オフィス探訪

人も自然も心地よく。木が導くつながりの拠点

協和木材株式会社

木材の温かみと、開放的な吹き抜けが印象的なワークスペース。先代の邸宅に
あった欅をテーブルとして再生するなど、各所に歴史が刻まれている

 

協和木材株式会社
主な事業内容:
国産木材の製材、製品販売など
本社所在地:
福島県東白川郡
創業:
1953年(設立:1973年)
従業員数:
318名

 

整然と積み上げられた木材から漂う清々しい木の香り。福島県にある協和木材の新オフィスは、豊かな緑に守られるように佇んでいる。林業から木製品の販売まで一貫して行う同社は、長らく工場脇のプレハブをオフィスとしてきた。プレハブの夏は暑く、冬は寒い。狭さや騒音にも悩まされていた。なにより問題だったのは、オフィスが部門ごとに点在していて連携が取りづらいという点だ。工場を最優先に資金を投じてきたため、どうしてもオフィス改善は後回しになっていたのである。

転機は設立50周年。「社員が誇れる快適なオフィスを」と、佐川広興社長・佐川和佳子専務が立ち上がった。一級建築士である佐川専務自ら構想とディテールをデザイン。扱い慣れた杉材を用い、自然木の表情を前面に出した協和木材らしいオフィスを誕生させた。

「新オフィスのコンセプトは“風通しのよさ”でした。これまで分散していた部門が集まり、シームレスにつながる場をつくりたかったのです」と佐川専務。その言葉通り、1階には各部門が顔を合わせて仕事ができるワークスペースを用意。開放的な吹き抜けの空間で、上下階の分断も回避している。間仕切りには視界を遮らないガラスをふんだんに採用。社長室もガラス越しにワークスペースとつながっている。佐川社長は「社員の表情が見えるのがありがたい」と明るく笑う。

 

(写真左)青空に映える2階建オフィスの外観。外装には商材でもある杉の木を使用し、木材加工時に出るタンニンやリグニ
ンを含む廃液でエイジング加工して味わいのある風合いに仕上げた。外構を彩るのは佐川社長の生家から移植した植栽だ。
(写真右)バックヤードはスリット構造の木材壁で自然に目隠し。夜になるとスリットの間のライトが専務こだわりのアール
(曲がり)を印象的に照らし出す。

(写真左)1階には会議や休憩、昼食と、多様な使い方ができるライブラリーラウンジを設置。「ほっ」と
息をつける空間をつくることで、社員のラフなコミュニケーションも刺激している。
(写真中央)2階へと続く大きな階段は1段ごとに色味や風合いの異なる木材を使用し、それぞれの樹種を
刻印。会社のDNAと歴史が詰まったシンボリックな場所となっている。
(写真右)透明なガラスで仕切られた2階の社長室は、社内全体と視線が交わる場所。風通しのよい関係性を象徴している。

設備機材に極力頼らない「パッシブな省エネ」を実現

顔を見て話ができる場所ができたことで、
部門間の打ち合わせが非常にうまくいく
ようになったと話す佐川社長。

1階には、休憩や昼食、打ち合わせと幅広く活用できる「ライブラリーラウンジ」も設けた。
「仕事の話はもちろん、肩肘張らないコミュニケーションも大事。社長の蔵書や倉庫に保管していた森林・木材関連の書物を並べ、関心や価値観を共有できる場にもしています」と佐川専務。そのほか、給湯室や更衣室など社員目線でオフィス環境を整えていった。

さらにひときわ目を引くのが、2階へと伸びる大きな階段である。1段ごとに異なる種類の木材を配し、樹種を刻印。エントランスから最初に目に入る部分を「材木屋」としてシンボリックに表現したかったと佐川専務は言う。

新オフィスは環境への配慮も随所に感じさせる。断熱材を十分に施して外気温の影響を減らし、大きな窓を設えたことで全体照明の照度は50%程度に落としており、昼間はほとんどのタスク照明もOFFとなっている。また、外壁の風合いを出すためのエイジング加工には、杉材の乾燥時に排出されるタンニンやリグニンを含む廃液も活用した。

構想から2年。構造や素材をとことん
追求し、“協和木材らしい”オフィスが
できたと佐川専務は胸を撫で下ろす。

「創エネ技術や設備機材に極力頼らず、自然の力や構造で叶える『パッシブな省エネ』が信条。人の営みは自然あってのことですから環境負荷は常に考えています」(佐川専務)

最後に佐川社長は新たなオフィスでの気づきを話してくれた。
「平屋のプレハブだったときは積み上げられた木材に視界を遮られて見えませんでしたが、2階から窓の外を眺めてみると、敷地には積み上げられた木材があり、それを囲むように豊かな森があって、その先には幾重にも山の稜線が続いている――。その光景は、まさに生業の源といえるこの土地の豊かさと価値を再認識させてくれるものでした」

自社のレガシーを見つめながら、オフィス改革を大成功に導いた協和木材。働く空間づくりの重要性や価値を力強く示してくれた。

 

 

 

機関誌そだとう224号記事から転載

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