採用戦略で勝ち抜く「人材獲得」最前線

自社に合う領域を見つけ、確実な成果を!

~専門人員を配置することで、活動をより深化させていく……~

CASE②エミック株式会社

 

「昨年から、採用へ本格的に力を入れ始めました。これまでは総務経理部が担当していましたが、新しく経営企画室を立ち上げ、人材関連の業務をシフトしているところです」
こう話すのは、エミックの神尾誠常務取締役だ。同社が採用を強化する背景には、事業の伸びに対する人手不足の深刻化がある。

 

大野誠司社長

エミック株式会社
主な事業内容:
振動測定器・振動環境試験機の製造販売、受託試験業務など
本社所在地:
東京都品川区
創業:
1963年
従業員数:
167人

 

エミックは、工業製品を評価・検証する振動環境試験機や振動測定器の製造販売、受託試験、試験ソリューションサービスを手がける。家電製品や自動車をはじめ、原子力発電などのインフラ機器から航空宇宙機器にいたるまで、あらゆる工業製品は高い品質と信頼性、耐久性が求められる。そこで不可欠なのが、振動試験による製品の品質・安全評価だ。

1963年に創業した同社は振動装置メーカーとしてスタートし、事業領域を少しずつ広げてきた。特に2019年に振動試験の受託事業に強みを持つ企業をM&Aしたことで、ビジネスが大きく拡大。エミックの同事業における売上は5年間で約3倍に伸長し、事業の柱へと成長した。

受託試験サービスは、メーカーの製品に対する各種試験を、全国7カ所にあるエミックの受託試験センターで代行するというもの。さまざまな試験装置を用意しているので、要求される多様な試験にも柔軟に対応できる。顧客にとっては試験装置やオペレーターを自前で抱えずに試験を行えるメリットがあり、需要が伸びている。コロナ禍で事業全体が一時的に停滞したものの、現在では受託試験事業を中心に急回復している。そこで喫緊の課題となっているのが優秀な人材の確保で、経営企画室を新設したのはその解決の一環だ。

経営企画室の立ち上げにともない、長く人事畑を歩んできたベテランを招いた。主に中途採用を担当し、新卒採用に関しては、これまでどおり総務経理部が担当している。新卒と中途では採用方法が異なるため、それぞれに専念しやすくしたのだ。中途採用ではすでに取引のある転職エージェントとのコミュニケーションを深めるとともに、新担当者のツテを頼りに新たなエージェントとのつながりもできた。
「より多くの情報を収集できるようになり、斡旋型をメインとしていた採用スタイルを変更して、手間のかかるスカウト型にも注力し始めました。これまでは100人にオファーを出しても応募は1~2人程度だったのが、最近は20人ほどの応募があって驚いています」

採用を専門とする人材を配置したことで、人材獲得がうまく回り始めたのだ。そして、この中途採用がリファラル採用につながるケースも増えてきている。転職してきた人と同じ会社から、エミックに応募して入社する事例が増加しているという。
「職種を問わず、1社から2~3人移ってくることが多くなっています。なかには大手企業もあり、特許関連のスペシャリストが入社してくれるなど非常に助かっています。今は単に社員からの紹介という形ですが、来期中にはインセンティブなどの制度を整えて積極的に推進していきたいと考えています」

こうした取り組みが奏功し、毎年10人以上の中途採用に成功しているのだ。

 

(写真左)採用への応募者が見学に訪れる水冷大型振動試験装置の製造工場は、最先端の技術力とものづくりを体感できる
(右)自動車産業に欠かせない複合環境試験は、技術系人材の採用でも注目されるポイントだ

 

中途採用が手を離れ、他領域に注力できるように

他方、新卒採用も好調だ。これまでは総務経理部が新卒と中途を同時に見なければならなかったが、経営企画室の発足によって中途採用から手が離れたことで、新卒採用に集中できるようになったことが要因になっている。

従来の大卒者をターゲットとした採用活動を深化させながら、新たな施策にも取り組んでいる。それが高等専門学校(以下、高専)生のスカウトである。エミックはもともと、技術系の顧問として国立高専の教員が在籍する関係から、毎年数人の高専生を新卒採用で受け入れてきた。しかし、同顧問が高専を退官したことで学校とのパイプが途切れ、高専生の採用ができなくなっていたという。神尾常務は「理系の場合は特に、学校の先生とのつながりが非常に大事だと痛感しました」と話す。

そこで、就職エージェントが主催する高専生を対象とするPBL(課題解決型学習)イベントに講師として参加し、新たなつながりを開拓した。2024年4~6月の3カ月間、毎週金曜日にエミックのエンジニアが授業を受け持ったところ、その取り組みが吉と出たのだ。同社で新卒採用を担当する親谷リーダーは、「授業をきっかけに高専の学生が工場見学やインターンシップにきてくれて、1人に内々定を出すことができました」と微笑む。また、授業を担当したエンジニアの技量も非常に大きかったと語る。
「コミュニケーション能力が高く、先生や学生からの評判も良かった。工場見学やインターンシップで説得力のある話もしてくれたので、学生に当社の魅力が伝わったのでしょう」

神尾常務は「中堅・中小企業の場合、ネームバリューやブランド力では大手にはかないません。ですから実際に会社へきてもらい、どういう仕事をしているのかを見て、社内の雰囲気や職場環境などを感じてもらえたのは大きいです」と分析する。

この成功を受けて、今年は別のイベントへの参加も決めている。全国の高専生を対象とした「高専ワイヤレステックコンテスト(WiCON2025)」だ。これは高専生による技術実証を通して、ワイヤレス人材の育成、および地域を巻き込んでの地域課題解決、さらに地域に根づく新たなビジネスやサービスの創出に取りり組むことを目的としたイベント。一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)が主催し、総務省が共催する。親谷氏は「大きなコストがかかりますが、この活動を通じて高専の先生方とのパイプを強め、できるだけ早い段階で工場見学やインターシップに参加してもらうような形で、高専生の新卒採用につなげていきたい」と期待を寄せる。

こうした取り組みは、中小・中堅企業にとって大いに参考になるはずだ。カネやヒトなどの負担は小さくないが、新たな採用の道を拓ける可能性がある。特に優秀な若手エンジニアを求めるなら、高専生と直接話せる機会をつくり、積極的なアプローチをすることは有効だろう。

エミックはさらに、外国人材にも目を向ける。中国やタイに現地担当者を配置しており、特にASEAN地域では同社のアフターサービスに対するニーズが高まっているからだ。これまでは日本人のエンジニアを派遣していたが、今後は外国人材の採用を積極化して日本で育成したのち、現地へ送る。直近では台湾のエンジニアを正社員として採用したほか、ベトナム人の派遣社員も活躍しているという。神尾常務は「人材採用は現状、新卒と中途で分かれていますが、来期には経営企画室を部署に格上げしてメンバーを拡充し、外国人採用なども含めて一本化したいと考えています」と展望を述べる。

 

(写真左上)エミックの技術者には高い能力と豊富な経験が求められ、挑戦的で常識にとらわれない視点が育まれる
(右上)インターンシップでは試験装置のメンテナンス作業を通して、学生との実践的なコミュニケーションを図っている
(左下)採用面接には社長を含む経営陣が同席し、和やかな雰囲気の中で応募者と向き合う
(右下)毎年、入社式のあとに、新入社員と役員で記念写真を撮っている

さらなる成長に向けて、次なる課題は教育だ

採用面ではあらゆる領域に挑戦し、成果が出ている一方で、エミックの課題となっているのは教育面だ。
「せっかく優秀な人材を採用できても、しっかりした教育体制が整っていなければ、キャリアアップなどの将来展望をイメージしづらいでしょう。また、エンジニアの高齢化が進む中で、技術継承がうまくいかずに開発が遅れたり、頓挫したりすることもあります。採用に力を入れるだけではなく、入社後も成長しながら長く働いてもらうために、その体制整備を早急に進めなければなりません」と神尾常務は警鐘を鳴らす。

技術面での実務能力に加え、
情報共有などのコミュニケーションスキルも重視しているという

 

同社では教育への取り組みとして、マニュアル化を推進している。写真や動画を活用したマニュアルをつくり、パソコンやスマートフォン、タブレットで情報共有できるようにした。社員はいつでも自由にアクセスでき、マニュアルを閲覧できる。業務手順の標準化や効率化を図れて、社員教育や作業ミス減少につながる。

加えて、ベテラン技術者を教育担当として、若手~中堅社員の指導を一定期間行うようなカリキュラムの策定なども検討中だ。幹部クラスには、外部講師を招いた経営セミナーの開催なども考えているという。

エミックは自社に合った採用手法を模索しながら、事業のさらなる拡大を目指し、人材への投資を積極化してきた。その成果は着実に表れており、人材に関する取り組みは採用を入り口として大きく広がっていくだろう。今後の成長に大きな期待がかかる。

 

 

 

 

機関誌そだとう222号記事から転載

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