企業価値を高めるESG経営の成功事例に学ぶ

脱フロンを実現した世界初のCO²冷媒技術開発で持続可能な社会づくりに貢献

関東精機株式会社
関東精機株式会社
主な事業内容:
液温自動調整機・金型温度自動調整機などの開発、設計、製造、販売
本社所在地:
群馬県前橋市大渡町2-1-10
社長:
魵澤剛史
資本金:
9350万円
創業:
1961年
従業員数:
172名
URL:
https://www.kantoseiki.co.jp/

「オゾン層保護・地球温暖化防止大賞」特別賞に輝く

バーナーで加工するスタッフ

工作機械の熱変位を防ぐ冷却
装置の複雑な配管を、ユーザ
ーの仕様に合わせバーナーで
加工するスタッフ。

2018年度の「オゾン層保護・地球温暖化防止大賞」(日刊工業新聞社主催)の審査委員会特別賞に、関東精機の開発した「CO²冷媒を用いた工作機械向け液温自動調整機」が選ばれた。

群馬県前橋市に本社を置く関東精機は、工作機械の加工精度を維持するために必ず使われる液温自動調整機で国内シェアの2~3割、微細加工分野では7~8割を占める企業だ。

同社は2018年度の経営目標としてSDGs*(持続可能な開発目標)を掲げるなど「持続可能なものづくり」のあり方を発信している。

同社3代目の魵澤剛史社長(44歳)は、「SDGsにコミットすれば、社内の問題もオープンになります。会社やものづくりのサステナビリティを重視しています」と語る。

関東精機は1961年に魵澤社長の祖父の嘉正氏が創業し、自動車用部品を作っていた。その際、使用する工作機械の熱変位が加工精度に影響を与えることに気づき、社内実験を繰り返したうえで、工作機械を冷却するオイルの自動温度調整機を開発した。65年にこれを商品化し、「オイルマチック」というブランド名で生産・販売したことが今日につながっている。

工作機械は主軸モーターや切削時の発熱あるいは気温による熱変位を防ぐために冷却液・油を使っている。超精密加工ともなるとわずかな熱変位が精度に致命的な不良をもたらす。

オイルマチックはプラスマイナス0.05度以内という温度精度で制御可能だ。超精密工作機械向けにはなんとプラスマイナス0.00055度で制御するなど、「業界初」となる技術や、特許技術も多い。

「ノンフロンかつ低消費電力」を数年かけて完成

工作機械大国の日本を支えてきたオイルマチックだが、一つ大きな問題を抱えていた。それは冷媒に代替フロンを含めたフロン類を利用していることである。いま、フロン類はオゾン層の破壊や地球温暖化への影響などから、より影響の少ないフロン類、さらにはノンフロンへの転換が求められている。

CO2冷媒を用いた工作機械向け液温自動調整機

2015年からはフロン排出抑制法が施行され、25年までにGWP(地球温暖化係数=炭酸ガスを1とした温室効果の係数)が1500以下になるよう目標を定められている。ちなみに、現在、よく使われているR-404Aという代替フロンのGWPは3920である。こうした状況下で関東精機はGWP1であるCO²冷媒を採用したオイルマチックの開発に2010年から着手するとともに、「スカイネクサス」という環境負荷低減をコンセプトとするブランドを12年に立ち上げた。

ただし、CO²冷媒には問題もあった。開発責任者である商品開発室の鈴木秀幸室長はこう語る。

「CO²はフロンガスに比べて扱いにくく、単位質量当たりの熱移動能力を大きくするために動作圧力を高める必要があります。フロンに比べておよそ5~10倍の圧力となるため、既存の機器では対応できませんでした。そこで、メーカーと共同で新しい機器を開発したのですが、冷やすことはできたものの、そのためにコンプレッサーの動力を上げるなど、フロン以上に電力を消費してしまいました。CO²によりGWPを下げても、電力をたくさん使っては意味がないので、2~3年かけて改善を繰り返し、2015年頃にようやく完成しました」

改善の結果、消費電力と冷却水量を最大50%削減できる世界初のCO²冷媒の液温自動調整機が商品化され、業界で反響を呼ぶと共に、冒頭の受賞に結びついた。

CO2冷媒を用いた工作機械向け液温自動調整機

素早く反応したのは、2050年に工場からのCO²排出ゼロを目指しているトヨタ自動車だった。2017年にCO²冷媒オイルマチックを愛知県の衣浦工場で試験導入すると、同年末に6台購入。既設の設備700台のノンフロン型への切り替えも視野に、テストを進めている段階だという。

価格は通常製品より3倍するが、フロン排出抑制法では3カ月ごとの定期点検を義務づけており、CO²冷媒は適用外となるので、管理工数を大幅に削減できる。魵澤社長は「トヨタさんもSDGsの理解者です」と語る。

「工作機械のエンドユーザーが環境問題などSDGsに関心を持ってくれれば、私たちの取引先である工作機械メーカーも対応せざるを得なくなるので、今後、CO²冷媒のオイルマチックが普及することを期待しています」

2018年度「オゾン層保護・地球温暖化防止大賞」特別賞を受賞した「CO²冷媒を用いた工作機械向け液温自動調整機」と、
開発チームの皆さん。前列中央が開発責任者の商品開発室・鈴木秀幸室長。

ブランドを支えるブランドでありたい

魵澤社長は早稲田大学卒業後、日本航空(JAL)に入社し、羽田空港や関西空港で勤務した。「日航時代にお客様対応を学ぶため、ホテルの実例などを勉強しました。その中で、リッツ・カールトンの名マネジャーを招いてお話を伺ったことがあります。同社のモットーは『紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女です』。そのお話に感銘を受け、当社もそうあるべきだと思いました」

魵澤剛史社長

魵澤剛史社長。「従来、理系の大卒を中心に採用していましたが、文系の採用も始め、2018年は芸術学部出身の女性を採用しました。
多様なバックグラウンドを持つ人材が集うことで、これまで考えもしなかったような発想に基づく新しい技術開発に期待しています」。

オイルマチック開発の原点となった、自社製の工作機械

オイルマチック開発の原点となった、
自社製の工作機械。

魵澤社長は2002年に関東精機に入社、16年に父である恭一氏(現会長)の後を引き継ぎ3代目社長に就任、その際に企業理念とクレド(企業信条)を策定した。
行動指針は「常に『開拓者』であれ」と「Think“GLOCAL”」である。グローカルとはローカルとグローバルを掛け合わせた言葉で、地域社会で活動しながら地球規模で考え、実行することである。

「当社の製品は前橋市で作りながらも世界に広がっています。工作機械の7割以上は外需であり、その後ろには世界的規模でユーザーのみなさんがいます。エンドユーザーのブランドを支えるために私たちがいることを明確化し、決意表明するために企業理念も新たに作りました」
それが「ブランドを支えるブランドでありたい」という理念だ。

オイルマチックの心臓部である圧縮機

オイルマチックの心臓部である
圧縮機(コンプレッサー)。

これは、同社のアメリカの代理店が提案した”We stand behind the brand.”という言葉から生まれた。
同社は2012年から全世界に拠点展開を始め、現在ではこのアメリカの代理店を含み、9カ国に9拠点の代理店網を持つ。
「液温自動調整機がコモディティ化し、低価格機も出回っていますが、我々は価格競争する気はありません。オイルマチックの差別化を徹底して、さらに付加価値の高い製品を提供し、ブランドを支える役割を担いたいと考えています」と魵澤社長。

働きがいと会社の成長の両立を目指す

女性社員

設計チームで活躍する入社12
年目の森山里奈さん(左)は、
「ちょっとしたことでも上司や
先輩が優しく教えてくれるので
助かっています」と言う。
工務チームの狩野亜紗子さん(
同右)は、入社6年目。「みな
さん親切で、設計上のわからな
いことなども詳しく説明してく
れます。社長も忙しいのに気遣
ってくれますよ」と社風のよさ
を語る。

しかし、これらクレドや企業理念は魵澤社長が一人で考えたものではない。
40歳代を中心とするマネジャー層が、自社はどのような価値を社会に提供する会社なのか、議論を経て生まれたものだという。もちろん、社長がトップダウンで決めることもできたが、このプロセスを経たことで、多くの社員にとって腑落ちするものになったし、なにより、議論することを通じて、彼らの経営参画意識が強まるという効果もあった。

こうして生まれた企業理念の延長線上に、SDGsの経営目標も出てきた。SDGsは2015年の国連サミットで採択されたもので、30年までに達成すべき17個の目標を設定している。関東精機はその中で、13番目の「気候変動に具体的な対策を」、9番目の「産業と技術革新の基盤をつくろう」、8番目の「働きがいも経済成長も」にコミットすると宣言した。

働きがいと会社の成長の両立を目指すために、ワークライフバランスや女性活用にも取り組んでいる。昨年度の有給休暇の取得率は84%で、野球やフットサルなどのクラブ活動も盛んだ。今後は子育てサポート企業の認定である「くるみんマーク」の取得も目指している。

働き方改革にも取り組んでおり、毎月、マネジメント層でレビューをして残業量の多い社員への指導を行う。グループウエアも導入し、無駄な時間の削減にも努めている。

クレド

全社員に配布しているクレド。
社長就任時にマネジャー層と
策定した。

まだ女性管理職は生まれていないが、設計や生産、営業でも女性社員が増えている。
「2020年に60周年を迎えるので、それまでに改革の目途を付けたい」と魵澤社長は語る。着実に前に進んでいるようだ。

機関紙そだとう198号記事から転載

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