企業価値を高めるESG経営の成功事例に学ぶ

科学技術の発展のために-。熱い心で研究者支援基金を設立

株式会社エヌエフ回路設計ブロック
「エヌエフ基金」第7回(2018年度)研究開発奨励賞の表彰式。

「エヌエフ基金」第7回(2018年度)研究開発奨励賞の表彰式。

新製品の外部制御対応低雑音 直流電源と、開発者。

新製品の外部制御対応低雑音
直流電源と、開発者。
エヌエフ回路設計ブロックでは
多くの若い研究者が活躍している。

工学系の知識がある人でないと、株式会社エヌエフ回路設計ブロックの社名から事業を想像するのは難しいかもしれない。

エヌエフは、電子回路や制御技術で使われるネガティブフィードバック制御技術の略。同社はその技術をベースに最先端の開発を行い、電子計測器や電源機器、電子部品などを展開してきた。小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」に搭載された制御回路も、同社製品だ。

主な顧客は大学の研究室や研究機関、企業のR&D部門など。工学系の研究者やエンジニアは研究や実験のために同社製品を日常的に使用する。わが国の科学技術の屋台骨を支える企業の1つだ。

花開く前の若手研究者を応援する「エヌエフ基金」

山口佐山工場の蓄電システム生産。

生産は山口県に置く2つの工場に
集約している。
山口佐山工場の蓄電システム生産。

エヌエフ回路設計ブロックは、ほかにも科学技術分野に貢献をしている。2012年に一般財団法人エヌエフ基金を立ち上げて、若手研究者を支援しているのだ。主な活動は、35歳以下の若手研究者を対象にした「研究開発奨励賞」。「先端計測」と「環境・エネルギー」の2つの分野で、毎年、計10名を奨励賞に選考し、さらにその中から2名を優秀賞として表彰する。優秀賞の副賞は50万円だ。

山口宮野工場の高信頼性製品
生産クリーンルーム。

対象となる研究者は、大学の助教クラスが多い。同社の製品を研究に使っている場合もある。ただ、顧客としての関係が表彰の狙いではない。根底にあるのは、光が当たりにくい若手研究者を応援したいという思いだ。同社会長で、基金では裏方の評議員を務める高橋常夫氏は、基金設立の目的をこう語る。

「研究へのサポートは、すでに様々な団体が行っています。ただ、対象になっているのは、実績を持つ研究や研究者たち。本当に支援が必要なのは、花が開く前の段階です。科学技術の発展のためには、種に水と栄養をしっかりあげたほうがいい」

基金の設立には、トップの個人的な経験も影響している。高橋氏は、自動車メーカーのホンダ出身の研究者。当時、学会やパーティーに出ると、名だたる研究者から次のような話を何度も聞いた。

山口宮野工場の蓄電インバータ製造ライン。

山口宮野工場の蓄電インバータ製造ライン。精密機器を扱う工場内は整然として美しい。

「若手時代、匿名のあしながおじさんに経済的な支援を受けたおかげで研究を続けられた。後日わかったが、あしながおじさんはホンダ創業者の本田宗一郎氏だった」。本田宗一郎氏は生前、本田財団を設立して、優れた研究を褒賞する本田賞の創設も行っていた。

グループの連携を密にするため、各営業所とのテレビ会議も頻繁に行われている。

同社が目指す「グループ共創経営」。グループの連携を密にするため、各営業所とのテレビ会議も頻繁に行われている。

研究開発奨励賞の認知度が高まり社のブランド価値は確実に向上している

高橋常夫 代表取締役会長 グループCEO。

高橋常夫 代表取締役会長 グループCEO。
独創的で高品質な製品を
提供する同社を率いるかたわら、
(一社)神奈川県発明協会会長
を務めるなど、科学技術の振興に
寄与する。国内外の学会等でも
積極的に活動し、常に最先端の
技術開発に挑み続けている。

「宗一郎さんのように私財を投げ打つのは難しいですが、自分も何か関われないかという思いはずっと持っていました。じつは弊社の創業者である北野進も同じ思いを抱いていて、基金設立へとつながったのです」

研究開発奨励賞の創設にあたってこだわったのは、選考委員の顔ぶれだ。選考委員には、先端計測や環境・エネルギー分野の権威が名を連ねる。集めるのが難しい豪華なメンバーだが、「エヌエフさんが賞をやるなら」と、多くの先生が一肌脱いでくれた。

「物心でいうと、私たちの賞は現在、心のサポートに重点を置いています。若手研究者の動機づけのために、『この人たちに認めてもらえた』と思える先生方にお願いしました」

これまでの7回で応募者数は400人弱。うち70人が研究開発奨励賞を受賞した。この賞が最初の受賞という受賞者も多い。自分の論文が権威に認められて、モチベーションを高めていることは想像に難くない。

「みなさん、自分のHPなどに研究開発奨励賞を受賞したことを成果として掲載しています。中には将来、ノーベル賞を取る方がいるかもしれない。そのとき受賞歴の最初にエヌエフ基金の名前がある。考えただけでワクワクしますね」

研究開発奨励賞は、エヌエフ回路設計ブロックの事業に直接的な利益をもたらすわけではない。しかし、地道に続けてきたことで研究者の間で認知度が高まり、同社のブランド価値は確実に向上している。

「いずれは副賞の金額を増やすなど、若い研究者の活動を物の面でもサポートしていける賞にしたい。そのためには私たち自身の事業も大きくしないといけない。賞と一緒に成長していきたいと考えています」

グループ間の異なる技術を掛け合わせ「共創」を起こす

では、どうやって事業を成長させるのか。戦略として掲げているのが「グループ共創経営」だ。

NFグループには、エヌエフ回路設計ブロックの他に、直流電源機器の株式会社千代田エレクトロニス、自動車関連計測、環境計測やITソリューションを提供する株式会社計測技研などの企業がある。それぞれが独立して研究開発部門を持っているが、並行して共同開発プロジェクトを展開。異なる知見や技術の掛け合わせで、イノベーションを起こそうとしている。

「エヌエフ設計回路ブロックは、家庭用蓄電システムで自社が構築したIoTプラットフォームを活用しています。一方、計測技研は、全国の地震観測機器をネットワークでつなぐシステムを持っている。これらの技術は共通項も多い。組み合わせることで、新しい発想で開発ができるかもしれません」

1つの組織にまとめる選択もあるが、高橋氏は「単にくっつけると同質化します。それぞれが専門性を持って違うことをやっているからこそ、組んだときに“共創”が起きる」と否定的だ。

社名の「ブロック」は、特定の目的で結成されたグループの集合体という意味のフランス語だ。「社名が長いので、過去にはブロックを取る話も出た」(高橋氏)が、今も社名変更しないのは、ブロックが組織の理想形という信念があるから。各社が個性を持ちつつ同じ目的に向かって進むグループ共創経営は、その信念を体現した経営といえるだろう。

株式会社エヌエフ回路設計ブロック
主な事業内容:
電子計測器、電源機器、電子部品などの製造、販売
本社所在地:
神奈川県横浜市
会長:
高橋常夫
従業員数:
329名(連結)

機関誌そだとう199号記事から転載

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