トレカン
~Treasure Company~

時勢の追い風を味方に、上場そしてその先へ

株式会社エコム
株式会社エコム
主な事業内容:
先端熱技術総合エンジニアリング
本社所在地:
静岡県浜松市
創業:
1985年
従業員数:
67名

 

2023年の3月、名古屋証券取引所 メイン市場に新規上場。髙梨智志氏が代表取締役に就任した2009年以来、定めてきた目標を1つ達成した。その原動力となったのは、髙梨代表の「会社を成長させたい」という熱意に他ならない。
「私は他業種のサラリーマンを経て代表になり、従業員を超える技術力もなければ業界の知識もなかった。会社を成長に向かって引っ張っていく熱意がなければ、自分の存在価値はない。就任の経緯はどうであれ、そういう気持ちがある人こそ、社長になるべきだと思います」と自身が描く社長像を語る。

 

近未来的なデザインの「ヒートスクエア」。
ここで顧客と共にヒートトライアルを実施する。

他社製品のメンテナンスと保守サービスのDX化が柱

ガス会社の技術者だった先代が脱サラし、1985年に創業。前職で培った技術を生かして、工具箱1つでできる工業用ガスバーナーのメンテナンス事業からスタートした。その後、地道に契約顧客数を増やし、2000年を過ぎた頃から顧客からの要望を受け、加熱設備の開発・製造を手掛けるようになった。現在は、保守サービス事業(メンテナンス、改造工事)が約3割、産業システム事業(工業炉の設計・製造)が約7割のバランスで事業を展開している。

「ヒートスクエア」内に置かれているのはさまざまなテスト機。

祖業である保守サービス事業は、他社製品のメンテナンスが全体の約8割を占めることが特徴だ。
「創業時に立ち返ると、自前で作った設備などありませんでした。他社製品をメンテナンス・修理することで事業を拡大してきた当社だからこそ蓄積できた幅広い知識や技術が、今に生きています」

通常、メーカーは自社の製品を他社に勝手にメンテナンスされるのを良しとしない。しかし、メンテナンスを担う技術者の高齢化や担い手不足といった背景から、エコムは同業メーカーとアライアンスを組むことでこの事業を拡大している。食器メーカーであり、焼成炉、乾燥炉などの加熱システムを手掛けるノリタケカンパニーリミテドとの提携は、その代表例である。
「当社は2017年、株式会社札幌ダイトーテクノと事業譲渡契約を結び、北海道支店を開設しました。高齢化で廃業を考えているが、今いる顧客のために事業を引き継いでほしいとの声から実現したもの。こうした問い合わせは意外と多く、今や北海道から九州まで、広く顧客を抱えています」

社員が技術を磨く、トレーニングスペースも充実。

また2020年、関西電力株式会社と共に、これから需要が増すであろう新サービスも立ち上げた。
「Miterune(ミテルネ)」と名付けたIoT遠隔監視サービスだ。工業炉に設置されたセンサーで、ガスの量や圧力、炉内の温度、ファンの電流などのデータを収集し、異常を感知すればすぐに警報。データによって設備の状態がわかるので、異常が起きる前に対処することも可能だ。データはまるで、人間ドックの診断結果のように数値で視える化される。
「アナログな現場作業とデジタル技術を融合して、より付加価値の高いサービスを提供しています」

このようなDXを用いた保守サービス事業のアップデートは、現場で働く人材の高齢化による技能継承の課題にも一役買う。適切な炉の温度や加熱時間といったノウハウを、経験による肌感覚ではなく、「何度で何分」などと数値化すれば、継承しやすいのだ。現場におけるさまざまな課題に対して「当社なら何ができるか」と考え、解決策を生むことが、事業拡大へとつながっている。

顧客と共に最適解を見つける独自の受注スキームが魅力

代表取締役 髙梨智志 氏。

産業システム事業の顧客は、電機・化学・ガラスやセラミック・繊維・食品など多種多様。メーカーが製造工程で使用する「工業炉」と呼ばれる乾燥や焼成などの加熱設備の開発・設計・製造を手掛けている。なかでも現在のメイン顧客は自動車メーカーである。近年のEVシフトを中心とした脱酸素やさらなる燃費向上を目指し、アルミ素材を用いた軽量化を実現するため、アルミを溶かしたり、熱処理をしたりする工程が存在する。エコムはその熱処理炉を数多く受注しているという。

この分野で同社が注力し続けてきたのが、「省エネ・省時間・省スペース」の「3つの省」を実現すること。これによって、政府が掲げる2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする「カーボンニュートラル」に寄与する。それがエコムのミッションだ。

日本で最もCO2排出量が多いのは、工場などの産業部門(約35%)。そのうち約40%が工業炉などの加熱プロセスで、これは日本全体のCO2排出量の約15%に相当する。これを可能な限り減らしていくためには、工業炉の「3つの省」が欠かせない。メーカーごとに必要な加熱システムは異なるが、1社1社に「3つの省」を実現する最適な提案をしようとエコムが設けたのが、「ヒートトライアル」と呼ばれる独自の受注スキームである。

同社はオーダーメイドで開発・設計・製造を手掛けているが、設備のサイズや生産量だけに合わせるのではない。1社ごとに「3つの省」の付加価値を備えた設計を提案する。
「鍵となるのは、加熱プロセスの条件決めです。加熱するための熱源にはガス・電気・赤外線・マイクロ波などさまざまな手法がありますし、例えばこれまで500℃で加熱していたものを450℃ではできないのか、片面ではなく両面から熱したほうが効率よく加熱できるのではないか、送る風の圧力を高めれば早く乾くのではないかといった、複数の技術を組み合わせてベストなプロセスを探っていきます。
これは本来、顧客であるメーカーの技術者がやることですが、私たち熱のプロが介在したほうが、経験もあり精度が高い。顧客の生産工程の開発代行として、一緒にテストを重ねながら最適解を見つけて提案するのです」と、髙梨代表は独自スキームの意義を語る。

開発研究施設やテストセンターなどを有しているメーカーは多いが、エコムにはあらゆる分野の熱処理技術と知見が蓄積されており、顧客が単独で実施するよりも大幅に有意義なテストが可能なのだ。
「近年、EV自動車が普及し始めていますが、モーターや電池材料などの新しい部品の加工に試行錯誤している企業は多い。私たちはそうしたところへ脱炭素を目指した新たな提案ができます。これは大きなビジネスチャンスです」

ビジネスチャンスという意味では、事業としてカーボンニュートラルに力点を置いていること自体が、すでに強い追い風だ。社名の「エコム(ECOM)」とは、「Ecology(環境)」と「Combustion(燃焼)」の造語。社名変更した2004年当時は、燃焼において発生する窒素酸化物(NOx)などの有害物質を排出しないものづくりや、省エネによるコスト削減に需要があったが、4~5年前にカーボンニュートラルというワードが登場してから、各企業はこぞってCO2削減へと乗り出し、需要の風向きが大きく変わった。
「カーボンニュートラルの優先順位が高くなり、コスト以上に省エネが重視され始めています。欧米諸国に比べたら日本はまだまだ意識が低いと思いますが、これから少しずつそこに追いついていくのでしょう」

 

働きやすさとフレキシブルなイメージを重視した、
新社屋の執務スペース。一角にはカフェスペースも。

上場はゴールではなく過程。さらなる成長を目指して

 

上場を目指したのは、こうした追い風を成長の後ろ盾として、さらに事業拡大を進めるため。保守サービス事業では、関東エリアへの拠点設置を目指している。また、「もう一段階、グッとストレッチするには、アライアンスやM&A、事業譲渡などを積極的にやっていく必要があると考えています。シナジー効果を生める案件があれば、トライしたいですね」と、髙梨代表は今後の展望を語る。

新規事業への着手も見据える。水素やアンモニアなどの新燃料の開発は、カーボンニュートラルを目指す中で欠かせないものになる。現在、連携体制をとっている関西電力やノリタケカンパニーリミテドとの連携強化も成長には必須条件だ。

2022年に完成した新社屋(ヒートスクエア)。
脇に立つガス灯は、加熱技術の象徴。

もう1つ、事業拡大になくてはならない「人材の確保」も重要である。
「上場をした理由の1つは、優秀な人材を採用するためです。どれだけ良い人を集められるかが、会社の将来を決めるでしょう」
若い人材が地方の製造業に抱くイメージは、あまり良くない。カフェと社員食堂付きのおしゃれな新社屋へ投資したのは、そうしたイメージを払拭するためでもある。

「上場して、代表としてやるべきことがシンプルになった」と髙梨代表。
「責任は重くなりましたが、やったことに対して、良かった・悪かったという結果が明らかになる。ダメだと言われないように、頑張るだけです。将来、人口減で需要の縮小が予測されている中、成長するのは難しいかもしれません。でも『その時、俺はいないから』なんて、無責任だと思うんです。だから走り続けるしかない」
目指したい世界があり、やるべきことがあり、それに向かって歩みを止めない会社は強い。

 

機関誌そだとう217号記事から転載

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