生成AIの現状と今後の展望
近年、生成AIの進化は著しい。
仕事や産業構造、さらには私たちの暮らしそのものを大きく変えつつある一方で、「AIは人間の仕事を奪うのか」といった懸念も広がっている。
生成AIの現在地と今後の展望について、東京大学大学院教授の松尾豊氏に聞いた。

東京大学大学院工学系研究科
技術経営戦略学専攻
人工物工学研究センター 教授
松尾 豊氏
米国オープンAI社が開発したAI(人工知能)の代表格「ChatGPT」の最新モデルである「GPT-5」は、極めて高性能と評価されています。従来のAIは誤った回答を示すことも少なくありませんでしたが、GPT-5の場合、誤答を約80%も削減できたそうです。
一方、中国で開発された「ディープシーク」も、ChatGPTに匹敵する性能をもつとされています。米中を軸としたAIの開発競争は、世界的に加熱していて、AIの研究開発能力が各国の技術力を測るバロメーターとまでいわれるようになりました。
近い将来人間を凌駕するのか
では、AIが、どのように進歩したのかを振り返ってみましょう。現在のようにAIが急速に発達したのは、2000年代に入ってから。ビッグデータの集積と相まって機械学習が進み、AIは自動的に類推判断したり、人間の指示を受けなくても自主的に学習したりする「ディープラーニング(深層学習)」ができるようになりました。さらに2017年には、「Transformer(トランスフォーマー)」という画期的な深層学習モデルが登場します。これは、データの中からキーワードを抽出して、文脈をより深く、効率的に理解したりできるようになる技術です。さらに、Transformerをベースにして、「大規模言語モデル(LLM)」という深層学習モデルも開発されました。このモデルによって、AIは人間と同じように文章を読解し、作成することで、私たちとも自然な対話ができるように。2022年に公開されたChatGPTにも、この大規模言語モデルが搭載されています。
加えて現在のAIに使われているのは、人間の脳の仕組みを模倣した「ニューラルネットワーク」という技術。人間とAIの思考パターンは、ほぼ同じと考えていいでしょう。私は5~10年後、AIが「人間の学習能力を凌駕するのではないか」と予測しています。
AIもまだ万能ではない
こうしたAIの進歩は、すでに私たちの社会や働き方にも影響を及ぼしはじめています。特に関心が高いのは、「AIが人間の仕事を奪うのではないか」という懸念でしょう。実際、米国ではエンジニアの雇用が減少しているといいます。なぜならAI自身が「コンピュータのコーディング能力」を備え、プログラミングもこなせるようになったからです。
とはいえ、AIの進歩に伴う労働環境の変化には、“影”だけでなく、“光”の部分もあると、私は考えています。例えば、ベテランのエンジニアは、新人エンジニアと違って引く手あまた。AIを使いこなすスキルやノウハウを身につけているからです。AIもまだ万能ではありません。長時間のデータ処理は苦手ですし、AIの誤りをチェックし、是正する人手も必要です。金融機関で定型業務の大半がAIに代替されるとしても、接客やコンサルティングなどは、引き続き人間が担うでしょう。
さらに今後のAI開発で注目されているのが、「AIエージェント」と「ロボット」の分野です。スマートフォンに次ぐ巨大市場に成長すると、期待されています。
AIエージェントは、平たく言えば「メカのアシスタント」。例えば、出張の日時や行く先を指示すれば、航空券や宿泊するホテルなどの予約を自動的に手配してくれるわけです。また、大量生産・コストダウンによって、2027年頃には100万円台の「家庭用ロボット」が普及すると見込んでいます。「メカのお手伝いさん」として、掃除や洗濯といった家事も代行してくれるでしょう。
ローカル経済圏で存在感を
AI開発では依然、日本はトップ集団に属しています。しかし、年間50兆円をAIに投資している米国などには、大きく差をつけられているのも事実です。こうした状況を踏まえ、政府もAI開発を後押ししており、私が座長を務めるAI戦略専門調査会では、2025年にAIの開発と活用の国家戦略である「AI基本計画」を策定。「AIロボット協会」でも、国内のロボット約10万台のビッグデータを日夜収集し、産業界にフィードバックしています。
私たちの「松尾・岩澤研究室」も、AI関連の起業に注力しており、現在39社のスタートアップが生まれました。そのうちの2社は上場、時価総額も2000億円を超えています。
また、私たちの研究室で提供するAI講座は、アセアンやアフリカでも人気が高く、海外で展開する「GCIGlobal」は7721人以上が受講しました。アジアやアフリカでは、優秀なAI人材の流出が悩み。日本はそうした国々と連携し、AI人材の育成とともに、地元企業への定着を図っています。米中はAIの「プラットフォーム」の覇権争いに血道を上げていますが、AIの活用で付加価値を高め、アジアやアフリカのローカル経済圏で存在感を高める「第三極」の戦略が、日本の生きる道ではないかと考えています。

機関誌そだとう225号記事から転載










