株式譲渡契約における表明保証条項とは?
M&Aが行われる際、もっとも注目されるのは「表明保証条項」です。
そのポイントについて、今回は中堅・中小企業法務を中心とする
松田綜合法律事務所の弁護士である夏苅一氏に解説していただきます。
表明保証条項とは、譲渡する株式や譲渡対象となる会社(対象会社)に関して、売主が一定の事実を「表明」し、その内容が真実・正確であることを「保証」する契約条項のこと。買主は対象会社のことを知りませんし、DD(デューデリジェンス)によっても完璧な調査は不可能です。そこで、売主に対象会社の状況を表明・保証させて、その内容が誤っていたために損害が生じた場合は補填してもらえるように、表明保証条項を設定します。
表明保証条項の内容は、会社のあらゆる点にわたります。例えば、①売主が譲渡する株式を保有しており、第三者に何ら権利がないこと、②対象会社の財務諸表が正確であり、隠れた負債や未払金がないことや、税務上の問題がないこと、③対象会社が、会社法、労働基準法、業規制法規、環境法規などの現行法を遵守しており、紛争やクレームがないこと、④対象会社が保有する特許や商標、著作権などの知的財産権に関する情報が正確であり、他者の権利を侵害していないこと、などです。
なお、売主が保証できない項目については、除外事項として明示し、表明保証の対象から外すケースもよくあります。
表明保証条項違反時の補償請求と売主責任の制限

表明保証条項に違反があった場合、買主は売主に対して損害賠償(補償)を請求できます。そうした事態に備えた、表明保証保険もあるのです。また、表明保証条項の違反内容が重大な場合は、買主は契約を解除したり、株式を再譲渡させたりするケースもあります。
なお、契約時に買主が表明保証違反を知っていた場合であっても、売主に責任追及ができることを確認するサンドバッキング条項や、逆に責任追求できなくするアンチサンドバッキング条項を設けることもあります。さらに買主にて判明した事項を表明保証の枠から外して、特別に損害の補償を認める特別補償条項など、対応しなければならないケースは多岐にわたります。
他方、表明保証条項違反時における補償の際には、売主の責任範囲を制限するため、クロージングから1~2年間のみ請求可能といった形で補償期間を限定することが一般的です。また、補償額の上限を設定することもあります。例えば、株式の譲渡代金の一定割合(10%~100%)を超えない範囲でしか、賠償責任を負わないといった制限です。逆に、軽微な違反については免責するよう、一定額以上の損害にのみ責任を負うという制限を設けることもあります。
このように、表明保証条項は株式譲渡契約において重要な役割を果たしており、売主と買主双方における取引の安全性を高めるものです。専門家の助言ももらい、慎重に取り決めを行いましょう。

松田綜合法律事務所 弁護士
夏苅 一 氏
松田綜合法律事務所は、中堅・中小企業法務を中心とするワンストップ型法律事務所です。在籍する45名の弁護士が最先端のビジネス・ローから民事、親族、相続、刑事まで、幅広い法律分野に携わり、M&A案件も数多く手がけております。
機関誌そだとう223号記事から転載