SBIC東京中小企業投資育成株式会社

最初の一歩を踏み出す 3つのアプローチ CASE1

「大手がスルー。零細にはムリ」そのスキマを突く

株式会社ツチヤコーポレーション

石油業界の環境変化を機に未知の事業へ漕ぎ出す

静岡県藤枝市のツチヤコーポレーションは1949年に設立され、モータリゼーションの発展に伴い、ガソリンスタンド(GS)事業を主力に成長してきた。現在、給油や自動車整備、車検、自動車保険、中古車販売などを担うサービスステーション(SS)カーケア部門では、静岡県内に直営SSを4カ所、系列販売店を15カ所運営。県中部のGSチェーンとしては最大規模だ。5年前からは、石油元売り会社と提携した自動車リース事業にも乗り出した。そのほか、灯油や軽油、重油、プロパンガスの販売、給湯や空調、省エネの設備工事なども手がけている。

自動車関連事業は、石油業界では「油外(ゆがい)」と呼ばれ、GSが副業としているケースが多い。だが、同社の事業領域は、油外やエネルギー関連だけでなく、住宅販売や不動産仲介・賃貸、携帯電話販売店、温浴施設、外食店と幅広い。「本業のGS、副業の油外事業だけでは、先細りになってしまうと危機感を抱いたからです」と、同社の土屋富久夫社長は理由を説明する。

同社が新規事業に力を入れるようになったのは80年代以降、石油販売の規制が相次いで緩和されてからだ。96年には時限立法である「特定石油製品輸入暫定措置法(特石法)」の期限が切れて、石油元売り会社以外の石油輸入が解禁され、98年からは消防法改正によって「セルフスタンド」が登場した。それに伴って、石油元売り系や総合商社系の大規模広域型GSが台頭。GSの価格競争は激化し、マージンも大幅に低下した。GSはピーク時の昭和50年代には全国に約6万カ所あったが、現在では約2万5000カ所に激減、GSチェーンの再編・統合も加速した。さらに、燃費の向上、若者を中心とした「自動車離れ」などが追い討ちをかける。極めつきは電気自動車の普及だ。GSを取り巻く経営環境は今後、いっそう厳しさを増すと考えられる。

「GSの生き残り戦略としては、例えば、店舗網の拡大、油外事業の強化といった方向性も考えられます。しかし、GSや油外というレッドオーシャンで、巨大資本と過酷な量的競争を繰り広げても、利は薄いし勝ち目も少ない。それならば、余力が残っているうちに、新たな事業を着実に育てるほうが得策と判断しました」(土屋社長)

「儲かりすぎない」「生活密着」が進出の条件

※グループ会社を含む

しかし、既存事業と関連のない新しい領域は、自社にスキルもノウハウもないだけに、リスクも高い。そこで、土屋社長は新規事業に進出する際、2つの条件を設けた。一つは「市場規模が中くらいの、儲かりすぎない産業であること」。初期投資はなるべく自己資金で賄える範囲、5億~10億円が目安だという。土屋社長はこう説く。

「中規模の狭い市場で、うま味も少なければ、大手がなかなか入ってこないからです。かといって、零細企業には億単位の投資は難しいので、やはり入 りづらく競合が少ない。価格競争が起こりにくく、実は利益も確保しやすいんですね。それに、5億~10億円の投資ならチャレンジしやすいし、失敗しても早めに見切って撤退できるわけです。新規事業は成功率が低いので、種をたくさんまいておくことが肝心なのです」

もう一つは、「生活密着型の産業であること」。土屋社長は、「業績が景気に左右されにくく、リピーターもつきやすいので、安定した利益が得られるからです。当社はGS事業コアなので、短期決戦型のビジネスよりも、息の長いビジネスのほうが性に合ってい るんですね」と主張する。

新規事業の成功例としては、99年にスタートした「スーパー銭湯」が挙げられる。現在、静岡県島田市、同焼津市、愛知県江南市、同春日井市の4カ所で運営している。温浴施設は、健康志向でニーズが高まっており、既存の給湯設備工事事業のノウハウも生かせる。「銭湯が好きで、ときどき行ってリラックスしたいというお客さまも多い」と語る土屋社長は、湯冷めしにくい「高濃度ナノ炭酸泉」を導入するなどして付加価値を追求し、江南市の施設では天然温泉が掘られている。また、イベントを開催したり、リーズナブルな価格の飲食店を付設したりするなど、長期滞在型のリゾートを目指す。既存の温浴施設の買収を軸に、初期投資を抑えつつ、東海エリアでのさらなる事業拡大を視野に入れている。

携帯電話販売事業にも97年に乗り出し、事業の柱の一つに成長している。現在、静岡県中部の大型直営店3店舗を運営。専門知識を備えたスタッフを揃えることで、サービスを充実させている。

「モバイルは今や生活必需品。景気に左右されにくい商品です」(同)

「好きか嫌いか」で 事業を選ぶことも

同社が取り組む事業の中でも、とりわけ最近注力しているのが、グループ企業で運営している飲食事業だ。

外食産業も生活密着型産業の代表格と言えるが、中でも焼肉店を選んだのは、「私が大の焼肉好きだからです(笑)。好きこそ物の上手なれと言うでしょう」と、土屋社長は明かす。

そこで、2001年に大手フランチャイズチェーンに加盟しスタート。09年には自社単独の焼肉店「ビーフガーデン」を立ち上げた。人口の多い首都圏市場に狙いを定めたが、首都圏は競合も激しい。そこで差別化を図るため、黒毛和牛を一頭買いし、高品質の牛肉を安定的に供給。「希少部位の肉も食べられると、お客さまから好評でした」(同)。 また、さまざまな種類の肉とワインを扱う「肉バル」も開発し、人気を博した。現在、東京都や神奈川県で6店舗の焼肉店を展開している。

さらに、米国・ニューヨークで成功している高級ステーキ料理店「エンパイアステーキハウス」と提携し、17年10月に日本第1号店を東京・六本木にオープンした。今注目のエイジングビーフが看板メニューで、富裕層をメーンターゲットとしている。「米農務省の格付けで最高級ランクを獲得した牛肉を輸入し、自家熟成庫で約1カ月熟成させています。中でも、シャトーブリアンは、口の中で溶けるような舌触りで、ほかのエイジングビーフとは、まったく違うことがわかっていただけ るでしょう」(同)。商品知識が豊富なソムリエなどの人材育成が必要になるため、多店舗化には時間がかかるが、全国主要都市や海外などにも出店した いと意欲を示す。

土屋社長は、「環境の変化が激しく、本業が長続きしない時代。企業を存続させるには、事業の柱を代えながら、次の世代にバトンタッチしていくしかありません」と強調する。同社の売上げ構成比は、80年代までは石油関連が90%以上を占めていたが、現在では60%程度にまで低下した。一方、売上総利益の70~80%を新規事業が稼ぎ出しているという。環境の変化に適応してきたツチヤコーポレーションは10年後、20年後、現在とはまったく違う姿になっているかもしれない。

株式会社ツチヤコーポレーション

土屋富久夫社長

主な事業内容 :ガソリンスタンド、携帯キャリアショップ、温浴施設など
本社所在地 :静岡県藤枝市
資本金   :3000万円
設 立   :1949年
従業員数  :220名
会社HP  :http://www.tsuchiyacorp.co.jp/

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