SBIC東京中小企業投資育成株式会社

属人的定めとは?

より柔軟な株主対策を可能とする方法

経営者にとって、自社の株式を、誰が、どのくらい保有しているのかはとても重要なことです。
株式には原則として、1株に1つの議決権が与えられています。議決権は株主総会の決議において賛否に関われる権利で、経営者にとっては企業の統治を左右します。議決権を多く持つ株主が経営者の味方であればあるほど、安定した経営を続けることができるのです。
そのため中小企業では、発行するすべての株式に譲渡制限をつけて、会社の承認のない株式譲渡を防ぐのが一般的です。例えば、現時点では味方だった株主に相続が発生して、会社の経営に興味のない人物に株式が渡った場合、決議に賛成してくれない可能性があり、その際、売却されてまったく知らない相手に株式が渡ってしまう事態も想定されるからです。

属人的定めは株主ごとに異なる権利内容を設定できる

属人的定めとは、特定の権利内容について、株主ごとに異なる取り扱いができる株式のことです。
株式の扱いは、「株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない」(会社法109条1項)との条文に従い、株主平等が原則です。
しかし例外として、すべての株式に譲渡制限をつけている企業は、「剰余金の配当」「残余財産の分配」「議決権」という株主の3つの権利について、株主ごとに異なる取り扱いをする旨を定款で定めることができます(会社法109条2項)。これが属人的定めです。
要するに、株式を持つ株主A、B、Cがいるとして、定款で定めることで、「普通は1株1議決権だが、Bは1株5議決権とする」や「Cには、優先的に剰余金の配当を行う」といった、株主ごとに違う取り扱いが可能になるわけです。

属人的定めと種類株式との違い

属人的定めと混同されやすいものとして、「種類株式」があります。
種類株式とは、株式会社が会社法108条にもとづいて発行できる株式で、株主の権利内容に特別な条件をつけた株式のことです。
例えば、株主総会の決議事項に関して議決権がない「無議決権株式」などがこれにあたります。

属人的定めと種類株式の違いは、属人的定めが異なる取り扱いを「人」に属して定めているのに対し、種類株式は普通株式とは違う種類の株式であるということです。
つまり、属人的定めは持ち主が変われば普通株式となりますが、種類株式は持ち主が変わってもその内容は変わりません。また、種類株式を発行すれば登記簿への記載が必要となりますが、属人的定めは登記が不要な点も異なっています。

属人的定めが役立つケース

属人的定めは、経営者や後継者の議決権利率を高めて経営権を強化したり、事業承継をスムーズに行ったりするために活用できます。具体的には、次のようなケースで役立ちます。

経営者の持ち株比率が低い中で、経営者の議決権比率を高める

100株のうち、経営者が30株を持ち、古参幹部たちが20株、経営者の親族たちが残り50株を持っているような場合、すべて普通株式であれば経営者の議決権比率は30株÷100株=30%にすぎません。
しかし、「経営者の保有する普通株式には1株につき10議決権を付与する」と定款に定めておけば、経営者の議決権数は300株になります。すべての議決権を合わせると370株になりますので、経営者の議決権比率は300÷370=約81%にまで高まります。
議決権比率が高まれば、経営者の意思どおりの経営が行いやすくなるのです。

■属人的定めの活用例
(1)現状

株主 株数 持株比率 議決権の個数 議決権比率
経営者 30株 30% 30個 30%
古参幹部 20株 20% 20個 20%
親族 50株 50% 50個 50%
合計 100株 100% 100個 100%

(2)定款の定めにより経営者が保有する普通株式1株につき議決権10個を付与する

株主 株数 持株比率 議決権の個数 議決権比率
経営者 30株 30% 300個 81%
古参幹部 20株 20% 20個 5%
親族 50株 50% 50個 14%
合計 100株 100% 100個 100%

経営に関心のない株主を無議決権とし、経営権の安定を図る

出資して株式を取得したものの、会社の経営に関心のない株主に対して、「優先的に利益配当を行う代わりに、株主総会での議決権を行使できない」と定款に定めておけば、経営陣以外の株主が会社の運営に口出しするのを防ぐことができます。

事業承継後も、しばらく先代社長に経営権を残しておく

事業承継は、経営者の持つ株式を後継者に譲渡する形で行うのが一般的です。しかし、「株価の下がったタイミングで株式譲渡を行いたいが、後継者にすべてを任せるのはまだ不安」というような場合は、属人的定めを利用することで、大半の株式を後継者に譲渡しながら先代社長に経営権を残すことができます。

例えば、100株発行している株式を、経営者が70株、古参幹部たちが15株、経営者の親族たちが残り15株の割合で持っている場合、すべて1株=1議決権なら、経営者の議決権比率は70株÷100株=70%です。
そして、何もしないまま70株のうち50株を後継者に贈与した場合、議決権比率は先代経営者が20株÷100株=20%、後継者が50株÷100=50%となってしまいます。
しかし、「先代経営者の保有する普通株式には1株=10議決権を付与する」と定款で定めておけば、贈与後の議決権は先代経営者が200÷280=約71%、後継者が50÷280=約18%となり、株式の大半は後継者に受け継ぎながら、先代経営者に経営権を残しておくことができるのです。

属人的定めの手続き

属人的定めをするには、まずすべての株式に譲渡制限をつけている非公開会社であることが必要です。
その上で、株主総会の中でも特殊決議によって、株主ごとに異なる取り扱いをする旨を定款で定めることに賛成が得られれば可決されます。属人的定めに関する特殊決議は、総株主の過半数(人数)かつ、総株主の議決権の4分の3以上の賛成が必要です(会社法309条4項)。
定款の文句に決まった形式はありませんが、例えば次のような書き方ができます。

<定款例>
(株主の権利について株主ごとに異なる取り扱い)
第××条 当会社において、会社法第109条2項の規定にもとづき、●●が保有する普通株式については、株主の権利について本定款第△△条のとおり株主ごとに異なる取り扱いを行う。
(株主総会における議決権)
第△△条 ●●が保有する議決権の個数は、法令による別段の定めがある場合を除き、その保有する当会社の株式数に10を乗じた数とする。

※参考書籍:中野威人「安定した経営を継続するための Q&A 中小企業における「株式」の実務対応」(清文社、2020年)

属人的定めを利用する際に注意したいこと

属人的定めは経営の安定化に役立つものですが、次のような点には注意が必要です。

特殊決議の要件が厳しく、導入のハードルが高い

株主ごとに異なる取り扱いをする旨を定款で定めるには、株主総会の特殊決議が必要です。この特殊決議の要件は「総株主の過半数(人数)かつ、総株主の議決権の4分の3以上の賛成が必要」と非常に厳しいため、多くの場合は経営者の判断のみでの属人的定めの導入は難しく、ほかの株主の協力が不可欠です。

剰余金に配当をゼロにはできない

人によって異なる取り扱いを定められるとしても、残余財産の分配を受ける権利と剰余金の配当を受ける権利のすべてを与えない、とすることはできません(会社法105条2項)。

属人的定めは、株主が変われば普通株式に戻る

属人的定めは、持ち主が変われば自動的に普通株式に戻ります。
例えば、事業承継後も先代経営者に経営権を残すために、先代経営者が持つ株式について「先代経営者の保有する普通株式には1株=10議決権を付与する」と定めたとします。
のちに、相続によって後継者が先代経営者の株を相続した場合、当該株式は普通株に戻り「1株=1議決権」となります。

極端な差異を設定すると、税務上のトラブルになる可能性がある

属人的定めは、税務上どのように取り扱うかが明確に定まっていません。
そのため、取り扱いにあまりに極端な差をつけると、税務上のトラブルになる可能性があります。導入の際は、税理士や会計士など専門家の意見を取り入れ、慎重に取り扱い内容を決定することが求められます。

株主の協力が得られれば、経営権の安定化に役立つ

属人的定めには、株主総会の特殊決議(会社法309条4項)が必要ですので、導入の条件はかなり厳しいです。しかし、周りの株主の協力を得て導入できれば、経営者の議決権比率を高めて経営権の安定化に役立つほか、事業承継の際にも活用できます。
具体的状況に応じた定款の定め方や極端な差異になっていないかについては、ケースバイケースとなりますので、導入前に一度、専門家や東京中小企業投資育成株式会社へご相談ください。

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