光
選別機のご説明をいただく様子。

同社ではセールスエンジニアが全米の農家などを訪問し、納入後のアフターフォローと製品開発に向けた顧客ニーズを常時吸い上げており、全米各地からさまざまな物質のサンプルが届くそうです。現在は食品分野を超えて、プラスチックなどの選別機も開発。「価格は勿論重要なファクターだが、他社にない特長があれば、価格以上の価値として顧客に認められる」というサタケUSA・森山社長の言葉には説得力がありました。

北中南米の拠点となるテキサス州で成功を収めている日系企業は、豊富な労働力やビジネスフレンドリーな環境、地理的利便性を追い風にして柔軟に挑戦を続け、価格ではない価値を顧客に訴求し、現地で新たなポジションを獲得しています。さらに今回の視察では、テキサス州が持つ先進国でありながら発展途上国のような熱気と勢いも感じました。メーカー、IT、ライフサイエンスと多様な分野が経済を牽引し、急激に産業地図が変貌する同州は、今後も北米市場、ひいては世界経済を牽引する存在となっていくのでしょう。

 

 

 * * *

業務第四部 主任
東 彩夏

【投資育成北米視察会に寄せて】

ジェトロ・ヒューストン所長 桜内政大 氏

 

テキサス州南端のスペースX宇宙船
打ち上げ実験場。成長するテキサス
の象徴の1つ(撮影:ジェトロ)。

テキサス愛――。これまで「成長著しいテキサスを見てみたい」という日本の方々を、多くテキサスにお迎えした。最長10日間ハンドルを握り、州内隅々までご一緒することもあった。そしてあるとき、「テキサス愛が深まった」と最後に挨拶される方が多いことに気づいた。こうした用語がある訳でないのに、自然と出てくる“テキサス愛”。
TEXASとは、当地先住民の「仲間」を意味するtejasが語源という説が有力だ。企業訪問や交流を重ねる中で、自然と湧き上がる独特の感情か。ただ、「愛」とまでいわしめるものは何だろうか。

日本の多くの方にとって、米国とは依然、東のニューヨーク、西のロサンゼルスなのかもしれない。これら大都市には、ゆるぎないブランド力はある。ただし、ビジネスの重心は、日本人、日本企業が想像する以上に、すでに東西からテキサスに移っている。

テキサス州は人口3000万人超、カリフォルニアに次ぐ全米2位の経済規模。この1年の経済成長率は、常に全米トップクラスだ。米国の売上上位企業フォーチュン500のうち、全米1位の55社がテキサスに本社を構える。米国本土で東西に等距離に位置し、米国内の事業会社をマネージする上で時差の点でも、移動の点でも便利だ。人口は2020年~2040年に3割強増えるとの予測。人口多の州では、圧倒的首位の増加率である。

人が増える理由は「割安」だからだ。東西海岸の大都市では極度なインフレが進行し、がんばって働いても家を持てない。法人所得税、個人所得税がゼロで、総じて1人あたりの税負担額が少ない。

ジェトロの米国情報

さらに、異なる産業構造の大都市が多数あり、活躍する場もある。世界のエネルギー首都ヒューストン、軍事産業と先端製造業が集まるサンアントニオ、半導体とイノベーションの町オースティン、そして製造からサービス、本社機能までなんでも揃うダラス。4都市が四発エンジンとなり、テキサス経済を前へ前へと進めている。4年前にヒューストンに赴任した際、郊外の2車線だった細い道路は、現在4車線の立派な高速道路になった。日々町やインフラが拡張し、変化を実感できる。だから、テキサス人は「明日は今日よりも必ず良くなる」と信じている。

テキサス愛には、ビジネスの躍動感に触れ、勢いに心を奪われたような感覚も含まれていると思う。米国訪問の機会があれば、ぜひテキサスを訪ね、「テキサス愛」を実感いただきたい。

 

 

機関誌そだとう217号記事から転載

 

経営に関するお役立ち資料を
お届けいたします

© Tokyo Small and Medium Business Investment & Consultation Co.,Ltd. All Rights Reserved.