採用戦略で勝ち抜く「人材獲得」最前線

今こそ注目すべき多様な仲間のチカラ

~JETプログラムとの出会いと、社員に尽くすという覚悟……~

CASE③大和合金株式会社

 

「銅合金のことはまったく知りませんでしたが、勉強のチャンスがあり、多くのサポートを受けられ、萩野社長からも『心配しないで大丈夫』といわれたので、入社には何の不安もありませんでした」とにこやかに話すのは、大和合金に入社して2年目になるジャマイカ出身の女性社員だ。

同社は、銅と別素材を合わせ、さまざまな用途に合う特殊な銅合金をつくる特殊銅合金メーカー。素材の溶解から鋳造、鍛造、熱処理、加工、検査までの一貫生産に強みを持つ。製品は自動車、航空機、鉄道、船舶、半導体、光ファイバー海底ケーブルなど幅広い分野で使われている。

 

(写真左)800℃~1000℃に熱した銅合金を、一気に冷却する溶体化処理の様子
(右)完全に溶けて液体となった銅合金を、金型へ流し込む鋳造工程。
厚く重い耐火服を着て、1300℃前後の熱に立ち向かう危険で過酷な作業だが、
そこには大和合金独自のノウハウがたくさん詰まっている

 

萩野源次郎社長

大和合金株式会社
主な事業内容:
特殊銅合金の開発・生産・販売
本社所在地:
東京都板橋区(登記上)
創業:
1941年
従業員数:
173人(グループ全体の合計)

 

そんな大和合金には現在、20人の外国人材が在籍しており、全社員に占める割合は10%を超える。出身国はアメリカや中国、イギリス、ブラジルなど、8カ国におよぶ。萩野源次郎社長は「バックグラウンドの異なるさまざまな人材が混ざり合い、その中からイノベーションが生まれると考えています。多様性のある組織は、変化の激しい現代社会にも対応しやすいでしょう」と語る。

外国人材が多く働く様子は、まるで海外企業のようだ

中堅・中小企業で採用する外国人材と聞くと、一般的には特定技能や技能実習生を思い浮かべるが、大和合金は違う。外国人社員のほとんどがJETプログラムの終了者で、みな正社員だ。JETプログラムは、総務省、外務省、文部科学省および一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)が共同で実施する事業。主に大学を卒業した英語を母語とする外国青年を招聘し、小・中学校や高校、地方公共団体の国際交流担当部局などに配置して、日本における外国語教育の充実と地域の国際交流を推進することを目的としている。

冒頭の女性社員もJETプログラムで来日して6年間、福岡県の小・中学校で英語を指導していた。日本文化に興味があり、プログラム終了後も帰国せず、同社に入社したのだ。

萩野社長がJETプログラム終了者に注目したのは偶然だった。大和合金は2005年ごろから海外市場の開拓に力を入れ始め、特に航空産業への進出を目指していた。しかし、国内での実績はあるものの、海外市場では無名の存在だけに、新規ビジネスの創出は難航していたという。そんな中、自治体の親しい知人から「JETプログラムキャリアフェア(以下、キャリアフェア)」への参加を勧められたのだ。キャリアフェアは、グローバル人材を求める国内の企業や団体などと、JETプログラム終了後に日本で働きたい人材が出会える企業合同説明会である。

外国人材という新たな風が躍進のドライバーに!

「私はJETプログラムの存在すら知りませんでしたが、試しにキャリアフェアへ参加してみたところ、大きな可能性を感じたのです」

2015年のことだった。そこで痛恨のミスを犯してしまう。1人の青年と出会い、採用を考えたのだが、初めてでビザ切り替えなどの進め方がまったくわからず、もたついているうちに彼はホテルのマーケティング担当として別会社に入社してしまった。ところが、そのホテルでは希望していた仕事ではなく雑用を押しつけられ、人間関係もうまくいかなかったのだ。相談を受けた萩野社長は、すぐに大和合金へ転職するように勧めたが、精神的に追い詰められていた彼は帰国してしまったという。
「すごく悔しかった。当社で採用できなかったこともそうですが、日本が好きで、日本で長く働きたいと思っていた彼を、日本嫌いにさせてしまったことがショックでした」

そこで翌年もキャリアフェアに参加し、1人の女性を採用した。
「当社に興味を持ってくれたので、積極的にアプローチしました。金属の知識はなかったですが、理解力や行動力に優れ、数日間のインターンシップを経て採用を決めたのです」

入社後、彼女は昇進を重ね、今では開発部の係長として活躍している。萩野社長は「JETプログラム出身の外国人社員で初めて管理職となり、すごくリーダーシップを発揮してくれて頼もしい限りです」と喜ぶ。そうしたロールモデルの存在もあり、それ以降、キャリアフェアを通じて毎年のように外国人材が入社。さらに、その友人や知人の紹介、留学生の採用なども増えている。

外国人材は品質保証や生産管理、開発、国際営業など各部署で力を発揮し、社内にさまざまな効果をもたらしているが、なかでも海外ビジネス拡大への貢献度は大きい。外国人社員の増加にともない、思うような成果が出ていなかった海外ビジネスは右肩上がりで成長。特に当初から狙いを定めていた、航空産業で大きな実績を上げている。それが海外ビジネスの牽引役となり、外国人材がいなかった2013年は年間約6400万円だった海外事業の売上高は、今や約19億円と30倍にも成長した。会社全体の売上高に占める割合も、約23%まで増えている。

「彼らはとても前向きで目的意識も明確、強いハングリー精神もあり、あらゆることへの興味・関心が高い。外国人材の採用は一石二鳥どころか、三鳥、四鳥という感じで、ただでさえ採用難の時代に優秀な人材を獲得でき、海外ビジネスの可能性がどんどん広がっています。さらに日本人社員にも、視野を広げてくれるなど良い刺激を与えている。そうして組織に多様性が育まれてくることで、さまざまなイノベーションが生まれることを期待しています」

大和合金が躍進するドライバーとなった外国人材。そんな彼らと出会ったキャリアフェアには年々、参加企業や団体が増えているという。
「大手企業や大学が中心で中堅・中小企業はまだ少ないですが、優秀な外国人材を獲得しようというところがどんどん参加しています。中堅・中小企業でも、特殊な技術や優れた製品を持ち、海外進出を目指している会社には、ぜひお勧めしたい」

たしかに、同社の成功がキャリアフェアの有効性を物語っているが、大企業や大学との人材獲得競争において、大和合金が外国人材を採用できている秘訣はどこにあるのか。萩野社長は「外国人材に限りませんが、人類社会に役立つ最先端の仕事に関われるというのは、大きな魅力の1つだと思います」と語る。例えば、同社は国際的な核融合実験炉プロジェクト「ITER」にも、電子や陽子などの粒子を電場で加速する粒子加速器にも素材を提供している。航空産業や宇宙産業をはじめ、こうした事業としてのおもしろさが、人を惹きつける要因なのだ。

また、大企業のようなタテ割り組織ではない、いろいろなことにチャレンジできる社風も、中堅・中小企業ならではの強みといえるだろう。

 

(写真左)キャリアフェアではJETプログラム出身の社員が直接、来場者と話す
(右)インターンシップにも外国人社員が同行し、安心感へとつながっている

細やかなサポートがさらなる採用を生み出す

大和合金は創業以来、「大家族経営」を掲げ、社員の友人や知人、親族を多く採用してきたのも特徴だ。今でいうリファラル採用だが、そこにインセンティブなどが発生するわけではない。ひとえに社員が会社に愛着や安心を感じ、意欲を持って働ける環境づくりに努めてきた結果である。

萩野社長自ら外国人社員を連れて、
川越祭りで日本文化を楽しむ様子

また、近隣の高校や技術系大学、女子大学の先生と強固な関係を築いており、新卒社員はそのつながりから紹介される学生がほとんどだという。ここ数年は、毎年平均十数人を採用している。大和合金は求人媒体や人材紹介会社、ハローワークも一切使わない。逆にいえば、それでも十分に人材が獲得できているのだ。

また、特筆すべきは、同社は社員を解雇したことがないということ。若手社員の中には体調や精神面で不調をきたし、休みがちになるケースもあるが、社員一丸となって親身になって話を聞きつつ、粘り強く出社を待つ。部署異動なども柔軟に対応する。もちろん外国人材も同様で、日常生活の相談や出入国在留管理庁の手続きなど幅広くサポートする。
「せっかく採用しても、辞めてしまっては意味がありません。社員にとことん尽くすことが重要だと思っています。そういう職場でなければ自分の友人や家族を紹介することはないでしょう。社員が人生の最期に、大和合金で働けてよかったなと思ってくれれば最高です」

海外ビジネスの成長にともない、同社の業績は好調だ。今期の売上高は、前年同期比で約20%増の90億円を超える見通し。「100億企業」が視野に入った。萩野社長は、「年齢、性別、国籍、人種、価値観などの多様性を認め合い、真のダイバーシティを実現しながら新しいこと、ユニークなことへ果敢にチャレンジして、さらなる成長を目指したいと思っています」と力強く語る。

 

 

 

機関誌そだとう222号記事から転載

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