投資先企業レポート

臨床検査薬を世界で初めて製品化
生化学検査分野で不動に地位を築く

株式会社シノテスト

健康診断や診察などには欠くことができない臨床検査薬の専業メーカーとして常に市場を開拓、医療に貢献してきたシノテスト。特に血液や体液などから測定する生化学的検査では、同業の17社に製品をOEM供給するほどの圧倒的な研究開発力を誇る。患者の数が少ない分野であっても、求める人がいるならたとえ赤字だろうと投資し自社で作るという姿勢で臨んでいる。

塚田聡社長

塚田 聡社長
1967年生まれ。
91年、玉川大学工学部卒業後、日製産業(現日立ハイテクノロジーズ)入社。
2003年、義父(遙氏)の経営するシノテストに入社。
2008年、社長に就任。

株式会社シノテスト
主な事業内容:
臨床検査薬および機器の開発・製造・販売
所在地:
東京都千代田区
創立:
1951年
従業員数:
347名(うち正社員302名)

大学病院向け検査薬で国内シェア1位

健康診断や病院の診察で、血液や尿などを採取する臨床検査は今や当たり前のように行われている。検査には心電図や超音波で調べる生理機能検査と、血液や免疫・遺伝子などを調べる検体検査がある。この検体検査で、血液や尿などの体液を採取して化学的に測定することを生化学的検査と呼ぶ。

この生化学的検査の試薬キットを1951(昭和26)年に世界で初めて製品化し、事業化したのが東京・千代田区に本社を置くシノテストである。

篠原亀之輔・愛夫妻は、尿中の糖分を測定する臨床検査薬を開発、「シノテスト1号」として発売した。社名は篠原の「シノ」と検査の「テスト」を組み合わせたものだ。

以来、シノテストは生化学的検査分野では一貫して市場をリードし、現在、生化学的検査試薬の国内シェアは第2位だが、国内専業メーカー17社に対してOEM(相手先ブランド)供給するほどの実力を持つ。特に高品質の検査薬を求められる大学病院向けでは同社がシェア1位を誇っている。

「篠原亀之輔が検査薬を開発する以前は、当然ながら病院でも問診や打診、触診、聴診しかありませんでした。篠原は陸軍の軍医学校で教鞭を執っており、兵士の尿検査のために簡易診断試薬を開発し、終戦前に特許を取っていました」と、塚田遙会長(79歳)は語る。

俊才であった篠原氏は、1923(大正12)年にアメリカへ留学、36(昭和11)年に帰国し、検査薬の研究に取り組んだ。その研究成果を活かして、43年に尿糖検査薬の特許(日本初の検査薬特許)を取得。それを愛夫人が51年に商品化し、53年にシノテスト研究所を設立した。当時、大手メーカーの役員だった篠原氏はメーカー退任後に会長となった。ちなみに、62年に営業部門が独立して販社のシノテスト商事を設立。88年にシノテスト研究所と合併し、現在のシノテストとなる。106歳となった愛夫人は今も名誉会長を務め、同社の精神的支柱となっている。

当初は、検査薬の価値が世間に受け入れられず、シノテスト1号を採用してくれたのは多くの人数を同時に検査する必要のある現・自衛隊や生命保険会社だった。その後、国民健康保険法が整備され、国民皆保険となった61年以降、検査薬が広く使われるようになった。

希少疾患分野でも医療に貢献したい

希少疾患分野でも医療に貢献したい

(右)塚田 遙(はるか)会長 1939年生まれ。
62年、学習院大学政経学部卒業後、
住友商事に入社。
85年、義母の経営するシノテスト商事
(現シノテスト)に入社。91年、社長に就任。
2008年、会長に就任。

次第に病院内でも検査体制が整備され、検査室を設置して院内検査が実施されるようになった。小規模な診療所では、外部の検査センターに委託するようになっている。塚田聡社長(51歳)はこう語る。

「院内で検査をしている病院は国内で約5000病院あり、そのうち4000病院で当社の検査薬を使っていただいています」

同社の売上の75〜80%が生化学的検査薬であり、現在ではその検査項目も増え、40項目程度を調べる検査薬がある。メーカーにより得意不得意があるが、同社は幅広く網羅しているのが強みだ。そのため、同業にもOEM供給しているわけだ。

現在では、生化学的検査だけでなく免疫学的検査、遺伝子学的検査などの検査薬も新規開発している。

免疫学的検査は体の免疫機能を利用して抗原に対する血中の抗体の有無を調べる検査で、ウイルス感染などの診断・治療に活用される。遺伝子学的検査とは、遺伝子の情報を読み取って、病気のリスクや体質の遺伝的傾向を調べる検査である。

手足に力が入らなくなったり、しびれを起こす神経疾患のギラン・バレー症候群という病気があるが、その原因となるガングリオシドという物質に対する抗体の検査薬を同社が2007年に初めて開発した。

「患者さんが少ないので、この免疫検査薬単体では赤字ですが、誰かが作らなければならないなら、われわれが作るというのが当社の姿勢です。安定した収益をもたらす生化学的検査薬の利益をそうした分野に投資して、医療に貢献することが当社の役割です」と、塚田遙会長は語る。

世界初の臨床検査薬キット、シノテスト1号と医療への貢献が認められ 紫綬褒章を受章する篠原博士

(左)世界初の臨床検査薬キット、シノテスト1号。
第2次世界大戦中に創業者の篠原亀之輔博士が
簡易診断薬を発明、1951(昭和26)年に愛夫人が
商品化した。(右)59年、医療への貢献が認められ
紫綬褒章を受章する篠原博士。

また、遺伝子検査分野では2018年に新生児のサイトメガロウイルス感染症の検査薬が、シノテスト初の遺伝子検査薬として保険収載(保険適用と価格決定)された。この病気は、妊娠中の母子感染や低体重出生時の感染によって引き起こされるもので、出生時に症状がなくても成長にともない後から視力・聴力障害や発達障害などを起こす場合がある。

これまで検査薬がなく、感染の早期発見による治療が切望されていた。感染者は年間約4000人ほどいるといわれており、同社ではこの要請に応えようと、大学病院の研究者と共同開発した。

「市場が小さいので、採算面から大手メーカーは取り扱えないのです。小児科や産婦人科など関係8学会が厚生労働省に嘆願書を出したほど待ち望まれていた検査薬だったので、5年という短期間で承認、保険収載までスピーディーに進めることができました。赤字では困るが収支トントンぐらいまでは広げたい」と遙会長は少し誇らしげだ。

志を高く! 毎年、売上の5%を開発投資

志を高く! 毎年、売上の5%を開発投資

入社後に基礎から研修を行い、文系のDMR
(臨床検査薬情報担当者)も多く活躍して
いるという。

医薬品開発と同様、検査薬も治験から承認までの時間がかかる。

「開発期間が通常4〜5年、長くて10年かかりますが、そこからさらに最短2年かけて承認、商品化するので、新製品を出すのに10年かかることも珍しくありません。5年に1つ出せればいいほうでしょう」と聡社長。

毎年、売上の5%を開発に投資してきた。直近の売上が約90億円なので、5億円程度を投じている。それでも10年ごとの新商品となれば、開発費だけで50億円かかる勘定だ。

同社は後述するようにITなどを活用してコスト削減、生産効率向上に力を入れてきた。

「2018年度は約5億円を開発に投資するので経営は楽じゃありません。新規開発の大半は大学の先生たちと共同ですが、みなさん世のため人のためと志高く研究しています。そうした人たちの苦労を見ると、われわれも突き動かされます」と、遙会長はしみじみと語る。

こうした人たちの努力で医療の水準が上がり、健康寿命が延びているのだ。最近では、アトピー性皮膚炎や気管支ぜんそくなどの指標となる血中ペリオスチン濃度を測るキットや、動脈硬化、関節リウマチなどの原因となるHMGB1というタンパク質の測定キットも開発、海外からも注目されている。

これらのニーズを吸い上げているのがDMR(臨床検査薬情報担当者)部隊である。現在、90人ほどの要員で、取引先だけでなく検査室を持つ全国5000病院をくまなく回っている。DMRは検査薬の使い方から医師・研究者の学術的なバックアップも行う。

さらに、より専門的なバックアップ部隊がTS(テクニカル・ソリューション)チームだ。開発メンバーが現場に行くことも少なくない。

研究開発は大学の研究室で行うこともあり、自社内で開発することもある。

現在、研究職は35人おり、大学院卒が大半で、博士号を持った社員も5人いる。また、社会人大学院の博士課程に通っている社員も3人いる。

「大学の先生は研究成果を論文発表することが目的となりがちですが、われわれは製品化しないといけません。お互いの利益を考えながら、研究期間を事前に決めるなどいろいろなパターンで共同開発を行っています。大手企業の研究職とは異なり、当社の開発メンバーは早い段階から様々な経験を積めるので、若手のやりがいにつながり、それが後輩に伝わって、採用がしやすくなってきました」と聡社長は語る。

製造工程にIT活用生産性と収益力向上

相模原生産センターがある工業団地の事業所内 保育所

相模原生産センターがある工業団地の事業所内
保育所を同社が運営。従業員や地域住民から
喜ばれている。

オンリーワンの技術を持った同社だが、過去に危機もあった。その原因は1980年代に入ると臨床検査用の自動分析機が普及し始めたことだ。同社はマニュアル試薬で成功していたため、自動化の波に乗り遅れた。

それを救ったのが、86年に国内で初めて同社が開発・製品化に成功した自動分析機用の液状検査薬だった。それまでは、有効期限を保たせるために凍結乾燥させた粉末検査薬を使っていた。しかし、溶液に溶かす手間がかかり、検査技師の手技の差が出てしまう。検査室の現場からはそのまま使える液状を望む声が強かった。

その要望に対応すべく、液状でも長期保存が可能になる液状検査薬を開発したのだ。これによって、同社は息を吹き返した。

遙会長がシノテスト商事(当時の販社)の副社長だった88年に、また危機が訪れた。同社の幹部が経営に不満を持ち、20人の社員を引き連れて一斉に離脱したのである。ちょうどバブル全盛で人手不足が深刻化し、新たに採用できるはずもなかった。

「職安に頼みに行ったのですが、1人紹介してくれただけでした。そこで、積極的に女性を採用するようになり、今では開発現場でも優秀な女性陣が活躍してくれています」

現在、研究開発部門の生化学分野の部長とTSチームのリーダーが女性だ。意識して女性を登用したわけではなく、実力重視で自然に管理職の女性が増えてきた。当然ながら託児所を設けるなど女性が働きやすい環境や制度も整えてきており、2018年5月には女性活躍推進法に基づく認定制度「えるぼし」を取得。また、知的障がい者を5人採用するなど戦力のダイバーシティにも力を入れている。

千代田区駿河台下の本社外観

千代田区駿河台下の本社外観。

もう1つ、同社の強みで特筆すべきがIT活用である。原料、容器、搬送器具、出荷用ボックスまで、すべてバーコードで管理しており、各工程をシステム上でチェックし、コンピュータと対話しながら品質管理と生産効率の向上を成し遂げている。従来は2人で相互チェックしていた工程を1人で進められるようになり省力化が進み、その結果、収益力も上がった。

営業部隊も情報システムと携帯端末により、どこにいても同じ環境で仕事ができる。テレビ会議システムも20年ほど前にいち早く導入している。

篠原愛会長による「社是“真実を 語ろう”について」が刻まれた銘板

篠原愛会長による「社是“真実を
語ろう”について」が刻まれた銘板。
患者に対し、そして社員同士の信頼
にも、すべてにおいて誠実さが求め
られていることを全社員が認識し、
実践している。

今回、グッドカンパニー大賞グランプリを受賞したことについて、聡社長は「社員も喜んでいるし、取引先の信頼にもつながります。賞に泥を塗らないように身を引き締めていきたい」と語る。遙会長も「これでいいんだと満足してはいけない。社員にはもっと能力を発揮してほしい」と油断を戒める。実は社長と会長は同じ塚田姓だが、実の親子ではない。聡社長は遙会長の娘婿であり、たまたま同姓だった。

「私も娘婿でした。実の息子だとマイカンパニー(My Company)だと思ってしまいますが、私たちは創業家から預かったアワーカンパニー(OurCompany)だ、と責任感を持つので逆にいいのですよ」と遙会長は笑う。
                  娘婿コンビで、シノテストはますます強くなりそうだ。

東京中小企業投資育成へのメッセージ

投資育成のセミナーや研修はとても役に立つし、中小企業庁とのつながりがあるので、施策にも詳しい。今後もいろいろと提案やアドバイスをいただけると助かります。

投資育成担当者が紹介! この会社の魅力

業務第一部 次長 チームリーダー 宇野充良さん

業務第一部
次長 チームリーダー
宇野充良

世界初の臨床検査薬キットを開発して健康診断で使われるなど、日本の健康寿命への貢献が大きい。売上の5%をずっと研究開発に投資し続けていることで着実に新製品を市場に投入し、絶えず現状に満足せず、日頃から生産活動の改善を地道に行っていることが同社の強さでしょう。

機関紙そだとう199号記事から転載

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