2025年度 海外視察会レポート
イタリア視察会

中小企業中心のイタリア経済。
EU開拓拠点としての可能性に迫る

2025年11月11日~15日

 

毎年ご好評をいただいている投資育成の海外視察会(団長 特別顧問 望月晴文)。
2025年度はイタリア5都市へ、投資先企業の皆様とご一緒に訪問しました。
現地で見たイタリアの今を、事務局として参加しました友咲乃がレポートいたします。

 

業務第二部主任
友 咲乃

 

イタリアは国内企業約440万社のうち、従業員数50名未満の中小企業が約99%を占めるといわれるほど、小規模事業者が経済の中心を担う国。その産業構造は、どこか日本と重なるところがあります。そんな同国には、現地のサプライチェーンに溶け込み、EU全域、ひいては世界市場に見据えて挑戦する日系企業の姿がありました。

イタリアを支えるファミリービジネス

イタリアのGDPに占める製造業のシェアは19.9%とサービス業に次ぐ高い割合となっています。特にファッション、家具、食品などの分野で高いデザイン性や品質を保っており、工業生産付加価値額は世界7位を維持。国としても「企業・メイドインイタリー省」を設置し、国内の産業、知的財産、ブランドを保護することで、同国でしかつくれないものを守ろうという動きがあります。

今回視察したMAGLIERIA GEMMA(以下、マリエリア・ジェンマ)とFPM Milano (以下、FPM)は、ともに創業60年を超える地場の老舗ブランドです。マリエリア・ジェンマは、世界一細かい編み目で上質なニットを、FPMはデザインに優れた高級ラゲッジをつくっており、機械に頼らないまさに職人技のものづくりが特徴。そして、日本の総合商社・伊藤忠商事はこの2社の高い技術力を評価し、日本市場への流通パートナーとして支援しています。長い歴史と高い技術力を持った2社は、日本の総合商社のブランド戦略を支える重要な企業です。

そんな2社に共通するのは、いずれも同族会社であること。実は、現地企業はファミリービジネス(同族経営)が多く、そのことが伝統的な職人技やものづくりを支える要因の1つなのです。中長期的な視野での経営が可能であることや、トップダウンの組織体制で意思決定が迅速であることから、ブランドの構築に貢献しています。また、同族経営であるが故に、地域との連携も密接。地元サプライヤーとの連携でリードタイムの短縮や柔軟な生産体制が可能なことに加え、人材は地元採用が基本です。視察した2社はいずれも工場近隣で採用を行っており、定着率も高いとのことでした。

一方で、イタリアの産業政策には課題もあります。同国では企業規模が大きくなるほど、会計・税務・監査の要件やESG対応などの義務が厳格化されます。結果として、伝統的なクラフトマンシップやニッチ産業を支える小規模事業者が優遇され、企業は小規模で柔軟な体制を維持しようとします。しかし、規模拡大のインセンティブが働きづらいことは、資本力や人材確保などに限界が生じ、長期的な競争力低下のリスクをはらんでいます。実際、デジタル化対応の遅れも課題となっています。

日系企業がイタリアを起点に世界市場に展開するためには

これまで見てきたように、同国は同族経営かつ地域密着型のビジネスモデルが主流。これによって、市場や顧客のニーズに素早く対応できる小回りのよさを実現し、ビジネスの効率性において日本を大きく上回る面があるといわれています。また、デザインやブランドを重視する企業が多いことから、工業意匠数は132カ国中1位。こうした強みや技術・販路などを持つ現地企業を買収する事例が増えており、特に機械・繊維業界などでその動きが顕著です。

今回視察した日立レールは、イタリアを拠点に欧州地域への進出に成功した日系企業の1つ。2015年、当時の日立グループの鉄道事業はアジアでは強固なポジションを持つ一方、欧州での本格的な事業基盤に欠けていました。そこで、イタリア国内の鉄道車両メーカー、「アンサルドブレーダ」の買収を決断したのです。同社のピストイア工場は、19世紀後半から蒸気機関車を製造してきたイタリア最古級の製造拠点。鉄道好きが多い街でもありました。そんな地場に根付いた鉄道工場を買収し、見事EU圏の鉄道車両生産の中心として成長させたのです。日立グループはイタリアの製造拠点を得たことで、「EUの鉄道メーカー」としての地位を確立。その後ドイツや中東地域への参入を実現しました。

 

日立レールでの1枚。背景に映るのは、高速列車「Freccia Rossa1000」号。

 

DENSO Thermal Systems S.p.Aは、地元のサプライチェーンを構築しながら、デンソー本体の経営理念を浸透させEU全域への製品展開に成功しています。日本国内におけるデンソーは、トヨタのTier1の位置づけを確立していますが、同社も欧州トップクラスの車両メーカーへ販売を行っています。2004年にアフターマーケット部門を新設し、さらなる市場開拓へ注力していました。

ミマキエンジニアリングも欧州市場での競争力強化、およびテキスタイル市場向けの高性能なインクジェットプリンタ開発のため、イタリア現地企業「ラメカニカ」の買収を決断した企業です。ミマキグループではテキスタイル市場の売上を伸ばすうえで、アパレルの中心地である欧州の需要を取り込むことは必要不可欠と考えていました。同社の竹内専務は「北イタリアは日本に似ている。北部の人は離職率も低く、真面目で勤勉な性格のため仕事がやりやすい。買収は成功だった」と言います。

 

ミマキエンジニアリングの竹内専務より
インクジェットプリンタの
仕組みについてご説明いただいている様子。

 

この3社に共通するのは、地場に根付いた地元企業を、欧州市場への展開拠点として機能させている点。その背景には日本からの技術供与をしっかりと行い、品質を担保していることがあります。日立レールでは、日本から導入したアルミの溶接技術を用いることで、より美しくズレの少ない車両づくりを可能に。ミマキエンジニアリングでも、日本から技術伝承を行うほか、治具を日本から持ち込むことで、日本国内での品質を現地でも担保しています。そして、これらの技術を支えているのは、現地採用したイタリアの技術者たち。彼らは、日本国内と同等かそれ以上の品質担保に邁進していました。

一方で、イタリア企業を買収する際の留意点もあります。小規模事業者の多い同国は、管理基準に日本と異なるものが採用されており、内部統制やガバナンス体制の統一が難しいとされています。また、労働規制が厳しいことでも有名で、基本的には会社側から解雇を要求できません。加えてイタリア人の年次休暇は多く、未消化の場合金銭での代替が制限されていることも、留意しておくべきです。陽気で楽しく、時にルーズなイメージのイタリア人。一見日本人とは対照的な印象がありますが、根本的な性格は通じるものがあると感じました。日系企業がEU、そして世界市場を見据えるとき、イタリアは強力なパートナーとなる可能性が十分にある国といえるでしょう。

機関誌そだとう225号記事から転載

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