SBIC東京中小企業投資育成株式会社

特集・なぜあの会社には人が集まるのか?
「新卒採用」の秘訣を大公開!

企業に対する学生の要望は年を重ねるごとに大きくなり、近年は働き方改革の影響で、今までになく「ホワイト企業」が人気を集めている。従業員の少ない中小企業は、ただでさえ「ブラックが多い」 と見られることが多く、ますます苦境に立たされている。

そんななか、知恵と工夫を駆使し、大手に引けを取らない人材を集めている元気な会社がある。3 社のケースを見ながら、学生たちに「この会社で働きたい!」と思わせる決め手はどこにあるのかを探っていこう。

公的認証やマスコミを通じ 「ホワイト企業」を積極PR

「ブラック企業」の問題を逆手に、「ホワイト企業」であることを積極的にアピールして人材確保に役立てているのが、長野県諏訪市の株式会社共進だ。とはいえ「ウチはホワイト企業です」と言っても説得力がない。そこで五味武嗣社長は、3 つのアプローチでホワイト企業であることを積極 PR することにした。

五味武嗣社長

株式会社共進
主な事業内容:
カシメ加工、精密部品の切削加工など
本社所在地:
長野県諏訪市
社長:
五味武嗣
資本金:
3000 万円
創業:
1962 年 5 月
従業員数:
165 名
会社HP:
http://www.kyoshin-h.com/

1つ目は、国や自治体などから “お墨付き” を得ること。
同社では 2017 年に、厚生労働省が子育て支援企業を認定する「くるみんマーク」を取得したほか、仕事と家庭を両立できる企業を長野県が認める「職場いきいきアドバンスカンパニー」、社員の健康増進に努める模範企業を経済産業省が選ぶ「健康経営優良法人」の認定なども受けている。
実際に、くるみん企業と認定されてからは、結婚しても働き続けたいと考える女性から問い合わせが急増しているという。

地域活性化イベントで五味社長が講演し、地元企業の新入社員たちに向けて「PDCA セミナー」を開催。
それぞれ自作の紙飛行機を飛ばして距離を競い合うなど、紙飛行機作りを通じて仕事の進め方を学んでもらった。

PR戦略の2つ目が、マスコミに積極的に協力すること。TV や新聞、雑誌などの取材依頼は、極力引き受けるようにしているという。

「マスコミの影響力は大きい。取材を受ければ、当社のことを広告費なしで宣伝してくれるようなもの。
おかげで、長野では知名度がかなり上がりました。最近では、親が無名企業への入社を反対するケースが多いので、その対策にもつながっています」

そして3つ目が、地域貢献による好感度アップだ。
例えば五味社長は、地元きっての進学校である諏訪清陵高校の運営に参画する「評議員」に就任している(五味社長も同校卒業生)。
そうしたつながりから、同校への寄付活動などを実施している。もちろん、高校生や中学生の社会見学なども積極的に受け入れる。

また、県内の諏訪東京理科大学や信州大学との交流も深めている。
このうち理科大とは、AI による生産性向上の共同研究に取り組む。
信州大からは学生の研修を受け入れる一方、社員を信州大大学院に留学生として派遣している。しかも大学院の学費は全額、共進の負担だ。

「年間80万円として、2年通っても160万円。人間が得るノウハウやスキルは一生モノですから、投資対効果で考えたら安いものです」
五味社長はこう説明するが、信州大の学生や院生に対しても、留学生は「人材への投資を惜しまない共進」の姿勢をPRする、格好の広告塔になると言えよう。

一人でも多くの学生の眼に触れ、 大卒・院卒の人材を確保

新潟県上越市の精密金型メーカー、南雲製作所の米桝弘社長は、あるとき気づいた。
「就職支援サイトに登録しなければ、その会社は、学生にとって存在しないに等しい」と。

「入社してからの教育も大事ですが、採用はさらに重要です。会社に合った優秀な人材をいかに確保できるかが、会社の将来を左右します」
こう語るように、米桝社長は「入口戦略」から始めた。
登録には100万円単位の費用がかかるが、思い切って登録したところ、少しずつ学生から問い合わせがくるようになったという。

しかもメリットはそれだけではなかった。
採用担当で総務部管理部部長の渡部賢一氏はこう語る。

「採用にあたっては、学生との接触回数をいかに増やすかが重要です。就職支援サイトは合同説明会を開催して学生を集めてくれるので、そこに参加することで直接、大学生にアプローチする機会が得られました」

米桝 弘社長

株式会社南雲製作所
主な事業内容:
精密金型の設計・製作
本社所在地:
新潟県上越市
社長:
米桝 弘
資本金:
9500 万円
創業:
1947 年 7 月
従業員数:
95 名
会社HP:
https://nagumo-ss.com/

合同説明会でも、採用担当者は積極的に動く。ただ待っているだけでは学生は来てくれない。チラシを配ったり、声を掛けたり、積極的にアプローチをする。背景には米桝社長の信条がある。
それは「大量行動」だ。あと一押しで入社を決断しそうな学生には、社長自ら大学に行き、説得する。
採用も営業も、必要ならばトップが動く。

同社でもう1つ取り組みを始めたのが、インターンシップ(就業体験)の受け入れだ。
この効果は徐々に出つつある。インターンシップを積極的に受け入れることも口コミで広まり、さまざまなところから声がかかるようになった。そして新潟県庁から、「職員をインターンシップで受け入れてほしい」との打診もあり、受け入れたという。

インターンシップの学生も会社を知ってくれる大切な存在。

「大量行動」によって応募者は徐々に増えてきたが、新たな悩みもある。ここ3年ほどで内定辞退が増えていることだ。
少しでも辞退を減らしたいとの思いから、渡部氏は学生のもとに赴き、直接内定通知書を手渡すことにしている。
「効果があるかどうかはわかりません。しかし、会社の思いを伝えるには直接会うしかないと思っているのです」

米桝社長自身が出かけていくこともあり、「『社長自ら来てくれたので入社しました』という社員も2名いますよ」と、渡部氏。
行動の積み重ねが、採用につながっているのだろう。

「最先端技術」で目立ち、 学生に関心を持ってもらう

学生に会社を知ってもらうためには、目立つことが重要だ。そう考えている株式会社メビウスは、実際、本業のシステム開発で目立っている。AI技術で錦鯉の個体を識別するシステムを開発し、話題を集めたのだ。
こうした新しい分野への取り組みに興味を持つ学生も多く、会社説明会でも積極的にアピールしている。

にいがた BIZ EXPO 2018 で錦鯉個体識別システムを実演するスタッフ。

同社が採用に力を入れるのは、IT業界特有の事情もある。山田新一社長はこう説明する。
「どんな業界でも人材は重要だとは思いますが、とくにIT業界は人がすべてです。採用できない会社は淘汰されていくでしょう。ですから、新卒採用にも中途採用にも積極的に取り組んでいるのです」

山田新一社長

株式会社メビウス
主な事業内容:
ソフトウエアの受託開発
本社所在地:
新潟県新潟市
社長:
山田新一
資本金:
1億 2000 万円
創業:
1983 年 10 月
従業員数:
177 名
会社HP:
http://www.mob.co.jp/HP/

本業で目立っている同社は、採用活動でも「目立つこと」に配慮している。
まず、少しでも多くの学生に会社を知ってもらうため、学生が検索したときに上位に表示されるオプションサービスにも投資している。

検索で気になった会社が見つかれば、多くの学生はホームページをチェックする。
そこで社内のデザイン担当社員に会社のホームページを作成させ、学生に会社の内容が伝わりやすい工夫をしている。

会社のPRのため、夏ごろからはインターンシップも受け入れる。そして就活解禁後は、会社説明会やセミナーを積極的に開催する。東京と新潟の双方で実施し、山田社長が自ら話をする。

選考は書類選考、適性検査、面接と段階を進めるが、良い学生が見つかれば、個別で柔軟に進めていく。
また、IT業界ではあるが、文系の学生も積極的に採用している点も特徴だ。
「財務など業務系のシステム開発も数多く受託していますので、お客様とのコミュニケーション能力も重要になります。その点では文系の学生のほうが向いていることもありますね」(山田社長)

採用が決まった学生に対しては、夏休みに1週間程度の研修を実施している。それは、文系の学生に同社の仕事がどんな内容か触れてもらう機会でもある。
入社してから適性がないことに気づけば、本人も苦しむことになる。
事前に経験してみることで、興味を持てるかどうかを判断してもらうのだ。

さらに、同社には新潟市、長岡市、東京と3カ所の事業所があるが、社員全員が勤務地の希望を出せるようにしている。これにより社員が働きやすい環境を整えているのだ。

新卒採用の成否は 説明会の準備段階ですでに決まっている

ここまで見てきた4社の新卒採用戦術は、いずれも学生に「この会社で働きたい」と思わせ、会社のファンになってもらうものだった。こうした戦略を打つには、社長自らが会社の強みを把握しておかなくてはならない。
採用コンサルタントの谷出正直氏も、「経営者自身が自社の魅力をできていないと、採用活動は難しい」と指摘し、こう続ける。

「中小企業の経営者の中には、採用がうまくいかないのは人手不足のためと考えている人が少なくありません。でも原因は、経営者自身が自社の魅力を理解できておらず、学生にしっかり伝えられていないという点にあります。それを抜きに、お金をかけて求人広告を出したり、合同説明会で学生と接触回数を増やしたりしても意味がありません」

会社の魅力が学生に伝わらなければ、「この会社で働きたい」と思ってくれないのは当然。つまり、新卒採用の要である説明会で、社長が何をどう話すか、事前の準備が成否を分けるというわけだ。

では、自社の魅力を紹介する際に、どのような点に注意すればいいのだろうか。
「まずは客観的な事実を伝えることです」と、谷出氏は指摘する。
本文で紹介した株式会社共進のように、自ら「ホワイト企業です」というのではなく、公的認証などでそれを伝えるは、まさにこの助言にのっとった手法といえる。
株式会社システムエグゼも、成長可能な企業であることを目指し、そのためにさまざまな取り組みを行っていることをPRしている。

「加えて、経営者が自らビジョンについて説明することも重要です」 中小企業の場合、経営者が企業文化や価値観を作っていることが多い。それに共感できる学生でなければ、入社してもうまくいかない。だからこそ、経営者自らが語らなければならないのだ。

社長が自ら説明会に立つ株式会社メビウスの取組みや、内定者に社長が通知書を手渡ししている株式会社南雲製作所などは、谷出氏の目から見ても意義深いということだ。
その一方で、「何年も先のビジョンなど考えられない」と思う人もいるかもしれないが、谷出氏は「それでも構わない」と言う。

「一般的に、ビジョンは将来目標から逆算するものと思われがちですが、先が読めないのであれば『積み上げ型』で考えてみてはいかがでしょうか」

積み上げ型は、現在の「あり方」に着目する方法で、自分が大切にしている価値観をビジョンとして行動していく考え方だ。
米スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱したキャリア論に、計画的偶発性理論がある。簡単に言えば「キャリアの8割は偶発的なことによって決定される」との考え方だ。その偶然を計画的に設計すれば、キャリアを高めることができる。

谷出さんの話をもとに編集部作成

さらに谷出氏は、「中小企業が集まって合同で会社説明会をするのもいい」とも指摘する。
「例えば10社の社長が登壇してパネルディスカッションをすれば、学生は比較しやすいし、その中から興味を持った会社に応募できます。さらに一歩進めて、入社した社員を交換して研修などをすれば、能力の幅を広げることもできます」

これらは一例にすぎない。 工夫次第で中小企業に採用のチャンスは無限大にあることを知ってほしい。

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