SBIC東京中小企業投資育成株式会社

最初の一歩を踏み出す 3つのアプローチ まとめ

第二の柱は いつ、どこに、だれが立てるといいのか?

早稲田大学大学院教授 早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター所長 長谷川博和さん

第二の柱は いつ、どこに、だれが立てるといいのか?

──中小企業は、資金も人材も限られており、大企業と違って事業の多角化が難しい。そのため得意分野に経営資源を集中し、強みに磨きをかけたほうがいいとも考えられる。にもかかわらず、中小企業が第二の経営の柱を作ったほうがいい理由とは何か。

一つの得意分野に依存するビジネスモデルは、リスクが極めて高いからだ。 商品のライフサイクルは、一般に30~50年といわれている。そうすると、高度経済成長期に起業した中小企業の多くは、経営基盤だった既存の成功モデルが、もはや耐用年数を過ぎていることになる。さらに、ITの急速な発達と普及、経済のグローバル化などに伴って、中小企業を取り巻く経営環境の変化が大きく、しかも、速くなっている。商品のライフサイクルも短くなる傾向にある。例えば、自動車産業は、たくさんの中小企業がサプライヤーとして裾野に連なっているが、生産拠点の海外移転が進んだり、電気自動車が普及したりすれば、既存の取引を失う中小企業が続出するだろう。第二の柱がなければ、経営を存続できなくなるはずだ

──とはいえ、本業の足元の業績が好調であれば、第二の柱を作ろうという機運は起こりにくいと考えられるが。

「儲かっているとき」にこそ、第二の柱づくりに着手するべきだ。というのも、経営に余力のあるうちでないと、第二の柱は作れないからだ。新規事業には、トライアル・アンド・エラーが付き物。70%以上の確率で失敗すると考えたほうがいい。経営の柱に育つまでに、20~30年かかるケースもザラだ。だから、経営が追いつめられてから第二の柱を作ろうとしても、手遅れになってしまう。

──具体的には、第二の柱づくりにいつ取りかかればいいのか。

商品のライフサイクルは、一般に導入期、成長期、成熟期、衰退期の成長曲線を描く(図参照)。自社の経営分析がしっかりできていれば、主力事業が現在、どの時期にあるのかを把握できるはずだ。主力事業が成熟期のうちに、第二の柱づくりに着手するのがベストだ。そうすれば、主力事業が衰退期に入ったときに、新規事業が成長期を迎え、主力事業の寿命が尽きたとしても、新規事業が次の主力事業に成長しているからだ。

──経営資源の限られる中小企業が効率的に第二の柱を見つけ、育成するにはどうしたらいいのか。

ケース・バイ・ケースだが、一般には本業の周辺分野に進出するのが低リスクで、定石と言える。米国の経営学者イゴール・アンゾフは、成長戦略の選択肢を4つ挙げている(表参照)。このうち現状を維持または強化する本業固執型を除き、①技術挑戦型、②市場挑戦型、③突然変異型の3つが新規事業になり得る。

①は、例えばベーカリーが、パン屋だけでなくケーキ屋も始めるといったケース。②は、東京だけで店舗展開していたベーカリーが、大阪にも出店するといったケース。①②とも既存のノウハウや人材を生かしやすく、成功率が高い。一方③は、東京のベーカリーが、大阪でケーキ屋を開設するといったケースだ。①か②を手がけてから③にチャレンジするならともかく、いきなり勝負するのはリスクが高い。既存のノウハウや人材を活用できないからだ。③で勝負するのなら、新規事業に詳しいビジネスパートナーと組んだり、コンサルタントにサポートしてもらったり、外部の力を借りて準備しよう。

──そのほかに、新しい事業の柱を見つけるコツは?

新しい発想で、マーケットを見直してみることだろう。例えば、BtoB専業の会社ならBtoCに、BtoC専業ならBtoBに、意外なビジネスチャンスが眠っているかもしれない。新しい発想を生むには、異業種の人と積極的に交流してみることもお勧めだ。

──新規事業を立ち上げる際、特に注意すべき点はあるか。

失敗したときのことを想定し、本業に悪影響が及ばないようにしよう。①の場合、技術開発に時間をかけ、テストマーケティングなどの準備を入念に行ってから、“満を持して”進出するべきだ。失敗する確率が高そうなら、手を出すべきではない。失敗すると、本業の信用まで傷がつきかねないからだ。②の場合、スタートアップでは「小さく産む」ことを心がけよう。軌道に乗ってきたら、少しずつ事業を拡大していく。くれぐれも初期投資を張り込んだりするのは避けること。③は、とりわけリスクが高いので、本業とは切り離し、別会社に出資する形にしたり、ブランドも本業とはまったく別にしたりする慎重さが必要だ。

──中小企業は人材も少ない。新規事業を立ち上げる際、人材の採用・育成は、どのようにすればいいか。

①②の場合、本業から人材を投入してもいいが、③の場合は、スタッフも新規採用したほうがいいだろう。新規事業のスタッフが、既存事業に影響されずに仕事に集中できるようにするため、事業所も分けたほうがいい。

──新規事業のリーダーは、誰が担うべきなのか。

中小企業の場合、社長が陣頭指揮を執るべきだ。私は、社長のミッションとは、「会社の業績の結果責任を持つこと」「人材を育てること」「新規事業を育てること」の3つだと考えている。中でも中小企業にとっては、「新規事業を育てること」が最重要と言える。中小企業の将来にとって不可欠であり、社長にしかできない仕事だからだ。というのも、新規事業はリスクが高く、社長しか経営責任を負えないからだ。

野村総合研究所で証券アナリストなどとして勤務したのち、1996年に
グローバルベンチャーキャピタル株式会社を設立。2012年から現職。
専門分野はアントレプレナーシップ、ファミリービジネス。

──新規事業を部下に任せてはいけないのか。

基本的な考え方として、新規事業を社長が、既存事業を部下が担当するのが理想的だ。ただし社長が新規事業に専念するには、本業が安泰で、部下に安心して任せられることが前提となる

大企業の場合は「新規事業部」を立ち上げ、チームとして取り組むのが一般的だ。しかし、社員が限られる中小企業では、こうした手段は取りにくい。そんななか、後継者に新規事業を任せてみるのは一つの手と言えるだろう。私はビジネススクールで大勢の中小企業の後継者を教えているが、彼らの多くは、主要取引先や、大手の銀行、商社、メーカーなどに入って“武者修行”をしている。異業種で培ったノウハウや人脈を生かして、新規事業を成功させたケースも少なくない。

商品のライフサイクルが30~50年であることを考えれば、後継者が先代の事業をそのまま引き継ぐのは得策とはいえない。ならば、後継者においてはベンチャー企業を立ち上げるつもりで自ら新規事業を育てるべきなのだ

──第二の柱づくりで成功する秘訣があれば教えてほしい。

残念ながら万能薬はないが、代わりにアドバイスをしよう。一つは「成功するまであきらめないこと」。新規事業を育てるには、長期戦にめげない強い気持ち、最後までやり抜く不退転の決意が求められる。もう一つは「経営理念をはっきりさせること」。新規事業は、「儲かりそうだから」「流行しているから」といった目先の利益にとらわれて始めると、ほぼ失敗する。自社のコアコンピタンスを決め、それに適合する事業を選ばなければ、第二の柱には育たない。

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