支援事例
投資育成の視察会を活用して自社のあるべき姿を描く

坂西精機株式会社

少子高齢化にともなう生産年齢人口の減少や地域の過疎化など、世界に先例のない数々の課題に直面している日本。
その解決の鍵が医療や福祉、ICT、環境・エネルギーなどの分野で日本が世界に先駆けて新たな成長モデルを示すことだ。各分野で活躍する日本の中小企業は世界的に見てもユニークな存在であり、成長モデルの担い手としても、寄せられる期待は大きい。
こうしたなか、東京中小企業投資育成(代表取締役社長望月晴文)は、中小企業投資育成株式会社法に基づき、中小企業の自己資本の充実を促進し、健全な成長発展を図ることを目的に、投資業務および経営相談やビジネスマッチングなどの育成業務を行っている。同社の活動を交え、それぞれの成長ステージで直面する課題を乗り越えてきた「元気な中小企業」の活躍ぶりに迫る。

精密歯車加工で培った技術を活かし、顧客の困り事の解決をサポート

顧客ニーズに応える多品種少量生産に強み

1945年に創業し、歯車加工を手がけて71年が経つ。
坂西精機(東京都八王子市)は、精密歯車を中心に減速機や一般機構ユニットなどの設計・製造を行っている。
歯車は身の回りのあらゆる機器に組み込まれ、動力を伝える機械要素。同社は規格品の歯車を大量生産するのではなく、おもに顧客のオーダーに合わせたカスタムメイドの歯車を多品種少量生産している。その用途としては、試作品が多く、工作機械や産業用ロボット、自動車、建設機械、産業用機器向けなど幅広い。
また歯車等をユニットとして組み込み、回転速度を落として動力を伝える減速機の設計・製作も行っている。自社製品として、オリジナルブランドの遊星歯車減速機「Vシリーズ」「Cシリーズ」も展開。各メーカーのサーボモータに取付可能で、取付姿勢が自由に選べる。「Cシリーズ」は遊星歯車機構とスパイラルベベルギア(曲がり歯傘歯車)を組み合わせ、動力を90度曲げた方向に伝達できる「直交型」。取付スペースが厳しい場合など、省スペース性が求められる案件などで、機器全体のダウンサイジングに貢献する。
加えて、歯車加工および減速機の設計・製造で培ったノウハウを活かし、精密機械部品全般の受注生産も行っている。切削加工はもちろん鋳造、鍛造、焼結、ファインブランキングなどに広く対応。VA(価値分析)およびVE(価値工学)提案を通じて顧客の困り事の解決を図る。

「人助け」こそものづくりの本道

「『困ったときにはやはり坂西さんだな』とお客様に言ってもらえることが当社の強みです」と、1997年に就任した2代目の坂西宏之社長は話す。
「ビジネスでお客様と最も強い信頼関係を構築できるのは『人助け』」というのが坂西社長の持論。顧客が「こういう問題を解決するにはどうしたらいいのか」と困っているときが同社の出番だ。
たとえば顧客先が「標準品の歯車を買ってきて組み合わせてみたが、目的の性能が出せない」というとき、「こういうやり方もあります」「こんな考え方ではどうでしょう」と提案を行う。図面があれば、歯車はもちろん歯車を収めるケースについても、材料の調達・加工から組み立てまでを行い、ユニットとして納入可能。図面がなくても、「こんなスペックのこんな減速機がほしい」とか「こういう形で動力を伝達させたい」という顧客の要望を具体的な形に落とし込んで提案を行っている。
もともと多品種少量生産を得意にしているため、オーダーメイドの小ロット品の場合、規格品を量産し低価格で勝負している競合先と価格面で逆転現象が起こることも少なくない。

投資育成の視察会を活用して自社のあるべき姿を描く

坂西精機が、公的機関である東京中小企業投資育成(以下、投資育成)からの投資を受けたのは1984年。それから30年以上が経過し、投資育成からは長期安定株主として様々な支援を受けてきた。その中でも、坂西社長が高く評価しているのが、国内外の視察会。投資育成では1986年から同社社長を団長とする海外視察会を実施。これまで訪問した国は32カ国に上る。投資育成の投資先企業の現地法人を主に視察するので、「身内」として苦労話などの踏み込んだ話が聞ける利点がある。
坂西社長も5年前から投資育成の海外視察会に参加している。
現在、坂西精機は国内のみに事業所を置き、製品の直接輸出もしていない。逆説的だが、坂西社長は、「(自社が)海外に出なくていい理由を探しに海外視察に行く」という。
「メディアで『途上国のインフラが不安定』とよく報道されますが、実際にはどれだけ不安定なのかといった真実はなかなか伝えられません。そこで現地に行って現場・現物・現実を見て『これでは当社はとても出られない』と納得して帰ってくるわけです」と坂西社長。
逆に、現地の中小企業が非常にレベルの高いものづくりを行っている現場を見て驚かされることもある。日本国内で世界に勝てるものづくりをしていこうとしているからこそ、坂西社長は海外視察会で現場・現物・現実を見て学ぶ「三現主義」を実践しているのだ。
一方、国内の視察会も坂西社長にとって現場・現物・現実から学ぶ貴重な機会。最近では人気の名酒「獺祭」の醸造元として知られる酒造メーカー・旭酒造(山口県岩国市)を訪れ、同社が実践している近代的な酒造りに感銘を受けた。
「投資育成の視察会は視察が終わったあと、お邪魔させていただいた企業の方を招き、懇親会をかねて食事会を行います。お酒も飲みながら本音レベルの話が聞けたり、新鮮な情報を得られるので勉強になります。当社は今どうすべきか、3年後や5年後にどうあるべきかというビジョンを描く上でベースとなる重要な情報になっています」(坂西社長)

ものづくりの軸はぶらさず常に進化し続ける

歯車は紀元前にさかのぼる歴史を持つが、進化を重ねつつもその原形を大きく変えることなく、2000年以上にわたって利用され続けてきた。
「その意味で歯車は今後も、各分野で増えたり減ったりすることはあっても、基本的になくなることはないでしょう。でもその一方でQCD(品質・価格・納期)に加え、軽量化や静音化などに対するお客様の要求が厳しくなっていくことは間違いありません。そうしたなかで、お客様の多様なご要望に応えながら、今まで通りのやり方で突き進んでいく一方、Industry4.0やIoT(モノのインターネット)などの新しい流れも取り入れ、市場を確実に取っていきたいですね」と坂西社長は抱負を語る。

会社概要

坂西精機
代表取締役社長
坂西宏之氏

会社名     :坂西精機株式会社
URL      :http://www.sakanishi.co.jp/
所在地     :〒192-0919 東京都八王子市七国1-32-1
工 場     :八王子
社員数     :96人

コラム

投資先企業を刺激する視察会を手作りで企画

東京中小企業投資育成
業務第二部 部長代理(当時)
寺岡俊二氏

坂西精機社の素晴らしいところは、困っているお客様を助けることをモットーにしていることです。見積が何社にも回り、断られ続けた難しい仕事が舞いむことも少なくありません。
普段、材料の調達から手がけ、切削加工を熟知し、機械も数多く揃えているので、部品の作り方などに工夫を加え「こうすればこの価格に合います」というコスト削減提案や付加価値提案ができているのだと思います。
そのぶん坂西精機社は設備投資を積極的に行っているので、経費節減に役立つ補助金や税制の紹介に加え、申請書の書き方などもアドバイスさせていただいています。
ほかに力を入れているのが視察会の企画です。坂西精機社を始め、投資先企業にとって「現場を見てみたいけれど、なかなか見られない」お薦めの訪問先を自分なりにピックアップしています。2016年10月には「北陸視察会」を実施し、小松製作所社の栗津工場(石川県小松市)、小松精錬社(石川県能美市)、スギノマシン社(富山県魚津市)を総勢25人で訪問しました。
北陸視察会のテーマは、投資先の企業様に、既存事業に満足せず新分野に挑戦していただくための刺激を提供すること。化学繊維の精錬・染色大手の小松精練社は炭素繊維の建材への応用に取り組んでおり、高圧水洗浄・切断装置などの工作機械メーカーとして知られるスギノマシン社は、生物資源由来の超微細繊維であるバイオマスナノファイバーの開発・販売を進めています。
坂西精機社にも新分野にチャレンジし、更なる成長を遂げていただきたいと思っています。

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