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次世代経営者ビジネススクール編

常磐鋼帯株式会社

現場の負担軽減のためロボットスーツを導入

東京都江東区に本社を置く、アルミニウムのスリット加工専門企業の常磐鋼帯が、2016年にロボットスーツを作業現場に導入したことが話題になった。パナソニック子会社のアクティブリンクやサイバーダイン社の製品4台を採用、加工物の運搬や梱包に活用している。
同社の谷川豊社長(52歳)は導入の理由をこう語る。
「当社は比較的軽いといわれるアルミニウムを材料としています。軽い金属であっても、長年勤める社員にとって腰痛はリスクとなります。社員には安心して長く勤めることの可能な職場にしたい。ロボットスーツがその一助になればと採用しました。もともと、興味は持っていましたが、月間賃料が高くて二の足を踏んでいたところ、政府の補助金で3分の2を負担してくれるというので決めました」

普通のことを普通にできて
気持ちよく働ける場づくり、
その大切さを学んだ

常磐鋼帯は国内では本社のある江東区と茨城県に工場を持っており、従業員数は65人。新卒や中途採用を毎年行っているが、「特に新卒採用時のイメージアップにロボットスーツは効果がある」と谷川社長。
同社の手がけるスリット加工とは、広く長くのばしてロール状に巻き取った材料から、必要なサイズに幅を切断し、巻き直す作業だ。
1952年の創業時には鋼のコイル材(帯鋼)のスリット加工を手がけたが、その後、銅やステンレスなどを経て、現在はアルミニウムやアルミニウム合金およびアルミ箔専業だ。加工実績は年間2万8000トン(2017年度)と、独立系専業メーカーとしては国内有数の生産力を持つ。
取引先は大手圧延メーカーや箔メーカー、商社で、業績は毎年順調に伸びており、増収増益が続いている。
同社の手がけるスリット材料の用途は、自動車が7割方を占め、ラジエーター、ボディー構成材、EV用電池等にも使われている。そのほか、弱電向けや建材向けの材料にも対応している。
「実は、当社の競合は『お客様そのもの』なんです。取引先の9割はアルミの板や箔を作っているメーカーで、すべて自社でスリット加工機を持っています。しかも当社より規模が大きい。さらに言うと、お客様は大量に加工するのでそのコストは安いが、当社はずっと高い。
それでも、なぜ注文をいただけるのかと言えば、お客様ができない、あるいはロットが少なくて採算が合わないスリット加工があるからです。私たちは使用する材料を受け取り、その受託加工を行います。特別なことをやっているわけではありません。
短納期、高品質は当たり前のこと。せいぜい私が自慢できるのは社員が辞めないことぐらいでしょう」と、谷川社長は淡々と語る。

受講をきっかけとして経営哲学をつくり上げた

(上)茨城工場前にて。
(下)東京工場の皆さんと。

新卒も中途も退職率が低い理由を問うと、谷川社長はこう答えた。
「社員一人ひとりの気持ちを斟酌しているわけではありませんが、工場長や上司はこまめに部下とコミュニケーションを図り、ケアするようにしています。当社に入社すると、1カ月間は徹底して安全や品質に関するルールを学びます。そのルールを守ることが第一で、最初は強制しますが、そのうち慣れてくれば、自主性に任せる。楽して働いてもらっては困るが、同じ結果を出せるなら、なるべく職場環境は改善するようにしています」
ロボットスーツもそのひとつだが、暑さ対策の一環で3年をかけて空調ファン付きのジャケット導入も完了している。ジャケット内部に風が通るので体感温度がかなり下がるという。
谷川社長がこうした経営哲学と社内風土をつくり上げようと思ったきっかけが、東京中小企業投資育成が提供する「次世代経営者ビジネススクール」*だった。2002年に始まった同スクールは現在16期目を迎えている。ほぼ一年を通して講師陣の指導の下、組織のつくり方やマネジメント、経営・マーケティング戦略などを学ぶ
谷川社長はその第1期生だ。
「当社は祖父が創業し、父(谷川亘取締役会長)が2代目として業容を拡大してきました。私が、中学3年生の頃、父に呼ばれて『会社を経営していることは知っているだろうが、お前は社長をやるか?』と聞かれたのです。正直、何も考えていなかったので、面食らって『わからない』と答えると、『高校生になってから決めろ』と3年間の猶予を与えられました。
その間、私なりに考え、高校生時代に『会社を継ぐ』と父に伝え、大学卒業後は勉強のためアルミ関連会社に就職したのです。でも、本音では経営者なんて嫌だなと思っていたんですよ。窮屈だし、サラリーマン生活が楽しかったですからね」
谷川社長は、その会社に結局、15年ほど勤め、その間、子会社の経理責任者や営業を担当。一生懸命に働いたこともあり、将来を嘱望された。「でも、当時は仕事ができれば偉くなれると単純に考えていました。経理なら誰よりも速く正確な処理をし、営業ならお客様に誰よりもいい提案をして注文を頂く。はっきり言えば中学生と変わらないですよ。テストの点さえ高ければいいと、能力第一だと思っていました」
2002年12月の暮れ近く、長すぎた武者修行の旅を終え、常磐鋼帯に入社した。もう年末だし、年始もゆっくりして、来年から頑張ろうと考えていた谷川社長に父の亘氏は「甘えるな!」と一喝し、なんと出社3日目に次世代経営者ビジネススクールの事前説明会に送り込まれた。
「会社に2日間行ったら、いきなり投資育成の研修室に行かされて、何が何だかわからず、ふてくされて斜に構えていましたね」
だが、ふてくされていられるほど暇ではない。
次から次へと講義を受け、タスクを与えられて受講仲間とディスカッションを繰り返した。当時、20人ほどが参加していたという。
「自分さえ能力が高ければよいと思っていた私は、頭に冷や水を浴びせかけられたようなもので、組織づくりとはもっと難しいものだと痛感させられました。私には経理や税務、営業の知識と経験があり、現場の仕事も一部はできたものの、逆に言えばそれだけしかできません。会社の業務のすべてを1人ではできないのです。
当たり前のことですが、会社経営とは他人に必要なことをやってもらうことです。しかも、嫌々ではなく気持ちよくやってもらう。その場をつくるのが経営者の仕事だと、なんとなくわかりました」

*当時は若手経営者ビジネススクール

コップに氷を入れてくれる社員をどう育てるか

2014年、創立60周年記念パーティで
社員を激励する社長。

こうした気づきを、ただビジネススクールの場だけで得たわけではない。常磐鋼帯で当時の亘社長の補佐として実際に経営やマネジメントを手がけていく中で、少しずつ目が開かれていったと谷川社長は言う。
「タスクを与えられて、会社に持ち帰って実践するがうまくいくわけがありません。講師の先生は解答を教えてくれるわけではない。失敗したらなぜ失敗したのかを講師や仲間に話してお互いの失敗を学び合う。それが貴重な機会でした。仲間たちの経験も自分の参考になるのです」
谷川社長はタスクを象徴する話として、こんなことを語ってくれた。
「例えば、ここに水の入ったコップがあって、氷を誰かに入れてもらうという課題があったとします。空想論ではなく、実際にやるわけですから、みな年上の部下にやってもらわなければなりません。でも、周囲は私が小さい頃から面倒を見てもらっていたおじさんたちばかりなのです。彼らに『氷を入れろ!』と命令したら、そっぽを向かれる。
そこで、どうやったら、気持ちよく氷を入れてやろうと思ってくれるか。魔法や絶対的な正解などありませんから、結局、普通のことを普通にやって、そういう気持ちになってもらわないといけないのです」
つまりは自分が変わるということだろう。例えば、部下の誰かが汗水垂らしていたら、氷の入った水を出してあげればいい。ぬるくなった水を飲んでいたら氷を入れてあげればいい。そうするうちに、自分のコップにも誰かが氷を入れてくれるはずだ。
「斜に構えていた私も、スクールが終わった後にじわじわと身に沁みてきました。もうひとつは貴重な仲間を得たことが大きなメリットでした。いまも親しくなった仲間3〜4人で年1回、懇親会を続けています。自分と同じように悩んでいた彼らが毎年、どう変わっていくのか、それに比べて自分はどうなのか見つめ直す機会になります」
同じ第1期生では、タクシー事業を行う宮園自動車の川村能正専務、各種飲料の製造販売を行うエルビーの平田明宏社長、大豆輸入を手がける表社長など、何でも言い合える仲間になっている。
スクール修了後もフォローアップがあり、それも貴重な勉強になったと谷川社長は語る。
「私がスクールの最後に掲げたテーマが『3年後に一緒に働ける社員をつくる』ことでした。当時、社員は50人ほどでしたが、その中から若手社員をピックアップし、自分とともに経営幹部になるメンバーを見つけ、組織固めをするという目的でした」
フォローアップを通じて谷川社長が気づかされたことは、「社員の特徴や資質をちゃんと見る」ということだった。
こうした場合、得てして自分に絶対服従で何でも言いやすい子分をつくりがちだが、そうではなく、「自分にない資質を持ち、これから実現したい目的に対して有効な人材は誰か」を見つけること。しかも、自分だけの評価ではなく、周囲の目も重視した。

社長にものを言う面倒くさい幹部を育てることが大切

ビジネススクール第1期生とともに。
手前左が谷川社長。

コップに氷を入れてくれる社員に育ったのは何年後かを問うと、谷川社長はこう答えた。「10年かかりました。それは選抜メンバーを工場長に任命したときですね。その茨城工場長の宮本取締役を今年からビジネススクールに送り出しました。期待しているのは、勤め人から脱皮し組織の長に育ってくれることです。
私が16年前に気づかされたように、自分でやるだけでなく、部下にやってもらえるリーダーになることを宮本には望んでいます。開始から8カ月ほど経ち、部下にどう対処し、どう育てるかを考えるようになりました。これまでプレーヤーだったのが、監督・コーチ側の意識を持つようになっています
投資育成では階層別研修も提供しているが、谷川社長はこれまで機会があるごとに25人以上の社員を受講させている。自ら仲間を得たように、階層別研修でも「他社の社員と話をして、知る機会がなにより重要」と考えている。
「この会社には優秀な社員がそろっています。父の時代に採用された彼らが育ってきた。私は父のお膳立ての上で経営してきただけで、父をいつか超えたいがなかなか難しいです。

タイ工場で。
優秀社員を表彰して金メダルを贈呈。

優秀ではあっても、それは自分の得意分野でのこと。そのお山の上で図に乗ってはいけません。自分の仕事の範囲内だけで最適化を考えていては、将来を任せられる人材になりません。その垣根を取っ払って会社全体の最適化を考える人を採用し、そして、育ててゆきたいと思います」
谷川社長は、ビジネススクールで教わった講師が言った「当たり前のことを当たり前に行う(普通のことを普通にやれることが強い組織だ)」という言葉をいつも反芻している。取引先に対しても、社員に対しても、人が当たり前に求めることを当たり前に実行する。できるようで、できないことだろう。
経営者として悩んだときには、ビジネススクールの同期生と話したり、投資育成が主催する企業後継者の交流会に参加して意見を交わすという。
「後継者の会もいまではみな経営者になりました。傷をなめ合う場でもあり、情報を交換したり、ときには叱責することもある。私にとっては重要な機会です」
谷川社長は宮本取締役がスクールから戻ってきたら、「自分にぶつかるような存在」になってほしいと語る。
「『我以外、皆、我が師なり』というでしょう。本当はそんなこと思ってないけど(笑)、経営者の脇には面倒くさい人がいないと、甘くなり道を誤ります。ビジネススクールは私にものを言い、面倒くさい存在になる人を育ててくれる可能性があります。さらに、別の幹部もスクールに行かせようと思っています」
52歳になった谷川社長。子どもも高校生になり、父と同じように事業承継のことを話したという。「父がしてきたことを私もやらないといけない」と語る谷川社長は、どこまでも「普通」の会社を目指す。

会社概要

谷川豊社長

会社名     :常磐鋼帯株式会社
本社所在地   :東京都江東区
主な事業内容  :アルミニウムその他金属のスリット加工および付帯業務一式
資本金     :6000万円
創 業     :1952年
従業員     :65名
URL      :http://park20.wakwak.com/~tokiwa/

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