トレカン
~Treasure Company~

変革の先に、会社と社員の「夢」を追いかける

株式会社ニッケンホールディングス

(写真)代表取締役C.E.O.の奥墨常治氏(右)と専務取締役C.O.O.の黒井英樹氏(左)

 

株式会社ニッケンホールディングス
主な事業内容:
不動産売買・仲介事業、建設事業
本社所在地:
埼玉県戸田市
創業:
1972年
従業員数:
70名

 

建設業でも不動産業でもなく、「住まいと暮らし業」を営む会社でありたい。そんな志を掲げて、変革を続けるのがニッケンホールディングス(以下、ニッケンHD)だ。創業70周年を迎えた2022年、本部機能を備える同社の傘下に、建設事業部門のニッケン建設、不動産事業部門のニッケンコーポレーションを置く新体制へと移行。“地域密着型リーディングカンパニー”を目指し、新しい気持ちで会社を発展させる決意を表明した。

ニッケンHDの始まりは奥墨商店という文具や駄菓子などを扱う小さな店で、代表取締役CEOである奥墨常治氏の父が始めた地域に根差した商売だ。そこからスーパーマーケットのはしりであるオクズミマーケットをオープンし、焼肉店や牛飯店など多業種へと展開。その中で店舗の内装工事を自前でやり始めたのが、現在の事業へとつながっている。その後、店舗を構える土地も自社で手に入れるため、不動産業へと事業を拡大し、本格的に不動産・建設業へと参入していった。

そうして、1本部6事業所体制で長く経営を続ける中、転機が訪れる。奥墨社長への事業承継だ。

代表取締役C.E.O.
奥墨常治氏

このとき先代から提案されたのが、現在の1本部2事業所というホールディングス体制への移行だった。理由は2つ。1つは奥墨社長が会社を統制していくにあたって、シンプルな体制が望ましいとの配慮。もう1つは、株の相続に関するメリットを考えてのことだった。この話に奥墨社長は「果たして、そのためだけに会社の体制変更を推進して良いものなのか?」との思いを抱いたという。そこで、専務取締役COOの黒井英樹氏や新役員予定者とともに、「ホールディングス体制に変える意義」を毎週3〜4時間の会議でとことん考え抜いた。その結果、辿り着いたのは「事業のリソースを集約した“戦略を立てる会社”と“稼ぐ会社”の両輪で会社を回すことで、より良い会社にしていく」という意義である。

「奥墨と一緒に従来のトップダウン型ではなく、各自の役割を明確にした組織経営にしようと決めました」
そう話すのは、2016年に医療機器メーカーを経て入社した黒井氏。

1本部6事業所時代は、各事業所に社長がいて、長く事業を任されてきたベテランばかり。だからこそ、新体制への移行という大きな変革に対して、すぐには首を縦に振ってくれなかった。「何十年も続いてきた会社を、そう簡単には変えられない。非常にパワーが必要でした」と黒井氏は振り返る。各社長のもとへ説得のために足しげく通い、へとへとになりながらも2人並んでラーメンを食べながら励まし合ったこともあったという。立教大学のMBA講座へ2人で参加し、およそ1年間、モデル企業としてMBA取得者の卵たちからアドバイスも受けた。

また、各社長の理解を得ることはもちろん、社員にも理解してもらう必要があったと奥墨社長は語る。
「不動産業や建設業ならではかもしれませんが、各自が個人商店化しているような気風がありました。新体制への移行にあたって業務の整理も行いましたが、『これは僕らの本業ではないからやれません』という反発もあったのです。けれども、さらなる成長を望むには、ここで会社を変えなければいけない。そんな気持ちで説明を続けました」

痛みなくして変革なし。それをひしひしと感じながら、まさに2人3脚で推進していったのである。

制度を徹底的に見直し、新ブランドを立ち上げる

そうして約2年半かけて移行した新体制のもと、より良い経営を進めるために変えたのが、就業規則と人事評価制度だった。
「恥ずかしながら、6つの事業所は何もかもバラバラで、就業規則を長く更新していないケースもありました。社長のさじ加減で給与が決まる事業所もあり、人事評価体制もとても曖昧だった。そうした基本的な部分から統制して、企業文化を変えていく必要があったのです」(黒井氏)

専務取締役C.O.O.
黒井英樹氏

それまで年間91日しかなかった全社の休日を、一気に114日まで増やしたのも大きな改革だ。現在はそこからさらに増え、年間休日数は118日になっている。休みが増えるのだから社員にとっては歓迎かと思いきや、一筋縄ではいかなかった。

「売上が落ちたらどうするんだ」「俺たちの時代は休日でも働いていた」という声が挙がったのだ。そこでまず、奥墨社長が当時、代表を務めていた事業所で1年間、トライアルとして休日を増やす試みを実施した。
「同事業所の社員には『これで売上が落ちたら、制度を変えられなくなる。絶対に死守しよう』と伝えました。結局は、横ばいどころか売上アップ。休みが増えても、工夫して生産性を上げればいいのです。ダラダラと仕事をするのではなく、メリハリをつけることが重要なのだと示すことができました」(奥墨社長)

同時に、社労士にアドバイスを受けながら、人事評価制度も一新した。
「遅くまで働いている=がんばっているから給与を上げようといった古い考え方で決めるのではなく、しっかりとした基準を設けました。例えば、昇格に必要な資格を設定するとか、外部研修に参加した分だけ評価するとか。建設業と不動産業は似ているように見えて、まったく異なる業務です。当たり前のことですが、それぞれの業務に合わせた評価制度を取り入れました」(黒井氏)

これまで研修らしい研修を受けたことがない社員も少なくなかったが、マネジメントやSNSスキル、税制についてなどさまざまな研修を用意して参加を促した。当初は「行ってこい」といわれて仕方なく足を運んでいた社員も、最近は自ら研修に参加する自主性が芽生えているそうだ。

加えて、新体制を契機に「Mirai NeST(ミライネスト)」と銘打った新ブランドを立ち上げた。この狙いを黒井氏はこう話す。
「AppleにはiPhoneという看板ブランドがあります。社名を出さなくても、ブランド名だけで通じる。そんなブランドを、私たちも持ちたいと考えました」

ブランドの第1号として着手したのは、“屋上バルコニーのある家”というコンセプトの注文住宅だ。他にも、賃貸契約時の保証に、24時間駆けつけサービスをパックにした商材の販売を開始。これからさらに、ブランドの冠を付けた商品やサービスを展開していく予定だという。

 

(写真左)ニッケン建設住宅スタジオは最新の住宅設備が展示され、さまざまな建材を手に取れる体感型スタジオとして注目されている
(中央)グループ内の不動産部門であるニッケンコーポレーションの店舗
(右)会社の新体制移行に合わせて、ニッケングループの商品・サービス総合ブランドとして「Mirai NeST」を立ち上げた

拡大ではなく深掘り。地域に根差した戦略

変革を進めながら、近年、注力しているのがSNSマーケティングである。InstagramやYouTubeなどで、会社や社員、サービスなどを紹介している。70年以上にわたり培ってきた地域とのつながりにおいて、顧客からの紹介で獲得する仕事が多い一方で、若い新たな層を獲得する狙いだ。

「戸田市を中心に蕨市、川口市、さいたま市の南部が当社のターゲットエリアです。ここから商圏を広げるのではなく、既存のエリアを深掘りしてシェアを上げるビジネスをしていきたい。戸田市は平均年齢が40歳ととても若い街で、人口流入率も埼玉県でナンバーワンです。そうした特性を理解したうえで、若い世代にリーチする戦略が必要だと考えました」と黒井氏は語る。戸田市内に160本ほど立てている看板とSNS、デジタル広告などを組み合わせて、認知度アップと潜在ニーズへのアプローチを目指す。

またニッケンHDは、先代の頃から地元小学校での工作教室、スポーツ少年団の支援、祭りへの参加などさまざまな地域貢献に尽力している。
「ここまで地域のために、さまざまな取り組みをしている企業は他にないといっていただけています。ニッケン建設の工作教室は23年続けているのですが、参加した子どもが親になり、当社のお客様になってくれている。採用面接にくる人の中にも、自身や子どもが工作教室に参加したという人が多いですよ」(奥墨社長)

SDGsの達成に向けた活動を積極的に行っているのも、同社の特徴だ。その1つが多様な人材の雇用である。近年、子育てが一段落した女性が「正社員として働きたい」と応募してくるケースが多く、女性活躍に目を向けて採用を活性化している。今後は女性の管理職を増やしていく予定だ。また、再雇用などでシニア層が活躍する場も創出している。

さらに、これからのニッケンHDを担う若手の育成にも力を入れ始めた。「会社をより成長させていこうと思ったら、5年後、10年後に活躍できる人材を今から育てる必要があります。コロナ禍を経て、中堅・中小企業には追い風が吹いている。時間をかけて都心に通勤するよりも、地元企業で働いたほうが良いと考える人が増えているからです。地元でも十分に活躍できる。そんな風に思ってもらえる会社にしていきたいですね」と微笑む黒井氏に、奥墨社長はこう続ける。

「社員が働きやすく、夢や希望を抱ける会社にしたい。現役員をはじめ、会社一丸となって、100億企業を目指して歩んでいきます」

変わるべきタイミングに、恐れに打ち勝って壁を乗り越え、大きな一歩を踏み出す。その覚悟を持って変革を断行した会社だけが、さらなる成長という道を進めるのだ。

 

(写真左)ニッケンHDは地域貢献の一環として、子どもたちによるサッカーや野球の大会を主催。
サッカー女子日本代表の長谷川唯選手も過去に参加しており、応援に訪れた
(中央)会社の新体制移行にあたり、さらなる地域密着をポスターでもアピール
(右)23年間継続している、小学生に向けた夏休みの工作教室

 

機関誌そだとう222号記事から転載

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