投資先受賞企業レポート
東京商工会議所 第21回勇気ある経営大賞 奨励賞
インフラ整備に欠かせない、縁の下の力持ち

地盤試験の技術で支える、社会の発展

株式会社地盤試験所

株式会社地盤試験所
山本伊作 社長

株式会社地盤試験所
主な事業内容:
地盤調査(CPT調査)および杭の載荷試験
本社所在地:
東京都墨田区
設立:
1973年
従業員数:
49名

 

日本が国を挙げて掲げている、「2050年カーボンニュートラル」の実現。目標達成のために再生可能エネルギーの導入拡大が進められる中で注目されているのが、海上で風力発電を行う「洋上風力発電」だ。その名の通り、海上に風車を建てて発電をするわけだが、建設工事に取り掛かる前に、何よりも先に実施しなければならないのが、基礎の強度試験や地盤調査である。

東京都墨田区に本社を構える株式会社地盤試験所は、近年、洋上風力発電所建設の構造物基礎の品質を確認する計測およびCPT(コーン貫入試験)などの地盤調査分野で業績を伸ばしている企業だ。そしてその功績が認められ、東京商工会議所が主催する「第21回勇気ある経営大賞」で奨励賞を受賞した。

橋や鉄道線路、高速道路や発電所といった公共インフラや商業用ビル、マンションや戸建てなどの建築物など、あらゆる設備や建物において、建設工事が始まるずいぶん前から地盤調査と基礎設計は進められる。建設業界の中でもあまり光の当たりづらい分野ではあるが、私たちの安心安全な暮らしを支える上で欠かせない事業だ。

同社の代表取締役を務める山本伊作氏は受賞について、「目立たないところで頑張っている我々を、多少なりとも知っていただける機会になったのではないでしょうか。とはいえ、私自身も目立ちたくない性格で……」と控えめに話す。こうした謙虚な姿勢も含め、縁の下の力持ちといえるのかもしれない。

データの測定・解析が武器。あらゆる建設現場で活躍

同社の事業は大きく、「杭の載荷試験」と「地質(地盤)調査」の2つに分けられる。いずれも、建物の設計に欠かせないものである。前者は建設予定地に杭を打ち込み、荷重や衝撃などを加えてデータを測定・解析。解析結果へさらに専門的な計算を加え、地盤データとして納品する。後者は、地面を採掘して地盤の硬さや地層状況を判断する、CPTやボーリングをはじめとした地質調査だ。こちらも、調査によって得られたデータが納品物となる。顧客は、ゼネコンや公共事業を担う国や地方自治体などが主だ。

同社はこれまで、羽田空港の滑走路、レインボーブリッジ、東京湾アクアライン、東京国際クルーズターミナルといった名だたる建築物の試験や調査を手がけてきた。パプアニューギニア国の橋梁の架け替え計画といった海外におけるODA(政府開発援助)の案件も数多く担っている。
洪水などで発生した河川堤防の決壊原因を解明するための調査や、近年、土石流災害のニュースを目にすることが多い盛土の調査にも、同社が参画している。直近では、現在建設中で2030年の開通が想定されている阪神高速湾岸線の延伸事業において、試験と調査を担当した。

「北海道から沖縄まで、日本の地形はとても複雑です。火山の噴火で堆積した火山灰でできた土地もあれば、海底が隆起してできた土地、いくつもの地層が重なっている土地もあります。そうした地形が入り組んでいるので、高速道路のように建設範囲が広い場合は1~2カ所の調査では終わりません。地形の特徴が異なる場所ごとに調査を行う必要がある。そうなると、調査だけでかなりの期間を要するのです」
日本各地のさまざまな開発計画へいち早く参画し、複雑な地形に対応しながら必要なデータを緻密に解析し、提供していく。高い専門性が求められる仕事である。

 

レインボーブリッジの建設にも、同社の技術が生かされている(写真左)。
近年、引き合いの増えている洋上風力発電所の建設(写真右)。

 

ここへ洋上風力発電関連の仕事が加わったのは、数年前のこと。これまででもっとも大きな案件は、国が「洋上風力促進区域」に指定している海域のうち、秋田県由利本荘市沖と秋田県八峰町・能代市沖、千葉県銚子市沖の3カ所である。

同社に白羽の矢が立った理由は、杭の載荷試験が実施できること、また設計に必要なデータを得るために必須だった「CPT」を得意としていたからである。CPTとは、コーンプローブと呼ばれる細長い円錐形の金属棒を地盤に圧入し、先端抵抗や周面摩擦といったデータを測定する手法。ヨーロッパなど海外ではメジャーだが、日本ではあまり導入されていない。
そんな中、同社は先代の頃からCPTを活用した地盤調査を実施しており、業界シェアナンバーワンを誇っている。日本の洋上風力発電所建設には、同事業の先駆けであるヨーロッパの技術が用いられており、CPTによる調査が必須だ。そのため、同社が誇るCPT技術が重宝されたのだ。

この大規模な洋上風力発電事業への参画は、同社の事業を大きく拡大した。なぜなら、これまではデータの取得・解析のみを担ってきたところから、試験・調査を実施するために必要な工事全般までを請け負う機会になったからだ。
「風車建設の載荷試験は、現場である沖合ではなく、スケールを小さくして地上で実施します。これまで橋や高速道路などの試験・調査をする場合は、杭の施工や杭を打ち込む地盤の整備といった試験まわりの各種工事を、施工業者に任せていました。けれど、この洋上風力発電所の案件は、工事の部分も当社で担ってほしいとの要望があり、トータルで請け負うことになったのです」

試験用地を借り、周辺住民へ工事の説明をし、現場で作業する業者と打ち合わせをし、試験が終わったら打った杭を抜いて用地を整備し、元の状態に戻す。こうした一連の工事には、年単位の期間を要する。また、保険や労災といった管理面も含めた工事に関連する知識も必須だ。
「かなりの投資をし、人員も割いて取り組みました。あまりにもリソースが足りなくて、限られた人員を奪い合って社内が険悪になったこともありましたよ」と、山本氏は当時を振り返る。
この年、同社の業績は前年比の2倍に増加。苦労を重ねて実績を積んだことで、新たな洋上風力発電事業の案件も舞い込んでいるという。

業界ナンバーワンのCPTを建設業界へ普及させたい

洋上風力発電事業は地域社会・経済の活性化が見込める国の重要施策であり、「杭の載荷試験・CPTにおいて、専門技術者として地域社会に貢献できる貴重な機会です」と、山本氏は参画への意義を語る。
しかしながら、実は今、洋上風力発電には逆風が吹いていることも事実である。急激な物価上昇と円安に伴い、資材の値が高騰。不安定なウクライナ情勢が原因で、運搬費も高止まりしている。人件費も上昇傾向だ。2025年、大手総合商社が「採算が合わない」との理由で、事業化を予定していた3海域での洋上風力発電所の建設から撤退したニュースは記憶に新しい。

ただ、同社にはCPTという武器がある。これを活かす新たな市場として注力しはじめているのが、建築分野である。現状、小規模のビルなどを建てる際には、中~大規模のビル建設と同じくボーリング調査が用いられている。それをCPTに取って代わらせたいと考えているのだ。

ボーリング調査を実施して杭基礎工事を行えば安全な設計は担保されるが、小規模なビル建設などでは杭基礎はオーバースペックになる場合が少なくない。中~大規模のビル同様の杭基礎がなくとも、建てられるケースが多いのだ。CPTによる調査ならば、軟弱な地盤の評価をより正確に行え、多くの現場で杭基礎を用いずに建設する判断ができる。これによって、工期の短縮やコスト削減が実現できる。CPTは小規模ビル建築の分野において、メリットの高い調査方法なのだ。

 

業界ナンバーワンのシェアを誇る、CPT試験の様子(写真左)。河川や海の中で地質調査を行うこともある(写真右)。

 

しかし、日本においてはボーリング調査が一般的で、CPTの認知度は低い。広く建築業界にCPTを知ってもらう努力が必要となる。
「認知度が低い要因の1つに、CPTの技術に関する学術的な論文や研究成果が出回っていないことが挙げられるでしょう。論文や研究発表でCPTを用いた調査が信頼に足るものであることが広まれば、活用してもらえるチャンスは増えるはずです。建物の基礎を左右する調査ですから、企業としての実績をアピールするだけでは不十分。大学や研究機関などと共に検証を重ねて、研究成果を発信しているところです」

また、CPTはもともと海外で生まれた技術であるため、調査機械は海外製だ。円安の今、機械の価格がどんどん上がっている。かつては一式1500万円ほどだったものが、2000万円以上に跳ね上がっており、メンテナンスのためにメーカーへ輸送するにも費用がかさむ。
これを脱却したいと、同社は2022年、協力会社と共に調査機械の自社開発に着手した。2011年に同社が中心となって立ち上げた「CPT技術協会」の活動も活性化させ、今後一層、CPTの普及と事業拡大を目指す。

組織をアップデートして、現場の変化にいち早く対応

高度な専門性が必要とされる業界であるため、人材育成の重要度も高い。2020年に代表取締役に就任した山本氏は、これからの事業を担う人材を育てる目的で組織体系を大きく変えた。

タイのSTS社と共同セミナーを開催。杭の急速
載荷試験で技術交流および技術供与を開始。

「以前は、計測部(杭の載荷試験)と地質調査部(地盤調査)の2部署に分け、互いに競わせる形でやってきました。けれど、1つの案件で杭の載荷試験と地盤調査の両方が必要なケースも少なくありません。そうすると、先方の担当者がそれぞれの部署に出向かないといけない場面もあったのです。小さな会社なのに、縦割り組織になっていては効率が悪い。それに、1人が杭の載荷試験と地盤調査、両方の知識や経験をもっているほうが、業界全体を見ることができて有意義です。それで、思い切って部署を1つにまとめました」

山本氏は、組織改革に踏み切った理由をこう話す。若手社員は、杭の載荷試験と地盤調査いずれのOJTも経験するし、既存社員にはこれまで専門外だった仕事に関して自ら学ぶよう促している。また、管理職の社員に対しては現場での経験を積極的に積むように働きかけている。
「当初は社員から反発もありました。でも、現場経験がない人間が安全管理をするのは難しいでしょう。私も昔、現場でケガをした経験があり、だからこそ現場の危険性を身に染みて感じているし、責任をもった安全管理ができるのです」

昨今は、建設現場の安全管理が非常に厳しくなっており、それに適応しなくてはならない。大手ゼネコンの案件ともなると、なおさらだ。会社としての信用を落とさないためにも日々、時代に合わせた意識や知識のアップデートが求められているのだ。組織変革の実施には、変わりはじめている建設現場にアジャストしようという意図も込められている。

CPTの認知度拡大のほかに、今後見込んでいるのは、新幹線や在来線などの鉄道における線路開発工事への参画だ。現在、各地で鉄道の延伸計画が持ち上がっており、杭の載荷試験などで建設に寄与できるチャンスは多い。また現在参画中の阪神高速湾岸線の延伸事業と同様に、高速道路などの延伸計画も絶えない。
まだ表に出ていない公共インフラなどの計画においても、何年も先に同社が安全性の調査を担うことになる。社会の発展を人知れず支える、陰の立役者たち。受賞を機にその後ろ姿へ心からの拍手を贈りたい。

 

投資育成へのメッセージ

社長
山本伊作

人事評価制度や給与体系見直し時のアドバイス、社労士や弁護士の紹介などビジネスの多方面でサポートしてもらっていて、当社にとっては投資家以上の存在です。控えめな性格ゆえ、自分からネットワークを広げるのは難しいのですが、投資育成さんがお持ちのネットワークや情報をぜひ活用させていただきたいです。今後もよろしくお願いします。

 

投資育成担当者からのメッセージ

業務第一部 部長代理
小舟雄大

事業を通じてさまざまな社会インフラの構築に貢献している自負があり、業界のリーディングカンパニーとして業界全体を引っ張っている、かっこいい会社です。山本社長はご自身に厳しく、技術向上にも妥協なくストイックで、その姿勢が社員の方々にも伝わり、今の前向きで明るい組織をつくっているのだと思います。そのような貴社が今回このような形で表彰されたこと、非常にうれしいです。このたびはご受賞おめでとうございます。

 

 

機関誌そだとう225号記事から転載

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