魁企業列伝

介護業界の人手不足を入居者見守りシステムで解決

株式会社アズパートナーズ
ケアスタッフが入居者一人ひとりの 状況をスマートフォンで確認できる。

ケアスタッフが入居者一人ひとりの
状況をスマートフォンで確認できる。

首都圏を中心に介護付きホーム「アズハイム」やショートステイ、デイサービスなど介護施設全36事業所を展開しているアズパートナーズは、メーカーの協力を得て、業界初のICTとIoTを組み合わせた画期的なシステム「EGAO link」(以下、エガオリンク)を生み出した。

介護業界は慢性的な人手不足からケアスタッフの業務負担が増大しており、この状況が続けばケアサービスの品質低下を招きかねない。

エガオリンクは、こうした業界全体の課題に対して、1つの解決策を示したものだ。同社の植村健志社長兼CEOはこう語る。

「現場が本当にほしい仕組みを4社のメーカーに訴えたところ、各社ともたいへんな苦労をしながらもご協力くださり、完成に漕ぎつけました。当社は、このエガオリンクの販売で利益を得るつもりはありません。エガオリンクが業界のスタンダードになり、介護の仕事を楽しいと思って働いてほしいと願っています」

エガオリンクは、ケアスタッフの業務を大幅に効率化し、入居者の生活環境も向上させるシステムだ。

EGAO linkのしくみ

パラマウントベッドの離床センサーである見守り支援システム「眠りSCAN」、アイホンのナースコールシステム「Vi – nurse」、富士データシステムの介護カルテシステム「CARE KARTE」、住友電設の「ナースコールゲートウェイ」を統合し、スマートフォンやパソコンによってデータを表示、記録、入力できる仕組みである。

眠りSCANを入居者のベッドマットレスの下に設置すると、呼吸数や心拍数などを検知し、睡眠、覚醒、起き上がり、離床などの状態をリアルタイムにスマホで確認できる。スタッフはそれをモニタリングし、適切なケアを施せる。事前に設定した内容をベッドセンサーが検知すれば、自動的にVi – nurseにナースコール通知が送られる。その信号はナースコールゲートウェイを通じてスマホに送信されるので、すぐにスタッフが入居者の元に駆けつけることができる。

また、コール内容や眠りSCANのデータは、CARE KARTEに自動的に記録されるので、入力の手間が省ける上に、スタッフ全体で情報をタイムリーに把握できる。

アズパートナーズでは、2017年1月に「アズハイム町田」に試験導入し、大きな成果を得た。現在はアズハイム6ホームに導入している。2018年度中にさらに2ホーム以上、2年後までに全ホームに配備する予定だ。

EGAO linkの実現を主導した 同社の中元亮介氏。介護福祉士 でもある。

EGAO linkの実現を主導した
同社の中元亮介氏。
介護福祉士でもある。

システムの導入を現場目線で主導した同社シニアホーム運営部ゼネラルマネジャーの中元亮介氏は、効果についてこう語る。

「常勤11人のアズハイム町田では、1日17時間分も効率化できました。これはスタッフ2人分に相当する時間数です。エガオリンクの発表後は、競合他社の幹部も含めて120社以上が見学に訪れています」

17時間の内訳は、介護記録の省力化で7時間、夜間の定時巡視の撤廃で5時間、ナースコール対応で5時間だ。

特に夜間の定時巡視の廃止は、時間の効率化だけに留まらない効果をもたらした。これまで、夜間には60室の全居室を2時間おきに回って、入居者の状態を確認したり、排泄ケアをしたりする必要があった。口元に耳を近づけて呼吸を確認するなど、一晩で4~5回巡視する必要があり、夜勤スタッフにとっては負担になっていた。入居者を起こしてしまう可能性もある。しかしエガオリンクを導入すれば、覚醒や起き上がりを確認できるので個別に対応すればよく、定時巡視を廃止できる。入居者も夜間に目を覚ますことがなくなり、睡眠の質が上がったと喜ばれている。日中も活動的になって、QOL(生活の質)やADL(日常生活動作)が改善した。

アズハイム町田では、削減できた時間を生活リハビリにあて、月8回から1000回以上に増やした。

「全ご入居者60人の生活リハビリ計画を作成し、実施したところ3分の1の入居者にADLの改善が見られました。自立支援を目指して、攻めるケアプランができるようになりました」と中元氏は言う。

植村社長も、「定時巡視の廃止で、夜間にもスタッフが休憩をしっかり取れるようになりました」と、その効果を語る。

「正社員ベースで1日2~3人分の配置を減らしましたが、ケアの品質はむしろ上がっています。導入コストは1ホーム当たり2000万円程度かかりますが、人件費の削減によって約2年間で回収できます」(植村社長)

ケアスタッフも入居者も有効に使える時間が増えた

エガオリンクを考案するきっかけは、人手不足だった。同社ではパートタイマーを採用し、ケア以外の仕事をパートに割り振ってしのごうとしたが、スタッフの負担は減らなかった。

「業務の内容を分析すると、介護記録、夜間巡視、ナースコール対応が大きな負担になっていました。これを解決するためにITを活用しようと考えたのです」と中元氏は語る。

市販のシステムやサービスを探したが、適当なものがない。記録ソフトは複数あったが、記録様式や項目が現場に合わず使えなかった。

その中でパラマウントベッドの離床センサーとアイホンのナースコールシステムが連携を始めたことを中元氏がキャッチし、植村社長に進言して、メーカー4社との協議を始めた。

ところが、メーカー同士の思惑もあり、希望通りにシステムを連携できるかどうかわからなかった。それでも、中元氏の熱意もあって次第に話が進み、日本語表示ができないなどの困難を乗り越えて完成。2017年3月に記者会見で発表すると、マスコミが集まり、大きな反響を得た。

「業務に追われると、工夫のないケアが繰り返されます。いまはスタッフもご入居者も時間を有効に使い、親身に個別のケアができるようになりました」と中元氏。

採用活動にも好影響をおよぼし、エガオリンクが入社の決め手となった新卒も出てきた(2018年度66名の実績)。大手介護事業者も導入の動きを見せており、植村社長も期待している。

植村社長は700社が加盟する全国介護付きホーム協会の副代表理事を務めており、業界に向けて発信する活動も行っている。

「こうしたITシステムの導入に当たり、補助金を交付していただけないか、厚生労働省や経済産業省にも働きかけています。できれば、介護保険の点数でIT加算が実現するとありがたいと思っています。今後、エガオリンクがITシステム導入のモデル事業に選ばれれば、普及が進み、導入コストも下がるでしょう。ただ、効率化して配置人数を減らすことができると、今度は介護報酬も減らす方向になるので、そうならないように行政にお願いしています」と植村社長は語る。

生産性向上のやる気を失わせるようなことだけはしないように行政には期待したいものだ。

植村健志社長 兼 CEO

植村健志社長 兼 CEO

株式会社アズパートナーズ
主な事業内容:
介護付きホーム、デイサービスなど介護施設の運営、不動産事業など
本社所在地:
東京都千代田区
代表取締役 社長 兼 CEO:
植村健志
資本金:
4000万円
設立:
2004年
従業員数:
1079人(2018年4月1日現在)
URL:
https://www.as-partners.co.jp/

機関誌そだとう198号記事から転載

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