投資先受賞企業レポート
世界有数の技術力をより高度に、かつクリーンであることを求めて……

ナノレベルの世界で戦う、技術で紡ぐ未来

株式会社ラスコ

堀野賢一社長
1972年、東京都生まれ。大学卒業後、
2001年に株式会社ラスコへ入社。
2022年、代表取締役社長に就任した。

 

株式会社ラスコ
主な事業内容:
半導体・液晶業界向け温湿度制御装置、空気清浄装置の製造
本社所在地:
埼玉県加須市
創業:
1964年
従業員数:
288名

 

ミリメートルどころか、マイクロメートル、ナノメートルの単位で語られる半導体の世界。その製造過程で用いられる特別な装置を手がけているのがラスコだ。同社の堀野賢一社長は、「例えば、畳1畳分の大きさにシャープペンシルの芯ほどの線幅で描いた回路を、1センチメートル四方に集積化する。これがおよそ20年前の半導体技術です。それが今や、畳4畳分以上の大きさに描かれた回路を集積して仕上げるのが、当たり前となっています」と、半導体分野の技術革新スピードと緻密さを語る。

品質と安全に十分配慮しながら、社員の手によって
装置を慎重に組み立てていく。

ラスコの主力製品は、チャンバーと呼ばれる環境制御装置だ。半導体はウエハーという板の上に電子回路のパターンを転写(露光)し、回路を形成する。この回路や素材は非常に微細で複雑なため、少しの温度変化や振動も、塵やほこりなどの侵入も許さない。ゆえに高性能のチャンバーを用意し、ベストな環境下で製造しなければならないのだ。

求められる温湿度制御は、±0.002℃。そして空気の清浄度は世界最高基準の「クラス1」。技術的な要求が他分野とは桁違いに高いため、半導体露光装置を製造する企業はオランダと日本に数社しかなく、その数社で市場シェアのほとんどを占めている。そこへ多くのチャンバーを納めているのが、同社なのである。

「温度が0.1℃上がるだけで、アルミなら0.1ミリメートル膨張してしまう。マイクロメートルやナノメートルで回路が走っていますから、その膨張だけで大きなブレが生じて、不良品が出るのです。目に見えない塵やほこりも同じ。回路をウエハーに照射する際に、影が生じる原因になります。どれだけ高性能のチャンバーを使うかで、半導体の歩留まりが決まるわけです」

ISOのみならず、CE(欧州連合の安全規格)やUL(アメリカの製品規格)などを取得し、付加価値の高い製品を製造するラスコは、技術も性能も、かかるコストも一級品。それゆえに「高級車はつくれるけれど、大衆車はつくれないよね」といわれることもある。
「大衆車もつくろうと思えばできるけれど、同じ値段では無理でしょうね」と堀野社長は笑う。

他社の追随を許さない独自の解析・設計システム

液体・気体の流れを予測し、環境制御装置の気流を可視化した画像。

創業は1964年。当時は食品業界向けに、冷凍・冷蔵機器の設備工事を手がけていた。しかし、1970年代に入ると保冷車の普及で、各社の冷凍・冷蔵倉庫需要が激減。抜本的な事業の見直しが求められた。そんな折、思わぬ出会いがあったという。先代が商社からの依頼で電気設備施工を引き受け、半導体の見本市へと足を運んだのだ。そこで知ったのが、半導体の製造工程では高度な温度管理や空調設備が必要だということ。当時、半導体露光装置はほとんど存在せず、高精度な温湿度、空調管理を実現する企業もなかった。そこに、商機を見出したのである。オフィスに寝泊まりして、それまで培ってきた空調技術の応用による技術開発に勤しむ日々が始まった。

顧客に要望を聞きながら幾度も試行錯誤し、失敗を繰り返して開発に邁進。そうして徐々に独自技術が確立されていく。高精度温調装置製造の自社工場を建設し、メーカーとして第2のスタートを切ったのは、1980年のことだった。
「当時はまだ、そこまでの高制御は求められていませんでした。せいぜい±1℃ほど。そこからどんどん半導体製造の緻密さが増していき、それにともなって厳しい制御が要求されるようになっていきました」

空気清浄の技術は、かつて有していた冷凍・冷蔵技術とは分野が異なる。そのため一から技術を確立しなければならなかった。空気清浄機などにも用いられる高性能フィルターで浮遊するゴミをキャッチするのは、技術としては難しくないが、肝心なのはチャンバーの空間設計だ。製造する半導体ごとに異なる設備が搭載されたチャンバー内の、どこからどこへ空気が流れているのか。それを解析したうえで、フィルターを通過した空気だけが流れるように設計する。これをラスコは、独自の気流解析システムによって実現した。

また、半導体製造のプロセスにおいては、一部塗装材が用いられるのだが、それが他の化学物質に影響を受けてケミカルアタックを起こすことがある。しかしながら、半導体製造は機密情報が多く、どんな成分や素材が使われているかが開示されない。それゆえ、何が化学反応を起こしているのかを突き止めるのが非常に困難だ。さまざまな素材や部品を試して、対処法を探るしかない。

そうして目に見えないものと戦いながら、コツコツと積み上げてきた技術があるからこそ、同社は今、ニッチトップ企業として君臨できているのである。今回の受賞にいたった背景も、そこにあるのだろう。

もう1つ、2002年に気流解析システムとともに構築したフル三次元設計システムも、ラスコの技術を支えている。チャンバーの設計は、それまで二次元で行われてきた。最終的な仕上がりをイメージするために、図面を重ね合わせて干渉具合を確認するのだが、描かれた線が多過ぎて、どことどこが干渉するのか、わからないケースが多かった。

「装置を仮組みする段階で、ここがぶつかってしまうとか、ここに穴が足りないとか、不具合が出てきます。簡単な修正ならいいですが、やり直すのに時間や大きなコストがかかる場合もある。そうした現場の課題感がありました」

三次元設計システムを導入したことで課題はほぼ解消され、納品スピードが格段に上がった。とはいえ、当時、三次元設計システムを取り入れている企業はまだ少なく、チャンバー内に設備を入れるサプライヤーは困惑したという。そのため、1軒ずつサプライヤーのもとヘ足を運び、三次元設計システムからの製造を指南した。そうした他社に先駆けたシステム導入が功を奏し、現在の安定的な供給に寄与しているのだ。

 

(写真左)環境制御装置の仕様検討や解析、CADを用いた設計を進めている様子。
(右)装置内の温湿度をグラフ化した画像。温度は±0.003℃、湿度は±0.1%の精度で制御している。

危機的状況を乗り越え、新たなフェーズへと突入

半導体業界と聞くと、右肩上がりのイメージがあるが、同社は経営危機を迎えたことがあった。100億円あった売上が、リーマンショックで一気に30億円まで下落したのである。苦渋の決断で大規模なリストラを決行し、約300人いた社員を100人ほどに減らした。さらに、徹底的に経費を削減。在庫管理など、これまでの体制を一から見直した。
「会社がなくなるかもしれない危機に、同じやり方を続けてはいられません。それまでは1年分の在庫を確保して、必要なときに使えばいいという管理方法になっていたので、意識を変えていく必要がありました」

ただ、この経営危機はたしかにピンチではあったものの、古い体質を一新する良いチャンスでもあったと、堀野社長は前向きに捉えている。
「大きなきっかけがない限り、長く続けてきたものを変えるのは難しい。同じようにやっていれば楽で、みんな現状維持がいいわけです。でも、否が応でも変えないといけない局面を迎えた。行く末を考えれば不安でしたが、会社が新しく変わっていく実感を持てた時期でした」

それまで1社に傾倒していた受注体制も見直し、受注先を増やしてリスクヘッジする体制に変更、新規取引先の獲得に尽力した。景気回復にともない半導体業界は成長を見せ、今やスーパーサイクルと呼ばれる需要の高安定状態に突入。それに呼応してラスコも躍進し、2022年には売上高100億円を達成、社員数も300人弱まで持ち直した。

半導体製造には、大きく分けて前工程と後工程があり、これまで高精度の温湿度制御や空調管理が求められていたのは前工程のみだった。しかし、昨今は後工程においても、高い温湿度制御や空調管理が要求され始めた。これは同社にとって、強い追い風である。

こうした拡大基調の中、2022年にトップへ就任した堀野社長はまず、職場環境と社員の待遇改善に着手した。2023年には、8.5%の賃上げに踏み切っている。
「取締役を務めていた時代に、経費周りを見直せば、ちゃんと利益を出せる会社だとわかっていたのです。出た利益は、しっかりと社員に還元したい。だから、社長になったタイミングですぐに取りかかりました」

ラスコは管理職クラスの人材が不足していることが課題となっており、現在、中途採用での獲得に力を入れている。賃上げの効果は、そうした人材獲得にも出始めているという。
「当社には職人気質の社員が多く、すべて自分で仕事を抱えてしまう。適切に仕事を配分したり、マネジメントしたりできる人が少ないのです。管理職セミナーなどに参加を促して教育も進めていますが、新しい人材にもぜひきてほしいと思っています」

業界も会社も拡大する中で勝ち続けるには、組織を強固にすることが欠かせない。ダイバーシティ経営も掲げ、能力のある人は性別や年齢、人種を問わず積極的に受け入れている。リストラ前はほとんどいなかった派遣社員やパート社員も増え、多様な働き方に対応するようになった。

 

新たな一日を迎える社屋。これからのRASCOが、持続可能な社会とともに歩む姿を映し出す。

環境配慮へさらに注力し、より一層、選ばれる企業へ

2024年、創立60周年を迎え、見据えるのは100周年だ。
「目の前にいる顧客の要求に100%応えるのは当たり前。ニーズを先取りして、一歩先の提案をしていくのが理想の姿です。そのためには、新しい技術を積極的に取り入れていかなければいけません」と堀野社長は抱負を語る。

半導体製造にはガスや電力、水を多く使用する。これらをどうクリーンにしていくかは顧客の課題であり、同時にラスコの課題でもある。温湿度制御と空気清浄度が最高レベルに達した今、注力すべきはエネルギーのグリーン化と省エネだ。同社は2019年、埼玉県環境SDGs取組宣言企業に名を連ねたタイミングで、太陽光発電システムを導入。工場や社屋の電力はすべてグリーン化した。

「サプライヤー評価が年々厳しくなっています。生産能力があっても、環境に配慮していない企業は取引してもらえないでしょう。そうした中で営業担当者がせっかく話をまとめてきても、“会社のせいで売れない”という状況をつくらないのが私たち経営者の仕事です。この先、ますます取引基準が厳格になるはずですから、アンテナを張って、クリーンな取り組みにもっと着手していかなければなりません」

また、現在は右肩上がりとはいえ、「いつどんなゲームチェンジが起こるかわからない」と、同氏は常に危機感を抱いている。すさまじい勢いで技術革新が起きている今の時代、温湿度制御や空気清浄が必要ない製造の仕組みが開発されたり、半導体チップに代わるものが誕生したりして、突然に仕事がなくなる可能性がないとはいい切れないのだ。もし、そんなことが起きても生き残れるよう、新たな分野への進出も視野に入れ、広くリサーチしているという。

他社に真似できない技術を持っていてもなお、進化や変革の意欲を持ち続け、歩みを止めない。この気概こそ、100年企業を目指すための原動力となるのだ。

 

東京中小企業投資育成へのメッセージ

私自身、経営に関する知識がまだまだ足りず、いつも適切なアドバイスや情報をいただけて本当に助かっています。感謝しかありません。海外視察会やセミナーなど貴重な企画も多く、よく参加させていただいています。今後もより幅広い分野で、視察会やセミナーを開いていただけたらうれしいです。引き続きよろしくお願いします。

 

投資育成担当者が紹介!この会社の魅力

この度のご受賞、誠におめでとうございます。ご推薦にあたり、あらためて貴社のことを勉強しなおし、堀野社長や藤保取締役にこれまでの歴史や会社への想い、今後の展望を教えていただく中で、このような企業にぜひ受賞してほしい、受賞してもらわなければいけないと、使命感のようなものを感じて筆を走らせたことを思い出します。今後も、超高精度でお客様の望む環境を実現し世界最先端のものづくりを支える貴社を、微力ながら応援してまいります。

業務第五部 部長代理
内山夕輔

 

機関誌そだとう222号記事から転載

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