SBIC東京中小企業投資育成株式会社

失敗しない「IT投資」決断の方程式

「働き方改革」で企業経営者が考えるべきは、生産性の向上である。そこで注目されるのが、IT活用だが、その投資には費用がかかり、頭を悩めるトップも多い。ただ、企業としての存続をかけた闘いに“待った”はない。IT投資に成功している企業の実例を検証して、どうすれば間違いなく成功できるのか、その発想を学びたい。

すべては「企業理念」から決める!

経営者にとって「投資」とは、会社の将来を左右する大きな決断である。ましてや「IT」投資となれば、IT技術の進化を見据えつつ、いつ、何のために、どれだけを……と悩むことが多いはずである。そんな中、東京都立川市に本社を置く株式会社メトロールの松橋卓司社長は明快に語る。

「IT投資は、夢ある職場をつくるためにあるのです! ルール化されたルーチン業務は、工場ではロボットに、事務はクラウドにどんどん移行し、人は人にしかできないことに専念して、職場を楽しく面白くすればいいのです。経費節約なんて言って投資を抑えてはダメですよ」

松橋卓司社長

松橋卓司社長

株式会社メトロール
主な事業内容:
工場の自動化に貢献する工業 用センサの開発・製造・販売
本社所在地:
東京都立川市
社長:
松橋卓司
資本金:
4000万円
創業:
1976年
従業員数:
110人(うち正社員30人)

同社は、工作機械や製造装置などの動作原点を精密に測定し、制御する精密位置決めスイッチで世界トップシェアを誇る専門メーカーである。製品は1万点もの部品から必要なものを選んで組み立てるが、1点でも欠品すると納期に間に合わない。

同社では部品の在庫管理に忙殺され、図面から必要な部品をピックアップし、FAXで発注する作業にも時間がかかっていた。そういった意味では、IT活用による効率化を目指す必要があったといえる。
ただ、導入の決断はどのようにしているのだろうか?

「“企業理念”に沿うか、沿わないかです。当社は、お客様満足、全社員満足、生産性、スピード、この四つの英語の頭文字企業理念CEPSとして掲げています。IT投資についても、この四つに合致するかどうかを推敲して即座に決定します。決断で迷ったことなどありません」
なんともシンプル、かつ大胆な考え方といえる。

ただ、同社がこれを可能とできるのは、キャッシュフローを強化したスリム経営に徹しているからだ。
加えて、企業理念をすべての社員に浸透させることで「共感」を呼び寄せ、高いチームワークを築き上げていることも大きい。業務改善や新規事業についての提案を常に社員から求め、松橋社長を含めた幹部社員が集まる毎日の「朝会」で決裁するシステムを取るが、提案される内容も、幹部社員による決定も、企業理念から外れることはないという。

メトロールで毎日実施される「朝会」

メトロールで毎日実施される「朝会」。社員から提案されたプランを、松橋社長以下の幹部社員で決裁する。採用するかどうかは、企業理念に照らし合わせながら決められる。

この方程式でIT投資を実施し、効果を生み出したものの一つが、2010年に導入したMRP生産管理システムである。
注文が入ると、自動的に図面をモニター上に表示し、必要な部品が指示されるとともに、使用部品を在庫データベースから引き出し、部品製造の協力会社に自動発注、生産現場に1個単位で生産指示までしてくれるものだ。

「工場の管理業務が劇的に減少し、生産技術の向上や多能工化など、人が本来力を入れるべき仕事に集中できるようになりました。2019年には、工作機械販売が落ち込んだことで当社の売り上げも30%減ることがありましたが、このシステムによって自然に損益分岐点が下がるので、赤字になることはありません。市況と工場生産がリンクし変動しているからです」と、松橋社長は語る。

同時に工場の自動化、ロボット化も進め、職人が専任で行っていた精密部品の研磨作業やハンダ付け、ロウ付けなどの自動化にも踏み切った。これにより、若手を職人からプログラマーへと再教育している。
「社内の限られた職人しかできないという仕事を減らし、誰もが多能工になることが狙いです。そのための投資は惜しみません」

結果を出したIT投資として、もう一つ注目したいのが、2017年に導入したクラウドサービス「MFクラウド経費」である。
これは、従業員にクラウドに紐づいたコーポレートカードを配布し、スマートフォンで必要経費を申請するシステム。クラウドが自動的に勘定科目を仕訳して承認ラインにアップしていくものだ。
紙の領収書は各自がスマホで撮影し、データを添付して経理に送るだけ。立替分は給与と一緒に振り込まれるので、ペーパーレス、キャッシュレスを実現し、記憶に頼った月末の領収書整理もなくなった。

こうしたIT化・自動化の連続で、同社には人事課や経理課、総務課もなくなった。間接部門は経理・給与・財務を担当する常勤社員が1人と、非常勤社員が2人いるだけ。
また過去5年で売り上げが50%増になったにもかかわらず、人的工数は15%減り、労働生産性は、大きく向上したのである。
企業理念に掲げた四つのキーワードに沿ったIT活用によって、同社の真価はまだまだ続く。

「メトロール」の法則

要諦は「自分ゴト」文化

千葉県浦安市の扶桑鋼管株式会社は機械部品の素材となる機械構造用鋼管の加工・流通の大手企業だ。
同社の江村伸一社長は、「企業は社会の変化を見極め、自社の経営にITを的確に取り入れるべき」という考えから、業務効率化のためITを積極的に導入している。しかし、導入手法が一風、変わっている。

「私は、社内への訓示などで全体像や方向性を示すだけ。IT導入の際には、コストとメリットを秤にかけ、経営判断をしますが、具体的にどんなITを、どんな業務に生かすのかといったプランニングや実行は、すべて現場に任せています」

江村伸一社長

江村伸一社長

扶桑鋼管株式会社
主な事業内容:
機械構造用鋼管の卸売りおよび各種加工、輸出入業務など
本社所在地:
千葉県浦安市
社長:
江村伸一
創業:
1968年
従業員数:
181名

その狙いはこうだ。
「社員一人ひとりがIT導入を“自分ゴト”として考え、自主的にボトムアップで要望してくるようでなければ、ITは定着しません。実務をよく理解し、ITをよく勉強した社員のほうが適任ですし、任せれば、社員のモチベーションもアップしますからね。そうした企業文化を根づかせるのが、経営者の役割だと考えています。あまり現場のことに口を出していると、経営者としての視点が下がってしまいます。社会の変化のスピードが速いので、視点を高く保ち、遠くを見ていなければ、経営の舵取りを誤りかねません」

同社で稼働しているITで注目されるのが、RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)による事務作業の効率化だ。その名の通り、ロボットが作業を代行しているかのように事務処理などを自動化する技術で、その導入は事務部門からの提案、まさにボトムアップで決まった。

この導入に携わった管理部主任の田中聖人氏は、「当社の事務に関しては、IT化が進む一方、紙の帳票類を扱う非効率な業務も混在しています。事業拡大による業務量の増加に対応するため、効率化を進めるツールやサービスをいかに経済的に導入できるか、アンテナを張っていました」という。

導入により、2018年12月からは、顧客への請求書・納品書のFAX送付がPDFデータのPC自動送信に切り替わり、営業部門の受注明細も、手入力から自動入力に変更された。
その結果、月末・月初で取引先約70社に2時間かけて行っていたFAX送信作業はわずか5分に。また、受注明細入力作業は、毎月約30時間から約3時間に大幅に短縮された。

RPAシステムに発注処理を指示する本社経理部門のスタッフ。

受注明細の中には、1社100明細に及ぶものもある。自動化の恩恵はきわめて大きかった。
さらに、大量のFAX送信には、誤送信のおそれがあるし、受注明細を手入力すればヒューマンエラーによる入力ミスも起こりうる。RPAではそうしたリスクを軽減し、業務品質をアップさせるという効果も見逃せない。

管理部では、RPA以外でもIT技術・ソフトの導入により、営業・管理部門の効率化をはかっているという。
営業部門ではクラウドストレージでお客様との書類受け渡しをシームレスに実現。管理部門でも経理の入金消し込みサービスで、「職人芸」だった作業の標準化を進めている。

今後の課題は、効率化させる対象業務の拡大だ。現在、倉庫業務をIT技術でどう効率化できるか、試行錯誤しているところだという。まだ技術的にもコスト的にも難しいのだが、現場で製品に割り振っている製造日などの識別番号を電子化すれば、製品データを一元管理することは可能だ。

手書きFAXや電話音声での注文データの電子化も検討している。画像・音声認識技術が進んで精度が高まり、手頃に導入できるようになれば、RPAを利用した自動受注入力処理が実現できるかもしれない。

同社のように「小さな成功事例」を着実に積み重ねていくところからはじめることが、IT投資を自社の成長につなぐカギといえる。

「扶桑鋼管」の法則

狙いは、「顧客体験」の提供

健康的で美容にもいいと、いま注目の食べ物が「チョップドサラダ」だ。野菜などが細かくカットされているので食べやすく、いくらでもお腹に入ると話題になっている。
この分野で先駆者的存在といえるのが、カスタムチョップドサラダ専門店「クリスプ・サラダワークス」を運営する株式会社クリスプだ。

2014年に東京・麻布十番に第1号店を出店すると、たちまち人気店となり、その後も恵比寿、六本木、代官山など人気エリアに店舗を拡大し、現在14店舗になった。
この快進撃には、他社にはないIT技術のフル活用があったといえる。同社の宮野浩史社長兼CEOは、熱を込めてこう話す。

「日本の飲食業界は、欧米に比べてITの活用で後れをとっています。料理がおいしいのは当たり前。そこに、IT活用を効率的に推進していけば、世界の外食とも戦えます」
実際に同社は、創業以来、企業経営にさまざまなテクノロジーを駆使している。

宮野浩史社長

宮野浩史社長

株式会社クリスプ
主な事業内容:
チョップドサラダ専門店「クリスプ・サラダワークス」の運営
本社所在地:
東京都港区
社長:
宮野浩史
資本金:
1529万円
創業:
2014年
従業員数:
300人(正社員40人)

15歳の時からアメリカで暮らし、現地でフードビジネスを立ち上げたこともある宮野社長の考え方は、次のようになる。

「現地でのITの進化は凄まじく、成功する飲食店は、その活用を上手にやっています。そして、優秀な若い人が喜んで就職するようなイケてる業界になっているんです。日本で飲食店ビジネスをスタートしてからも常に世界の飲食店におけるIT活用手法に注目してきました。日本の飲食店としてテクノロジーをどう使いこなすべきか、そして、今までの飲食店スタイルを変えて新しい価値を生み出すためにはどうすべきかと考えたのです。
結果として目指したのは、“人”にフォーカスした店舗づくりであり、“顧客体験”を提供していくという発想でした」

“人”へのフォーカスとは、お客様に“感謝”してもらえる環境をつくる、そして、お客様と接する社員(パートナー)にこの仕事をできる喜びを知ってもらうこと。
“顧客体験”とは、待ち時間の短縮などの効率化によりお客様の満足度を上げ、「楽しい」「うれしい」といった感情を提供していくこと。これらを同時に実現するために、IT技術を導入・活用してきたというのである。

実際にクリスプは、日本をリードする飲食店を目指して、2017年からモバイルオーダーシステム「クリスプAPP」を全店に導入した。スマホから約30種類の具材を組み合わせて好みのサラダを注文すると、指定した店舗ですぐに受け取ることができ、待ち時間を気にする必要がない。予約は24時間いつでも好きなときにできる。

「クリスプ・サラダワークス」広尾店

「クリスプ・サラダワークス」広尾店。IT活用による効率化が進み、完全キャッシュレス化されている。
来店者は、セルフレジを使ってクレジットカードなどで支払いをする。

また、広尾店など5店舗では18年から完全キャッシュレス化を実施。クリスプAPPで注文すれば事前決済、店頭注文ではセルフレジを使ってクレジットカードなどで支払う。そのため、店舗では注文対応と会計業務がなくなり、スタッフの作業時間が1日当たり約90分間軽減した。

現在、クリスプAPPの登録者数は約3万人、毎月5万人の利用客の約3割がアプリで事前に予約している。アプリとセルフレジによる決済比率は6割にのぼる。
「アプリ導入後はスループット(1時間当たりに提供可能な商品数)が約1.5倍、70個から110~120個になりました。売上もアプリ注文の方が単価で8%アップし、来店頻度も2倍になりました」

店舗運営は効率化され、お客様が待つことはなくなった。売上や利益もさらにアップした。しかし、宮野社長の狙いは、違った次元にある。

「店は本来、お客様とのコミュニケーションの場であり、お客様にワクワクする体験を提供する場なのです。夜、遅く来店されたお客様に『遅くまで大変ですね』と一声かけられる店でありたい。もともと、企業理念は、お客様に熱狂的な“ファン”になっていただくこと。だからこそ、その実現に向かって、恐れずにIT投資を続けてきました」

「クリスプ・サラダワークス」1号店での予想を上回る売上を出した宮野社長は、「この利益使うなら社会や飲食業界をよくするために使いたい」と考え、ソフト開発会社と一緒に独自のシステムをつくりはじめた。17年に別会社を設立し、飲食店向けのソリューションソフトを開発販売した。

「飲食店は設備ではなくソフトに投資すべき」と同氏は強調する。
IT投資にはお金がかかる。躊躇せず前へ進むために、小さく、素早く行動して進化する必要がある。小規模な支出で有効活用できるソフトウェアに目を向けた方がよいのだという。
同社の成功事例、そして宮野社長の考え方は、飲食店経営者にとって大きな指標となるはずだ。

「改革意識」で成長を最適化

栃木県栃木市の機器メーカー、日冷工業株式会社は、受注から生産、納品までの事業プロセスを一貫管理するシステム「スマートファクトリー」の構築を進めている。同社の上杉昌弘社長はその理由をこう明かす。

「大口需要先だった大手メーカーの多くがコストダウンのために部品を内製化するようになり、当社も新たな需要先を開拓すべく新規事業に参入したのですが、従来の大量生産から多品種少量生産にシフトした結果、従来のやり方では生産性が著しく低下してしまうことが分かりました。その改善が狙いです」

上杉昌弘社長

上杉昌弘社長

日冷工業株式会社
主な事業内容:
家電・自動車機器・産業機器等 の各種冷熱製品用冷凍サイクル配管・部品お よび冷熱製品の設計・製造
本社所在地:
栃木県栃木市
社長:
上杉昌弘
創業:
1958年
従業員数:
180名

同社は、冷蔵庫やエアコンなどの家電製品、カーエアコンなどの自動車機器といった産業分野を主な対象としてきた。だが、前述のような背景から、最近では、研究施設などの特注の冷凍サイクルユニット、表面張力を利用して物質を気体と液体に分離する「気液分離器」(東京大学との共同開発)といった新領域にも、積極的に乗り出している。

その結果、取引先数が増え、逆に生産ロットが小さくなった。取引先数の増加で工場内の生産ラインはスムーズに流れなくなり、ムリやムダが頻発するようになったという。しかも小ロット生産が増えると、案件ごとの優先順位が分かりにくくなる。加えて、取引先ごとに発注スタイルが異なり、FAXからEDI(電子データ交換)まであらゆる注文に個別対応をせざるをえず、業務効率が落ちてしまった。

その解消のため、同社が目をつけたのがスマートファクトリー化だ。
「生産設備の稼動状況や製品の数量、歩留まりといったデータがつながり、工場内の実態をリアルタイムで見える化し、受注データとリンクさせれば、生産ラインを最適化できると考えました。たとえば、データから需要を予測し、製品を作り置きするといった生産効率化もしやすくなる。当社では5S活動も展開していますが、その完成度と改革意識がより高まるわけです」と、上杉社長は説明する。

既存の生産設備をスマート化する場合、課題になるのが、それらをつなぐインターフェースだ。同社は、「デバイスウォッチャー」というIoTシステムを外付けし、既存の資産を生かした上で障壁をクリアした。
デバイスウォッチャーの導入で、機械の動きがクラウドのデータベースに集められるようになる。さらに停止モードスイッチを併用すれば、機械の稼働と、いつ、どんな理由で機械が停止したのかも記録される。

デバイスウォッチャーのスイッチを押しクラウドに作業状況を伝える社員。

デバイスウォッチャーのスイッチを押しクラウドに作業状況を伝える社員。

ただしスイッチは、作業者がボタンを押す必要があるため、押しやすいスイッチの配置や、機械の停止とスイッチ操作が合わなくても機械の作動データから類推判断できるようにプログラムを設計したりして、オペレーターのストレスを軽減する必要がある。IoTといえども、単に導入するだけでは十分な効果は得られない。現場での知恵を生かすことが重要なのだ。

システムを刷新する際にもう一つポイントとなるのが、システムのオペレーションを担う社員の教育だ。実は、IoTを導入すれば、モノだけでなく、“ヒト”のデータも見える化できる。
「社員がいつ、どの生産ラインで、どの作業をしたのか」といった情報を逐一、把握できるため、「社員によって個人差がある業務内容を平準化し、業務品質と社員の士気向上にもつながります。社員には業務改善への理解を求めて、新システムに早く馴染んでもらいたい」(上杉社長)。

スマートファクトリー化を5S活動の一環ととらえる上杉社長。同社の挑戦は、生産性とITの親和性を示すモデルケースとなるに違いない。

「日冷工業」の法則

「IT活用」四つの障壁を突破せよ!

出典:経済産業省の資料を基に作成

IT活用なしに生産性を向上させることは難しい。しかし、中小企業で実際に検討をしている経営者は少ない。なぜ、中小企業ではIT投資が進まないのか。そこには大きく、四つの障壁がある。

一つは、「経営者の拒否反応」だ。
明治大学大学院経営学研究科長の岡田浩一氏はこう指摘する。
「ITは進展が速く、次々と新しい言葉も出てくるので、拒否反応を示す経営者が多いのです」

ここまで見てきた4社のように、ITをツールとして上手に活用している企業は、残業代を減らすことに成功したり、ペーパーレス化で経費が削減できたり、さまざまな効果を実感している。社員のモチベーションやクリエイティビティが高まるなどの効果もある。これらがいい循環を生み出し、最終的には売上向上につながっていく。

とはいえ、どんなITツールを導入すれば生産性向上につながるのか、中小企業には判断が難しい。
これが二つめの障壁だ。失敗しないためにはどうすればいいのか。
「米国の経営者は製品開発力のアップや新市場の開拓など攻めのIT投資を考えますが、日本の経営者は人件費の削減や業務効率化など守りのIT投資を考えています」

その結果、日本では効率の悪い業務を見つけて部門ごとにシステムを導入していくケースが多く、システムの統一や連携がしにくくなってしまう。
「それを避けるためには、会社の理念をもう一度振り返り、トータルに検討することが大事です」

このように検討を進めた先でぶつかるのが三つめの障壁、「人材不足」である。
海外ではITエンジニアの約65%がユーザー企業側に所属しているが、日本では約72%がITベンダー側に所属している(総務省「平成30年版情報通信白書」)。とりわけユーザー中小企業に所属するIT人材はごくわずかであり、IT投資はベンダー主導、ツールありきになりがちだが、自社のビジョンを再認識し、必要なITを見極めることが肝要だ。

社内の人材だけでは検討が難しいようであれば、ITコーディネータを活用する方法も検討するといいだろう。
「漠然とした希望の段階でも、ITコーディネータに相談していくうち、自社に合ったIT活用法が見えてきます」

「IT活用」の四つめの障壁が「経営者の高齢化」だ。もしもITの知識に追いつけないようなら、事業承継と合わせてITツールを導入するのもいい。
「実際に代替わりを契機にIT活用が進んだ事例はたくさんあります」
親世代よりもデジタルネイティブである子世代のほうが、ITの重要性を直感的に理解できている。後継者候補として経営に参加するようになれば、ITを経営に利用しないのはもったいないと感じるだろう。

これからの企業経営において、IT化は避けて通れない課題になっているわけだが、その概念は15年前から提唱されていた。スウェーデンのウメオ大学教授のエリック・ストルターマン氏が提唱したデジタルトランスフォーメーション(DX)だ。
「IT技術がよりよい社会を作っていくと発信したのです」
それを受けて経済産業省は2018年9月にDXレポートをまとめた。それによって明らかになったのは「2025年の崖」の問題だ。

20年にはウインドウズ7のサポートが終了し、25年には多くの企業が導入しているシステム「SAP ERP」のサポートが終了する。また、膨大なデータ処理で、25年にはIT人材の不足が約43万人まで膨れ上がるという。日本の企業が「2025年の崖」を回避できなかった場合、毎年12兆円の経済損失が発生するとも試算している。
その意味でもIT活用への取り組みは喫緊の課題といえそうだ。

機関紙そだとう202号記事を要約

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