SBIC東京中小企業投資育成株式会社

最初の一歩を踏み出す 3つのアプローチ CASE2

新規の種まきは主力事業が好調なうちに

株式会社クボ製作所

主力事業を複数持てば 取引交渉でも妥協しない

新潟県阿賀野市のクボ製作所は1973年の創業以来、機械部品メーカーとして事業を拡大してきた。中小の機械部品メーカーの多くは、自動車や家電などの大手メーカーの系列に入り、特定の部品の生産に絞り込んでいる。ところが、クボ製作所は、住宅機器、工作機械、ロボット、自動車、航空機といった幅広い業種の部品を手がけ、取引先も多様だ。経営効率が悪いようにも見えるが、実は、それこそがリスクヘッジであり、機械部品メーカーとして生き残るための、同社のしたたかな戦略なのだ。

創業者でもある佐藤十九一社長は長年、機械部品メーカーの厳しい現実を目の当たりにしてきた。例えば、大手メーカーが好条件で取引を持ちかけ、取引額が増えていくと一転、大幅な値引きを要求してくるケースがよくあるという。自社への依存度が高まった機械部品メーカーの足元を見て、「ロットの大きい得意先を優遇するのは当然」という姿勢に豹変するわけだ。条件をのめば、工場をフル稼働させても利益が上がらなくなる。それだけで済めば、まだいい。主要取引先である大手メーカーの業績不振や工場閉鎖のあおりを受け、廃業の憂き目を見る機械部品メーカーも後を絶たない。

佐藤社長は、同じ轍を踏まないために、独自の経営方針を打ち出している。「長年の大得意先でも、採算に合わない取引条件を提示されたら、きっぱりとお断りします。材料価格の変動リスクを負わないように、当社では材料支給をお願いしていますし、手形での取引は一切お引き受けしません」と言い切る。実際に最近、長年続けてきた大手インテリアメーカーとの取引を打ち切ることを決めた。そうした決断ができるのも、第二、第三の経営の柱があるからだ。「ほかにも稼げる事業がある」というカードがあれば、取引交渉で妥協する必要はない。「『やめる機会を逃がさない』ということは、新しいものを始めることと同じくらい大事なのです」(佐藤社長)

「売上げ構成比でいえば、最大取引先のシェアは多くても25%くらいにして、取引先の業種も分散させ、景気変動の波を受けにくくするのが理想ですね」と、佐藤社長は明かす。

将来性を重視して 次々と新分野に進出

同社は、もともとインテリア向け装備品や家電向け電子部品を生産していたが、90年から半導体製造装置や工作機械向けの精密部品に本格シフト。現在では、売上げの約60%を占める主力事業に成長した。得意とするのが「直動システム」と呼ばれる装置。半導体製造装置の滑らかで直線的な動作は、この直動システムが支えており、サブミクロン単位の超精密な加工をするのに欠かせないパーツなのだ。

また、同じころから、航空機のギャレー(調理スペース)やラバトリー(化粧室)といった内装設備にも力を入れている。航空機分野に参入したのは89年、佐藤社長がオーストラリアに旅行に出かけたのがきっかけだった。

「オーストラリアは国土が広大なので、国内の移動手段は航空機が中心になっていました。興味を持って調べてみると、空輸のニーズは世界的に増えていて、航空機市場も急成長していました。航空機はいずれ世界のヒトとモノの流れを制する。しかし、日本では航空機産業が発展途上だったので、食い込むなら今のうちと考えたのです」(佐藤社長)

佐藤社長は早速、大手航空機器メーカーに猛烈な売り込みをかけ、受注に成功。現在、航空機向け内装設備は、米国ボーイング社の大型旅客機などに納入されており、売上げの約30%を占めるまでに育った。

クボ製作所が、経営の新しい柱として最も重視しているのは「将来性」だという。これに関しては、佐藤豊幸副社長が説明してくれた。

「新規事業が経営の柱に育つまで5~10年はかかるという前提で、経営計画を立てます。新しい技術の習得が必要なことも多く、機械部品の場合、新しい取引先の規格や生産条件に合わせるため、スタッフを研修で取引先に長期派遣することもあります」

当然、黒字化するまでには時間がかかる。そのため佐藤社長は、「第一の柱が好調な時に、第二の柱になりうる種をまき続ける」と話す。

「逆に言えば、赤字覚悟で進出し、辛抱できる機械部品メーカーは限られます。つまり、ライバルが少ないんですね。それに5~10年先行すれば、競合他社には簡単に追いつかれません」

他社に真似されないものが 第二の柱に成長する

航空機内装備部品の加工・組み立てを行う本社工場は、
作業員の4割を女性が占める。
部品が軽く、女性でも作業しやすい環境であるためだ

新しい柱選びの条件にはもう一つ、取引先にとっての「オンリーワンになれる」ことを挙げる。競合他社に簡単に取って代わられるようでは、経営の柱にならないからだ。

同社では、取引先の“専属工場”として、製造工程を一貫して引き受けることを取引開始時の基本方針としており、現在3カ所ある工場も、それぞれ主力取引先ごとに分けている。

取引先との関係構築について、佐藤副社長はこう説明する。

「取引をするなら、お得意様の懐にとことん入り込みます。当社では、お得意様の高度な要求水準に応えられるよう、設計段階から積極的に関与し、加工から組み立て、品質管理、検査までの一貫生産を基本にしています。これも、一つの取引先に対して一つの工場を操業させているからこそできるのだと思います。お得意様の〝心臓部〟となって、常に必要とされ続ける存在となることが大切です」

一方で、佐藤副社長はこうも話す。 「お得意様が大切な存在であることは間違いありませんが、当社はその子会社ではありません。条件に合わない値段を提示されたら、『その値段では赤字となるためお受けできません』と、交渉をお願いします」

取引先にとって欠かせない存在になりながら、一方で、複数の事業の柱を持つことで、それぞれの取引先と常に交渉できる力を持ち続けられるのだ。

「多くの経営者は、事業が軌道に乗ってくると、どう売上げを伸ばすか、つまり『今ある柱をどのように太くするか』を考えがちですが、私は1つの事業が軌道に乗ったらすぐに『新しい柱をどこに立てるか』に注力しています。そうしないと、いつまでも1社依存から抜け出せませんからね」(佐藤社長)

同社では現在、グラスファイバー事業も進めている。自社で研究・開発を行い、「ガラス繊維立体シート」などの完成品の生産・販売まで一貫して手がける。機械部品の生産とは一線を画する、新たな試みと言えよう。

戦国時代の小領主の中には、徳川氏や真田氏のように、周囲の強大な戦国大名を手玉にとって乱世を泳ぎ抜き、大名、天下人にまで昇りつめた者もいる。大手メーカーとの駆け引きに巧みで、新しい事業を次々と成功させているクボ製作所も、いずれ日本を代表する機械部品メーカーとして、大きく羽ばたく日がくるだろう。

株式会社クボ製作所

佐藤十九一社長

主な事業内容:工作機械・一般産業機械部品、航空機内 装備部品などの製造
本社所在地 :新潟県阿賀野市
資本金   :4500万円
創 業   :1973年
従業員数  :135名
会社HP  :http://www.kubo-co.net/

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