特集・儲かる「第二の柱」づくり PART2
会社を10倍強くする!独自技術の深掘り法

企業の存続・成長を考える上で、「第二の柱」づくりが効果的なことを、「儲かる『第二の柱』づく り part1」で知ることができた。
ただ、「第二の柱」づくりには、本業とは異なる新たな業態や市場へ乗り出していくだけでなく、自社で蓄積してきた既存技術を磨き続けることで、新しい事業の軸を生み出す手法もある。

この「儲かる『第二の柱』づくり part2」では、独自の開発力で「本業と異業種の境界」を目指し 新しいビジネスの開発に成功した企業のケーススタディを検証していく。
これによって、「第二の柱」づくりに取り組むトップの発想と行動について考えていきたい。

蓄積した既存技術の中から、 新製品のタネを見出す

静岡県富士市にある製紙関連機器メーカー・明産株式会社は、製紙工場などで使う「スリッター」で、 他社の追随を許さない地位を築いている。製紙用スリッターは、原紙を必要な幅に切り分ける装置のことであるが、同社はそこで培った技術を生かして、「厚さ計測システム」という新製品を開発、第二の事業の柱に育て上げたことでも注目されている。

1972 年に同社が世界で初めて発売した「NC スリッター」は、コンピュータを活用して、一連の調整作業を自動化。生産性を著しく向上させることによって市場を席巻、80 年代には、大手製紙会 社のNCスリッターシェアが 80%以上にも達したという。

田原義博社長

明産株式会社
主な事業内容:
ウェブ材料向け加工・測定装置製造
本社所在地:
静岡県富士市
資本金:
2400 万円
設立:
1967 年
従業員数:
40 名
会社HP:
http://www.maysun-eng.co.jp/

同社の創業者・田原義則氏のご子息で、85 年に入社した田原義博社長は、当時、この NC スリッターを製紙会社以外のメーカーにも売り込みをかけるようにした。
「国内の製紙業界向けは、市場がほぼ飽和状態だったので、売上げの伸びが期待できなかったんですね。
製紙工場の買い替え需要をフォローしていれば、安定収入を得られるでしょうが、それではビジネスとしてのやりがいがないし、企業も成長できないと考えたのです」(田原社長)

90年頃のこと、同社の技術に目をつけた大手電子部品メーカーから、電子回路に使われる「フレキシブル基板」という、特殊な複合フィルムのスリッターが欲しいと、注文が舞い込んだ。ハイテク機器用の複合フィルムのカッティングには高い精度が求められ、複合フィルム用にアレンジした同社のスリッターは、期待通りの機能を発揮。それを機に、電子機器関連メーカー向けなどの販路も拡大していった。
これを機に、田原社長は新たな成長の機会を求め、スリッター以外の新製品開発にも積極的に取り組んだのだ。

社員は皆、機械いじり大好き人間ばかり。田原社長も現場で一緒になって汗をかく。

「スリッター以外とはいっても、もちろんゼロベースからの開発ではありません。お客様のニーズをリサーチし、蓄積してきた技術やノウハウを生かして製品化していく。そもそも得意の専門領域であっても、新製品を生み出すのは至難の業。まったく畑違いの領域に手を出したって、うまくいく はずありませんから……」
そして、その「新製品のタネ」となったのは、機械をコンピュータで制御する “メカトロニクス” の技術であった。

メカトロニクスの技術については、NC スリッターの開発以来、内製化を続けていたが、これが、幅広い分野への応用を可能にした。
そして新製品の中で大ヒットさせたのが、89 年に誕生した新型の「非接触厚さ計測システム」で、磁気と光を同時に当てることで、接触することなく、対象物の厚さを高精度で検知できるものだ。

この厚さ計測システムは、紙だけでなく、複合フィルムや特殊フィルム、非磁性体の金属箔といった、さまざまな薄膜状素材の厚さを測れるのも特徴で、電気自動車などに欠かせない「リチウムイオン電池」でも活用されている。そして現在、同社の売上げ構成比で約 70%を占めるまでになっている。
スリッター以外の新製品を「第二の柱」に育てるべく力を入れてきた、明産の経営戦略は、的を射ていたといえる。

受託で培ったノウハウから、 オリジナル製品を開発

「メード・イン・ジャパン製品」の品質・性能が優れている理由の一つとして、大手メーカーのモノづくりを支える日本の中小メーカーのレベルが高いことがよく挙げられる。
中小メーカーは、取引先である大手メーカーの難しい要望に応えるうちに鍛えられ、高度なスキルやノウハウを自然に修得しているのだ。

ところが、中小メーカーの多くは、そうした自社の経営資源の価値に気づかず、「宝の持ち腐れ状態」 になっているケースが少なくない。そんな中、大手メーカーからの受託開発事業で培った技術を活用し、オリジナル製品の開発につなげているのが、宮城県仙台市にある株式会社コスモスウェブだ。

吉村直幸社長

株式会社コスモスウェブ
主な事業内容:
電子回路・ソフトウェア・プリント基板の設計、卓上ロボット開発製造ほか
本社所在地:
宮城県仙台市
資本金:
7000 万円
設立:
1989 年
従業員数:
71 名
会社HP:
http://www.cosmosweb.com/

同社は1989年創業で、電子機器の基盤回路の受託設計によって事業を築いた。当初、同社の特徴であったのは、ハードやソフトの “設計” に特化していた点である。
創業以来、経営に携わってきた吉村直幸社長は、「設計に専念することで、技術力に磨きをかけやすくするためです。また、事業拡大にともない、自社製品開発を見据えて電子工学だけでなく、電気工学や機械工学のエンジニアの採用行い、その結果、エレクトロニクスに関わる幅広いスキルやノウハウが、社内に蓄積されていきました」と振り返る。

そんな同社に転機が訪れ、「第二の柱」のビジョンが見えたのは、小型産業用ロボット「SPLEBO(スプレボ ®)」を独自開発、2009年に発売してからだ。
元々、大手メーカーから「卓上ロボット」の設計を依頼されたのが開発のきっかけだったが、この スプレボ ® の「作業の自由度が高い」というメリットを最大限に活かし、さまざまな生産ラインに対応させるオリジナル製品を開発していったのだ。

卓上ロボットの打ち合わせ作業風景。

オリジナル製品は、開発から販売まで時間がかかる。また、多額の先行投資が必要で、利益もすぐには出ない。しかし、メリットも大きいと吉村社長はいい切る。

「一つはプライシングですね。オリジナル製品の場合、市場の動向に左右されるとはいえ、値決めの主導権を握れます。もう一つは社員の能力アップです。ゼロベースからの製品開発で、エンジニアの思考力が高まり、幅広いスキルが身につきます。基板の受託設計にとどまらず、自社製品やブランドを持てるとなれば、モチベーションも違いますしね」

そして2016年、「第三の柱」づくりのスタートとして医療機器領域にも参入。センサーで培った技術を生かした「呼吸機能測定装置」を聖マリアンナ医科大学などと共同で開発する。吉村社長によると、「医療機器は、ほかの機械よりも開発が難しいが、他社が進出しにくいのでライバルが少ないという利点がある」とのこと。
現在、同社の売上げの約90%を受託開発事業が占めるが、今後は医療機器事業を第三の柱として育成、売上げ構成比で20~30%の達成を目指す考えだ。

また、メーカー以外の業種からソフト開発を請け負う新規事業をはじめ、東北地方の電子機器メーカーを M&A で取り込んだ。これまで受託開発から始め、さまざまなに種を蒔いてきたが、それが芽を吹き、一挙に花を咲かそうとしている──新しい「柱」は、こうしてでき上る。

築いた生産システムを“外販”する 新ビジネスとは?

「幸運の女神には前髪しかない」という格言がある。ビジネスチャンスが舞い込んできたら、すかさずキャッチするしかないということだ。それには、つかんで逃さないために普段からの努力がモノをいう。
機械の組み立て受託を主力事業としている新潟県のイオカ電子株式会社は、長年培ってきた技術を生かし、生産システムの “エンジニアリングビジネス” という新規案件を獲得、「第二の柱」づくりにつなげている。その流れを見てみよう。

同社は 1970 年設立で、創業時は「縄編み」を手がけていたが、大手電機メーカーが新潟に工場を開設したのを機に「電卓」の組み立てを引き受けるようになった。さらに、別の工場からテープ録音機器用「磁気ヘッド」の組み立ても請け負うと、事業は右肩上がりに成長していった。
だが 80 年代後半から、日本の大手電機メーカーは生産拠点を海外に移転するようになり、また、90 年代初頭に起こったバブル経済崩壊により業績は一変する。

井岡秋夫社長

イオカ電子株式会社
主な事業内容:
コネクタ・スイッチ・リレーなどの制御機器、生産システム関連機器製造ほか
本社所在地:
新潟県阿賀野市
資本金:
3800 万円
設立:
1970 年
従業員数:
130 名
会社HP:
http://www.ioka-kk.jp/

とはいえ、ここで、電磁石の働きを利用して機械の動作のオン・オフを切り替える装置である「リレー」という機器の組み立てを受託、そして、その事業が軌道に乗る。現在、同社の売上げのうち、約3分の2がリレーで、その約60%が車載用だという。その市場は今後、さらなる拡大が予想されている。同社の3代目で、大手電機メーカー勤務を経て、92年に入社した井岡秋夫社長が語る。

「当社は営業をかけて、仕事を取ってくることはしません。それよりも、技術力を向上させることを優先します。ただし、『来る者は拒まず』という先代からの経営方針で、ご依頼していただいた仕事は、なるべく断らないようにしています。取引先からの紹介や問い合わせに応じて、仕事をどうやったら実現できるか考えて決めるパターンが多いですね」

営業に力を入れなくてすむのは、同社の技術力を評価した大手メーカーのほうから、引き合いがくるからだ。例えば、リレーの組み立てを委託した大手電機メーカーは、同社の磁気ヘッドの高い生産技術に目をつけた。磁気ヘッドの生産技術はリレーにも応用でき、同社なら高品質のリレーを生産できると見込んだわけだ。

一方で、依頼を断らないのは、同社にそれだけの自信があるからだろう。
技術力を目当てに難しい仕事が舞い込み、それをこなすことで、同社の技術力はさらに高まる。また、その評価が口コミで広がり、仕事が集まるという好循環ができている。

長く磨いてきた組み立て技術をベースに、生産システムの開発・外販、関連自動化機器開発へと事業領域を広げている。

機械の組み立て受託を事業の柱とする同社は、生産技術に磨きをかけてきた。得意とするのが、顧客ニーズにそった合理的なコストで機械を組み立てる「生産システムの自動化技術」で、さまざまな種類の工作機械や産業機械をつなげて、ITで制御する効率的な生産ラインを設計できるのである。

そうした技術を生かして「第二の柱」として進めたのが、生産システムの外販、すなわち、「エンジニアリング事業(ファクトリエンジニアリング)」である。基本的にオーダーメードの仕事で、時間も手間もかかるが、より幅広いニーズに対応でき、1件当たりの売上げも大きいという。
生産ノウハウをビジネスにするならば、コスト競争に関係なく、世界のどこにでも通用するオリジナル商品になる。こうして生まれた「第二の柱」は強いはずだ。

本業と異業種とのキワをねらい、 かつ組織を活性化すべし

ここまで 3 社のケーススタディを見てきたが、中小企業での「第二の柱」づくりについて、日本大学商学部教授・髙井 透 先生は、次のように語る。

「新規事業を立ち上げる場合、経営資源を活用して本業の延長線上を攻めれば、リスクが低いが事業の創造も期待できません。反対に、本業から離れた分野であれば、開拓の余地は大きいが、立ち上げにコストがかかるし、リスクも高い。その点、本業と異業種との境界なら勝手がわかるし、本業で培ったスキルやノウハウも生かしやすいもの。新規事業を考える場合、本業に何かひとひねりして、新しい要素を加えてみるといいでしょう」

つまり、「第二の柱」づくりで成功の確率を高めるためには、本業のキワをねらうことが大切である、ということになる。
また、既存技術を応用して「第二の柱」を考える場合は、「棚卸しにより強みを検証して、その強みがどのような市場で優位に立てるのか見極めることが必要である」と髙井先生は続ける。

自社の強みを掴むためには、「得意客に聞いてみる」という方法があり、ヘビーユーザーであれば、商品の長所も短所も知り尽くしており、忌憚なく技術評価をしてくれるはずである。マーケティングは、あえて「レッドオーシャン」に目を向け、ネガティブ情報を多角的に吟味してみることも役に立つ。
例えば、ヤマトホールディングスが「宅配便」というオールドマーケットに参入して成功したのは、既存の小包や小荷物に対する「利便性が低い」という利用者の不満を、「家庭からの集荷」「翌日配達」 といったサービスで解消したからだ。

出典:髙井さんの話と提供資料より編集部作成

さて、「第二の柱」づくりに取りかかる際だが、髙井先生によると、注意すべきこととして「本業の壁」「事業部間の壁」「市場の壁」という3つの壁があるという。

「本業の壁」とは、新規事業に対して資金や人材を供与する本業側が、過度のリターンを求めたり、成功を急がせたりする問題である。本業が順調な中小企業であれば、社内の抵抗も強いだろう。これ対して経営者は、ビジョンを明確に示して「なぜ “第二の柱” が必要なのか」「“第二の柱” があれば、企業にどんなメリットがあるのか」といったストーリーを、社員やステークホルダーに、粘り強く訴えていかなければならない。

「事業部間の壁」は、部分最適化された既存事業部門が、新規事業部門を邪魔立てし、全体最適化を妨げてしまう問題である。リソース不足に陥りがちな中小企業だからこそ、きちんとした組織の手当てと経営資源の配分が必要だ。プロジェクトチームを常置するなどして担当者を決め、メンバーの役割と権限、責任範囲、さらには評価基準も明確にしておいたり、新規事業用の予算も特別枠で確保しておくことがお勧めだ。

「市場の壁」は、未知の新規分野で、既存のマーケティング手法が通用しないという問題である。事業計画で既存事業と新規事業のシナジーが 80%あるとわかっていても、残りの 20%に見落としがあったために、事業が頓挫してしまうことがある。トライアル・アンド・エラーは、新規事業の宿命ともいえ、大切なのは、失敗してもその原因を分析し、次の事業につなげることである。

これらをベースに、中小企業にとっての「第二の柱」づくりを考えると、社内に刺激を与え、リフレッシュすることが肝心だ。水は、絶えずかき回しておかないと、淀んで腐ってしまうからだ。
例えば、中途採用で “新しい血” を入れ組織を活性化させたり、「1年に1回以上、必ず新製品を開発する」といった高い目標を社員に与えたり、困難な「模擬のプロジェクトなどで、社員の危機意識を日常的に養ってみるのもいいだろう。

そして何より、「第二の柱」づくりは経営に余力が残っているうちに進めなければならない。
「中小企業では恒常的に取り組むべきと言ってもよく、新規事業にチャレンジし続けるカルチャーを社内に醸成することは、中小企業のトップの重要な役割といえる」と髙井先生は提言する。

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