2025年度 海外視察会レポート
フィリピン視察会

「人材の宝庫」フィリピン。
労働市場としての可能性を探る!

2025年2月5日~9日

 

例年ご好評いただいている当社主催の海外視察会。今回は2025年2月に、フィリピンのマニラとセブを投資先企業の皆さまとともに訪問しました。視察会に事務局として参加しました中原がレポートします。

 

業務第一部主任
中原彩花

 

7000以上もの島々から構成され、人口1億人を超える大国フィリピン。平均年齢はわずか26歳とASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国の中でも圧倒的に若く、総人口は2050年までに1億4千万人へと増加する見通しです。
また、同国は約50年にわたるアメリカ統治の歴史から、ASEANで唯一キリスト教が多数派を占める国でもあります。そして、英語を流暢に話せる国民が多いのが大きな特徴です。

こうした背景から、日系企業の世界進出拠点として選ばれることが多いフィリピン。今回視察した現地企業は、日本の本社と活発に意見交換を行っており、グローバル戦略に影響を与える場として機能している様子がうかがえました。

教育レベルの格差や供給網の脆弱さが課題

現在、日本の中堅・中小企業の多くが、人手不足に悩まされています。その解決策として、海外へ進出を検討している企業も少なくありません。なかでも、人口規模が大きく「人材の宝庫」ともいえるフィリピンは、注目すべき候補地の1つ。では製造拠点と見た同国には、どのような魅力があるのでしょうか。

特筆すべきはやはり人件費が安く、若年労働力が豊富な点です。今回視察した、PHILIPPINE KENKO CORPORATION(以下、フィリピン・ケンコー)、EDSマニュファクチャリング・インク(以下、EDS)、TAMIYA Philippines, Inc.(以下、タミヤフィリピン)は共通して、人の「手仕事」によって高品質を実現していました。目視による全数検査や、微妙な色の違いを再現する塗装など機械化が難しい工程に“人の手”を投入することで、日本国内と同等、もしくはそれ以上のクオリティを担保しているといいます。

ただ一方で、同国で製造を行ううえで注意すべき点も見えてきました。1つ目は、社員スキルの底上げに工夫が必要であること。フィリピンは教育水準がまだ十分とはいえず、基礎的な読み書きや計算能力が不足している場合も少なくありません。また地域ごとの教育格差も大きく、従業員のスキルもバラつきがあります。

こうした課題に対しEDSでは、ハーネスの仕組みを理解させるために、ミニチュア自動車を用いた直感的な教育を実践。社内資格認定制度や作業免許制度を整備し、段階的にスキルを習得させるなど、社員の理解度に応じた教育体制の工夫が見られました。

2つ目は、サプライチェーンが脆弱である点です。同国では現地のサプライヤーが発達していないため、日系企業同士で強固なネットワークを構築する必要があります。大型の印刷機を保有するタミヤフィリピンでは、周辺日系企業から印刷業務を請け負うなど、製造設備や技術を融通し合う取り組みが行われていました。このような各社の設備稼働率を高める連携が、現地では重要な鍵となります。

3つ目は日本と同様に地震が多く、台風や洪水の発生率が高い点です。これらの自然災害と未発達な送電網により、停電が頻発する傾向にあるため、予備の発電機を用意するなど、BCP(事業継続計画)対策を行う必要があります。

 

EDS訪問時の集合写真。同社では1万人の従業員が働いています。

次世代を育てるという新たな視点で捉える

製造拠点を求めてフィリピンに進出することは、ハードルが高いように思えるかもしれません。しかし同国は英語が堪能で、海外志向の強い若者が多いという特徴があります。その性質を活かし、現地人材を海外拠点の幹部候補に育てあげているのがNYK-TDG Maritime Academy(以下、NTMA)です。NTMAは日本郵船が設立した現地の商船大学であり、船員として必要なスキルだけではなく、規律やリーダーシップ、公文式教育による日本語や数学なども教えています。卒業生は日本郵船の船で経験を積んだ後、同社の中核を担うメンバーとして世界中で活躍をしているとのことでした。NTMAのほかEDSでも、フィリピンを人材育成の拠点と捉え、次世代の管理職候補を育て世界へ派遣する取り組みを行っています。

NTMA、EDS両社とも自社技術の養成だけではなく、企業理念の浸透や手厚い教育体制、同窓生ネットワークづくりなどに力を入れていました。その結果、名だたる欧州企業からの引き抜きにも動じない、組織への愛着心を醸成させたのです。豊富で安価な労働力が魅力のフィリピン。ただ一方でコスト面だけに注目して進出を決めてしまうと、かえって失敗に終わるリスクもあります。ひとつ視点を変えて、次世代を担う人材の供給拠点と捉えれば、中堅・中小企業の海外ビジネス拡充に大いに貢献する可能性を秘めているかもしれません。

 

(写真左)NTMAでは、船内作業のシミュレーション機械を紹介していただきました。
(右)セブの経済特区・PEZAでのブリーフィングの様子。外資企業の誘致を積極的に行っています。

 

機関誌そだとう222号記事から転載

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