投資先受賞企業レポート
第42回優秀経営者顕彰 地域社会貢献者賞
星野物産株式会社

「農工共栄」で地域とともに進化する

“多品種少量”で顧客のニーズに応える……

星野陽司 社長

星野物産株式会社
主な事業内容:
小麦粉、そば粉、乾麺製造及び販売
本社所在地:
群馬県みどり市
設立:
1902年
従業員数:
140名

 

冬に「からっ風」が吹き下ろす群馬県は、国内有数の小麦生産地だ。乾いた気候と水はけの良い土壌が小麦の生育に適しており、同県では小麦と稲作の二毛作を行う農家が多くあった。加えて、空いた土地で養蚕のための桑や野菜栽培など、複数の作物を生産する多忙な農家もおり、昼食に時間をかけられず、さっと食べられるうどんが重宝されたという。

「群馬県の桐生地域では、古くから織物業が盛んでした。当時、多くの女性工員が働いており、忙しい仕事の合間に手軽に食べられ、しかも腹持ちの良い食事が求められていました。そこで重宝されたのが『うどん』です。大量に消費されるうどんを短時間でたくさんつくる必要があったため、生地の幅を広げて切ることで調理時間を短縮しました。そうしてできたのが、郷土麺として親しまれる『ひもかわうどん』です。当社のひもかわうどんは、ゆであげると5~6cmほどの幅になります」

地元の食文化についてそう話すのは、小麦の製粉から製麺まで一貫して手がける星野物産の星野陽司社長だ。からっ風が吹く赤城山麓で創業したのは1902年。120年以上、「農工共栄」を理念に地元で事業を続け、2025年日刊工業新聞社の優秀経営者顕彰で「地域社会貢献者賞」を受賞した。

「群馬の農業を、時代の流れに合わせていかに産業化するか。それを手伝ってきたのが、当社の歴史です。創業当初は小麦、米、畜産の3つの“農”を担い、肥料や飼料の近代化にも尽力してきました。今はそれらの事業は再編され、製粉と小麦を使った食品加工に注力しています」

同社が加工する食品は、主に麺類だ。国産小麦の風味を活かしたうどんやそばの製粉・製麺を手がけるほか、これらを支える倉庫・運輸などを担うグループ会社も存在する。
「保管や輸送も行える関連会社を持つことで、川上から川下まで一貫した生産体制が可能。それが強みの1つです」

好みや商品に合わせてブレンドを変える

食品業界は国産志向、健康志向が高まってきている。その中で星野物産の製粉事業は、県産小麦を活かす製粉技術の開発と加工方法の改善に注力し、顧客から高い支持を集めてきた。

2000年に発売された、国内産小麦100%の薄力粉「白金鶴」はその代表例だ。小麦粉はタンパク質(グルテン)の含有量によって、強力粉・中力粉・薄力粉の3種類に分けられる。ケーキや天ぷらなどの製造に適した薄力粉は、長らく品質面から外国産が主流とされており、国産小麦を使用する場合は中力粉で代替されていた。

同社が開発した製粉商品。群馬県の小麦を100%使用した薄力粉
「白金鶴」(写真上)、群馬県産小麦を使い、ピッツァ用として
開発した小麦粉「ジェイ・イタリアーナ」(写真下)。

しかし「国産小麦の薄力粉を使用したい」という要望が同社に寄せられ、試行錯誤を重ねて商品化が実現した。安定した品質とこれまでにない食感が評価され、今や大手食品メーカーのお菓子原料として欠かせない存在となっている。

「グルテンを加えて、中力粉から強力粉をつくることはできます。しかし、グルテンを減らして中力粉から薄力粉をつくる技術は、当時実用化されていませんでした。我々はその点に着目し、使われていなかった技術を再発掘しました。創業以来、ずっと群馬県産の小麦をどう活かすかを考え続けてきたので、『国産の原料でお菓子をつくりたい』というお客さまのニーズに応えることができたのだと思います」

さらに、星野物産の取り組みとして特筆すべき点は、顧客のニーズにきめ細かく応えるための、多品種少量という生産体制だろう。顧客の“つくりたい商品”に合うように、小麦をブレンドしていく。

小麦は部位によって風味や味、栄養成分が異なり、皮に近いほどタンパク質やミネラルが多く含まれ、粒の中心部ほど、でんぷんが豊富で白い色になる。もちろん品種や産地によっても違いがあるので、組み合わせの幅は広く、多様な小麦粉をつくることができる。

「お客さまがつくりたい食パン、フランスパン、ケーキ……。当社は、それぞれの製品にもっとも適した粉のブレンドを追求しています。国産のフランスパン専用粉『ジュ・フランソワ』やピッツァ専用粉『ジェイ・イタリアーナ』、さらにはどら焼き専用粉など、国産小麦の可能性を広げるため、独自の用途開発を進めてきました」

また、ユーザーとの共同開発の事例に、フランス国旗がモチーフのパッケージで知られるラスクがある。星野物産とは50年来の付き合いになる群馬県内の町のパン屋が、ラスクに挑戦したのが始まりだ。
「一般的なフランスパンは、中に不規則な空洞がありますが、ラスクを量産化するには形が均一になるフランスパンが必要でした。小麦の選別からブレンドまで一緒に何度も試行錯誤を重ねて、もっともラスクに適したブレンドのオリジナルな小麦粉をつくりあげました」

続けて、顧客との共同開発において大切にしている姿勢や思いについて、同氏は次のように語る。
「お客さまは、商品を通じてオリジナリティを表現したいと考えています。我々はそれに応えられるよう、それぞれの特徴を出せるような素材を提案して、一緒にアレンジしていく。そのために、お客さまのところへ何回も足を運びます」

国産を訴求したいという顧客もいれば、美味しさや価格を重視したいという顧客もいる。国産か外国産かの選択は、どんな商品をつくりたいかによっても変わってくるという。

「麺の原点」に戻り、新たなビジネスモデルを

他方、同社が製粉事業とともに推進してきたのが乾麺事業だ。
「製粉だけでは大手と同じ土俵での競争になり、そこで戦うのは難しいです。そのため、中堅・中小規模の製粉会社は、パン製造や製麺などを手がけてきました。複数の事業を持っていれば、会社として営業できる幅は広がります。当社が戦後、製粉事業と同時に乾麺事業に参入したのもそのためです。

ところが10年ほど経つと、乾麺は古い時代の商品だといわれるようになりました。この先は即席麺や生麺のニーズが高まると考えた先代は、乾麺事業から即席麺の製造や生麺事業に進出しました。従業員も300人以上の規模となり、本業を支える事業となりましたが、それも競争が激しく、やがて事業譲渡をすることになり、再び乾麺事業を展開することになりました」

同社が手がける製麺商品。左上から上州手振りうどん、マルボシ
中華そば、信州田舎そば小諸七兵衛、ひもかわうどん(写真上)。
販売店「久路保山荘」の店内では、ギフト用商品を数多く展開
している(写真下)。

再び乾麺事業に注力することを決めた星野物産。手打ちのような食感を乾麺でも出すために、技術開発に取り組んだ。
「このときの開発は『麺の原点である手打ちうどんの味を乾麺に』がスローガン。当時の乾麺は味も品質もいまいちでした。そこで、乾麺でも手打ちうどんのような風味と食感を生み出そうと考えたのです。乾麺で手打ちのようなつるつるシコシコとした食感を出すために、製麺工程を見直しました。当時の生地をこねるためのミキサーでは、硬くボソボソした生地しかつくれませんでした。そのため、新方式の装置『連続瞬間水和混捏(こんねつ)装置』を独自に開発。これにより、柔らかい多加水の生地をつくれるようになりました。多加水の生地で製麺したうどんは柔らかいため、乾燥させるための竿にかけると自身の重さで伸びてしまいます。そのため、表面だけを素早く乾燥させる工夫が必要となり、その点にも最新技術を導入しました」

こうして1977年に誕生したのが、「上州手振りうどん」だ。茹で時間10~12分だった乾麺が、4~5分茹でればおいしく食べられるようになり、「乾麺の革命」と話題になった。日本発明振興協会「発明大賞池田特別賞」、科学技術庁長官賞など複数の賞も受賞した。

「『上州手振りうどん』は、誕生から40年以上経った今もロングセラー商品です。しかし、ヒット商品のライフサイクルのトレンドを絵に描いたように辿り、この間何度もリブランディングを試みてきましたが、今はピークの30%程度に減少。ヒット商品を継続させていくことの難しさを痛感しました」

一方、これらの乾麺の製麺技術を『そば』にも展開すべく、同社は長野県小諸市に3000坪の敷地を求め、そば粉製粉を併設し、挽きたて打ちたてのそばの味を表現するそば製造を1996年に開始した。
「今では乾麺のそば部門で6年間日本一を続ける『信州田舎そば小諸七兵衛』がメインブランドになっています」

また、本社工場は2019年に第2工場を新設し、そうめんや中華麺など細い麺を中心に製造している。
「特に『マルボシ中華そば』は、ラーメンからドレッシングをかけたラーメンサラダまで調理の多様性に優れ、乾麺のユーザー年代が広がり、海外マーケットも視野に入れる主力商品になっています」

さらに、星野社長はギフト商品を再構築しようと、2011年に本社近くに万葉集をモチーフとした販売店「久路保山荘」を設立。実際に味を知りたいという顧客のニーズに応えて、2年後にはその隣に地元の銘麺「ひもかわうどん」を提供する食事処「葛葉茶寮」を開業した。

県産小麦の価値を高め、品質向上に挑む

同社の人気商品「信州田舎そば小諸七兵衛」。有名テレビ番組で紹介
され、一時はサーバーがダウンするまでにもなった。

120年以上の歴史の中で、群馬県産の素材を使い、地元企業と商品開発に取り組み、さらに業容拡大にともなって地域の人材雇用にも貢献している星野物産。新商品の試食や工場見学もできるイベント「麺&粉もん祭」を主催して、地域住民との接点を増やし、小麦食品のPRにも努めている。こうした同社の取り組みが、地域を盛り上げていることは確かだろう。

地産地消のポリシーを打ち出した大手コンビニエンスストアのCMに登場するなど、「群馬県産小麦」の認知が広がる活動にも星野物産は一役買っている。
永年の歴史とこうした活動も含めて、今回の地域社会貢献者賞は、まさに同社にふさわしい受賞といえるが、同氏の姿勢は謙虚だ。
「大それたことはしていません。経営理念に基づいて経営してきただけです」
その理念は全社員で共有するほか、星野社長は機会あるごとに社員に語っているという。理念を意識して働くことが、星野物産の基になっているのは間違いない。

「我々は群馬県産小麦の良さを活かしたくて、小麦生産者との交流の場に永年参加しています。農家の人々がつくってくれた小麦が、どんな商品になっているのか知らせるのも我々の役割です。そうして生産者の方々と一緒に発展してきた歴史があります。そう考えると我々にとっての地域貢献は、事業そのもの、当社の思想そのものといえます」

創業から120年以上、地域の食文化という軸はぶらさずに、多様な展開を進めてきた星野物産。これからどんな取り組みに挑んでいくのか、地域の人たちも期待しているに違いない。

 

 

 

投資育成へのメッセージ

代表取締役社長
星野陽司

投資育成さんから出資を受け入れて、約50年になります。そろそろ卒業かなと思うたびに社会の大きな変革があり、直面する経営課題の相談相手になっていただきました。顕彰は過去の評価でありますが、未来へ向けてのパスポートでもあります。今後も皆様のお役立ちに努めてまいりたいと思います。

 

投資育成担当者からのメッセージ

業務第五部 主任
神田晃佑

この度はご受賞、誠におめでとうございます。星野社長の“開発と改善”の信条と温かいお人柄とともに、地域の枠をも超えて愛される企業として成長発展を続けていく星野物産さまを、今後も応援して参りたいと存じます。ロングセラーの「上州手振り」シリーズはもちろん、「マルボシ製麺所 中華そば」「信州田舎そば小諸七兵衛」は、のど越しの良さと香り高さがあり、酷暑の時期にピッタリです。是非、ご賞味くださいませ。

 

機関誌そだとう223号記事から転載

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