対談

日本の鉄道を支えた専門性で海外需要取り込み成長を加速

㈱ヤシマキザイ社長・高田社長 × 東京中小企業投資育成㈱社長・望月晴文

リーマンショックの影響で一度は断念したが再挑戦し、2019年6月26日に東証2部への上場を果たした株式会社ヤシマキザイ。創業71年の歴史を持ち、これまで非上場企業として高い専門性で日本の鉄道を支えてきた。今後は投資家への貢献もより必要になってくるが、どのような事業展開を考えているのか、代表取締役社長の髙田一昭氏に聞いた。

望月
東証2部上場、おめでとうございます。上場企業の社長になった心境はいかがですか。

髙田
上場直後は市場の評価が気になって、毎日株価をチェックしていました(笑)。最近は、そんな浮ついた気持ちも落ち着いてきて、あらためて投資家の皆さまに満足いただけるよう、今まで以上に“経営”と真剣に向き合っていかなければならないと気持ちを強くしているところです。

望月
御社は創業71年という歴史を持ち、鉄道関連製品を主力に産業電子部品も取り扱う専門商社として実績を伸ばしてきたわけですよね。

髙田
はい。とりわけ、売上のおよそ9割を占める鉄道関連分野が強みだといえます。日立製作所を主力供給元として、JR各社をはじめ、私鉄各社や公営鉄道などの鉄道事業者、鉄道用車両メーカーや鉄道車両機器メーカーなどのお客様に部品の販売や設備の設置、メンテナンスサービスの提供を行っています。鉄道分野における取扱製品は、車両のエンジンからブレーキ、コネクタや自動ドア、信号用部品、駅構内の洗浄機、無線機といった情報関連まで、およそ9万点におよびます。日常的に流通しているものだけでも2万点くらいはあると思います。

望月
9万点ですか、それはすごい。それほどの製品の流れをどのように管理しているのですか。

髙田
昨年、基幹システムを刷新しました。これによって、受発注から在庫管理、売上計上、入金までを一貫して管理することができるようになっています。

望月
業績はいかがですか。

髙田
公共交通という社会インフラを事業領域としていることもあり、堅調に推移しています。前期は連結ベースで売上高370億円と過去最高に近い成果をあげ、純利益も4億7900万円となりました。

販売代理店契約の拡大と“3現主義”で成長

髙田一昭氏

たかだ・かずあき
1950年生まれ。
神戸大学経営学部卒業後、
1977年に入社。上海現地
法人総経理、取締役海外
営業本部長、常務取締役、
副社長を経て2014年4月
代表取締役社長に就任。

望月
長年実績を重ねた結果、日本の鉄道事業において不可欠の存在になってきたのだと思いますが、これまでどのように事業を発展させてきたのか、その歴史についてお聞かせください。1948年の設立当初は鉄道だけでなく船舶や鉱山、土木などの機械器具の製作・販売・修理をも行っていたようですね。

髙田
はい。鉄道分野が成長していく起点となったのは、1951年に振興造機(現 神鋼造機)の販売代理店になったことでした。振興造機は、当時、国鉄のディーゼル気動車に使用されるディーゼルエンジンやトルクコンバーターという装置をつくっていた会社です。この代理店契約によって国鉄との取引は一層強固なものとなりました。

望月
その後、日立製作所の代理店にもなっていますが、どのようなご縁があったのでしょうか。

髙田
1965年に日立製作所「国鉄向け鉄道車両用品」の販売代理店になったのが、お付き合いのはじまりでした。この契約がまとまったのは、ひと言でいえば、日立製作所とヤシマキザイの思いが一致したということです。

当社は設立以来、エンジンやエンジン部品のメーカーの代理店として、各地にある国鉄の資材部門や工場に出入りしていました。しかし、事業をさらに拡大するには、品数を増やす、つまり商材を拡充していくことが不可欠でした。

一方、日立さんは、電気品本体、あるいは車両本体を供給することが使命です。とはいえ、お客様へのサービスの充実を図るため部品供給やメンテナンスサービスも提供したいと考えていました。しかし、自社で行うには管理コストがかかりすぎてしまう、いわゆるオーバーヘッドが大きくなるわけです。こういったビジネスは、当社のように小回りの利く会社のほうが適しています。

このような両社の思いを背景に、代理店契約がスムーズにまとまったのだと聞いています。日立さんとは、その後代理店契約の分野を増やしていき、1983年に総合特約店になっています。また、日本エヤーブレーキ(現 ナブテスコ)さんや日本航空電子工業さんなどとも代理店契約を結びながら、着実に取扱製品を拡充して事業を拡大していきました。

過去5期の業績推移

望月
御社が発展していくためには、供給元の拡大とともに、販売先との関係強化、新規取引先の開拓も不可欠だったと思いますが、そちらはどのように取り組んできたのでしょうか。

髙田
当社が扱う商材、特にエンジン部品などは納期対応を強く求められます。極端なことをいえば、エンジンのシリンダーやピストンなど、“一つでも不具合が発生すれば、それだけで車両運行に支障が出る”部品であるため、お客様としては必要なときに手元にないという事態は絶対に避けなければなりません。

そのような緊急部品へ対応するため、当社は在庫倉庫を所有しています。また、北海道から九州まで、資材部門や部品を使用する工場、これを当社では『現場』と呼んでいるのですが、その近くに営業所を設立して、「3現主義」のもと、きめ細かな対応に注力してもいます。

「3現主義」とは、営業が「現場」へ足を運んで、「現物」を手に取り、「現実」を自分の目で知ることです。これら「現場」「現物」「現実」を重視し、部品一つひとつにまで神経の行き届いた対応を実践している点を高く評価いただいているのだと思います。

望月
鉄道業界におけるビジネスを語る上で、国鉄の民営化は避けて通ることができないと思います。国鉄が赤字に転落したのは1964年でしたが、民営化されたのは1987年です。この間、事業環境が悪化していったことは容易に想像できますし、民営化されれば、それまでの商習慣すら変わりかねません。公共事業体から民間企業への転換ですから。その影響は、当然御社にもあったと思いますが、実際のところ、この難局をいかに乗り越えていったのでしょうか。

望月晴文 氏

髙田
民営化の1~2年前から受注が大きく減り、経営はかなり苦しかったと聞いています。赤字の原因の一つとなっていた膨大な在庫を減らすため、国鉄が発注量を大幅に絞った影響をもろに受けてしまいました。また、民営化前は国鉄という組織の中の地方分局(管理局)との取引でしたが、民営化されれば、六つに分社化され、それぞれ本社ができます。そのため各本社と取引することになるのか、従来通り、各地の分局と取引できるのか、予想すらできなかったのです。

この難局を乗り越えるため、社内では会議が幾度も繰り返されたと聞いています。幸運だったのは、民営化にあたって、巨額債務のおよそ3分の2を旧日本国有鉄道清算事業団が引き受けただけでなく、残りについても経営難が予想されたJR北海道、JR四国、JR九州は免除されたことです。そのおかげもあって、民営化後は民営化前の発注減の反動から非常に多くの依頼をいただけました。分社化前を超える発注をいただけたところもあり、経営危機を脱することができたと聞いています。実は、この当時私は海外に駐在していたため、本社の混乱を目の当たりにしておらず、「聞いています」としかいえないのです。

望月
民営化前後で、ビジネスの手法に何か変化はありましたか。

髙田
民間企業となったことで、仕入れ価格や在庫に対する見方はシビアになりました。部品の価格や数量が厳しく査定されるようになったのです。以前は、長年の信頼関係によってほぼ一定額で販売していたため、その点は当社側も考え方を改める必要がありました。

望月
これからの鉄道ビジネスを考える上で、グローバルは欠かせないテーマだと思います。現在、世界における鉄道需要は成長が予想されていて、日本においても官民一体となって、その需要を取り込もうとしているところです。御社も古くから海外へ進出していて、1968年にはフィリピンに駐在員事務所を開設していますよね。その後、2010年代に入ってからイギリスやベトナム、インドネシア、インドなど、次々と海外に拠点を設けています。日本のマーケットが成熟してきていることを踏まえれば、海外に活路を見出すのは自然な流れだと思いますが、具体的にはどのような戦略を描いているのでしょうか。

東南アジアで急速に伸びるODA案件を積極的に獲得

ヤシマキザイの3現主義

顧客との強固なリレーションシップにより、
現場の本当のニーズをくみ取り、
ソリューションを組み立てる。

髙田
当社が海外のODA案件に寄与した一例として、今年4月1日に開業したインドネシア ジャカルタの新都市交通MRTJ(Mass RapidTransit Jakarta)プロジェクトがあります。これは日本政府がODAの枠組みを通じて資金を提供し、事前調査から施工管理、軌道工事、車両製造、システム構築まで、都市鉄道に必要なほぼすべてを日本企業や団体のコンソーシアムで担ったプロジェクトです。

その中で、当社はデポと呼ばれる車両メンテナンス基地用の機器納入のとりまとめを担いました。車両メンテナンス基地用の機器というのは中小十数社の設備メーカーの機器で構成されるため、各社とのパイプを持つ当社がオーガナイザーとして選ばれたのです。このようなODA案件は、これからもミャンマーやタイ、ベトナムなど東南アジアで非常に伸びていくと考えられるため、日本コンソーシアムの一員として機器の供給を担っていくという戦略を描いています。

望月
お話のようなプロジェクトは、次々と立ち上がっているのですか。

髙田
ミャンマーではヤンゴンとマンダレーを結ぶ鉄道の信号や軌道設備の更新が始まりますし、JR東日本さんがインドで進めている新幹線工事でもデポ設置に協力していきたいと考えています。

ベトナム鉄道の踏切遮断機設置の様子

2017年に実施されたベトナム鉄道の踏切の
遮断機設置の様子。

望月
海外でのビジネスを拡大していくには、グローバル人材の確保・育成ということも重要なテーマになってきますね。

髙田
おっしゃる通りです。ご指摘をいただいたように、2010年代に入ってから次々と海外拠点を立ち上げてきました。当然ながら、そこには人員を配置する必要があるのですが、語学に堪能で、現地でビジネスを回せる人材となると、日本から配属するだけでは間に合わないという現実があります。また一方では、社員の高齢化という問題も。これまでに蓄積してきたノウハウを若い世代へ引き継いでいくには、採用と育成をうまく回転させていくことが重要になってきます。今回上場した目的の一つが、そこにあります。

望月
上場の目的の一つが採用にあるというのは、どういうことでしょうか。

髙田
日本における採用は、われわれのようなBtoBの専門商社にとって、ますます厳しくなっています。人口減少の影響から、当社が新入社員を採用しようとしても、エントリー数を確保するだけでも難しいという状況です。鉄道業界の中ではそれなりの知名度を持つ当社ですが、一般的にはほとんど知られていないため、学生さんが就職先を検討する際、目にとまる機会が非常に少ないのです。上場によって知名度を高めることで、少しでも学生さんや転職を考える人たちの目にとまり、検討対象に食い込むことが、人材確保の第一段階だと考えました。

また、上場による知名度向上の効果は、ビジネスにも影響します。新たな会社と取引する際、上場会社というステータスは大きな信用になりますから。特に海外の場合、入札に参加するためのP/Q(Prequalification=事前資格審査)で、上場会社ではない、監査証明もないとなれば、不適格とみなされてしまうこともあります。海外でビジネスを拡大していくには、上場していることがとても重要な要素になってきます。

2018年10月にマレーシア鉄道公社に納入した架線検測車

2018年10月にマレーシア鉄道公社に納入した
架線検測車。ODA以外の海外案件で、同社が
顧客とのリレーションを構築し、オーガナイザー
(まとめ役)機能を発揮した代表的な案件。

望月
上場には資金調達という目的もありますが、今回調達した資金は、どのような使い方を考えているのでしょう。

髙田
今回公開した株式は25万株、3億円弱くらいの調達ですから、M&Aのようなことは考えていません。むしろ、会社としての基盤強化として採用・育成や営業効率向上のための会計システム強化、また海外拠点の運転資金に充てる予定です。海外での事業は収益を上げるまで数年かかるため、その間を支える資金がどうしても必要だからです。

望月
次なる飛躍に向けて、足元を固めるために投資するというわけですね。ここまでで海外における展望についてはうかがいましたが、国内ではどのような成長戦略を描いていますか。

髙田
一つは公民鉄の開拓です。公民鉄とはJR各社以外の鉄道事業者と考えてください。当社の鉄道関連分野の売上比率はJRとその関連会社が半分を占め、その次が車両メーカー向けとなっていて、公民鉄は8%ほどしかありません。中でも関西地区の大手私鉄をターゲットと考えています。関西地区は車両をできるだけ長く使いたいという特有の風土があるので、改修、改造需要などを取り込んでいく余地が十分にあるからです。JR向けのビジネスについては事業領域の拡大が大きな戦略になります。これまでは車両部品が大半を占めていましたが、それ以外の設備領域にはあまり手をつけていませんでした。今後はその中でも駅設備や車両メンテナンス基地の設備などを重点的に攻めていこうとしています。

望月
国内では近年、インフラの老朽化が注目されていますが、これは鉄道についても当てはまるのでしょうか。

髙田
車両のメンテナンス設備が当てはまります。車両メンテナンス設備には、車両の洗浄設備や台車を外して点検する設備などいろいろなものがありますが、50年ほど前から使われているものも少なくなく、今後、更新需要が増加していくと予想されています。そこは是非とも取り込んでいきたいところです。

鉄道事業のIT化には「動態的適応力」で対応

望月
鉄道事業においてもIT化が進んでいると思いますが、御社としてはどのような対応を考えているのでしょうか。

髙田
そこは当社の課題の一つです。たとえば、現在多くの鉄道事業者がC B M(Condition Based Maintenance=状態基準保全)の導入を検討しています。これは最新のセンシング技術を活用した状態監視やAI・ビッグデータ分析による故障予知・劣化予測によって部品などの交換周期を割り出そうというものです。この分野は今後ますます伸びていくことが間違いなく、当社も体制を整えて取り組もうと検討を進めています。

いずれにしても、時代の変化を見極めながら、当社の強みでもある「動態的適応力」をもって柔軟に対応していくことで、鉄道という公共インフラの維持・発展に寄与していきたいと思います。

望月
海外だけでなく、飽和しているかに見える国内市場でも、成長の余地は大きいようですね。本日はありがとうございました。

機関誌そだとう201号記事から転載

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