特集・儲かる「第二の柱」づくり PART1
最初の一歩を踏み出す3つのアプローチ

新型コロナウイルスの感染拡大によって、日本および世界の経済活動が大きく揺らいでいる。この状況の中で企業経営を安定化させていくためには、既存事業の競争力を強化するだけでなく、あえて新たな分野に進出して、事業としての「第二の柱」をつくっていくという方法もある。

しかしながら、「未知の領域に踏み出す」という挑戦に対して、躊躇する経営者も少なくないはずだ。
ここでは、「第二の柱」づくりに成功した企業に注目して、トップは何を考え、どのようにして最初の一歩を踏み出すべきなのかを探っていきたい。

初期投資額を考えた上で、 競合が少ない、生活密着型事業に着目

「新規事業に進出する際のポイントには、2 つがあります。1 つは、市場規模が中くらいであり、儲かりすぎない産業であること。もう 1 つは、生活密着型の産業であること」。
こう語るのは、静岡県藤枝市にある株式会社ツチヤコーポレーションの土屋富久夫社長である。

1949 年設立の同社は、モータリゼーションの発展に伴い、ガソリンスタンド(GS)事業を主力に成長してきた。現在は、給油や自動車整備、車検、自動車保険、中古車販売のほか、自動車リースや、灯油や軽油、重油、プロパンガスの販売、給湯や空調、省エネの設備工事など、幅広い事業を手がけている。

 

土屋富久夫社長

株式会社ツチヤコーポレーション
主な事業内容:
ガソリンスタンド、携帯キャリアショップ、温浴施設など
本社所在地:
静岡県藤枝市
資本金:
3000 万円
設立:
1949 年
従業員数:
220 名
会社HP:
http://www.tsuchiyacorp.co.jp/

「GS の生き残り戦略としては、例えば、店舗網の拡大、油外事業の強化といった方向性も考えられます。
しかし、商社などの巨大資本と過酷な量的競争を繰り広げても、利は薄いし勝ち目も少ない。それならば、余力が残っているうちに、新たな事業を着実に育てるほうが得策と判断しました」(土屋社長)
しかし、既存事業と関連のない新しい領域は、自社にスキルもノウハウもないだけに、リスクも高い。
そこで土屋社長が考えた、新規事業に進出する際の条件が、冒頭の2つとなる。

「中規模の市場で、うま味も少なければ、大手がなかなか入ってきません。かといって、零細企業には億単位の投資は難しいので競合が少ない。価格競争が起こりにくく、実は利益も確保しやすいんですね。当社が自己資金で賄える初期投資ならチャレンジしやすいし、失敗しても早めに見切って撤退もできます。新規事業は成功率が低いので、種をたくさんまいておくことが肝心なのです。また、業績が景気に左右されにくく、リピーターもつきやすい生活密着型の産業は、安定した利益が得られます。当社はGS事業がコアなので、短期決戦型のビジネスよりも、息の長いビジネスのほうが性に合っているんですね」( 土屋社長 )。

これらの条件に沿って、同社が立ち上げた新規事業としては、まず、99 年にスタートした「スーパー銭湯」が挙げられる。温浴施設は、健康志向でニーズが高まっており、既存の給湯設備工事事業のノウハウも生かせると判断したからだ。
また、モバイルは生活必需品で景気に左右されにくい商品という発想から、携帯電話販売事業にも乗り出し、事業の一つに成長している。

さらに注力しているのが、グループ企業で運営する飲食事業だ。
外食産業も生活密着型産業の代表格といえるが、2001 年に大手フランチャイズチェーンに加盟して事業展開をスタート。09 年には、自社単独の焼肉店「ビーフガーデン」を立ち上げ、差別化を図るため、黒毛和牛を一頭買いし、高品質の牛肉を安定的に供給する。
また、さまざまな種類の肉とワインを扱う「肉バル」も開発。そして、米国・ニューヨークで成功している高級ステーキ料理店「エンパイアステーキハウス」とも提携した。

飲食業は土屋社長が「焼肉が好きだから」と始めたのがきっかけ。2017 年にはエンパイアステーキハウスをオープン。 グループ会社の TFM が運営している。(提供:TFM)

同社は、このように「第二の柱」づくりを進めるが、土屋社長は、「環境の変化が激しく、本業が長続きしない時代。企業を存続させるには、事業の柱を代えながら、次の世代にバトンタッチしていくしかありません」と強調する。
同社の売上げ構成比は、80 年代までは石油関連が 90%以上を占めていたが、現在では 60%程度にまで低下。一方、売上総利益の 70~80%を新規事業が稼ぎ出しているという。

「将来性」を見据えて “オンリーワン”になれるという判断で

企業としての「柱」づくりについて、新潟県阿賀野市にある株式会社クボ製作所の佐藤十九一社長は、「多くの経営者は、事業が軌道に乗ってくると、どう売上げを伸ばすか、つまり “今ある柱をどのように太くするか” を考えがちですが、私は 1 つの事業が軌道に乗ったらすぐに “新しい柱をどこに立てるか” に注力しています。そうしないと、いつまでも取引先の1社依存から抜け出せませんからね」と語る。

同社は、1973 年の創業以来、機械部品メーカーとして事業を拡大しているが、住宅機器、工作機械、ロボット、自動車、航空機といった幅広い業種の部品を手がけ、取引先も多様だ。経営効率が悪いようにも見えるが、実は、それこそがリスクヘッジであり、機械部品メーカーとして生き残るための、同社のしたたかな戦略であるという。

佐藤十九一社長

株式会社クボ製作所
主な事業内容:
工作機械・一般産業機械部品、航空機内装備部品などの製造
本社所在地:
新潟県阿賀野市
資本金:
4500 万円
創業:
1973 年
従業員数:
135 名
会社HP:
http://www.kubo-co.net/

「長年の大得意先でも、採算に合わない取引条件を提示されたら、きっぱりとお断りします。“ほかにも稼げる事業がある” というカードがあれば、取引交渉で妥協する必要はありません。『やめる機会を逃がさない』ということは、新しいものを始めることと同じくらい大事なのです」(佐藤社長)

同社は、もともとインテリア向け装備品や家電向け電子部品を生産していたが、1990 年から半導体製造装置や工作機械向けの精密部品に本格シフト。現在では、売上げの約 60%を占める主力事業に成長した。
また、航空機のギャレー(調理スペース)やラバトリー(化粧室)といった内装設備にも力を入れ、それらは現在、米国ボーイング社の大型旅客機などに納入されており、売上げの約 30%を占めるまでに育った。

航空機内装備部品の加工・組み立てを行う本社工場は、作業員の4割を女性が占める。部品が軽く、女性でも作業しやすい環境であるためだ

そんな、クボ製作所が「第二の柱」づくりで重視しているものは、「将来性」である。佐藤豊幸副社長が次のように説明する。
「経営計画は、新規事業が経営の柱に育つまで5~10 年はかかるという前提で立てます。しかし、このように赤字覚悟で進出し、辛抱できる機械部品メーカーは限られます。つまり、ライバルが少ないんですね。そこで先行すれば、競合他社には簡単に追いつかれません」

そして新しい柱選びの条件にはもう一つ、「取引先にとっての、オンリーワンになれる」ことも挙げる。競合他社に簡単に取って代わられるようでは、経営の柱にならないからだ。そのため同社では、取引先の “専属工場” として、製造工程を一貫して引き受けることを取引開始時の基本方針としており、現在3カ所ある工場も、それぞれ主力取引先ごとに分けている。

「取引をするなら、お得意様の高度な要求水準に応えられるよう、設計段階から積極的に関与し、加工から組み立て、品質管理、検査までの一貫生産を基本にしています。これも、一つの取引先に対して一つの工場を操業させているからこそできるのだと思います。お得意様の “心臓部” となって、常に必要とされ続ける存在となることが大切です」( 佐藤副社長 )

同社では現在、グラスファイバー事業も進めている。自社で研究・開発を行い、「ガラス繊維立体シート」などの完成品の生産・販売まで一貫して手がける。機械部品の生産とは一線を画する、新たな試みである。
事業の「柱」を次々と成功させていくことは、さらに大きく羽ばたくために必要なことであるといえる。

顧客ニーズに、技術で対応する “ソリューションビジネス”を!

自動車部品用の切削工具の生産を主力に、多様な切削工具を製造・販売する東京都文京区に本社を構える株式会社東鋼は、最近、航空機向け工具、医療器具といった新しい分野にも進出して注目を集めている。

創業者から数えて3代目に当たる同社の寺島誠人社長は、次のように語る。 「工具メーカーは、少品種大量生産の時代にはプロダクトアウトの考え方でも通用したのですが、多品種少量生産の時代になると、顧客のさまざまなニーズに応えて、市場を創造していかなければ存続できません。そこで、従来からのアイデンティティだけに縛られず、自社のスキルやノウハウをフル活用した “ソリューションビジネス” を展開していこうと、事業目的を定義し直しました。自動車産業向け切削工具で培った技術は、ちょっと塩コショウで味付けするだけで、かなりの応用が利くんです」

寺島誠人社長

株式会社東鋼
主な事業内容:
特殊精密切削工具の製造・販売
本社所在地:
東京都文京区
資本金:
6286 万 8500 円
創業:
1937 年
従業員数:
47 名
会社HP:
http://www.toko-tool.co.jp/

東鋼のポリシーは、「お客様のものづくりを手伝う」ことである。だからこそ、顧客からの要望こそが製品化の最大の “シーズ” と見て、製品開発の依頼はできる限り引き受けていた。新しい製品づくりに取り組むと、同社の取引先はさらに増え、スキルやノウハウの幅も広がった。
それが「第二の柱」となる、新規事業に進出する足がかりにもなったのだ。こうした同社の経営姿勢は、新しいビジネスチャンスを次々に引き寄せていく。

そして、自動車に次ぐ領域として目を向けたものの一つが飛行機向け工具だ。
2007 年には、航空機の機体などに用いられるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)に穴を開ける 専用ドリルの製造を開始した。CFRPは炭素繊維を束ねてプラスチックで固めたもので、超軽量なのに強度が抜群だ。そのためドリルの刃は消耗が激しく、すぐに刃こぼれしてしまう。大型旅客機の製作では、CFRPに約20万カ所もの穴を開けなければならないので、頑丈なドリルが必要だったわけだ。

また、医療器具。大手重機メーカーに紹介されて、人工関節向けの手術器具を開発する。人工関節手術は急増しているため、手術器具の売上げもうなぎ上りに伸びた。医療機器には、同社の技術力を発揮できる分野がたくさんあったのだ。
現在、売込みに力を入れているのが骨の手術用「オメガドリル」である。骨表面は凹凸が多く、ツルツルしているが、オメガドリルは、独特のスパイク状の刃先で骨表面を捕らえ、正確に素早く穴を開けることができる。医師からは好評だという。
さらに、山口大学医学部附属病院と共同で、乳がん向けの手術器具「リセクション・ガイド」も開発している。

ここ10年ほどで主力製品になったのが医療器具。骨の手術用の「オメガドリル」は、滑りやすい骨の表面もしっかり捕らえることができる (提供:東鋼)

現在、同社の売上げ比は、自動車関連と航空機関連が各30%、医療器具関連が約20%、その他が約20%と、バランスの取れた構成になってきた。医療器具については、医療機器の国際品質規格である「ISO13485」を取得、ドイツの国際見本市に出展するなど、海外市場の開拓にも余念がない。

「第二の柱」は、 いつ、どこに、だれが立てるといいのか?

3社の事例を見てきたが、「第二の柱」づくりについて、早稲田大学大学院教授で、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター所長でもある長谷川博和先生は、次のように語る。

「一つの得意分野に依存するビジネスモデルは、リスクが極めて高いといえます。高度経済成長期に起業した中小企業の多くは、既存の成功モデルが耐用年数を過ぎ、ITの急速な発達と普及、経済のグローバル化などに伴って、経営環境の変化が大きく、しかも速くなり、商品のライフサイクルも短くなる傾向にあります。第二の柱がなければ、いずれ経営を存続できなくなるかもしれません」

長谷川先生によると、商品のライフサイクルは一般に、導入期、成長期、成熟期、衰退期の成長曲 線を描くので(図参照)、主力事業が成熟期のうちに、第二の柱づくりに着手するのがベストだという。
そうすれば、主力事業が衰退期に入ったときに、新規事業が成長期を迎え、主力事業の寿命が尽き たとしても、新規事業が次の主力事業に成長していくことになるという。

また長谷川先生は、経営資源の限られる中小企業が、効率的に「第二の柱」を見つけるためには、 本業の周辺分野に進出するのが低リスクであると指摘して、米国の経営学者イゴール・アンゾフが提唱する、成長戦略の4つの選択肢について説明をする(表参照)。 このうち、「本業固執型」を除き、1技術挑戦型、2市場挑戦型、3突然変異型の3つが新規事業になり得る、という。

例えば、表の1はベーカリーがケーキ屋も始めるといったケース、2は東京だけで店舗展開していたベーカリーが大阪にも出店するといったケース、である。12とも既存のノウハウや人材を生かしやすく、成功率が高い。
ただ、1の場合は、技術開発とテストマーケティングを入念に行ってから “満を持して” 進出するべきであり、2の場合は、スタートアップでは「小さく産む」ことを心がけ、軌道に乗ってきたら、少しずつ事業を拡大していくようにしたい。

一方3は、東京のベーカリーが、大阪でケーキ屋を開設するといったケースで、いきなり勝負するのはリスクが高い。既存のノウハウや人材を活用できないからだ。3で勝負するのなら、新規事業に詳しいビジネスパートナーと組んだり、コンサルタントにサポートしてもらうなど、外部の力を借りて準備するようにしたい。

出典『なぜ新規事業は成功しないのか』第3版、大江建、日本経済新聞出版社、2008 年

中小企業の場合、「新規事業を育てること」が社長のミッションのなかでも最重要だと長谷川先生は話す。これは、中小企業の将来にとって不可欠であり、社長にしかできない仕事だからである。
ただ、後継者に新規事業を任せてみるのも一つの手で、後継者が先代の事業をそのまま引き継ぐのではなく、ベンチャー企業を立ち上げるつもりで新規事業を育てさせてもいいという。

最後に長谷川先生から、「第二の柱」づくりでについてのアドバイスがある。
成功の可能性を高めるために必要なのは、「成功するまであきらめないこと」と「経営理念をはっきりさせること」であるという。
新規事業には、長期戦にめげない強い気持ちと最後までやり抜く不退転の決意を持つ必要があり、「儲かりそうだから」といった目先の利益だけに捉われてはいけないということだ。
「第二の柱」を育てるためには、自社のコアコンピタンスを決め、それに適合する事業を選んでいくことが重要なのである。

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