「東北ものづくり研究会」報告

進化した新工場に参加者から驚嘆の声

林精器製造株式会社

2月8日に開催した「東北ものづくり研究会」では、福島県の林精器製造を訪れた。大震災というピンチをチャンスに変え、IoTやロボットの導入で生産効率を高めた新工場を見学。投資先企業から参加した約30人は、大いに刺激を受け、自社の経営に生かせるヒントを持ち帰ったようだ。

従業員一丸となって大地震から3カ月で工場を再開

工場での説明に熱心に聞き入る参加者たち

工場での説明に熱心に聞き入る参加者たち

工場こそ、メーカーの強さを測る絶好の指標だ。工場を見れば、その企業の技術や経営方針が見えてくる。

東京中小企業投資育成は2019年2月8日、中小企業基盤整備機構と「東北ものづくり研究会」を共催し、約30人の参加メンバーとともに、福島県須賀川市に本社を置く林精器製造の工場を視察した。

同社は、国内で唯一の腕時計側(腕時計のガラスやガラス縁、胴、裏ぶたなどの総称。ウオッチケース)のメーカーであり、創業100年近くになる老舗企業である。ウオッチケースづくりで培った金属精密加工技術をベースに、金属やプラスチックのめっきなどの表面処理事業、FA機器や半導体製造装置、医療機器の製造にも事業を展開、好調な業績を上げている。

12年には経済産業省などによる「ものづくり日本大賞」特別賞、14年には中小企業庁「がんばる中小企業・小規模事業者300社」、17年には経済産業省「地域未来牽引企業」に選ばれた。さらに、18年度「精密工学会ものづくり賞」も受賞した。

林明博社長

「いいものをつくる」のが林明博社長のモットー

開催日当日、本社でまず林明博社長の講演が行われた。演題は「東日本大震災からの復興」だった。

11年3月11日、激しい揺れが東北地方を襲った。須賀川本社工場の3階建屋は、全体の7割も倒壊する被害を受けたが、建屋内で働いていた128名は幸い、全員無事だった。

「工場の1階では天井が落ちましたが、頑丈な工作機械がそれを受け止めてくれ、全員避難できたことは奇跡的でした。しかし、設備の9割が損壊し、建屋の倒壊と同時に起きた火事で技術系コンピュータが全焼して、途方に暮れました」と、林社長は語る。

だが、林社長以下、従業員たちはあきらめることなく、一丸となってすぐ工場再開に向けて動き出し、3カ月後の再開という目標を立てた。主要取引先であるセイコーインスツルの厚意もあって、須賀川市内に移転先の工場を借り受け、300台もの設備を移設、修理して、計画通り6月15日には工場再開にこぎ着けた。

技能伝承のために新設したものづくり革新グループ

ザラツ研磨の様子

一人前になるには10年かかる研磨技術もあるとか

林社長は復興の中で、「いいものをつくる」という社是を掲げた。企業には貨幣価値では測れない「見えざる資産」があり、それを顧客価値に変えることで、企業活動を継続することができる。多くのものを失った一方で、「いいものをつくる」ことこそ、普遍の価値だと気づいたのだ。

工場を短期間で再開したとはいえ、いったん途切れたサプライチェーンを元に戻すことは難しく、売上の3割を失った。それを埋めるため、林社長はウオッチケースづくりで培った技術を活用して、医療機器分野に進出。骨折の接合に使うチタン製骨プレート、失われた歯槽骨の再生を促すためのチタン製薄膜などを開発した。

また、生産体制の強化を図るため、「革新生産システム」を導入した。製品を工程ごとに1つずつ生産する「1個流し生産」と、工程ごとにまとめて生産する「一気通貫生産」を製品特性によって使い分けることで、各工程のリードタイムを大幅に短縮した。それによって、納期から逆算して各工程の着手日を管理することができるようになり、綿密な生産計画が立てられるようになった。革新生産システムによって、過去のデータから割り出された納品予定日に合わせて、製品の8~9割の生産がスタートできるようになったという。

研磨作業の負担を軽減するため、ロボットも導入

研磨作業の負担を軽減するため、
ロボットも導入

設備を遠隔管理する「IoT管理システム」も導入。現場で大型ディスプレイに設備の稼働状況が表示されるので、誰もが一目で工場全体を監視できるようになった。

さらに、技能伝承のために「ものづくり革新グループ」を新設。研磨や石留め(地金に宝石を取り付ける作業)などの技能を、ベテランが若手に教えている。特に、ザラツ研磨(回転金属板で高級鏡面仕上げを行うスイス伝統の研磨方法)は、一人前になるには10年かかるといわれるほど難しいそうだ。研磨工程の負担軽減のため、ロボットも積極的に導入。ザラツ研磨などにも活用している。

工場見学では、参加者がこうした生産改革の現場を興味深く視察した。

参加者の1人、北日本採石興業の谷村幸一社長は、「林社長の考え方がとても参考になった。工場内で売上や生産に関わるいろいろな数値を従業員向けに表示していることが印象的だった」と語る。また、石巻精機製作所の松本祐佳取締役総務部長も、「部門ごとに売上目標などの役割が見える化されていることに感心した」と語る。

震災から復興しただけでなく、ものづくりも進化させた林精器製造の事例は、研究会の参加者にも大いに参考になったようだ。

林精器製造株式会社
主な事業内容:
ウオッチケース(腕時計側)の製造および各種精密金属部品の製造、装飾および機能めっき、FA機器の設計・製造、医療機器製造など
所 在 地:
福島県須賀川市
社長:
林明博
創立:
1921年
従業員数:
349名

【須賀川本社工場概要】
土地面積:
3万8000㎡
建物面積:
9542㎡
事業内容:
ウオッチケースの製造
従業員数:
173名(パート含む)

機関紙そだとう199号記事から転載

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