企業価値を高める「GX」の新常識

加速するゲームチェンジ。鍵を握るのは“脱炭素"だ

総論 株式会社ニューラル 代表取締役CEO 夫馬賢治氏

 

2020年、当時の菅義偉首相は、「2050年カーボンニュートラル」を宣言した。これは、二酸化炭素などの温室効果ガス(GHG)の排出量を2050年までに“実質ゼロ”にする、すなわちカーボンニュートラルを実現するという目標である。

そもそもカーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、全体としてプラスマイナスゼロにする状態のこと。そして、この実現に向け、エネルギー、重工業、農業などの排出量の多い業界で技術を革新し、経済活動を営みながらカーボンニュートラルを実現することが、GX(グリーントランスフォーメーション)である。

2023年に施行された「GX推進法」により、政府は10年間で官民合わせて150兆円規模の投資を見込む。再エネ導入や新技術開発への補助金、低利融資などの形で中堅・中小企業の取り組みを支援する。
「2050年に日本のカーボンニュートラルが実現されたとすると、当然、中堅・中小企業もそれを実現しているということになります。もちろん、国は中堅・中小企業に対して法律でGHG削減を義務づけることはないでしょう。その代わりに、その役割を大企業に背負わせます。法規制ではなく、大企業によって、サプライチェーンを通じて中堅・中小企業のカーボンニュートラルを実現しようとしているのです」

こう話すのは、ESGやサステナビリティ経営に詳しい、株式会社ニューラルCEOの夫馬賢治氏だ。実際、2027年から大手上場企業に段階的に導入されるサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)では、サプライチェーンのGHG排出量の算出や削減目標設定を実質的に義務づけられる。今後、中堅・中小企業への要請が強まることが予想される。
「中堅・中小企業にとっては、法規制以上に、厳しい時代がはじまります。『市場原理』を通じた事実上の規制がスタートし、GXへの対応が遅れる企業は競争力を失い、市場からの退場を迫られるでしょう」

大企業からは最初に一次サプライヤーのTier1企業へ、次にTier2、Tier3の企業へと要請が順次やってくる。
「一部の業種では、Tier1の中堅・中小企業にはすでにGHG排出量を算出し、できれば削減方法も自分たちで考えてほしいという要請がはじまっています」

 

GXは組織の未来を拓く“イノベーション”の源泉

とはいえ、足元の経営で手いっぱいの中堅・中小企業にとって、何から着手していいのかわからないという経営者も多い。まだ、手つかずの企業の場合、まずは「知る」ことが重要だと夫馬氏は指摘する。
「トップ自らがGXとは何か、その目指すもの、本質を理解することが大切。そのうえで具体的に動き出すという経営判断をするべきです」

最初に行うのは、情報収集。すべてを自分で調べる必要はなく、GX対応の担当者を置くことを推奨する。若手従業員でも構わず、本来の業務と兼任でOK。事業承継を見据えて次期経営者候補も適任だという。
「大事なのは社長直轄として、収集した情報を共有することです。経営のトップがプロジェクトの全責任を負うこと。丸投げではうまくいきません。最初は担当者と社長の二人三脚で走りましょう」

経営者は一方で、業界団体などでGXに関する意見交換を行うといい。最近は金融機関も積極的に関与しはじめているので、取引先金融機関に相談するのもおすすめだという。

経営トップの理解が進み、全社をあげて取り組む方針を決めたら、総務や経営企画部門などに専門チームを設ける。最初の取り組みとして夫馬氏が推奨するのが、コスト削減につながる活動だという。
「実際、大手を含め大多数の企業がそこからはじめています。まずはムダをなくす。廃棄物を減らせばGHGとともに、廃棄物処理費用も減らせます。製造業であれば、歩留まりの改善など生産性を高めることで、エネルギー効率がアップし、電気料金の削減にもつながるでしょう」

コスト削減でGXの効果を実感した次は、本社や工場の敷地に太陽光発電を導入する。これもコスト削減につながることが多いという。
「この2つの成功体験で、GXが楽しくなり、次にできることは何かと考えられるようになるはずです」

GXの情報収集からここまでは、半年から1年程度で可能という。さらに次のフェーズでは、少し大きな施策に挑戦する。設備の老朽化に伴う更新のタイミングで、省エネルギー機器の導入などを図るのだ。同時に、原材料や製造方法の見直し、バイオマス燃料への変更なども含めて設備を刷新できれば理想的だと夫馬氏は言う。
「こうしたGXの取り組みを通じてこれまでにない発想が生まれ、自社製品やサービスのイノベーションにつながる可能性が期待できます」

中堅・中小企業もGXから逃れることはできない。GXは一朝一夕には進まないだけに、サプライチェーンにとどまるためには、いますぐ着手することが肝要だ。

 

 

 

株式会社ニューラル
代表取締役CEO
夫馬賢治 氏

サステナビリティ/ESG領域で複数企業の社外取締役や社外アドバイザーを務める。信州大学グリーン社会協創機構特任教授。環境省、農林水産省、経済産業省などの有識者委員を歴任。ニュースサイト「Sustainable Japan」編集長。著書に『超入門カーボンニュートラル』(講談社)など。

 

機関誌そだとう225号記事から転載

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