真の「ダイバーシティ」で、進化する超・組織

グローバルの風が、伝統に変革を起こす

~低迷していた老舗企業が、劇的な進化を遂げる~

CASE③スズキハイテック株式会社

 

2006年5月、約25億円という過去最高の売上高から一転、リーマン・ショックなどの影響で業績が悪化し、2018年にはピーク時の約40%にまで落ち込んだ。そんな会社が今や、約26億円と売上高の最高記録を更新し、2024年には約45億円を見込む。創業110年を迎える老舗企業の見事なV字回復は、いかにして達成できたのか。その要因の1つに、外国人社員の活躍があった。

スズキハイテックはめっき加工を主力事業とし、さまざまなタイプの電動車(xEV)用部品を中心に展開している。その技術力は、国内トップレベルだ。
「電動車用部品向けに、まったく新しいめっき加工技術の開発に成功しました。当社のめっきを施すことで、部品の機能性が向上し、付加価値が高まるのです。その技術力が評価され、大手自動車部品メーカーからの受注が増えています」

そう胸を張るのは、同社の5代目である鈴木一徳社長である。需要の急拡大に対応するべく、スズキハイテックでは現在、多くの外国人社員が生産や管理などの現場に配置されている。その数、全体のおよそ4割。同社がこれほど多くの外国人社員を抱えるようになったのは、長い歴史の中で、ごく最近のことだ。

 

鈴木一徳社長

スズキハイテック株式会社
主な事業内容:
自動車部品・電子部品のめっき加工および表面処理
本社所在地:
山形県山形市
創業:
1914年
従業員数:
180人

自動車部品をめっき加工したあとの自動検査装置。
スズキハイテックでは、こうしたシステムや設備を積極的に導入し、
品質と生産性を向上させている

スズキハイテックは1914年、鈴木社長の曽祖父が創業し、曾祖母が2代目を継ぐ。戦後、祖父が3代目に就任。復興需要を追い風にミシンや音響機器などのめっき加工で、成長の礎を築いた。その後、自動車や半導体の部品へと進出し、1980年に鈴木社長の父である4代目が就任すると、さらに成長が加速する。特に半導体の需要拡大が、業績を牽引。鈴木社長が5代目に就任したのは2015年、創業100周年を迎えた記念の年である。盛大な祝賀会が開かれる一方、会社の業績は低迷していた。世界一を誇った日本の半導体産業は1990年代に入り凋落、2000年代に入るとアジアでの競争も激化し、各業界で海外に生産移管。その影響をもろに受けたのだ。
「父は経営の安定化に重きを置いて、積極的な投資は避けていました。そのおかげで会社は、厳しいながら無借金経営。財務基盤が安定した状態で、引き継ぎたかったのでしょう」

しかし、それは縮小均衡へと続く道。危機感を覚えた鈴木社長は、会社の変革を決意する。
「私の使命は会社を引き継ぎ、成長させ、6代目、7代目へとつないでいくことだと考えていました。そのために従来の受け身的な受注型から、開発型の企業へと転換することを目指し、積極的に投資をしたのです」

2015年から、電動車部品のめっき加工における技術開発を進めた。これが花開くのが、5年後の2020年だ。大手自動車部品メーカーでの採用が決まり、一気に量産へと突入する。V字回復のスタートである。

 

ポジティブで建設的、果敢に挑戦する外国人材

他方、鈴木社長はトップ就任前から、海外での戦略も立てていた。2012年に中国企業と提携し、めっき加工技術の提供をスタート。さらに2014年には日本の同業他社と組んで、メキシコにめっき加工の合弁会社を設立し、日系自動車部品メーカーとの取引を始める。

実は、これがスズキハイテックにおける外国人材採用のきっかけとなる。メキシコでのビジネス展開にあたってスペイン語ができる人材を探す中、知人の経営者から山形大学大学院に通うボリビア人留学生を紹介され、担当教授も含めて面接。トントン拍子で採用が決まり、同社初となる外国人社員が誕生した。さらに同教授に誘われ、山形大学への留学生が参加する合同会社説明会に出展。そこで、1人の中国人留学生と出会う。当時は、外国人材を本格的に増やすつもりはなかったが、中国でのビジネスに活きると考え、採用した。
「期せずして採用した2人の外国人材ですが、その優秀さに驚きました。とにかく発言や行動が、前向きで建設的なのです。困難にも果敢に挑戦し、失敗したら改善策を考えればよいという発想を持っている。当時はまだ業績が悪く、社内の雰囲気が暗い中、何をするにも後ろ向きの声ばかり。日本人社員に比べ、失敗を恐れず、自分の意見をはっきりと述べてくれますから、2人が入ったことで新たな風が吹きました」

たしかに、従来の日本人ばかりの組織からすれば、明らかな変化。そうした外国人材のポジティブな思考、行動力を会社の変革に活かそうと考えた鈴木社長は、外国人材の積極採用を決意する。そのために先の中国人社員と協力し、外国人が働きやすい環境や制度の整備を進めた。
「当然ですが、社内には外国人材を受け入れる仕組みありません。実際に何が必要なのかを話をしながら、福利厚生を含め、日本人とのコミュニケーションや心のケアなど、さまざまな観点から外国人材が働きやすい環境づくりに取り組みました」

2年ほどかけて雇用体制を整備し、2018年に外国人3人を採用。その後、現在まで毎年、留学生や技能実習生などの採用を続けている。
「外国人材の特徴として大きいのは、明確な目的意識があることです。新しいスキルや知識を習得して、1つでも上にステップアップしたいと強く考えており、意欲的に挑戦します。日本人とは少し違うマインドを持っていて、そういう人材が間近で働いていると、自然と感化されるのです。徐々に、社内全体の意識改革が浸透していったと思います」

 

多くの外国人材が、自動車部品のめっき加工技術を学び、現場で活躍している

「理解・尊重・共有」と、定着へのさまざまな工夫

スズキハイテックでは、そうした意欲的な外国人材にはどんどんチャンスを与える。実際、同社の中核部門である事業開発課では、2018年に入社したインドネシア人社員が主事(課長級)を務め、部下を3人抱えて活躍。ほかにも、複数の外国人社員がチームリーダーとして現場をまとめている。最初に採用したボリビア人社員は現在、メキシコ現地法人のナンバー2として、製造・品質部門を統括。こうした先行事例があることで、あとから入社した外国人材もさらにモチベーションがアップするだろう。

ただ、職場環境づくりに尽力した中国人社員は、中国人女性と結婚して、国に帰るため2021年に退職した。外国人材においては、こうしたケースも少なくない。その可能性も加味したうえで、できるだけ当人たちが日本で生活しやすい状況をつくることが必要だ。同社では、外国人材にも長く働いてもらうために、労働環境や制度を整える以外にもさまざまな工夫をしている。
「入社した外国人材が地域で安心して暮らすためには、さまざまな手助けが欠かせません。例えば、住居の賃貸契約では、私が保証人になるのです。他にも、地方生活では自動車が必須なので、運転免許の取得費用を貸与しています」

日常生活では希望者を募って、社用ワゴン車で大型ショッピングモールへ買い物ツアーに出かけたり、大型バスを貸し切って、山や海など近場の観光地へ日帰り旅行をしたり、定期的にイベントを開催している。
「外国人社員は私と一緒に写真を撮り、母国の親に送ったり、SNSにアップしたりしています。日本で楽しく充実した生活を送っていることがわかると、家族も安心するでしょう。仕事のモチベーションアップにもつながっているようです」

そうして2018年から続く外国人材の積極雇用は、2020年に始まった電動車部品の量産を成功に導いた。鈴木社長は、タイミングがよかったと振り返る。
「受注が大きく伸びていく中で、人手が必要でした。しかも初挑戦の、ゼロからアクセルを限界まで踏み込むような仕事ばかり。ポジティブなマインドを持つ外国人材がいてくれたからこそ、日本人社員も一丸となってV字回復が達成できたと思っています。それは日本人みんながわかっていますから、感謝の気持ちしかありません」

もちろん、外国人材と日本人が組織の中で、すぐに溶け合うかといえば、そういうわけではない。
「日本人社員の多くは最初、距離をとって様子見でした。しかし、なかにはポジティブ思考で外国人材と馬が合う社員もいます。まずはそこを点で結んで融合させながら、徐々にその輪を広げていきました。そうして技術開発が実を結び、お客様に認められるという成功体験を積み重ねていく。生産設備を増やし、売上がアップしていくと、外国人材に対する意識も、会社の雰囲気も、次第に変化していきました」

 

(左上)2023年の入社式でも、日本人学生とともに多くの外国人材が入社
(右上)同年6月には外国人材向けにさくらんぼ狩りツアーを実施し、鈴木社長も参加した
(左下)多くの外国人材とともに、社用車で日用品の買い物にも出かける。慣れない日本での生活を、会社として手厚くサポートするのだ
(右下)2023年に行われたビアパーティーの様子。社員の家族も参加し、温かな雰囲気で互いの交流を深めた

多様性を原動力に、山形から世界に貢献する

現在、スズキハイテックではボリビア人、インドネシア人、フィリピン人、バングラデシュ人、ネパール人が数多く働く。ひとくちに外国人材といっても、国が違えば文化も違うし、一人ひとりの個性もある。だからこそ鈴木社長は、「理解・尊重・共有」を大切にしている。
「国籍、宗教、文化などの違いを互いに理解、尊重し、そのうえで一緒にがんばろうという共通意識が大事で、ことあるごとに、それを社員に伝えています。そのためには、コミュニケーションがもっとも重要でしょう。日本人同士は、あうんの呼吸とか、一を聞いて十を知るということを求めてしまいがちです。しかし、外国人材の場合はそれが通用しません。わかりやすく的確な説明をする能力や、きちんと相手の話を聞く傾聴力は、外国人材が入ってくれたおかげで、全社的に養われました。これは本来、日本人同士でも必要なこと。そういう社内文化の醸成も、外国人材の採用の大きな効果です」

V字回復を遂げ、さらなる成長を目指すスズキハイテック。ただ、鈴木社長は、やみくもに売上拡大を目指す考えはないという。
「当社はものづくりの会社として、めっきというフィールドで山形、ひいては日本に貢献できる、価値を残せる企業にしていきたい。山形から新しい時代の革新的な技術や製品を開発・製造して、世界に発信していくために、ポジティブなマインドで挑戦する風土をつくり上げて、6代目に引き継ぎたいと思っています」

複雑かつ高い精度を必要とする超精密な部品を、短期間・低コストで
量産する
「MEMS・超精密電鋳微細加工技術」開発の様子

そのために、新たな技術開発にも余念がない。電動車部品に次ぐ分野として、2018年から「MEMS(微小電気機械システム)」の技術開発に着手。すでに完成段階にきており、ヘルスケアやバイオ分野での事業展開を図っていく方針だ。

「外国人材の雇用を通じて、多様性が生み出す力を実感しています。また、私を含めて、会社全体が優しくなりました。それは甘いという意味ではなく、社員一人ひとりに対するケアや心遣いができるようになったのです。そこで2021年から、障がい者の雇用も始めました。より幅広い人材が活躍することで、社員が主体的に動く組織にしていきたい」

100年を超える歴史を持つ同社が、150周年、200周年を見据えて、どのように進化していくのか。ダイバーシティがその原動力になるのは、間違いない。

 

 

機関誌そだとう217号記事から転載

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