SBIC東京中小企業投資育成株式会社

さらば平成、来る令和。今、「勝ち組」企業にどう変わるか?

「失われた30年」を振り返ることで、 日本企業が浮上する鍵が見えてくる

平成の30年間は、「失われた30年」と評されるように、経済の低迷が長期間にわたって続いた時代でした。しかし、平成が終わり、次の時代を迎えようという2019年、もう一度、日本企業が、あるいは日本経済が成長できる光が見えてきた。私は、そう考えています。

その理由についてお話しする前に、まずは平成がどのような時代だったのかをあらためて振り返っておきたいと思います。
日本にとって一番大きかったのは、平和憲法のもと、一度も戦火に巻き込まれなかったことです。常に世界のどこかで戦争や紛争は起こっていましたが、日本は平和国家たらんという国是を国民皆で共有し、守ってきました。戦後、平和を維持しながら国力を上げることにすべての資源を集中させ、急速な経済発展を成し遂げた昭和から平成へと時代が変わっても、それまでの蓄積を原動力に成長し続けていく――そうなるはずでした。

しかし皮肉なことに、平成元年・1989年12月、日経平均株価は3万8915円という史上最高値をつけた後、転がり落ちます。その端緒となったのが、バブル経済の崩壊であり、そこから日本経済は「雇用の過剰」「設備の過剰」「債務の過剰」という3つの過剰に苦しめられることになりました。この苦境を乗り切るために、企業は業務の効率化を進め、債務削減やリストラをはじめとした大幅なコストカットに乗り出していくことになります。ぜい肉を徹底的にそぎ落とし、筋肉質になることで生き延びようとしたわけです。

一方、金融機関は、バブル期に積みあがった不良債権処理に頭を悩ませていました。合併による再編や公的資金の投入など、さまざまな手が打たれましたが、90年代を通じて不良債権処理はあまり進みませんでした。長期信用銀行の破綻など、金融機関に対する信用が大きく揺らいでしまったのも、この時期です。いわゆる金融危機です。これによって間接金融は麻痺し、日本経済全体も停滞していくことになってしまったのです。

デフレ体質の蔓延により、 日本経済は長期停滞している

ただ、間接金融が麻痺したことで、直接金融の道が広がったことも事実です。財務基盤を強化した企業らは、社債や株式発行によって市場から資金を調達することに積極的になっていきました。しかし、これがリーマンショックの影響を大きくした側面があります。

2008年、リーマンショックが起こった当初、日銀も財務省も、日本経済への影響は小さいと考えていました。日本企業の財務基盤は強化され、金融機関もリーマンショックの原因となったリーマン債は抱えていなかったからです。

しかし、債券市場が崩壊したことで実業界は大きなショックを受けることになります。どれほど優良格付された企業であっても、社債の発行が一切できなくなった瞬間があったのです。

これが、2009年3月に日経平均株価を最安値である7054円まで押し下げる原因の一つとなりました。
もう一つ忘れてならないのは、デフレ体質です。国民総支出の半分を占める個人消費が伸びなくなってしまったのです。当時、その原因について「豊かになって、モノを買うことへの興味を失ったから」「魅力的なモノがなくなったから」などといわれることがありました。でも、これはモノを売る側の論理です。買う側にしてみれば、消費を抑える理由は、別のところにありました。

高度経済成長期は、昨日よりも今日の方が、所得が上がっていく時代でした。好景気によって物価が上昇すれば、現金の価値は下がっていくので現金を手元に持ち続けることは損になります。

しかし、バブル崩壊後、経済が停滞していく中で、賃金は上がらなくなりました。所得が増えていくという期待が持てない以上、現在の所得の範囲内で欲しいものを取捨選択しながら買うことになります。このようにアロケーションの中で支出を吟味するようになれば、当然、消費に対して慎重にならざるを得ません。消費者のこのような心理が、デフレの脱却を阻んでいたのです。

豊富なリアルデータを持つ中小企業は その活用によって可能性が生まれる

望月社長

望月晴文
(東京中小企業投資育成株式会社 代表取締役社長)

1949(昭和24)年、神奈川県生まれ。1973(昭和48)年京都大学法学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。
原子力安全・保安院次長、商務流通審議官、中小企業庁長官、資源エネルギー庁長官、経済産業事務次官などを歴任。
2013(平成25)年6月より現職。

成長体験のない中堅幹部が 企業成長の妨げに

日本経済は、リーマンショック後の危機をなんとかやり過ごしたタイミングで、それまでの停滞期を抜け出し、成長軌道に乗ってもよかったはずです。しかし、拡大へ向かうことはなく、結果として「失われた30年」といわれることになりました。それは、デフレ経済の中で成長の仕方を見失った時代だったといえるでしょう。

この頃には、企業の財務状況は健全性を取り戻していました。今でいうDEレシオ(負債資本倍率:企業財務の健全性を図る指標の一つ)の数値もよく、キャッシュもありました。しかし、その原資を効果的な投資へと回すことができなかったのです。海外企業の成長力を自社の原動力にしようとM&Aに挑戦した企業もありましたが、他社の暖簾を引き継ぐM&Aは、成果を出すのに時間が必要であるだけでなく、既存事業とのシナジーを生めずに終わるというリスクも含まれています。

要は、投資効率が良いとは言い難いのです。一方、もっとも効率の良いはずの設備投資も進みませんでした。その原因は、成長体験のない社員が中堅幹部を占めるようになったことが影響していると考えられます。入社したときから経済停滞期にあり、リストラなど現状の体質改善を推し進めることで出世してきた人材ですから、成長するためにお金をどう使えばいいのかわからなかったのです。

さらに、ここへ労働人口の深刻な減少という問題も重なります。日本がGDP世界第2位から転落したとき、「1人当たりGDPが落ちなければ生活水準は維持できるから問題ない」という声もありました。ところが、日本は世界でも経験のないスピードで少子高齢化が進んでいます。そのために膨らんでいく社会保障費を賄うには少子高齢化の中でも経済成長をし続けていかなければなりません。経済成長というものは、資源、特に労働力の投入量と技術開発の掛け算で成り立つものとされていますが、労働資源の投入量がマイナスになっていく中、技術開発だけで伸びていかなければならないのです。人口が減少していく中、成長した大国は歴史上ありません。日本が置かれている状況は、これほど厳しいものなのです。

さらなる発展を見据えた 成長分野の創出こそ不可欠

2012年12月に誕生した第2次安倍晋三内閣によってはじまったアベノミクスによって、日経平均株価は一時、27年ぶりの高値となる2万4270円にまで上昇しました。その要因はさまざまありますが、もっとも大きかったのはグロール経済の投資家をその気にさせたことでしょう。

円の過大評価と株価の過小評価を変えるべく、政策当局が断固としてやり切る姿勢を打ち出し、第1の矢、第2の矢として財政金融政策を実行しました。日銀も、それまで決してすることのなかったデフレ脱却についてコミットしています。これに日本のマーケットの過半を占める海外投資家が乗ったのです。おかげで日本経済を平熱にまで戻すことはできました。しかし、ここからさらに成長をうながすエンジンにはなり得ていない。それが、現状です。

やはり、さらなる成長を遂げるには、けん引役となる、新たな成長分野が不可欠なのです。その萌芽といえるものが、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムによって、経済発展と社会的課題解決の両立を目指す「Society 5・0」と名付けられた新たな社会と、そこで求められるAIやロボット、IoTなどの新技術分野だと考えてます。

今、IT界の勝者は、GAFA(ガーファ)に代表されるバーチャル世界の支配者たちです。しかし、Society 5・0という社会では、バーチャル領域のデータだけでは不十分で、リアルデータの重要性が高まっていきます。たとえば、近年注目されているオペレーショナルテクノロジー。これは、製品や設備、システムを最適に動かすための「制御・運用技術」を指しますが、これはリアルのデータなしに実現することは不可能です。製造工程の自動化や製品の仕上がりを検査する際の画像解析といったシステムの精度向上は、職人技といわれる、技術の深いところまでをデータ化して初めて構築できるものだからです。

そして、日本企業、特に日本経済を下支えしてきた中小企業は、こういったリアルデータを豊富に所有しています。これを自在に活用し、リアルの世界からバーチャルの領域に切り込むことで、新たな勝ち組中小企業が生まれてくるはずです。

また、この分野の人材育成には、リアルデータに触れる環境が不可欠であることを考えれば、その点でも、世界に対してアドバンテージを持っていることになります。手前みそではありますが、私が理事長を務める一般社団法人サーキュラーエコノミー推進機構では、これからの新しい産業を支えるための人材育成に力を入れるなど、人材不足を乗り越える仕組みもできつつあります。

このチャンスを確実につかみ、日本経済はもう一度攻めに転じる。来たる令和の御代は、そのようにあってほしいと思います。

機関紙そだとう199号記事から転載

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