未来を変えるSDGs経営

循環型社会は「米ぬか」から!

三和油脂株式会社

70年にわたりSDGsを実践し続ける

米油を充填するクリーンルーム。
窓が大きく、中の作業員が外の様子を見られるため、
ストレス軽減に効果がある。

近年、世界的に注目を集めるSDGs。Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称で、2015年の国連サミットにおいて、「さまざまな社会課題を解決し、持続可能でよりよい世界を実現するための国際目標」として採択された。日本でも持続的な企業価値の向上を目指してSDGsを企業経営に導入し、先鋭的な取り組みを推進している企業が増えている。

山形県天童市で70年にもわたって米油を作っている三和油脂もその一つである。2020年1月、自社のウェブサイト上で「私たち三和油脂株式会社は、CSR活動の一環としてSDGsの考え方に共感し、可能な限り取り組んでいます」と表明した。その真意を代表取締役社長の山口與左衛門氏はこう語る。

「SDGsには17の大きな目標がありますが、われわれが創業以来取り組んできた米油製造事業のすべてが当てはまります。それならば今後は地元山形のため、これらの取り組みをより推進していくべきだと思い、改めて表明したのです」

つまり、三和油脂はSDGsというワードが世界で注目されるはるか以前から、持続可能な企業価値の向上に資する、さまざまな活動に取り組んでいたのである。

体にいい米油を独自の製法で生産

三和油脂が生産している米油は米ぬかを原料とした食用油で、人々の健康増進に寄与する成分が豊富に含まれている。例えばγ-オリザノールは悪玉コレステロール値を下げ、心筋梗塞、動脈硬化の防止に効果がある。スーパービタミンEと呼ばれているトコトリエノールは強い抗酸化作用をもち、がんを予防する力や肌の老化を防ぐなど若返りの成分といわれている。これら米油だけがもつ成分をより引き出すため、製造方法の改善に余念がない。

「原料の米ぬかは精米直後から酸価が高くなるため、より新鮮な原料を集める必要があります。そのため山形・宮城・福島の3カ所に自社工場を構え、鮮度が落ちないうちに米ぬかから油分を抽出しています」

とはいえ米油は、米ぬかから油を搾っただけでは、食用として流通させることができない。米ぬか原油に含まれるロウ分などの固形物、遊離脂肪酸などの不純物を取り除き、良質な油の部分のみを食用米油として製造しなくてはならない。このような製法で作られた高品質な米油を摂取することで健康が維持・増進されると、自らの実感も踏まえ山口社長は語る。

「私は68歳ですが、もう何十年も風邪一つ引いていないし、毎日元気に満ちあふれ、健康そのものです。また先日14年ぶりに人間ドックに行ったところ、どこも悪いところがない、何も変わってないと医者に驚かれました。子どもの頃からずっと米油を摂っているおかげでしょう」

搾油後の米ぬかを日本で初めて製品化

三和油脂では米油の原料として、毎月5000トンの米ぬかを使っている。そのうち絞って得られる油は1000トン。残りの4000トンの残渣は、長年、家畜の飼料として出荷していた。

「残渣とはいえ、40種類以上のミネラル、ビタミン、食物繊維を含むので、まさにスーパーフードであり、家畜の餌にしているのはもったいない。これを何とかできないものかと考えた末、人間が食べられる食品に生まれ変わらせることにチャレンジしようと決意しました」

しかし、大きな壁が立ちはだかった。搾油後の米ぬかから効率的に油を絞るには、有機溶剤で抽出するのが一般的である。しかし有機溶剤を使用した米ぬかは、人体にも環境にもあまりよくない。そこで2000年頃から、有機溶剤を使用しない圧搾技術の開発に着手、研究を積み重ねて成功した。この独自の圧搾技術によって、搾油後の米ぬかを食品利用できるようになった。それを使って日本で初めて製品化に成功したのが栄養補助食品「たべられる米ぬか」と「ハイブレフ」だ。スプーン1杯で玄米ごはん1膳分と同等以上のビタミンB群、ミネラル、食物繊維を摂取できる。さまざまな食品に混ぜることで手軽に玄米食のメリットが得られる優れものである。

左/2020年9月に竣工した「R&Dセンター」での研究風景。
同社の栄養補助食品「ハイブレフ」に含まれる油分の比率を測定するため、有機溶剤で油を分離する。こののち測定器で計測する。
右/ハイブレフのもととなる米ぬかを絞る圧搾機。

2014年にはこのハイブレフがローソンの低糖質パン「ブランパン」の原材料に採用され、現在に至るまで好調な売上を維持している。「工場で毎月出る搾油後の米ぬか4000トンすべてを人間が食べられる食品にできれば、小麦粉の代用品になり、それだけ食料自給率が高くなります。今はまだまだ圧搾での製造割合は低いのですが、今後もっと増やす方針です」

この取り組みは、食料自給率の向上につながる。国民の生活習慣病の予防にも寄与し、国家レベルの問題解決にも可能性を秘めている。この米ぬかの圧搾に関しては、東北大学工学部と共同で、搾油効率をより向上させる新技術の開発に成功し、特許を取得している。

「研究をさらに発展させ、有機溶剤を使用せず、有害物質を一切排出しない環境により優しい油の抽出技術も研究開発し、東洋のオリーブ油といわれるような「一番しぼりこめ油」にしていきます。また、有機溶剤のロスが少ない最新鋭の抽出機を開発し、北海道に新工場を建設中で、2021年7月からの稼働を予定しています」

同社ホームページでは、米油を使った健康料理を「SANWAまいにちのレシピ」として公開中。
レシピ開発と撮影は社内の「テストキッチン」で行っている。(料理写真提供:三和油脂)

コロナ禍に求められるイノベーションに挑戦

地元のことを第一に考えていると話す山口與左衛門代表取締役社長。
東日本大震災から丸10年となる今年、
「東北から革新的なものづくりを」と心に期している。

現在も山口社長は未来を見据えてイノベーションに挑戦し続けている。「コロナ後は今までと同じようなやり方でものづくりをやっていてもダメだという、非常に強い危機感を抱いています。味や配合を変えるといった小手先の変化は、イノベーションとは呼べません。そこで真のイノベーションを起こすため、大学との産学連携を強化しているのです」

その一環として2020年9月、会社の敷地内に研究開発拠点として「R&Dセンター」を新設している。

同センターでは、市場調査に基づいた消費者のニーズに応える新技術の研究開発や、より優れた商品開発を行っている。連携先は東北大学をはじめ地域の大学が中心。山口社長は地域にこだわる意図を、「2021年で東日本大震災から10年。節目の今こそ、東北から革新的なものづくりを発信していきたいと思っています」と語る。

六次産業化で地域の課題解決を

三和油脂の「油糧米プロジェクト」は、健康食品の生産だけでなく、
地元での雇用創出や休耕田の再活用なども期待される。
循環型社会づくりの模索は、まだまだはじまったばかりだ。

三和油脂提供の資料をもとに編集部で作成

さらに山口社長は、本社のある天童市への思いもひとしお。そのことをうかがわせるのが、農林水産省が進める「知」の集積と活用の場を利用した「米及び油糧米が創る新産業に係る研究開発プラットフォーム」の設立だ。スローガンは「水田を油田に」だと言う。

油糧米とは、一言で言えば通常の米よりも油分を多く含む米のことであり、その品種の一つが「金のいぶき」だ。

山口社長は地元のJAや農家と連携し、休耕田を利用してこの「金のいぶき」の栽培を推奨。収穫した米を買い取り、その米ぬかから独自の圧搾技術を用いてプレミアム油「油糧米」や米ブランなどの健康食品を、胚乳からは米粉やライスミルクなどの胚乳加工食品の生産に成功している。

こうした商品の需要が伸びると、さらに原料の米ぬかが必要となり、より多くの休耕田で「油糧米」が栽培されるようになる。こうしたサイクルを生み出すことで六次産業化を実現し、地域の農家も潤えば、住民にとっても大きなメリットのある取り組みとなる。

地域全体が発展する循環型社会の実現を目指し、山口社長がこのプラットフォームを設立したのは2019年1月のこと。

「そもそも三和油脂という社名には、お客様、従業員、地域の三つの和を大切にしたいという思いが込められています。特に会社にとって重要なのは地域の人々に認めてもらうこと。だからまずは地域の皆様の健康と食文化の向上に寄与したいという思いが強いんです。同時に、地元の若者が働ける場を増やすことにも取り組んでいきたいですね」

一連の取り組みは、まさに地域経済を発展させ、新しい雇用を生むものと言えよう。

持続可能な社会の実現を東北から──。その熱い思いを原動力に、今後も三和油脂の挑戦は続く。

機関誌そだとう205号記事から転載

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