受け継ぐ者たち。承継までの道のり

次代を育てる“学びと実践”の環境づくり

~3人の先人たちから引き継いだ、創業の精神を胸に……~

CASE③株式会社YUIDEA

 

「私の役割は、創業の精神を引き継ぎながら、次の10年という会社の未来を描くことだと考えています。これからの会社をけん引していく次世代のメンバーとともに、その実現に向けて取り組んでいきたい」

こう抱負を述べるのは、YUIDEAの細矢和宏社長だ。同社は1995年に3つの会社を母体として設立された、統合マーケティングコミュニケーション企業である。初代から3代目までは創業メンバーが社長を務めたが、2022年に4代目へ就任した細矢社長は、創業メンバー以外で初のトップとなった。

 

細矢和宏社長

株式会社YUIDEA
主な事業内容:
ダイレクト・コミュニケーション、コーポレートコミュニケーション、事業プロモーション、サステナブルブランディングに関する戦略立案など
本社所在地:
東京都港区
創業:
1995年
従業員数:
210人(グループ合計284人)

同社はもともと、首都圏コープ事業連合(現・パルシステム生活協同組合連合会、以下パルシステム)の個配事業黎明期に、同事業のコアとなる商品カタログの企画・編集データベースを活用した制作の仕組みづくりからスタート。その後、パルシステムの成長とともに業績を拡大し、全国の生協や流通企業の通販、宅配事業の支援、D2C事業の支援へと事業領域を広げてきた。

YUIDEAの主要事業であるパルシステムの商品カタログ
「Kinari」(写真左)と「コトコト」(写真右)

また、2001年には環境報告書を軸とした企業広報支援に注力。サステナビリティが重視される世界的な潮流を捉え、現在は企業の統合報告書やサステナビリティレポートなど進化を続ける企業広報関連の支援事業や、サステナブルを軸にした企業ブランディング支援にも注力している。

細矢社長は広告代理店や出版企画会社を経て、YUIDEAの事業拡大を担うメンバーとして2004年に中途入社した。
「当時は創業社長直轄で、サステナビリティ・コミュニケーション事業が新たに立ち上がったタイミングです。その事業理念に深く共感して、応募しました」

日本では2003年がCSR経営元年と呼ばれるが、実際にはまだまだこれからというとき。CSR関連の支援ニーズが高まるとともに、サステナビリティ・コミュニケーション事業は浮き沈みがありつつも発展を続け、主力事業に成長していった。
「今でこそサステナビリティという言葉が一般的に認知されていますが、当時はほとんど知られておらず、創業社長の“時代の先を読む目”はたしかだったと、あらためて思います」と細矢社長は振り返る。

 

(左)住友林業のサステナビリティサイトは
YUIDEAがサステナビリティ
・ESG情報開示支援の一環として作成したもの
(中央)ほかにも「サステナブル・ブランド・ジャーニー」を自社で運営し、
サステナブル・ブランディングに関する最新情報を発信している
(右)さまざまな企業の自社商品が持つ価値を見直す、コンサルティング業務も行う

 

事業の黎明期から基盤づくりまで携わった後、同氏は新規事業開発部門で新サービス創出やプロモーション事業の立ち上げなどに関わる。同時にチーフ、グループリーダーと社内での役割は拡大し、役職もステップアップした。2013年にクリエイティブ局局長(本部長職)に就き、2016年には38歳で執行役員に抜擢。もしかしたら自分が次期社長になるのかもしれないと意識したのは、このときだったという。
「先代から執行役員の打診を受けたときは、事業承継に関する直接的な話はありませんでした。ただ、当時すでに会社設立から20年が経過し、会社をけん引してきた創業メンバーが次々と定年退職を迎えている状況です。自分たちの世代がこれからの会社を引っ張っていかなければ、ということは強く意識しました」

勉強漬けの2年間。経営を体で覚える

先代から「次期社長に」という明言はなかったものの、「今思えば、事業承継への環境を綿密に整えていた」と細矢社長は振り返る。会社が次世代経営層育成対象者への研修プログラムを用意し、2014年から2年間にわたるプロジェクトがスタート。30代の5人が対象に選ばれ、その中で同氏は最年長かつ唯一の上級管理職だった。
「社会の変化が激しく、会社の事業も多角化する中で、従来のマネジメント手法では立ちいかなくなると当時の経営層は考えたのでしょう。時代に合った経営戦略を学ばせて、それまで経験してこなかった全社視点を持たせたかったのだと思います」

参加メンバーは通常業務をこなしながら、外部機関も活用して経営戦略などを学んだ。上級管理職だった細矢社長はプラスアルファで、外部の研修やセミナーを受け、「2年間、勉強漬けの日々でした」と語る。

座学で学びを深める一方で、実践の場としてプログラム参加メンバーを中心とした「ヤングボード」が立ち上がった。ここでは細矢社長の主導で、経営理念の体系整備や事業戦略の立案などを進めたという。経営理念は創業の精神である「世の中の役に立つ」「生活を豊かにする」をベースに、社員一人ひとりがより自分ごととして共感できる内容にした。
「いくら経営戦略を机の上で学んでも、それを実際に使えるかというのは別の話です。私は学んだことを、ヤングボードという実践の場で経験に昇華できました。経営について、早い段階に体で覚えられたのはすごくよかったと思っています」

また、このヤングボードを中心に進められたのが社名変更だ。当時はシータス&ゼネラルプレスという社名だったが、創業20年という節目の時期に経営層の世代交代も重なり、社名変更プロジェクトが立ち上がった。社内公募の結果、2017年に生まれたのが現在のYUIDEAだ。新社名には会社理念が色濃く反映され、「YUI」には顧客課題に「唯一無二」のアイデアで応えることと、顧客のファンづくりを支援するという「唯・結」の意味が込められている。「IDEA」にはそのための「発想力」という意味がある。こうして次代の経営に向けたプロジェクトを遂行しながら、細矢社長は2019年に取締役、2020年に副社長へ就任。そして満を持して、2022年に45歳で4代目社長となったのだ。

同年代の仲間たちが、ともにいるという心強さ

創業メンバーではない初の経営トップ。だが、大きなプレッシャーや気負いはなかったと語る。
「当社はバブル崩壊を機に生まれた会社で、創業メンバーは当時、リストラなど苦しい経験をしています。だからこそ、経済活動が人々の暮らしを脅かすような社会は変えなければいけないという強い思いを持ち、事業を通じたサステナブルな社会づくりに貢献しようと活動してきました。社会の課題に本気で取り組む事業者を増やしたり、応援したりすることで世の中をより良くする起点になってきたという自負が、私たちにはあります。私もそこに共感して入社したので、創業精神をしっかりと引き継いでいる。今後もそれを軸に、経営していきたいと考えています」

事実、細矢社長は創業社長直轄の新規事業メンバーだった。2代目社長ともサステナビリティ経営支援事業で仕事をともにし、3代目社長とは執行役員になる前後から、すぐそばで経営について学んだ。3人の歴代社長から薫陶を受ける中で、経営者としての帝王学を学んだといえる。

経営幹部や管理職にも心強いメンバーが揃う。細矢社長とともに次世代経営層育成対象者向けの研修プログラムを受けた仲間をはじめ、同年代のメンバーが役員や部長職に就き、重要な役割を担っている。「当社で長く一緒にがんばってきたメンバーが、会社を引っ張る立場に多くいるので、とても心強く感じています」と細矢社長は微笑む。

 

創業社長がつくった「仕事人の心得」は、
細矢社長もしっかりと受け継いでいるという

進め、第二の創業。3つの成長ドライバー

同氏は現在、YUIDEAを「第二の創業」と位置づけ、「YUIDEA 2030ビジョン」の達成に向け全力で取り組んでいる。既存の主要事業であるパルシステム関連以外の柱を構築すべく、3つの成長ドライバーに着目。その1つが「グループバリューチェーン」だ。2022年に2社をM&Aでグループ化。それぞれの強みを活かしてシナジー効果を最大限に発揮し、顧客支援をワンストップ体制で行うとともに、付加価値とサービス創出力を高めていく。
「M&Aによって、当社では当たり前だと思っていたことが当たり前ではないこと、正解を導き出す方法は1つではないことなどをあらためて確認できました。世の中の変化を乗り越えていく上で、多様性は非常に重要になると実感しています」

もう1つの成長ドライバーは「新領域&拡張領域の探索」だ。既存事業における拡張領域の探索と、新技術・テーマの探索に取り組み、既存事業の変革と独創的サービスの開発を実現する。そのためには組織の枠組みや過去の経験則にとらわれず、社会の変化や顧客ニーズへ柔軟かつ迅速に、最適なフォーメーションで対応しなければならない。そこで組織体制を見直し、「事業ファーストの推進体制&事業マネジメント」を打ち出した。

さらに、細矢社長が最大の成長ドライバーと考えているのが「人財」で、特に「次世代経営者&リーダー育成」はすでに取り組んでいる。自身がそうしてもらったように、会社の意思決定を経営層だけでなく、中間管理職も加わり一緒に決めるほか、現場単位で判断していく事業マネジメント体制を新たにスタートさせた。

これらによって従来の垂直統合型からマトリクス型の体制へ、トップダウンからボトムアップへの転換を目指し、事業部の枠を超えて有機的に連携していく。
「今までも、意識的にトップダウン経営を行っていたわけではありません。創業メンバーは人を大切にする意識が強く、風通しの良い社風です。ただ、モノづくりからスタートした会社なので、現場はいいモノを一生懸命つくることが第一で、顧客の事業に目を向けたり、会社の未来を考えたりすることは得意ではありませんでした。その結果、経営層だけが考えて判断するトップダウンになってしまっていた。しかし、これからは全員で考え、多様な視点から生み出される価値を武器にする時代です。そのためにボトムアップの組織づくりを進め、役割を超えたぶつかり合いを大切にしていきたい」

2024年2月に移転した新グループ本社オフィスでの集合写真からは、
風通しの良い社風がうかがえる

その考えは、「YUIDEA 2030ビジョン」のキャッチコピー「『変える』を力に。みんなで創る。」にも、しっかり表されている。

こうした変革を進めながら、2030年にグループ売上高を現在の約1.4倍に、営業利益を約4%から10%以上に引き上げることを目指す。
「単に売上規模を拡大するのではなく、営業利益10%超を継続的に出せる収益構造をつくる。そして、コミュニケーション事業会社として社会変化を先取りし、さまざまなチャレンジをできる投資余力を獲得することを目指しています。変化の激しい時代に経営を持続していくためには、会社の財産であると同時に、事業パートナーである社員一人ひとりの自己改革が必要で、それを後押しするために、積極的な人財投資をしていきたいと考えています」

細矢社長の肩書きには、CEOに加えてCCXO(Chief CorporateTransformation Officer)の名称がついている。「私が率先して会社の変革を推進していく」という決意表明だという。2024年2月、本社を文京区から港区南青山に移転し、グループ本社を開設した。「第二の創業」、そして「新・グループ経営」の本格スタートである。

創業メンバーではない初のトップ、3人の先人たちからその精神を受け継いだ手腕に、期待がかかる。

 

 

機関誌そだとう218号記事から転載

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