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Society5.0 ともに創造する未来

中西宏明さん 日本経済団体連合会会長

経済発展と社会的課題の解決を両立させる新たな社会「Society 5.0」の実現に向けて政府はさまざまな取り組みを開始。日本経済団体連合会(経団連)ではそのコンセプトを再定義し、大企業と中小企業の新たな関係の構築、スタートアップの振興などを進めている。「Society 5.0」ではどんな社会が実現するのか、中小企業にはどんなチャンスがあるかを経団連会長の中西宏明さんが解説する。

中西 宏明なかにし ひろあき経団連会長。
日立製作所取締役会長。1946年生まれ。
1970年、東京大学工学部電気工学科卒業、日立製作所入社。
1979年、スタンフォード大学大学院修了(コンピュータエンジニアリング学修士課程)。
1998年、日立ヨーロッパ社社長。
2003年、欧州総代表。2004年から北米総代表を兼務。
2005年、日立グローバル・ストレージ・テクノロジーズ社取締役会長兼CEO。
2010年、日立製作所社長。
2014年、日立製作所取締役会長兼CEO。
2018年5月より経団連会長に。

みなさん、こんにちは。本日のテーマは「Society 5.0―ともに創造する未来―」です。日本企業がグローバル市場で力を発揮するためには、世界の変化を前向きにとらえ、国を挙げて取り組む必要があります。そこで、日本政府だけではなく日本経済団体連合会(経団連)でも新たな社会「Society5.0」に向けたさまざまな活動を進めています。その中で2018年11月に公表した提言が「Society 5.0―ともに創造する未来―」です。本日はその内容をご紹介しながら「Society 5.0」について考えてみたいと思います。

デジタル化がつなぐSDGs

私は日立製作所に入社して二十数年間、コンピュータのシステムデザインを担当していました。いまから50年ほど前のことです。当時のコンピュータは、いまのスマートフォンに使われているコンピュータの1万分の1ぐらいのパフォーマンスしかありませんでしたが、価格は2億円、3億円という世界でした。さらに大型のコンピュータになると100億円ほどになりますから、コンピュータはみんなで共用していました。いまはどうでしょうか。たとえば、記憶容量で考えると毎年、倍々ゲームで増えていますが、価格は変わりません。記憶の単位である1ビット当たりの単価を考えると、いまは50年前の1万分の1ぐらいになっている計算です。

通信分野も同じです。昔は線でつなぐのが基本でしたが、いまは無線が当たり前です。私が入社した当時は、海外に電話をする際には課長の決裁が必要なほど料金が高かったことを思い出します。いまは電話を掛けるときにコストを気にする人はいないでしょう。

このように記憶コスト、通信コストが圧倒的に下がり、いくらでも使える環境が整いました。それによりビッグデータ、AI、IoTなどの分野で大きな変化が起きています。その変化はまだまだ止まらないでしょうし、地球全体をカバーするようになっていますから、発展途上国であっても誰でもメリットを享受できるようになっています。

人類の社会の発展段階

・人類は「狩猟社会」「農耕社会」「工業社会」「情報社会」と
発展してきた。
・いま、デジタル革新(DX=デジタルトランスフォーメーショ
ン)をきっかけに第5段階の新たな社会(Society 5.0)へ
の変革のときを迎えている。

提供:経団連

そう考えると、「地球はいまのままで大丈夫だろうか」との疑問が生じます。地球の資源を大量に使い、地球を汚してしまっているのではないか。そうしたことも考えなければいけません。そこで登場したのがSDGs(持続可能な開発目標)です。環境問題や貧国・格差などに関する17のグローバル目標と169のターゲットから構成されています。

いま直面している社会的な課題は、一つを解決すればいいわけではありません。さまざまなことが関連して同時に起きていますから、17の目標を常に意識して経済活動や政治活動、学術活動をしていく必要があります。

人類の歴史を振り返ってみますと「狩猟社会」「農耕社会」「工業社会」「情報社会」と発展してきました(図表1)。そしていまデジタル革新(DX=デジタルトランスフォーメーション)をきっかけに第5段階の新たな社会、つまりSociety5.0への変革のときを迎えているのです。

日本の現状を考えてみると、課題先進国といわれるほど、さまざまな問題を抱えています。たとえば、少子高齢化によってマーケットがシュリンクしています。それに伴い医療費が増えていますし、老後の生活を心配しなければならなくなっています。さらに日本はエネルギー資源がありませんから、どう節約しながら環境を壊さないような生活ができるか。そうした数多くの課題を抱える日本がデジタルの力を活用し、世界に先駆けて課題を解決していこうというのがSociety 5.0のコンセプトです。

企業間でゴールを共有する

では具体的にどうすればいいのでしょうか。時代の流れから考えてみると、18世紀の後半には産業革命がおこり、何でも規模が重視される時代になりました。いいモノをたくさんつくってそれを世界中に売る。効率性を追求している世界でした。大量生産が成り立つのは、同じものをみんなが使うという前提があったからです。均一性が重視されたわけですが、それで本当に幸せになれるのかという疑問が生じました。もっと個々のニーズに合う多様性を許容する世界が必要だと気づいたのです。これは集中よりも分散です。集中すると、何か問題が発生したときにとても脆弱になります。それに耐えられるような柔軟な社会構造をつくっていくことこそ重要だと考えられています。効率を追求した規模の世界では、環境も破壊されていきます。そこでSociety 5.0では、自然と共生して持続可能性を大事にする方向へ価値観が変わっていくことを重視しています。そう考えると、Society 5.0を推進することがSDGsにもつながっていくのです。そこで「Society 5.0 for SDGs」というコンセプトも登場しました。

Society 5.0時代に大きく変化する分野の例

提供:経団連

では、具体的に何が変わるのか。デジタルの力を使ってメリットが得られる典型的な分野はヘルスケアです(図表2)。

従来の医療では病気に罹ってから治療するために薬やケアを選びます。しかし、生活習慣や体重の変化など基本的なデータを日ごろからチェックしていると、病気のリスクが事前にわかります。デジタル化によって「未病ケア」をして病気にならないようにする。これはヘルスケア分野の大きな概念の転換になります。それでも病気になってしまった場合は、症状に合わせた画一的な治療ではなく、もう一歩進んでその人に合った治療を展開できる。そのための基礎データをしっかり残しておくことが大事です。この分野は日本にアドバンテージがあります。なぜなら国民皆保険を整えている国は世界でも非常に少ないからです。保険によって個人が特定され、治療した記録もレセプトというデータとして国がすべて持っています。日本は長寿国ですが、このデータを利用すれば、健康寿命を延ばすことができるでしょう。

農業分野も有望です。たとえば土の成分や水分はどうか、あるいは日照時間はどのくらいかなどを把握していくと、効率的でしかも質の高い農産物ができるようになります。また農産物は生鮮食料品が多いですから、供給地と消費地の距離が問題になってきます。あるいは需要とのマッチングも重要です。これがうまくいかないと、どんなにいいものをつくっても豊作貧乏になってしまいますが、これもデジタル化によって効率的なフードバリューチェーンが可能になってきます。そうなると、農家が個々の能力だけでやるよりもさまざまな経営体が参加して、活性化した農業になるでしょう。

これはサプライチェーンの問題にも結びつきます。たとえば、車をつくるためにTier1、Tier2、Tier3など非常に大きなハイアラーキー(階層構造)をつくっていますが、これもデータの共有が横串で通るようになるとハイアラーキーがある意味垂直型ではなく水平型になってきます。そうなると取引のあり方も変わり、車の開発にしても横でデータを共有した開発が可能になり、スピードアップできる。日本の製造業を支えている多くの中小企業のデータ共有が進んでいくことによって、非常に競争力のあるビジネスが展開できることにつながるでしょう。そう考えると、一つの企業や個人が自分たちだけで閉じた仕事をするのではなく、さまざまな相手とパートナーシップを組んでゴールを共有していく。それによってビジネスあるいは経済が活性化していきます。

新しいビジネスルールが必要

実際にどう取り組めばいいのかと言うと、一つはデジタル革新です。さきほどのお話のようにコンピュータを利用するコストが非常に安くなっていますから、ディープラーニングといった新しい技術を、手軽にどこでも利用できるようになっています。「ディープラーニングなんてテクノロジーの話だからわからない」という方も多いのですが、データがあって、それをどう使うかというガイドさえあれば、機械が考えてくれます。必要なのは、「どんなデータが何に役立つのか」を考えることです。データとAIをうまく使える社会構造にし、社会に幅広く展開すれば、日本が抱えている社会課題を解決することができるでしょう。課題先進国を課題解決の先進国にしようということです。

こういう話をすると米国のGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)あるいは中国のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)のような企業が日本にはない、との話になります。だから日本は遅れているのではないかというのですが、IoTのデータや機械のデータなどは、彼らも自由に使えるわけではありません。それをうまく使える仕組みを日本がいち早くつくり、社会課題の解決に結びつけることができれば「成功のプラットフォームとしての日本」になれると考えています。

それを実現するには、さまざまな変革が必要です。第一には企業が変わることです。産業の高付加価値化や新陳代謝が必要です。また、これまでの日本には、「みんなが平等で目立たないほうがいい」とのカルチャーがありました。しかし、そこから脱却して人と違うことにどんどんトライしていくようなカルチャーに変えていく、人が変わっていくことが必要です。さらに国レベルの問題として日本はデジタルガバメントの面で遅れています。いまだにマイナンバーも十分に活用されていません。そうした個人のIDも含めてデータをうまく行政で活用できるようにすることも重要でしょう。

これからはマーケティングをしていいモノをつくり、大量に売りさばくことで金儲けをするビジネスモデルは成り立たなくなっていきます。したがってビジネスのモデルそのものが変わっていきますから、新しいルールをつくることを同時並行で考えていく必要があります。それにはSDGsへの戦略的な取り組みを通じて社会的価値をどうつくればいいかを企業も考えていくことが重要なポイントになってくるでしょう。

フラット化する供給連鎖

Society 5.0の実現に向けた経団連の体制

提供:経団連

大企業を頂点とする垂直・ピラミッド型のサプライチェーンも変わっていくでしょう。情報をうまく共有することにより、ネットワーク型の水平・フラット型のサプライチェーンになっていく必要があります。そこに向けて個々の企業経営の中でデジタルデータをいかに使うか、使える体制をつくるかが大きな課題になります。

終身雇用、年功序列といった日本型雇用にも限界がでてくるでしょう。かつての高度成長期は、テレビなど一つの製品が世界に広がっていったので、いかに「高品質で安く」つくるかが大事でした。そのためには、長い時間をかけてスキルを積み上げていく必要があるので、年功序列で終身雇用がうまく機能したのです。しかし、変化が激しくなってくると、自分の能力をいかに自分で磨くかが大事になってきます。これまでの採用は新卒一括採用で、学校で何を学んだかよりも、入社してからの教育を重視してきました。こうした日本型雇用慣行はモデルチェンジが必要になっています。

以上お話ししてきたことに対して経団連ではさまざまな活動をしています。「Society 5.0」の実現に向けた活動の強化を図るため「デジタルトランスフォーメーション会議」の新設など関連組織の新設・再編を実施しました。その下にスタートアップとの連携を図る委員会やサプライチェーンの強化を検討する委員会などを設置しています。スタートアップとの連携では1カ月に1回、さまざまなスタートアップに集まっていただいて、事業の紹介をしていただいたり、ビジネスマッチングを進めたりしています。また、北海道や北陸などでニーズの高い大企業と中小企業のマッチングも後押ししています。

データの活用についても、経団連として個人データの適正利用の取り組みを進めています。サイバーセキュリティも大きな課題です。日本の強みを出していくには、中小企業のみなさんとさまざまな協力関係を築くことが必要だと思っています。本日はありがとうございました。

機関紙そだとう203号記事から転載

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